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ファ・イ・トォ  
読むこと  
缶蹴り  
アンディーによろしく  
巡る  































ファ・イ・トォ

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九鬼ゑ女
 


風の便りも来なくなった
人の噂もひと月と持たなかった

待っているのはおいらだけ?
信じているのはあたいだけ?

幼子はお年玉を頬張りながら
ころころと駆けていく
一体全体
どこに向かっているのか
彼らは知らない

何もかもが無になれば
何もかもを捨てられる
空っぽはさぞかし気持ちがいいだろう

原っぱで大の字で寝転んで
お正月さんを仰ぎ見る
眼に飛び込むのは澄み渡った紺碧
ほんの少し
ひやりとした現実が
右往左往を繰り返しては
凍えそうな指先をくすぐる
と、その時
ちぢこんだ耳たぶに
金属製の声が止まる

「カン!」

あっ、いけない。
寝転んでる場合じゃなかった
缶けり遊びをしてたんだ
…ところで、
鬼は誰だっけ?

と、
初夢はそこで
儚く
途切れた

「カン!」

耳の奥
声はいつまでも
足踏みをしてるから

「ファ・イ・トォ」

あたしは小さくつぶやいた



















読むこと

ふをひなせ
 

メロスとギヨメは似ている―
こんな稚拙な感想は
のど自慢なら鐘ひとつか
ゲーテは言った
“生涯ずっと読むことを学んでいる”
もう一度
読むことを始めよう
もう一度?
と言えるほど読んではないが
ともかくも
ゴングを鳴らして
始めたのだ



















缶蹴り

宮前のん
 

空に向かって
思いっきり蹴りあげろ!
ほら、
つかまっていた仲間たちが
夕立ちにあったアリンコみたいに
散っていく

あわれな本日の主役は
泣きそうになりながら
赤く暮れかかる町並みの
空の向こう側まで
探しに行くしかないのだ

ひょっとして隠れたみんなが
いつの間にか自分だけを見捨てて
夕げの待つ我が家に帰るかも
そんなひとかけらの不安と
勇敢にも戦いながら


 



















アンディーによろしく

佐々宝砂
 

落ちているものを見付けたら
踏みつけるに限る
飛んでいるものを見かけたら
石を投げるに限る

それで当たらなかったとしたら
すべては空が悪いんだ
天気予報が当たらないのも
この部屋がこんなに寒いのも
みんなみんな

アンディーによろしく
キャンベルスープ缶が見つからないから
かわりに缶コーラにしておいたよって



















巡る

赤月るい
 

音のないベンチにこぼれた涙の数
あの頃はふたりがそんな風だったから
何度鐘が鳴っても気付けなかった

旅立つためにあなたが必要だったなんて
さみしいのに
今笑い合えば豊かに流れる天の川

星の話をしよう
いつまでも忘れられない星空の話を
行くあてを 歩いた道を 帰り方を 戻り来た道を 
すべてに通じるあの地点で

そしてまた出かけてゆこう 
晴れた日には
外に駈け出してゆく子供のように
今度はあなたを信じながら


















2009.1.15 発行/蘭の会

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(CGI 遠野青嵐  編集 佐々宝砂)
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