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みとれるせかい  
カミナリ  
待つ  
再び目覚める  































みとれるせかい

汐見ハル
 

雷に撃たれて死んだひとが
最期に思ったことってなんだろうって
わたしいつもそんなことばかり
そんなことばかり考えていて

その刹那こそが
死にながら最も生きていることを
文字通り痛いほど感じるのかなとか

それとも救いみたいなのかなとか
(雷を落とす神様は、やさしいのかも)

ひび割れた世界に
見とれた

圧倒的な恐怖に
酔う

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カミナリ

宮前のん
 

ピカッ

光った
今、光った
雲の切れ目から
数秒後に漏れ出す音

ゴロゴロゴロゴロ

そう
光に目がくらんで
雲の向こう側が
始めは見えないんだ
本当は怖いものなのに
逃げなきゃいけないのに
キレイだとすら勘違いして
でもね
でも
腹に響く重低音が
ドンドン来る
後から来る

あなたと出会い
あなたの向こうにいた
妻や子や家や何や
目がくらんで
見えなくて

本当は怖いものなのに
逃げなきゃいけないのに
キレイだとすら勘違いして
気がつけば
重低音が腹に響く
ほらドンドン
ドンドン

来る

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待つ

佐々宝砂
 

どろどろのスープ。
何を煮ているかあなたにわかるかしら。

これまでのわたしの人生にあったいやなこと。
小学校のとき上履きに画鋲がいくつも刺さっていたこと。
中学校のときお気に入りの本を糊付けされたこと。
高校のとき誰かが万引きした文房具がわたしのロッカーに入ってたこと。
あのこと。
このこと。
夜明けまで家の外に立たされていたこと。
朝四時にアパートから追い出されたこと。
この傷。
あの傷。
デリヘルで稼いでこいと言われた夜のこと。

ううん。
そんなもの煮込まない。

どろどろのスープ。
とりあえず鶏の骨。
なんでかってわたしは鳥が大好きだから。
それから牛の目玉。
だってわたしは牛の目が大好きなのだもの。
大きな目に長いまつげ。
お次に猫を数匹。みんなかわいいの。
それから蛇。それからカミキリムシ。
シジミチョウもダンゴムシも入れちゃう。
わたしが好きなものみんな。
創元推理文庫の怪奇小説傑作集全部。
学研のクトゥルー関係書籍。
吉屋信子の花物語も入れちゃう。
本ばっかになっちゃうな。
あとは琥珀と水晶と薔薇輝石。
悪魔の毒々モンスターのβビデオも入れちゃおう。
コーヒーのエクセラも突っ込んで。
メントールの煙草も。

ぐつぐつぐつ。
みんなとろけるまで煮て。煮て。煮込んで。
このわたしを含む地球すべてが分解するときがくるまで
ぐつぐつぐつと煮込み続けて。

それからわたしは待つ。
すてきなものだけ溶かしたわたしのコアセルベートに
ひとつの衝撃が落ちてくるのを。
いつまでも待つ。
じっと待つ。

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再び目覚める

伊藤透雪
 

空が暗くなり落ちてくる
何本もの稲妻がサハラに流れて
渇き切った血に濁流が溢れ
鳴動が激しくなって割れる

マグマが深い谷間から叫んでいる音を
空に放っているというのに
わたしは焼かれながら立ち尽くしている
赤い焔を吐きながら

空を染める噴煙が紫色の雨を降らせるときまで
わたしは何もかも焼かれて
胸に大穴のあいた古木のように倒れていく
雷鳴が再び張り裂けると
じうじうと溶岩が固まりはじめ
倒れたわたしの形の焼けただれた岩になっていく


空が昇り虹が見えるのは
遥かなアマゾンで芽吹いたとき
砂粒になった心が高い空に昇って
海の風に乗って
緑の大地に柔らかく着地し
やがて両手を伸ばして小さな二葉になったとき

どんなことがあっても
地球の上なら再び目覚める
どんなため息も
呼吸している
例えば
胸をえぐられても血の色は赤い
生きているなら
空さえきっと飛べるだろう

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2014.11.15発行
(C)蘭の会
CGI編集/遠野青嵐・佐々宝砂