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ウツセミ  
空蝉の身なり・・・たれを追ふ  
夜行舟  
八月三十日  
ため息の充満する家  
月のあばた  
ダスト・シュート  
風の獣  



























ウツセミ

yoyo
 

あぶらぜみ 8年かけてうまれなく

蝉がなく

なかないなかない

喚くのは

我慢強い北国の

魂ひきつれ



泣けば気持ちが晴れるのに

喚くのは

どこかの国の被れたやから

冷夏だったらどうなるか

なんでも見えないもののせいにして




蝉がなく

短い命の蝉がなく

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空蝉の身なり・・・たれを追ふ

http://home.h03.itscom.net/gure/eme/
九鬼ゑ女
 

裏の神社の石段は
とても長い
一等初めの石段は
左が男坂、右が女坂
そうしていちばん上には 夫婦(めおと)坂

その崩れ落ちそうな急な石段を
わたしが登れば 現実(いま)追い坂

春、夏、秋、冬
幾たび季節を数え
その坂を一段一段、登るたび
いつだって、そう・・・
“あのヒト”はわたしをすり抜けて
カラ カラ カラン
軽やかに桐下駄の音色を響かせて
途中で何度も振り返り
ほらほらこっちと、手を振って
わたしを せっつくばっかりで

待って待ってと、息を切らして
わたしは追いつこうとするのだけれど
“あのヒト”には なかなか追いつけない

足元を見れば
かさ かさ かさり
琥珀に透けた抜け殻と
白く粉を吹き腹晒すのは
空蝉の屍骸(しかばね)か

見上げれば
もうとっくに“あのヒト”の姿はなくて
今どの辺りと
振り返り、下を覗けば
丁度、わたしが登った分だけ
景色もおぼろに 霞んでいる

別れも告げずに立ち去るなんて・・・と
“あのヒト”に文句だけは言おうかと
登りきった石段の上
朽ちた鳥居に
すんなりと心ごと飲み込まれ

わたしの目の前には
三狐神(みけつかみ)と狛犬が     
「 今頃来ても 遅いわい 」
顔を見合わせ
にんまりしてるから

握り締めてたご縁玉を
ちゃりん!
時化た神社の賽銭箱に頬リ投げ
「 もいちど逢えますように・・ 」
わざと未練たらしく 願掛ける

ふと、わたしの汗ばんだうなじをふぅーっと
誰かが息を吹きかけたようで
小首傾け、そちらに目を遣れば
それは、
わたしが追いかけていた“あのヒト”ではなくて

恥ずかしがりやの、そう・・・「秋」という名の幼な子で


※ 三狐神=稲荷神の使い、狐のこと

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夜行舟

http://www.enpitu.ne.jp/usr10/106608/
ナツノ
 

★おひさしぶりです、ご無沙汰してしまってスミマセン、vv
 今回、また参加させてくださいね、
 どうぞよろしくお願いします。 vv
 暑い日が続きますので、皆さまどうぞご自愛くださいませ。 ナツノ

