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万華鏡  
遭難者  
霞のような人  
こころは何℃  



























万華鏡

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九鬼ゑ女
 

流されてゆく記憶の片隅で
涙が零れおちていくね

止まらない電車は
銀河の果てに
永遠に交わらないレールを
敷いていく

ほぉら
覗いてごらん
見えるかい 凍星が

煌めく氷の破片たちは /kakera
千切った花びらを寄せ集めて
「現在」という時を彩るんだ      /ima

ねっ。
あっというまだろ?
涙は砕けて
円孤の壺の中に
溶けてしまったよ

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遭難者

宮前のん
 

もうどれぐらい
時が過ぎたのだろう
故郷から遠い
太陽からも遠いこの星に
船が不時着したのは
生き残ったのはたった一人

電気エネルギーは山ほど
宇宙食も山ほどあるが
それ以上に
全くしゃべらない日が
山ほどあった
読みつくした本
見つくした映像
話しかけても応えない相手
まるでブラックホールだ
体温が少しずつ盗られて
芯から冷えてゆく

おそらく俺はいつか
孤独に押しつぶされて
狂って死んでゆくのだろう
凍てつく星の上で
星と同じくらい
冷えた心となって
早く同化できたら

どうか
早く神様

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霞のような人

佐々宝砂
 

霞のような人が歩いている。
雪降らぬ土地で見上げる空にレグルス。
なんと薄暗い一等星だ。
霞のような人が立ち止まる。

レグルスが見えるのは夜明け間近だから。
雪降らぬ土地でも一月の風は冷たい。
庭に放置したバケツの水は
うっすらと蝉の翅をまとう。

霞のような人がしゃがみこむ。
霞のような人は喋らない。
口がないのかもしれない。
少なくとも口は見えない。
霞には口なんてないよな。

強風に揺らぐレグルス。
いまだ揺らがない私の下の地面。
ふらふらと揺らぐ私の視界。
少しばかり熱っぽい身体。

霞のような人は霞のようなのに
風に揺らぐことがないようだ。

霞のような人がたちあがる。
霞のような人は
こちらにむかって歩いてきて
両手を差し出し
私の中に消える。

レグルスよ。
おまえに冷たい風は似合わないね。

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こころは何℃

伊藤透雪
 

透明な氷の塊
ちぎれたこころ凍らせたまま
わたしは生きていく
再び戻らない夢の響き

目と目があった一人の男と一人の女が
一時絡ませる糸
甘いことばの唇をふさぐ人差し指
唇を押し当てられ
情熱の嘘にずぶずぶと沈む

襟を立てて背中で去っていく
男のこころは
何℃なのだろうなんて
考える体温計はポケットに忘れてる


幾度繰り返したのか
数え切れない
そんな昔のふゆの寒さを
思いだすのは
晴れて凍える夜空を
見上げるときだけでいい
こころ深く沈めてしまえばいい

悲しみは薄氷
明日誰かに出会って
溶けてしまうのだから

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2014.1.15発行
(C)蘭の会
CGI編集/遠野青嵐・佐々宝砂