再会 宮前のん（みやさきのん） 　 脳みそのシワとシワの間に 何かが挟まって取れなかったんですよお母さん モゴモゴと行ったり来たり気持ち悪くて しょうがないから歯間ブラシを使って ほら糸楊子っていうやつですよお母さん あれでこすったらボロボロッと出てきて それがあの行方不明のお父さんだったんですよ お父さん今までどこに行ってたんですか あなたとの最後の想い出は小学４年の夏休み あれからお母さんは女手ひとつで育ててくれたんです 僕が就職してからもずっと身の回りの世話をして ずいぶん心配したんですから いや迷ってしまったな おお大きくなったもんだ今いくつだ ほんの少し探し物をするだけのつもりが 苦労かけたな今どうしてる結婚したかまだか 母さんに心配かけてはいかんよ そう言いながらまた脳みそのシワとシワの間に 頭をふりふり踊りながら消えて行ったんですよお母さん 小学４年のあの海の家で撮った写真の笑顔そのままに 相変わらず我がままでしたけど元気そうでしたよ それからも時々 脳みそのシワの間に行ったり来たりの気配を感じるんですけど モゴモゴとなんだか気持ち悪かったりするんですけど 以前程うっとおしいとは思わなくなったんです それよりも今は 僕は誰の脳のシワに入ろうかなんて そのことばかり気になって ねえ　お母さん

踊夢 佐々宝砂 　 タロットカードのようなカードが踊る。 綺麗な挿画と謎だらけのことば。 操られるひとびと、 決まったセリフと決まった動きのもとに集結するひとびと、 私の恋人がいう、 もう、500年も操られ続けてる。 それで私は答える、じゃあ、あなたは、私より年上なのね。 原爆のような爆弾、青空にくっきりと映える爆弾、 私は恋人と一緒に逃げる、 彼は私を押し倒そうとする、なぜって、私を守るためにだ。 私は悲しい。 もうどうしようもないと思いながら、友人のつくった地下壕に逃げ込む。 光、爆音、爆風、砕け散るガラス、そして雨。 この雨に濡れてるとやばいよね、私は友人に言う、 すると、私の友人は鋼鉄製の屋根を砕けたガラスに覆いかける。 私と私の恋人はねむってしまう。 何年経ったのかわからない。 私は操られながら覚醒する。 踊り狂うわたしたち、 決まったセリフを口にする私たち、 私は私の恋人と同じ立場になったのだ、 と思っても喜べないけれど。 私たちは踊り続ける、 喜びも悲しみもなく、 にぎやかな車道にハーレーが走っている。 まだハーレーが存在していたのだなと私は思う。

Tangoは夜に 伊藤透雪 　 忍び足もそのヒールでは足音を 消せないだろう？ 堂々とステップを踏んでおいで 君の瞳が潤んでいるのを見逃すほど野暮じゃない 突き合わせた膝のピクリと動いたのも 視線を外すのも見ていたよ 全てお見通しさ 赤いランプの下で カフェテーブルには飲み干したグラスが２つ ジンが僅かに残った瓶が一本 床には君の高いヒールとドレスと僕のシャツが乱れたまま ベッドの上には君 頬合わせて踊り明かそう その手を握りしめて アルゼンチンスタイルで時々絡まる君の脚が 僕を奮い立たせる もう忍び足ではない君は耳元で囁く 　　Could you dance again?

2009.5.15　発行/蘭の会

バックナンバーの閲覧、ダウンロードは、 ほんだなからできます。
[ご注意]

著作権は作者に帰属する
無断転載お断り
詳細は蘭の会にお問い合わせください

（CGI 遠野青嵐　　編集 佐々宝砂）