 以下、投稿詩となります。よろしくお願いします。

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ひとり あてなく
眠れぬ闇に 舟を出す

高く登った 月は優しく
川面を照らす

時計の針に聞いてみる

今日は
どこから来るのだろう

しらしらと
夜明けの霧が
生まれるころには

眠りの国へと
行けるでしょうか

黒いカラスが 鳴きながら
朝を迎えに
東の空へ 飛んでゆく

早く朝を連れてきてね

塩のかかった
ナメクジみたいに

闇に溶けてしまいそう

夜風に吹かれ
チイサナ舟に 揺られてく

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八月三十日

http://numatani-kasumi.blogspot.com/
沼谷香澄
 

ナイフだ
バターナイフでも
ケーキナイフでも
レターナイフでもいい
突き刺すもの
果物ナイフ歓迎
刺身包丁大歓迎
菜切り包丁より出刃包丁のほうがいい
有名だよね
出刃包丁はほんとは出っ歯包丁なんだってさ
突き抜けるもの
百歩譲って金串でもいい
更に百歩譲って竹串でもいい
突き破るもの
ハサミは、scissors
要のところで外して歯一本にすると
scissor
というわけで
ハサミを貸してくれるなら
要のところから外して一本にしてください
突き通すもの
ほら、ないてるよ
はやく
突き破る
この際
アートナイフでも
仕方ない
カッターなら
握りやすくて大きなものを所望するなり
一気にやっちまおう
でも
あのう、これ
ペインティングナイフ
違うのにして
これ、突き刺さんないでしょ
冬はもうすぐなのに
段ボールでできた
猫ちぐら
段ボールリング積み上げた
猫ちぐら
まあるい穴をあけるんです
出口のない箱の中に降り積もる雪
材料はそろった
いいから
そのハサミで
早くして
もういいから
穴をあけるんだから
早くしないと終わってしまう
大丈夫だから
何も起きないから
誰も悲しまないから
猫が喜ぶだけだから
お願い
中途半端に
思春期が
終わらないまま
段ボールが
風化してしまう
たすけて

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ため息の充満する家

雪わたり
 

彼女は
朝起きると ネットを立ち上げる

興味の対象を検索し 一喜一憂
夢を堪能して 出勤

夕飯準備に一時帰宅も
買った総菜を置きに寄るだけ
残りの時間は
ぎりぎりまでネットに費やす

仕事帰りは 必ず寄り道
喫茶店で2〜3時間だったり
カラオケで数時間だったり
当てもないドライブだったり

早く帰るのは
見たいテレビ番組があるときだけ

家族との会話はほとんど無く
口から出るのは ため息だけ

ネットとテレビ以外の楽しみは無いと言い切る


彼女は
帰宅拒否症を自覚している

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月のあばた

宮前のん
 


あばたはあばたのままで
えくぼになんかならないね
夜の寝室で鏡を覗き込んでは
溜息が出るものね

日射しより月明かりの方が
余程あばたを浮かび上がらせるね
月が あばただらけだもの
仲間を欲しがるんだろうね

むかしは私のあばたでも
えくぼに見えたのだろうね
いつの間に ただのあばたでしか
なくなったんだろうね

あの人は今夜も別の部屋から
月を眺めるのだろうね
月のあばたを見て少しでも
思い出してくれりゃいいね

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ダスト・シュート

佐々宝砂
 

太陽黒点が異常に増加した暗い未来
コンクリートに囲まれた殺風景な一室で
長いことわたしは働き続けた
どこからか来てどこかに去る
憂鬱なベルトコンベアーに酷使されて
握りこぶしほどの監視機械に見守られて

わたしの唯一の楽しみはダスト・シュート
裕福なひとびとが読み捨てた雑誌を拾いあげ
自由な夜の時間わたしはそれを読む
どこかに住んでいる裕福なひとびと
どこかに存在するしあわせな生活
どこかで起きているへんてこな事件

ある日あるときわたしの身の上にも
へんてこな事件が持ちあがる
ダスト・シュートを落ちてきたひとりの中年男
ゴミにまみれて彼が言うには
「やあ きみもたいへんだねえ
 ぼくは逃げるよ サヨナラ」

彼はもいちどダスト・シュートを落ちてゆき
へんてこな事件はそれでおしまい
わたしの生活はあいもかわらず
監視機械とコンベアーに支配されて
だからわたしは日ごと夜ごとに
ダスト・シュートを覗きこんでいる

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風の獣

伊藤透雪
 

張り付く熱に焦がされ
じわじわと奪われる


真夏の風は
この街を熱くするだけ
網膜に跳ね返る灼熱の


影に籠もると
どんどん縮こまっていくから
俺は飛び出す
風の中へ

2気筒のリズム
風を切り裂いて飛び込めば
熱も影も
全てが後ろへすっ飛んでいく
エキゾーストノートを聴いてる暇はない
どこまで行くのか
どこへ行くのか
そんなことも考えちゃいない

ただ風の中に光も影も攪拌して
突き抜けたいだけ

胸の中が沸騰して
目から飛び出していくのは
わくわくする不安とときめき
うなじがざわざわする
鼓動とエンジンがシンクロし
風の中で
一匹の獣が走る

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2011.8.15発行
(C)蘭の会
CGI編集/遠野青嵐・佐々宝砂