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覚醒  
そんなものを本当に見たことがあったろうか  
見上げる朝(あした)  



























覚醒

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九鬼ゑ女
 

闇の向こうで
誰かの招く声が する

記憶が飛び飛びになって
焦点が曖昧に ぼやける

密やかに蹲るあの影は何だろう  /uzukumaru
過去と未来を融合する何かだ

丸みを帯びた光
純粋で無垢な輝き

弓針月が
その糸を緩めた瞬間

満面の笑みを浮かべ
頬を紅潮させ

朝が 目覚める

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そんなものを本当に見たことがあったろうか

佐々宝砂
 

梅雨時のうっとうしさで
頭がぼんやりと痛い。
鎮痛剤と向精神薬はこらしょと支給される。
ともかく薬を飲む。
アセトアミノフェンと書いてある。
古めかしい薬だなと思う。

窓のない部屋で
時のうつろいを風雅に感じることは不可能で
アラームが人を支配する。
壁の一面にはどこかのリゾート地の映像。
緑の葉が風にそよぐが
なんという種類の植物の葉なのか知らない。

午前四時。
朝食を摂れと言われる前に食わねばならない。
粉っぽいビスケットと野菜ジュース。
コーヒーを飲みたいと痛む頭で考える。
最後にコーヒーを飲んだのはいつだっただろうと考える。

仕事にとりかからねばならない。
部屋から出る必要はない。
というより部屋から出ることはできない。

仕事と言ってもよくわからない仕事だ。
リゾート地が映る壁の反対側の壁に映る画像を見て
それがなんだと思うかひたすら答えてゆく。
なんになるかわからない。
わからないがこれを続けていれば
食料と薬が支給される。

昏い壁に白い光点が四つ。
いびつな四角形のそれはヨットの帆に似ている。
いやそうじゃない、あれは。

あれはからす座だ。

乏しい記憶のどこにそんなものがしまわれていたのか
まだ暗い冬の早朝の空に
かわいそうなくらい頼りなく光る
からす座。

そんなものを本当に見たことがあったろうか。

あったのかもしれない。
ずっとずっと昔。
この部屋に来る前。
こんな時代になってしまう前。

早く答えろとアラームが急かす。
からす座の記憶を
最後の一個の飴玉みたいにしまいこんで
「ヨットの帆に見えます」
とアラームに答える。

時刻は午前五時十五分。
アセトアミノフェンは効いた気がしない。

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見上げる朝(あした)

伊藤透雪
 

白い静寂(しじま)のやってくるとき
影が生まれる
雲の高見にあらわれる
陽の輝きが
頭から足まで照らすとき
影はつながる
胸に空いている
波動が
突き抜けない朝(あした)
過去も未来もないのに
今だけに持っているのに
影の波動は
光を背中で感じている

今が明ける
誰も誰かを知らない
本当の影を見ない

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2013.12.15発行
(C)蘭の会
CGI編集/遠野青嵐・佐々宝砂