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あの・ねの・ね  
  
ひみつ  
かくれんぼ  
伝道の書に捧げる百合  
暁の刻  































あの・ねの・ね

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九鬼ゑ女
 

それが売りなのか
生娘ぶった半泣き笑い         /kimusume
くちびるが勝手に蠢いて        /ugomeite
微妙かにいろづく…少女の舌      /kasukani

問うてみたとこで
すたこらさっさ身を隠す
黙せば歯痒い臍を噛む           /hozo
どうしても結わえない…縁の糸     /enisi

誰にも内緒で
こっそり覗いてみたいけど
透けて見えたら
やっぱりおおこわ…卍の柵    /ganjigarame /shigarami

ここだけのあの・ねの・ね
ひっくり返して
煮ても
焼いても
好きなようにトテチンシャン

ほらね、
もう溢れだした…あたいの心





















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柚木はみか
 

隠せ、隠せ

そうやって押し込められて
早数年
傷は化膿して
ワインだったら熟成して
だらだらと白い液を垂らして

隠せ、隠せ

貴方がつけた傷、まだあるんです
いつもは隠しているんですが
ほら、赤くなっているでしょう
いつもこれを見て思うんです
貴方に、早く逢いたいと

早く、隠せ

なぜ傷は隠さねばならないのでしょう?
剥き出しにするとすぐ尋ねられる
疎ましい
でもその人たちからしたら私って
疎ましいんでしょうね

早く、早く

陽が昇る前に
この傷を
隠してしまわねば
この心を
隠してしまわねば

そうやって封印された
傷は化膿して
ワインだったら熟成して
だらだらと白い液を垂らして

もっと酷い状態で
日の目を見るんです



















ひみつ

ナツノ
 

ココロの中の 小さな太陽なら
いつでも そこにある

眠っている間には
太陽も 輝きを隠している
たぶん 寝息をたてている

ときどき 取り出しては
問いかけたり
一緒に ベランダで 
空を見たり しているよ

夕暮れの ラベンダー色を
ビールで 流し込むと

ふるふる
ココロが 痛くなる
風に揺れると せつなくて だから

ちょっとだけ
泣かせてね

どこにいくにも 一緒
止まり木に とまったまま 連れてゆく
誰からも 見えない
便利だね
ココロの真ん中にある
ワタシの 小さな太陽



















かくれんぼ

宮前のん
 

夜の公園でデート
かくれんぼしようって
コンクリートの小山
大きな土管が通してあって
鎖や石の滑り台や階段がついてる
ほら公園の真ん中にある
そのトンネルの中で
あなたに見つかった

酔っぱらってふざけて
二人鼻をこすり合わせ
くすくすと笑い
ほんとうはねえ
君が鬼になるんだけど
つかまえないでおくよ
小さなないしょ話
そう言って反対側から外へ

大丈夫
あなたのないしょ話なら
このトンネルの中で
爽やかに散ってしまうでしょう

私のないしょ話は
胸の奥のトンネルに
重く留まったまま

ほどなくして
あなたの声が高らかに


もういいかぁい


まぁだだ よ



















伝道の書に捧げる百合

佐々宝砂
 

夜はまだ訪れない。
風はすでに青みがかっている、でも、
夜のとばりはまだ墓地を包まない。

捧げる花は常に百合、白い百合、
清純の百合、
甘い香りをわざとらしく漂わせて、
しらじらと、楚々と、弱々しく、
そのくせ地下を暴けば、
ぽってりと肉厚な球根をためこんでいる。

誰のか知らない小さな墓に、
私が捧げる、
欺瞞と驕慢の花束。

彼はこの墓に眠る、
この墓に眠るのでなかったら、
伝道の書のなかに眠る、
私が眠らせた。

あったことをなかったことにしよう、
そしてなかったことだけを夢みていよう、
新しいことは大地の上に起きはしない。

眠れ、ありきたりの、平凡な、退屈な、
過ぎ去っていったくちづけよ。
眠れ、どこかできいたような、ありふれた、
くちびるを愛撫するだけの恋の詩よ。

眠れ、とこしえに眠れ、
何万回も何億回も囁かれ、擦り切れ、
くすんで色あせた、
それでもなお気恥ずかしい虹色に輝く
情緒よ、眠れ。

まだ夜がこないとしても、
私の心は闇に閉ざされているのだから。



















暁の刻

赤月るい
 

地上で育まれなかった私の心は 
身だけ此処に残して
在らぬ世界をさまよっていた
久しぶりに見上げた
夜空に光る満月よ 

それは昔のように酔うた美でなく 
幻のように煌めいては
白く強い光で私を弾いた
もう抱きしめあうことはできないと
地上に跳ね返すかのように

過ぎた日々が確かにあったことを
すべて暴こうとするような妖艶な光は
私の心を容赦なくかき乱す

逃げられぬまま
立ちつくしていたら
生まれたことの屈辱に似た悔しさ、
ふつふつと湧いては震え
涙になる

捨てられるように左に流れてゆく
書き記された
白い紙の上のことばたち
川の流れに預けるように見送りながら
夜が明けるのを待っている

私のそばに 昔のような空虚さはなく
また彼らの新しく還るその時に
想いを馳せ
微かな希望さえ感じている

待ち焦がれるように
されどすがらずに 再び逢えるまで
この弱い身さえ永らえさせようと
決意するほど 
独り、になりゆく明け方の空に
ぼやけてゆく月明かり


















2008.11.15 発行/蘭の会

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(CGI 遠野青嵐  編集・画像 佐々宝砂)