info@orchidclub.net
http://www.orchidclub.net/






u-ragiri者  
私の愛する骨  
お隣の骨  
鳥葬  



























u-ragiri者

http://home.h03.itscom.net/gure/eme/
九鬼ゑ女
 

針月が 西の空で糸を垂らしてる
野良猫の死骸を踏んだ間抜けなあたし
吐瀉物に埋もれた骨壺の中 ペッ と 唾を吐く

そう言えば 昨日 のことだった
アイツが言った
俺の骨は森の奥の湖に撒いてくれ…と

ほんとはカノジョに頼みたかったんだよね?
でも指を折られたヲルガン弾きにゃ
そんなことは無理だものね

それよりなにより
いったいぜんたい
この星 は
この世界 は
dancingゾーン
誰もがケツを出してじゃれあっている

アイツが言ったこと
知っているのはあたしだけ?

でも…ちっちっちち
あたしもダンスに夢中だし
湖はとっくに骨で満杯で

ボーン ボーン ボーン
今は真夜中の三時
なのに 鳩時計は 鳴かない
喉に小骨が刺さっちまったとさ

そんなものよ 明日 のことなんて

http://www.orchidclub.net/



















私の愛する骨

宮前のん
 

惚れどころ
というのが恋愛には存在する
声に惚れたとか
容姿に惚れたとか
人によって惚れるツボがある
私の場合は
骨だった

初恋の高校生の時は
鎖骨に惚れた
グループでプールに行った時
彼の鎖骨の窪みに水が溜まるのを見て
そこに口を付けて
啜りたい
と思った

大学の時の彼の場合
手首の骨に惚れた
体格のがっしりとした彼に
後ろから抱きすくめられた時
右手の小指の下にある手首の骨を
自分の顎の下に眺めて
そのまま首を絞められたい
衝動にかられた

その後、結婚した旦那様は
骨格全体に惚れた
看護師をしていた病院で
検診に来た彼の担当で
レントゲン写真に思わず見惚れた
カルテから住所を知り
偶然を装ってアプローチ
彼は疑う事もなく


そのまま数十年が過ぎた
彼は今、病床に伏して居る
あと数日の命という宣告
いずれ荼毘に付され
あの素晴らしい骨格が
白日の元に現れるのだ
この日をどんなにか
待ちわびただろう

私の愛する骨になって
私の胸に抱かれる日を

私は指折り数えて

愛してるわ、
あなた

 

http://www.orchidclub.net/



















お隣の骨

佐々宝砂
 

見たいと思っているわけじゃないが
盆と彼岸には見ることになる。

まだ九月で世の中は温暖化一直線なので
草はおもいきり生えている。
少しは遠慮しろと言いたい。
しかし雑草というものも
あれはあれで
なかなかありがたいところもあるもので、

綺麗に草刈りを済ますと
隣のお墓からのぞく茶色なもの。

いつもは草に隠されていたもの。

それが骨だということは
なぜか直感でわかるのだ。
直感を信じるたちではないんだが
どうしてもあれは骨にしか見えないのだ。

隣の墓石はぼろぼろで
腰までの高さもない。
名前もわからない。
今は誰が管理しているわけでもない。

この墓地は狭いけれども古く
昔は焼き場を兼ねていたという。

日常にぬっと突き出た茶色な非日常に
わたしはいつものように嘆息し
いくらかの土をかぶせ
草もかぶせ
信仰心なんかかけらもないくせに
一応かたちだけは手を合わせ、

見なかったことにする。


http://www.orchidclub.net/



















鳥葬

伊藤透雪
 

長い夏を過ぎても
ひとつふたつと
晒される命が肉の塊に変わり
叫ぶ鳥たちについばまれ
まだ温かい骨を露出させて
訴えるのは

わたしは何も悪くない
なぜ?わからない
苦しみはなくならないの?


まだ世界を知らない、箱の中から
高く昇る積乱雲を見上げ
絶壁の前で立ち尽くす
きみは少しでも高く空中を跳ぶ
訴える口をふさがれたまま
救われぬコンクリートで
赤い血溜まりの中に横たわる
青ざめた静粛

視線についぱまれ
時間に放り込まれる
秋雨の粒に
跡形もなくぬぐい去られて

火に焼かれても
痛みは裏側の印に遺る
きみの心だけははついに
高い空に葬られたのだ
命が白く砕けながら
無言で叫んで

早すぎた葬送は涙に抱えられたまま
意味は曖昧になる
誰も本当のきみを知らない
せめて鳥の翼を得て
高い空を自由に渡れ

救いは若さの中にはない
よじ登った絶壁の向こうに
見える雲の下なのだから

http://www.orchidclub.net/




















2012.8.15発行
(C)蘭の会
CGI編集/遠野青嵐・佐々宝砂