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パラドックス―――――― 砂時計  
「ハカリゴト」  
砂トンネル  
ながれてゆく  
時の流れに身を横たえて  



























パラドックス―――――― 砂時計

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九鬼ゑ女
 


落ちる 落ちる   砂の中

時が
ぼくを浚(さら)う
弾かれた夢が
埋まる 埋まる   無限の底

時が
ぼくを包む
痞(つっか)えた心が                      
目覚める 目覚める  彷徨の末

時が
ぼくに絡む
空回りの今日が
滑る 滑る    終結の穴

時が
ぼくを手招く
そして
また

落ちる 落ちる     砂の中
  
         

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「ハカリゴト」

みまにや
 

さらさらさらさら

わたくしのうえに降るもの

体温と心音と僅かな時間



其れはさらさらさらと流れるように



さらさらさらさら

さらさらさらさら



体温と心音と僅かな時間とで

10000秒の凝視と電子の贖罪と60の白とで

創りあげた赤い城



さらさらさらさら

さらさらさらさら

あなたとわたくしの謀として



さらさらさらさら

さらさらさらさら

海の波に攫わせた

其れはそうあなたとわたくしの蜜の城

10000秒の凝視と電子の贖罪と90の赤のハカリゴトとして

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砂トンネル

宮前のん(みやさきのん)
 

トンネル一緒に作ろうって
バケツいっぱい水汲んで
フラフラと運んで
ばしゃん
砂場に吸い込ませ
鉄さびたオレンジのスコップ
おもむろにザックリと掘り起こし
掘っては土を盛りあげ
段々と小山にして
両側から真ん中に向かい
トンネルを作りはじめる
途中からは手を使う
さらさらと
なつかしい感触
掘り進む砂の下には
色んなものが埋もれていて
たとえば
誰かの忘れものや
捨てられたものや
昔は宝物だったものや
あるいは
掘り起こされては困るものには
うっかりと触らぬように
冷たい砂をまさぐりながら
おっかなびっくり
さらさら
さらさら



あたたかい手


ほら、今につながった。

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ながれてゆく

佐々宝砂
 

さらさらと
流れてゆくのは

水ではなく
風ではなく
砂ではなく
時でもなく

わたし

なまあたたかい春の空気のなか
たゆたいながら
ゆったりと眠っていたいのに

桜の花びらが舞い落ちるように
手から滑り落ちる手紙のように
誰のせいでもなく
ただことわりであるように
月が沈み太陽が沈み
それでも明星がのぼり来るように

さらさらと
流れてくるのは

花ではなく
草ではなく
噂ではなく
時でもなく

名付けたくはない感情

さらさらと
さらにつのりくる

けれど
さらりと

名付けてしまっても
もしかしたら
いいのかもしれない


  多摩川にさらす手作りさらさらになにぞこの児のここだ愛(かな)しき

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時の流れに身を横たえて

伊藤透雪
 

金色の砂が漏斗の先
から落ちる巨大な砂時計
神話の遥か昔からそこにあり
宇宙の真ん中で輝いていたのを
発見したのはつい最近のことだ
音もたたない真空で真っ暗な闇
の真ん中で砂は静かに落ちるの
を見て科学者たちは頭を抱えた
重力が一方方向にしか働いて
いないことを説明できない
(でも確実に時は流れて)
有名な黒い石板のファンタジー
よりもはっきりしていることは
時は一方通行で流れてきたという
事実、人はその流れに逆らえないと
いう事実、現実はすぐさま去るのみ。
もしあの砂時計が砂時計なら、いつか
ひっくり返るのだろうかと科学者たちは
心配しているけれど、でも過去には戻ら
ないよ、きっと。世界は縮んで流れたもの
を圧縮し一点になって弾けるだけだよ
今見える金の砂が流砂のように流れる
程漏斗の先は広くないから数十粒が
落ちるのを繰り返しているよ
ここは宇宙の風船の真ん中辺り。

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2012.4.15発行
(C)蘭の会
CGI編集/遠野青嵐・佐々宝砂