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あたしと鬼のデカダンス  
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ParaParaInferno  
枯葉  
愛と雨  



























あたしと鬼のデカダンス

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九鬼ゑ女
 

窓を開けると
冷気と一緒に声が飛び込んできました。
「鬼は外〜 福は内〜」
声はぱらっぱらと豆の音を響かせながら
往来にこだましているようです。
なのにあたしの前には鬼が一匹。
あたしにもたれながら暢気にうたた寝なんかしています。
  
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物心付いた頃から
あたしは節分になると
父と一緒に豆まきをしました。
部屋から部屋。台所。お風呂場。お便所。押入れ。納戸。
そして玄関。物置や薪小屋も。
家中を隈なく巡ります。
鬼が何匹隠れていようと、そして飛び出してこようと
父の大きな背中にのっかっていれば鬼なんてちっとも怖くはありませんでした。
少ーし大きくなってからはチラシで作った三方に豆を入れてもらい
父のあとにくっついて、
そして、父の声に自分の幼い声を重ねながら
掴んだ分ずつ手の中の豆を撒いて回りました。
「オニワチョト。ゥクワウチ」
ぱらぱらと飛び散る豆音はとても心地よいものでした。
こうして豆を撒いてさえいれば
鬼は必ずどこかに逃げていくものだと子供心にあたしは信じていました。
全ての場所を撒き終えると父は裏庭に出ました。
そして肺を病んでいた自分が時々吐き出していた血のように
父は残っていたありったけの豆を真っ暗な闇に向かってばら撒きました。
「鬼は外。鬼は・・・外」
最後は祈るような父の声でした。
その声に合わせるように裏の松林では、
ホーホーとおくんぼう(フクロウ)が鳴いていました。
姿の見えない鬼よりもそのおくんぼうの物悲しい鳴き声の方が怖くって、
あたしは慌てて父の分厚い丹前の中に隠れたものです。


せっかく追い出したはずの鬼が舞い戻ってきていたことにあたしが気づいたのは
ずっとずっとあとのことでした。
それはあたしを“おくんぼう”から守ってくれてた父が
あたしの前からいなくなってしまってからのこと。
母はしばらく泣き暮らしていました。
それでも父に置いてきぼりにされたことが気に入らなかったのでしょう。
心ごとふらりとどこかに行ったまま
母もあたしのもとには帰ってこなくなりました。
それもこれもが全てその鬼の仕業だったことも
ずっとあとになって知ったことでした。

鬼が悪さするせいでしょうか。
あたしの周りにはいつのまにか誰もいなくなっていて
あたしはひとりぼっちのままオトナというものになっていました。
そして・・・
図々しくも鬼はオトナになったあたしのそばで暮らし始めたのです。

それでもあたしは節分になると
父がやっていたようにカタチどおりに豆まきをしました。
すると鬼もカタチどおりあたしの前から逃げていきます。
だからあたしはピシャンと大きな音で戸を閉めるとすぐに鍵をかけました。
勿論鬼が戻ってこれないようにです。
なのに鬼はとても身軽でちょっとした隙間を見つけてはしらぬまに
入り込んで、またちゃっかりこうしてあたしにもたれながら
節分の夜が通り過ぎていくのを見物しているのです。

あたしのとこはそんなに居心地がいいのでしょうか?

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それから何年か経ったある年の節分の朝でした。
あたしはもうとうの昔に鬼のことはあきらめていましたから
節分だといっても、豆も買わずにだらだらと
炬燵に潜りこんだままでその日を過ごしていました。
するとあたしを呼ぶ声がします。
見ると鬼が軒下にたたずんでしおらしく泣いているではありませんか。
手には一升枡。中には山盛りの豆。
「どうしたの?」
今晩、これでオレを追い出してくれ。
「なぜ?」
訳なんかどうでもいいから・・・といいながらも
お前にいっぱしのシアワセっていうのを味あわせてやろうと思ってさ
と、柄にもなく殊勝なコトを言うのです。
あたしは「泣いた赤鬼」を思い出しました。
もちろん、あたしの鬼は赤くも青くもありませんし、
この鬼がそんな思いやりのある優しい鬼だったなんて
なんだかうそ臭いと思いました。
それでもあんまりしつこくそういうのであたしは頷きました。

あたりがすっかり暗くなった頃。
空からは小さな白い粉雪が舞い落ちてきています。
約束どおりあたしは豆の入った枡を持って
玄関のドアを開けっぱなしにして豆を蒔きました。
「鬼は〜外。福は〜内」
思いっきり威勢良くあたしは豆を撒きました。
あたしの声が雪空に大きく跳ね上がります。
鬼は豆を体に受けながら痛そうに顔をしかめています。
それでもカッコつけてか
にっこり微笑むとバイバイと手を振って表に飛び出しました。
そんなに簡単に鬼が離れていくとは思いもしませんでしたので、
あたしは少し拍子抜けした気持ちで
鬼が雪の中を転がるように走り去っていくのを
こちらも手を振りかえしながら見送ってやったのです。


