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さなぎ蝶々(tanka)  
ブラウス  
きみは白いブラウスが好きだと言った  
つゆのあとから  



























さなぎ蝶々(tanka)

汐見ハル
 


二の腕と袖が白さを競い合いすきまに風が吹くことが女子

「あ、動いた」ためらいもなくぴっとりと従姉の腹に耳当てる従妹

今はまだ。なめらかな蛹でいいのかな。このドロリはいつか蝶々になる?

蛾と蝶を呼び分けぬ国があるという エーミールは白が似合う少年

とある真昼鮮やかな蝶の舞い込んで教室は阿鼻叫喚に包まれました

なつやすみいちごパックにかさこそと眠る繭玉押し付け合って

ブラウスはまっさらな白、スカートはフレアーでベージュが似合う母親

ブラウスが似合わないから母親になれなかったような気がしてみたりする

名作の少女たちは絹の靴下に憧れて野麦峠知らない

この心この身体ごと煮沸してひかる糸を手繰られてみたい

ふと届く「結婚しました」のハガキ破けるわたしでなかったにすぎない

ブラウスが似合わない少女 冷え性で絹の靴下二枚履きする

愛されることは才能?努力なの?日焼け止め塗り爪を磨いて

清潔で白く真新しい鎧わたしの輪郭鈍らせていく

いま死ねばたちまちに腐る内臓を彼女たちだって孕んでるはず

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ブラウス

宮前のん
 

普段、職場では
キッチリと襟首まで閉めています
親しい友達が来ると
2つ3つボタンを外します
愛しい恋人が来ると
4つ5つボタンが外れます
年老いた父母に会うと
袖口が捲り上がります
乱暴な隣人に来られて
時には汚されたり
時には引き裂かれたり
でも、
いつのまにかちゃんと
染み抜きされたり
繕われていたりします

涙に濡れると少し透けて
ほんのり中身が見えたりします
風に吹かれると少し揺れて
サラサラと肌に心地よいです

明日の私のブラウス
どんな装いでしょう

 

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きみは白いブラウスが好きだと言った

佐々宝砂
 

きみは白いブラウスが好きだと言った
ドトールのちょっとした喧騒のなか
左手で顎を支えて
右手に煙草を持って
ここは煙草が吸えてよかったねと
ぼくはなんだかずれたことを言った

ぼくたちはずれていたのかもしれない
いやきっとずれていたのだ
いつもいつもいつも
コーヒーが不味かったからではなくて
ドトールが騒がしかったからでもなくて
たぶんぼくたちがいつもずれていたせいで

今は赤く染まったブラウス
ぼくはいつまで
この赤く染まったブラウスを手元におけるだろうか
このブラウスはいつまでこんなに赤いのだろうか

ずれていたのがぼくだったのか
それともきみだったのか
もうわからない
きみに訊くことはできない

柳刃はきれいに洗った
刺し身を切ったあとそうするように
ぼくたちは刺し身を食べるつもりなどなかった
なぜぼくは柳刃を手にしたのか

ずれていたのはわたしじゃないよ
きみは笑って答えてくれそうな気がする
どんなにずれていても
きみは優しかったから
それでもぼくを許してくれると思ってる

きみの髪を整えて
苦しそうなまぶたを閉じて
きみはきっと許してくれる
こんなぼくを許してくれる

わたしが好きなのは白いブラウス
赤いブラウスなんかじゃないの

きみの声が聞こえてくる

でもいいわ
さあ電話しなさい
110番よヒャクトオバン

ぼくは立ち上がりのろのろと
電話をかける

誰の声ももう聞こえない
聞こえるのはきみの声だけ

きみは白いブラウスが好きだと言った

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つゆのあとから

伊藤透雪
 

全身汗だくになりながら
地下鉄のコンコースを歩いていた
前を行くのはふわりと軽やかな
ブラウスやシフォンのプルオーバー
あんな風にすっきりと女でいたなら
私も或いは、

 波がゆるく落ちては戻り
  薄暗い部屋が頼り
   ぐずぐずしたり
   眠り
   低気圧がやってきて
  明るさを抑えて
  ただゆっくり穏やかになった

大きな台風が胸をかすめて
晴れの日
ようやく窓から風を入れよう
とベランダの窓を開く昼下がり
Tシャツ一枚
梅酒のソーダ割り
中途半端に入る日の光

インターネットでは二重の虹が出た
とか伝える言葉が並んでいたけど
美しいという言葉が泡の表面で
くるりと向こうに見えなくなった

アメリカでプライドパレードがニュースになってた
日本じゃ誰も批判しない
関心もない人が多数派
、でも私はどちらにも属せないアンドロジーン
こないだまでは
ブラウスのレースがとても気に入っていたし
ロングヘアもミニスカートも
私の日常だったけど
今は興味がない
ベランダの私はショートヘア

 (可愛いと言う人が好きだった

女の子は振り子の向こうの端で止まってる
        こちらの空に中性の自分
        がいて眉間を歪めてる
ショーツがきつくて
トランクスに履き替えたら
振り子は円を描き出す

 「女流詩人だなんて、恥ずかしくないの?
 「詩にジェンダーを持ち込むなんてどうかしてる

   蝸牛に張り付いてた言葉
             が剥がれて
             耳鳴りがしている
    僕というのも違うし
   あたしと言うのは全く
   私以外にない

ミルクコーヒーでも
 ブラックコーヒーでもいい
         でもやっぱりカフェラテ
 かき混ぜないままの

、コアントロー入りの紅茶は苦手

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2014.7.15発行
(C)蘭の会
CGI編集/遠野青嵐・佐々宝砂
画像/佐々宝砂