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覗き窓のその裏側で  
大きな手  
わたくしの窓  
景色  
しょうけらのいる窓  
ふたりの瞳  



























覗き窓のその裏側で

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九鬼ゑ女
 

覗き窓のその裏側で
今宵も舞うよ
あの子が舞うよ

ひらひら纏うは
シルクのドレス

そっちはつまんないから
こっちにおいでと
しきりと誘ってくれるのだけど
心がどうにも重たくて
思うようには動けない

掃き溜めには似合わないからと
オルゴールのふた開けて
あの子が歌うよ

きゅるきゅる鳴らすは
琥珀のハープ

そっちに逝ってもどうせおんなじ
こっちにゐても
昨日は昨日のままだから
今日がどうにもしんどくて
思うようには捗らない      

覗き窓をしぶしぶ閉めて
夜明けを待つよ
あの子を待つよ

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大きな手

http://www.enpitu.ne.jp/usr10/106608/
ナツノ
 

暑い夏のある日
その人はやってきた
大きな手で
大きな丸い背で

光を失った目は
深く穏やかで
手の暖かさはいっそうで

血管や骨の一つも
逃すまいと
夏の毛布のような手で
包んでくれた

その人の口から
言葉が出るたびに
皆の心の窓が開いて

微笑みの輪ができた

しきりにセミの鳴く午後
アツイ風が
開け放たれた
窓から吹き込む

ありがとう
もう一度 手を握る

元気でお元気で
皆がそう言い 別れた

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わたくしの窓

みまにや
 

わたくしの窓を開ける
視界に入ってくるもの


それは
いくつもの扉
無数の扉
または窓、硝子窓


いくつもの扉
ノブに手をかけひねる
ぎぎいっと鈍い音のするものもあれば
跳ねっかえるものもあれば
鍵を三重にかけているものもあれば
するんと何の音もしないものもある



窓を開けてみる
部屋のなかには
知らない男と女が居たり
知らない家族だったり
不思議な名前の動物館だったり
遠い街にある昆虫館だったり
一人きりで写真を見つめている男だったり
一人きりで料理を作る女だったり
まあ
様々な人間が窓の内側で息をしている



わたくしはその時の気分で
いくつもの扉や硝子窓を開ける
そこに広がるのは
いくつもの景色




随分と気が遠くなるものだ




何処へ往くかは
わたくしの自由
何処へ往くかは
あなたの自由
どこまでも
自由であらねばならない硝子窓よ




随分と気が遠くなるものだ

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景色

宮前のん
 


隣の部屋に奇麗なお姉さんが越してきたので
ドキドキしながら窓から中を覗くと
そこには広大な砂漠が広がっていて
お姉さんは舌を出してはぁはぁ言いながら
蜃気楼のオアシスを追いかけていた

試しにうちの部屋の窓を覗くと
氷点下20度くらいのアラスカの平原で
お父さんとお母さんがそれぞれの氷山に乗って
双眼鏡で違う方向を眺めていた

しばらくしてからもう一度隣の窓を覗くと
そこには青あおとした広い草原があって
丘の真ん中でお姉さんが誰か男の人と
手を繋いで笑い合っていた
お姉さんは蜃気楼を追うのを止めたみたいだ

うちの窓からは
両親の氷山にとうとう亀裂が入って
流氷になったところが
見えるかもしれない
僕は明日までに引っ越しの荷物を
まとめなくっちゃ

 

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しょうけらのいる窓

佐々宝砂
 

その古い家には
ちいさなあかりとりの天窓があって
夜ふとんに入ると
その窓がいやに気にかかってたまらなくて
ぎゅっと目をつぶった

星も見えないようなちいさな天窓
月明かりだけはぼんやり射しこむ天窓
古ぼけたガラスは古ぼけた木の桟に囲まれて
射しこむ光はゆがんで

あのゆがんだ光の向こう側には
きっとしょうけらがいて
こっちをそうっとうかがっているのだ

脳裏に思い浮かべるしょうけらは
水木しげるの絵の通りで
つまりは
鳥山石燕の絵にそっくりだったのだけど
そのころわたしは鳥山石燕なんかしらなかった

それから何年も何年も経ってしまって
それでも夜半にふと目覚めて天井を見つめれば
今はもうない家の
今はもうない天窓から
今もやっぱり
しょうけらがそうっとこっちをうかがっている

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ふたりの瞳

伊藤透雪
 

首すじの汗を拭う手を目で追いながら
きみの表情の中に見つけようと焦る
視線を合わせるのが苦手なきみの
心の窓が見たいんだ
ゆれる水底を辿って

さざ波模様の硝子の瞳
見つめてそっとその頬に
両手を持って行きたい
じりじりと胸が焦げるまま
テーブルの向かいでそっと
盗み見た

[まだ始まったばかりだ]

ゆれる瞳に悲しみと諦めを隠して
微笑むきみは
明日を信じていないのだね
わたしときみの間がどうなるのかも
硝子の向こう側に
一人寂しく丸くなっているきみの
影が見えるよ

[恋心はここにはないのかい?]

抱きしめたいと願っているのに
わたしときみは今
こうして向き合っているのに
きみを抱きしめて口づけしたら
いつか傷つけてしまうかもしれないと
怖くなって窓の外へ視線を逸らした

わたしはきみより臆病なんだ
幸せにするってまだよく分からない
わたしの瞳には
どんな風に映っているんだろう

[きっとこれから始めるんだ]
[瞳が曇らないうちに]

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2011.9.15発行
(C)蘭の会
CGI編集/遠野青嵐・佐々宝砂