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からっぽの観覧車   
から  
疑心暗鬼  
ついえてゆく熾火  
砂漠の薔薇  



























からっぽの観覧車

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九鬼ゑ女
 

巡り来る時が
交錯する瞬間
ゆっくり、たおやかに
観覧車が宙に弧を描きはじめる

小さな箱の中では
あたしとあたしの中の永遠のこどもが
膝と膝をくっつきあって

   回る…ね
   回る…ね
と、目で笑い合う

外側と内側の世界に隔絶された時間が
ごとんと大きくひと揺れする

喧騒と瓦解だらけの……
この街の
囲われ人たちが
みるまに小さくなっていく

あたしは一呼吸していまを空っぽにする
それを真似てかこどもも
過去をひとつだけ吹き出す
驚いたあたしは
吹き出された過去を慌てて飲み込む
と、老獪な囚人があたしの背後から
嫌らしい媚を売りにくる

観覧車はすでに頂点にあり
時が次第に下降しながら
あたしの中のこどもを
奪おうとテグスネを引き出したので
膝っ子増を抱え込むその子の手を引っ張りながら

  ほらっ…ね
  ほらっ…ね
と、時の扉を潜り抜ける

宙に浮いたままの空き箱が大きく揺れる

そして空虚を乗せたまま
観覧車は再び
時の空に旅立ってゆくのだ

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から

ふをひなせ
 

からっとからあげからさわぎ
からうまからくもからこるむ
からころからくりからげいき

からくじからからからげんき
からやんからおけからんこえ
からしとかれしのからまわり

からかさからかうからっかぜ
からばこからふるからはりさばく
からくれないのからげぬい

からあしからぶりからいばり
からまつからますからばるまめ
からせるからとてひからびない

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疑心暗鬼

宮前のん
 

今夜は遅くなるよ
と、あなたが言ったので
頭の頂部の真ん中で
ポコッと小山が膨らみました
それからは携帯を持ち歩くので
いつでもロックがかかっているので
またちょっとだけ膨らみました
休日出勤が多くなったので
出張回数が多くなったので
また少しだけ膨らみました
家庭に関心がなくなったので
カードの支払いが増えたので
もっともっと膨らみました

夕べ風呂場で鏡を見たら
一本角の鬼になっていました
空っぽになった家を守って
今日は節分の豆を播きます

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ついえてゆく熾火

佐々宝砂
 

ほんとうのことは知らない
まつぼっくりがとても燃えやすいことは知っている
眠っていても
自分がものすごい勢いで回転していること
はるか遠い一点を目指して疾走していること
そんなことを知っている
でもそれがほんとうかどうか知らない

午前四時の空
木星と半月だけがあかるく
せめて琴座のヴェガでもみえないかと探しても
じきに朝が来て
木星の光も太陽の光に飲み込まれてゆくだろう

ほんとうのことは何ひとつ知らない
かなしみも
にくしみも
空腹も
疲労も

ここにあるのは
静かについえてゆく熾火
灰のなかで
わずか光るオレンジ色

それがほんとうなのかそれさえ知らない
ここにはきっとなんにもなくて
わたしという空虚を詰めた風船がふわふわして
わたしの意志にも
わたしの感情にも
全く何も関係ないまま

地球はまわり
太陽系は空の一点を目指して突進する

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砂漠の薔薇

伊藤透雪
 

からからと風に音をたてる気配がする岩の砂漠

岩山の谷でみつけた薔薇は
砂に覆われ土色の結晶
喉を潤す水があった証拠だなんて
今では見る影もない

かんかん照りの大地には
身を隠す影さえ明るすぎる
ゆらぐ茶色の光のなかに
逆さまのオアシスさえ映らない

きらきら綺麗な結晶かと思いこんでた
土の中で眠るようにいるのだと
分子構造なんて考えたくないから
このまま眠らせておこうか
夢のまま眠ればいい

きんきんに冷えたソーダが欲しくなる
のどが渇いても文明と時間の邂逅
ガソリンも多くはないし
売っている店は遠い
岩肌は灼かれて触れられないから
車の陰で帽子のつばを下げればいい

くらくらするほど熱い恋でもない
ただ日に灼かれた肌の若さを
思い出すだけ
大輪の花のように笑い合えるのは
それほど悪い気分じゃない

くんくんと鼻を脇に差して
子犬のように眠れる場所は
時代を背中に刻んで
四駆の車で走りに走り
遠い時間から来たような
温かく固い そんな場所も悪くない

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2012.2.15発行
(C)蘭の会
CGI編集/遠野青嵐・佐々宝砂