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 じ・ん・せ・い  
ゆうげ  
大皿の日々  
時は流れ今は縮れる  
銀皿  































 じ・ん・せ・い

九鬼ゑ女
 


まわしまわされ くるくると
せとぎわのきわのきわ
とぎれとぎれの喘ぎ声
つまづき 埋もれた 恋心 

かくれたままじゃ ござんせん
すねたままでも ござんせん

いくとせいくつき
おもいつくまま きのむくまんま

くるくるくると 
くるくるくると

いいじゃござんせんか
どうせ
あたいのじんせい
さらまわしです  

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ゆうげ

宮前のん
 

台所で
夕食の支度をしていると
ふと、幼い頃を思い出す

姉と年子で生まれた私に
母はよく、ため息をつきながら
お前が男の子だったらねえ と
その存在の全てを否定した
その後に生まれた
5歳年下の弟は待望の長男で
それからうちの食卓が変わった

いつの頃からか
夕飯の食卓の上の皿は全て
弟の前に並ぶようになった
仕事で遅い父抜きでの夕食
母は弟に、さあ好きな物を食べていいのよ
弟は素直に言われるがままに
この皿は好きだから全部食べ
あの皿は嫌いだから残し
その皿は味だけみて突つき
その様子を姉と私は
固唾をのんで見守った
やがて、弟の腹が満ちると
さあ、食べてもいいわよ残さずにね
私たちの食事の時間になる
身体の大きかった姉に押されて
結局、弟や姉の嫌いな物しか
たとえば野菜や果物や骨の多い魚などしか
選択肢が無かった私は
好き嫌いが無い大人へと成長した

人の集まる場で私は
その食事の仕方を褒められる事が多かった
小骨の多い魚も猫のように綺麗に食べた
それを母は、さも自分の手柄のように
この子には、小さい頃から我が侭をさせませんでしたから
と誇らしげに語るのだ

台所で夕食の支度をしていると
ふと、苦々しく思い出す
幼い頃の
母の仕打ちを

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大皿の日々

佐々宝砂
 

わたしたちは一枚の大皿に住んだ
皿は基本的に何の模様もなく
真っ白な大地にところどころ土が盛られた
わたしたちはテントを張り
ひまわりを植え
にわとりを飼い
真っ白な地平線をながめた

地平のむこうには常に巨大な何かが霞んだ

大皿の生活は平穏で
たまに地震があっても
テントはテントに過ぎないので
恐ろしくはない
雨が降るほうが大変で
わたしたちは大雨が降るたびに
禁断の地平線近くに避難した

どうしてこの世界には地平線があるのか
地平線とはなんなのか
誰も疑問には思わなかったが
記憶に重大な穴があるのはみんなが知っていて
地平線に危なっかしく腰掛けるとき
うっすらと何かを思い出すのだった


地平のむこうには今日も巨大な何かが動き
わたしたちは大皿の上で生活に忙しい

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時は流れ今は縮れる

伊藤透雪
 

移りゆく光と陰は
いつもと変わらないふりをしている
私は僅かに変わっているのを知っている
例えば窓のぬくもり
あるいは木陰の形


庭に実ったトマトや胡瓜をのせた皿と
光浴びたバラを生けた花瓶のある食卓
で、今も呼吸をしているようなそれらは
ぱちりぱちりと切り離してきた命の塊
既に縮れて行くもの
椅子に座り黙々と食んでは
生きていく私たち

そして時には
その一瞬を切り取り
絵の中に塗り込めてしまう
影だけは残るけれど
それは生ける光ではなくパズルのピース

花よ実よいつまでも変わらないで
そんな願いは何にも許されず
世界は膨張しながら変わっていく
庭に咲くバラの花達もやがて
枯れる前に次の命の準備をしている

人よあなたよ
変節しないことは素晴らしいようで
実は止めている息も同じなのだ
あなたの体も社会の中にあって
受け皿を見つけて変わっていく
それが私たちの有り様

信じていたものが崩れ去り
変わり果てるのも私たちの有り様
私たちは眠りを繰り返し
他人が違うことを確認する

今は眠りの中に揺れ
目覚めるのは違う時間
容赦なく切り分けられた日々
別れを言う暇もない
私たちが時の速さに恐怖しないのは
生きるための本能かもしれない
命が縮れていくのは悲しいと思う
世界でたったひとつの種だから

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銀皿

赤月るい
 

鮮明に覚えている、あの暗闇と
メタルのオペ室での出来事
私が未来を歩くことさえ遮るような強い力で
私の肉体はえぐられた

堅くて痛い台の上で
半裸にされた私の肉体は
実験台のように幾人にも眺められ
羞恥の限界を超えた行為によって乱された

金属が私の柔らかい肉体を
生きている子宮をひらき
暖かい壁を破る
かきだされる命は
そこで機械音とともに終わらされる

銀皿にのせられた赤ちゃん
捨て去られたのだろうか
私の赤ちゃん
泣いてはいないだろうか
この世のどこかで
ごめんね、ごめんね

私の肌についた傷より
私のいのちを傷つけられた傷が
胸の中に黒く拡がっている
それがいかにも誰かの所為ならばやり過ごせよう

嗚呼
嗚呼
この日の曇天の空は忘れまい
星が降ろうが
私の心臓を打つ矢にしか見えない

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2016.6.15発行
(C)蘭の会
CGI編集/遠野青嵐・佐々宝砂
画像/佐々宝砂