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パラドックス --- 砂時計  
砂時計  
砂トンネル  
泣きたいときは左目で泣け  































パラドックス --- 砂時計

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九鬼ゑ女
 

落ちる 落ちる   砂の中

時が
無防備なままの
ぼくを浚う
弾かれた夢が
埋まる 埋まる   無限の底

時が
呆気にとられている
ぼくを包む
痞えた心が                /つっかえた
目覚める 目覚める  彷徨の末

時が
宙吊りにされた
ぼくに絡む
空回りの今日が
滑る 滑る    終結の穴

時が
ひっくり返された
ぼくを手招く
そして
また

落ちる 落ちる     砂の中
  
         



















砂時計

ふをひなせ
 

癒されるなどと感じるのは何故だろう
硝子の中で落ちてゆく砂は
時の危うさのそのままだろうに
窪みながら盛り上がりながら
沈み落ち降り積もる
目を離せなくなる
どうしようもなく流れる時を
くるりと返すことなど出来ないのに
繰り返し見入ってしまうのは何故だろう
瓢箪の中にはまるで悪魔が潜んでいる



















砂トンネル

宮前のん
 

トンネル作ろうって
バケツいっぱい水汲んで
小さな息子がフラフラと運んで
ばしゃん
砂場に吸い込ませ
鉄さびたオレンジのスコップ
おもむろにザックリと掘り起こし
掘っては土を盛りあげ
段々と小山にして
両側から真ん中に向かい
トンネルを作りはじめる

途中からは手を使うと
なつかしい感触
掘り進む砂の下には
色んなものが埋もれていて
たとえば
誰かの忘れものや
捨てられたものや
昔は宝物だったものや
あるいは
掘り起こされては困るものには
うっかりと触らぬように
冷たい砂をまさぐりながら
おっかなびっくり
ざっくり
ざっくり



あたたかい小さな手


ほら、つながった。



















泣きたいときは左目で泣け

伊藤透雪
 

まだ大丈夫、たぶん
緩いジャズを聴く元気があるから
髪を指ですきながら
ぼんやりしてるのはいつものことよ

  部屋を薄暗くして
  外の眩しさから逃れ
  ふるえて泣いた
  大きな体をして小さな子どものように
  膝を折ってた
  夜をいくつも越えて
  ひとりに慣れるまで

すぐに手に入ってしまったものは
簡単に崩れてしまう

  ぼんやりとした視界に見ていた流砂
  ろうとの中へ少しずつ落ちていく楼閣
  やがてすべては飲みこまれてしまった
  縁で微かな悲鳴をあげながら瞬く
  小さな光がいくつも見えて
  全てなかったことのように消えた

ひとりに慣れたと思っていた
それなのに

まだ見ないひとに あなたと呼びかける
胸を焦がすのは何なのかしら
胸に当てられた焼き印がじくじくしている

あなた 今どこにいるの

左目から流れ落ちた滴が
胸の中で じゅうと鳴った


















2010.4.15 発行/蘭の会

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(CGI 遠野青嵐  編集 佐々宝砂)