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にゃあ  
弥生三月はぐれ猫  
love song  
にゃあと鳴かない猫が家に帰ってきた夜の話  
日々  
湯たんぽ  
飼い猫  
朝の眺景  
口づけ  































にゃあ

yoyo
 

本業を失って早2ヶ月過ぎて

暗中模索の仕事探し

友達させも不況の火車に乗る始末

唯一の家族の弟にさえ

頼ることさえできない姉である



こつこつとバイトをしながら勉強し

面接受けては落胆し

家にいれば

飼い猫が餌がほしいと

にゃあと鳴く

餌をあげなければ暴れる始末



太るから餌は与えないでと弟が

いつも言うので仕方なく

ビニールを食べる傍ら叱りつけ

こっそりあげる猫の餌

飼い猫も大事な家族の一員として



















弥生三月はぐれ猫

http://home.h03.itscom.net/gure/eme/
九鬼ゑ女
 

なんだかにゃあ
憂き世だにゃあ

浮いた話も
こときれて
うんともすんとも
手ごたへはなし

春酔ひ魚が
濁った眼で
あたしを睨むから
おぼろな夜に
釣られた夢を
まっさかさまに
ひっくり返し
喉を鳴らして
こころに折りたたむ

はぐれたまんま
えっちらおっちら
上り坂
どこをどう行けば
あのひとに辿りつくのやら

なんだかにゃあ
沁み世だにゃあ



















love song

ナツノ
 

バラの芽たち 枝に吹き出して
庭が ザワザワし始めて
あと ひと月もすれば
だんだんと にぎやかな季節に なるのでしょう

もうすぐ 
にゃにゃん 歌うよ love song
ハルノユメのなかで

クレマチスの芽 空へとんがり
にゃあ とひとつ おおあくび

ヒカリノハルに
ふるふる フルエル パンジーの花びら

春の雨 しんしん
泰山木の 木の下で
チイサク つぶやく にゃにゃにゃん
 
三月の雨 けむる街 畑うるおし
土の中の 命たち
もこもこ 呼び覚ます

雨よフレ
ハルノユメが モゾモゾと
あちらこちらで 動き出す
うとうと 待ってる
コイノキセツ



















にゃあと鳴かない猫が家に帰ってきた夜の話

沼谷香澄
 

ファンヒーターの風の当たるところにふさふ
さと毛をふくらせて長くなっていたので見え
ない体に向かってたまちゃんと声をかけたら
にゅるりと顔を出したのはひし形をした頭で
あって丸くて耳の生えた顔ではなかったので
私はかなり驚いたがたまちゃんもいいかげん
歳だしまぁ長い人生そういうこともあるのだ
ろうと実は全部見えていたその体を指二本で
するすると撫でてやったのだがそれは存外気
持ちのいい感触でああやっぱり蛇をなでるの
はいいもんだなあ柔らかい感触に癒されるな
あとするするなでなでしていると毛の生えた
雉虎柄の蛇は二股に分かれた舌でざらりと私
の手をひと舐めしてするするとなめらかに膝
にのぼってきて膝にとぐろを巻いたのだった
それは往年のデブ猫とは比べ物にならないほ
ど軽くそして冷たくたまちゃん冷えたねえ外
は寒かったかねえと撫でる手が渦を描いてま
た内から外へと渦を描いてたまちゃんはぺろ
ぺろととぐろの中心にある小さな頭をもたげ
て毛を舐め手を舐め服を舐め気が済んだら小
さくなったいやもともと小さいのかとにかく
小さい目を閉じて菱形の小さな頭を自分の毛
皮にうずめて眠りにつこうとするのでたまち
ゃんと再び呼んでみるとううと声を出しそれ
は私の良く知っているたまちゃんの声のよう
でそうでないようでとにかく眠るときにはい
つもにゃあとは鳴かないのでなくなった身体
いや入れ替わったのかもしれない身体のこと
は気にしないで私も安心して眠ることとする
とたまちゃんはするりと私の腹の上に移動し
て腹にとぐろを巻いて再び顔を自分の毛皮に
埋めたそのしぐさはまさしくたまちゃん以外
のなにものでもないのだがなんだろうこの切
なさこのやりきれなさこの不可思議で耐えら
れない軽さはと憤りにも似た疑問を感じつつ
いつしか私は眠りについていたらしく短い夜
が明けたら腹の上に蛇のいや猫の尻尾の形を
した不思議な生き物の姿はなくそこにはうち
の老い猫が重い体をずしりと乗せていたのだ




















日々

ふをひなせ
 

壁にすりすりして
にゃあとないて

壁にすりすりして
にゃあとないて

明日もがんばろって思う

それでがんばれちゃう自分が
ちょっとムナシイ



















湯たんぽ

http://blog.livedoor.jp/cat4rei/
土屋 怜
 

完全省エネ
絶対安全

ほわほわでポカポカの
湯たんぽくん

フニャ〜ンの合図で
ふとんの中にチェックイン!

あたしの冷たい 足先を
けなげに朝まで温める

愛しの湯たんぽくん

チェックアウトの延長は
おおめにみてあげる・・・



















飼い猫

宮前のん
 

ペットショップで
初めて目が合った時
私の首に鈴を付けたのは
御主人様

一緒に住むように
なってからは
部屋の外から鍵をかけて
安全に閉じ込めて

美味しいエサ
暖かいベッド
全てが揃うこの部屋で
丸くなる夜には

何の不満もないだろう?
そう言いながら背中を撫でる
御主人様の手の甲に
爪を立てたくなるのよ


にゃあ


 



















朝の眺景

伊藤透雪
 

排ガスにけぶる朝
ガードレールに挟まれた細い道
背中丸めて足早に行き交う人々
道路に並ぶ車の列

欠伸をしながら眺めているのは不謹慎と
言わんばかりの怪訝な視線

日本人というのは決まりが好きだな
いつも同じ道を同じような時刻に通勤するなんて
変なの

早めに出たり違った道を行ったり
なんでしないんだろう
時計仕掛けに舌打ちまで入って
作られた芝居みたいだ
車の色も似たり寄ったり

だんだん飽きて 胸悪くなったから
言ってみた

にゃあ

欠伸がまた一緒で間が抜けたら
何だかおかしくなってきて
にやにやしながら階段をのぼる

少し朝はピリピリしすぎて嫌いだな
そんな時は
にゃあ



















口づけ

赤月るい
 

乱雑なことばの数々の上を
大切そうに
踏みしめるわけもなく
我が物顔で通り過ぎる猫

かき分けるたびに
乱しては
お構いなしで澄まし顔

思わず上がった太陽に
にゃあ、と一声 
晴天を仰ぎ
いつの間にか沁みわたってしまった
地に浴びる雨より強い
まやかしの恩 薫る膝につたう

まるで昨夜の情事のごとく
私を台無しにしてゆく
申酉戌亥

私だって
裸足で歩いてはみたけれど
どこにも
水面に映る姿など…
「にゃあ」
こたつの中のサル、サル、小猿

いつの日か そうよ
猫と対面すればきっと
幸せのごとく口づけ
声をそろえて表せるのかもしれない

すべってゆく すべってく
ふつうの生活とともに

副産物との共生
両脇に置いた男との邂逅
双子を育てる手間
見えないものは尊いけれど
片方を腐らせて

手すりにさえ
しがみつけないこんな夜の
あそび、
期待はしないで
約束なんてできないはず
だって 私たちは太陽と月
「にゃあ」


















2009.3.15 発行/蘭の会

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(CGI 遠野青嵐  編集 佐々宝砂)