でも。やはり。
考えが甘すぎたようです。
翌年の節分の夜更けに
鬼は舞い戻ってきました。
しかも今度は・・・コオニ連れでした。
その夜も雪でした。
玄関の外では冷たそうな雪にまみれてコオニが震えていました。
「オレの子なんだ」
「ふうん・・・」
そんな“器用なこと”やってたんだ。
身が軽いだけじゃなくって、あんたって案外手も早いのねえ
と、頭にくるより、呆れるより、あたしは妙な感心をしていました。
そして寒さに身を震わせているコオニがなんだか可哀想になったあたしは
思わずそのコも一緒に手招いてあげました。


すると、どうでしょう。
あちこちから
出てくるわ・・・出てくるわ・・・・・
追い出され、行き場をなくした鬼たちが
あたしの目の前にうじゃうじゃ・・と。

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近未来電光掲示板

宮前のん
 

          本日のニュース:絶滅したと思われていたアウストラロピテクス原人が、富士山麓で村落を作って生き延びていたことが判明。新しい観光地の目玉として近く村まで道路整備等行われる予定。      滋賀県の水産業者が琵琶湖で首長竜の飼育に成功、マニアの間で人気を呼んでいる。家庭での飼育には最低で50メートルプールが必要で、この水産業者では首長竜とプールのセット価格2700万円の破格で売り出すとのこと。      メスの卵子同士のDNAを融合し細胞分裂から赤ん坊を作り出す事に、カリフォルニアのリリィ研究所が世界で初めて成功。レズビアン同士のカップルでも望めば子供が産めるとのニュースに、地元ではヒトの臨床試験への応募が殺到。抽選会を行う程の騒ぎとなっている。      本日の天気予報:大阪は晴れ時々酸性雨。ところによって、棚からぼたもち。

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ParaParaInferno

佐々宝砂
 

野太い声が
きれいな顔の整った唇から出ていた。
好きじゃなかったので
特に気に留めもしなかった。
ただ名前だけはちょっとイケてた。

死か、生か。

踊るのもあたしは好きじゃなくて
壁の花にすらにならなくて
カウンターで飲みほすウオッカライム。

連中が踊ってるのはパラパラ。
そう確かに
パラパラって言ったと思うけど。
記憶っていうのはいつも怪しい。

パラパラパラ。
結局みんな崩れてゆくのだ。
パラパラパラ。

野太い声の持ち主の顔も。
泡ぶくみたいな恋も。
泡ぶくみたいなお金も。
泡ぶくみたいに。
あんまりみんなそういうから
あれは泡ってことになってるんだよね、
あああたしって凡庸だな。

パラパラ。
崩れてゆく顔から
これだけはかわらない声がひびく。

死か、生か。

ああ結局
あのひとも生きているんだね。


(for Pete Burns)

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枯葉

伊藤透雪
 

パロール  風にふかれて
ページに落ちてくる
めくるたびにまた一つ
プラタナスの並木


テーブルに飲みかけのオレンジジュースとソーダ
吸いかけの煙草
椅子から落ちかけのバスタオル
ベッドの上の君

輝いていた季節
君と僕の愛の暮らし
何も言わなくても瞳で分かり合えた
君のくちびる 深紅の薔薇が枯れないように
逆さまのパロール 繰り返し、

そして人生に
埋もれていく君の笑顔
美しかった笑みが歪んで
言葉の中に時は巻き戻らない
ふたりの部屋もブラウンに変わり
今はぼんやりと映っている
薄っぺらいスクラップブックのページに

花びらは遠くに散った

風にふかれてページがめくれていく
色づいた葉が ベンチの上にも落ちる
苦い煙草を吸いながら
つぶやく言葉の数々
儚く去って行く

思い出して欲しい
美しい時はふたりのものだと

Que tu es belle.

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愛と雨

赤月るい
 

パラパラと雨が降る
こんな夜
窓ガラス越しにあなたが揺れて
私は触れてもいないくせに
いつまでも
そこにあなたがいるとおもっていた

愛を知るということは
二人の間の金魚鉢
壊すことにあるの?
愛は二人の
どこにあるの?

天にのぼり、二人同じに死んで
二人同じに天使になって
そしたら
いつまでも
そのままで、愛があると
信じていられる?

私の心
生きているうちは
私たちは
何でつながり、何を信じ
どうやって
うまく泳げばいい
ひとりぼっちになれない
こんな私が

夏のにおい
そよ風は、知らぬうちに
熱い太陽と
別れを運びお祭り騒ぎ
夜風とともに
ひるがえし
纏ったマントは剥がされていった

私はあなたを
失った

心の水が
堰き止められていた熱さが
金魚鉢、割れて
そこらじゅうを荒らして汚した

落ちた金魚は悪を孕んで
まだ生きると
天に誓い
太陽に挑戦状を叩きつけ
地獄のように
ぬかるみ暗い絨毯の上で
命をぐらぐら
煮て燃やす

愛がいいの
何がいいの
誰が来たの
愛は何を運んできたの

この小さな物質界
揺れるかげろう
雲のようにつかめない
あの夢は、どこへ

涙も見せないで
肉体ごと滅びた
命の水を絞り出し
カラカラに干からびたら
地面のざらつきや
においを身を焦し感じる
路地裏に鳥肌

夜は冷たい頬をぬらし
広く深く
昼間と同じ乱れた空模様から
落ちて突き刺さる雨は
糸のように細く
冷たさは
あなたの
人の温かさとは違う

私たちではないものだ

愛…
愛…

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2013.11.15発行
(C)蘭の会
CGI編集/遠野青嵐・佐々宝砂
画像/佐々宝砂