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無音の音  
たま  
ころがす  
傀儡、転がる、  































無音の音

佐々宝砂
 


夜が更けてきても田舎の夜は静かではない
いろんな鳴き声が混じり合っているから
何の声であると判別できるとも限らず
鳧の声シュレーゲルアオガエルの声
アマガエルの声ウシガエルの低音
あえて耳を澄まさずとも訪れる
川のせせらぎと風のざわめき
いやそんな風流じゃなくて
牛のいびき恋猫の盛る声
静謐とは何だったかと
見上げる空は曇って
煙草に火を点けて
ふと気づくのだ
目前の草むら
ころころと
無音の音
一対の
飛ぶ



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たま

伊藤透雪
 


たまはいつもまるくなっている
見ている間だけまるい
見てないときたまはいつも
どんなかたちをしているの

お日さまがたくさんあたる日
まるまっていると意識が遠く
ころころところがっていく
夕日がおちると目が開く
あれ、今何時だったっけ


今日
みごと
ぜんぶが
なくなって
きえたらいい
て思っていてね
目をつぶってたの
気がついたら眠って
閉じてた時間分消えて
また置いてけぼりなのよ
ひざを抱えて横になってる
思い出してみたらあのこはさ
お腹でこうしていたのかなって
思うだけでいつもおんなじ答えで
母親って何なのか今もわからないの
でもね小さい手を握るとさ似てるんだ
ゆびも手のひらも全部まるくなってるの
私誰に似たのか赤ちゃんのまんまなんだよ


ころんころん
 ころころ    ころ
       ころ
 ころ
   ころ

手のひらでつついて
揺れてる鈴をながめてると
ふううとまた目がおちそう
お腹の中でわたしは
夢を見てるのかな
それとも遠いところから
じぶんを見つめているのかな

まんまるい孤独が
こ  ろがっ てくのに
何だかこの頃ずいぶんねむいの
目が回る時計を見るのもわすれちゃって
夏のはじまりには
さびしくてもさびしくても
なぜだかぼんやり空もみないで
夢ばかりみている気がする

       落っことしてきた
      希望は
    なんだったっけ
   気になるのに
    頭はからっぼ

ころん ころころ
ころり ころころ

首のすずが時々鳴るよ

たま
たま
たまはいいね


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ころがす

鈴木パキーネ
 

夜の詩ばかり書いていました
朝がくるのがこわくて
あなたが帰ってしまうのがこわくて
きぬぎぬ、という美しい言葉が嫌いで

転がしてみましょうか
人生を
夜を
魂を

ころころとどこまでも
落ちてゆくのか登ってゆくのか
誰にもわからない

刹那の幸福は
どこにも
転がりはしないのですよ、ねえ

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傀儡、転がる、

岸城るりる
 

俺は俺なのか俺たちなのか
俺にはわからぬ

俺には名があるがその名は真の名ではなく
俺を作った者と俺の元になった物と
俺の元になった物が殺した者とから成る
そんなものが名前だろうか
それでも俺は名乗る
現れ出るたびに名乗る

俺を見るな
俺に近寄るな
俺は
俺は俺はと繰り返しながら
俺はおそらく踊っている
明らかに
傀儡の舞を

被り物の下に隠す
俺の目はありえぬような水浅葱
俺の髪はありえぬような伽羅色
雅など好まぬ俺に与えられたこの風体を
俺がいかに憎んでいるかあんたにわかるか
わかるまい

俺はただ待ち望む
俺は俺だ
と言い放つその瞬間を
俺は俺ではないのだ
と悟っているとしても

熱せられた鋼の上で水滴は踊る。


(とうらぶ二次です)

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2015.5.15発行
(C)蘭の会
CGI編集/遠野青嵐・佐々宝砂
画像/佐々宝砂