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2008年3月詩集「斜め」
撫デ撫デ  
イノセンス  
バランス  
この日々を  
斜め  
すべり台  
ネジ台通り  
3の詩景  






























撫デ撫デ

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九鬼ゑ女
 

まわれ右も
スキップも
逆あがりも
よーいドンも
言われたとおりに…できなかった

お手玉も
あやとりも
縄跳びも
かくれんぼも
上手に…遊べなかった

だんだん
臆病になった心
いつの間にか
縒れて捩じれて          /よれて /ねじれて
誰かと話す時は
両のまなこが斜視になっていた

名前を呼ばれただけで
身体が固まって
みっともない瞳はすぐに隠した
接吻をされた時には
歯ががちがちと震え
股の奥を啄まれた時は          /ついばまれた
乳輪が恥じらい色に染まった

恋人が
そんなあたしを
愛おしいと
夜ごと撫デ撫デしてくれたからか
三年一緒に暮らすうちに
心は真っすぐを向き
斜めにひしゃげた視線が
焦点を外すことはなくなった

それでも
たまに
一日が斜めに傾くことがある
けれども……そんな夜は
頼もしいヤツデに
くるまれたあたしを
やわらかな椛の手 が        /もみじ
撫デ撫デしてくれるのだ


















イノセンス

http://cpm.egoism.jp/
柚木はみか
 

傾いた道に足を伸ばす
数秒後には転ぶだろうって
でも立ち止まるのはもっと辛い


厚底のエンジニアブーツに
煙草をふかして
精一杯大人のフリ

あたしは多分数年前とそんなに変わらない
少しひねくれてしまったかな
斜に構えていつも
苦虫を噛み潰したような顔、隠してる


斜めから見た世界は
幾ばくかファンタジック
紫煙は宙に螺旋を描きながら
あたしの肺を少し侵して

大人になったような夢を見る
それが錯覚だとしても


傾いた道に足を伸ばす
数秒後に転んだとしても
今立ち尽くすより多分 いい



その勇気を
今 ようやく手に入れたから


















バランス

ナツノ
 

テーブルの布を 少し 傾ける
こぼれた ミルクの点が 転がってゆく

坂道の上でソフトボールに 添えた手を 
そっと 広げたら どうなる?

思っただけで わくわく する

神様、地球の端っこ つまんで
持ち上げてみて
果てしなく 終わりなく 滑り落ちる
想像してみる
地面も 海も 何もかも

いえ、もうすでに ゆっくりと
滑り落ちて 行く 途中なのに

傾きが 心地よくて
ナナメの上に 立っていること 忘れてる

ココロの 微妙なバランス

平坦な道を 歩いているつもり でも
均衡を 美しいと思っても
どこかで
不安定を 探している

危なげな あいまいさに 酔いしれたくて


















この日々を

http://yaplog.jp/yukarisz/
鈴川夕伽莉
 

「諦め」と呼ぶほど
私は幼くもなければ
腐ってもいないさ

ねえ 王子様
いいかげん不幸自慢は
止めにしませんか


















斜め

ふをひなせ
 

15度
やぁ
失礼

30度
お世話になっております
承知致しました

45度
申し訳なく存じます
ありがとうございます

日本人は
斜めに心を込めるのさ


















すべり台

宮前のん
 

ほうら、すべり台、空いてるわよ
母にそう言われて
逆らえない
こわごわと階段に取りつく
3、4段登ると
もう後ろには人が並ぶので
押されるように上へ
てっぺんに立ちはだかって
目もくらむような足元
昔っから高いのは苦手だったのに
何でも子供だからって
すべり台が好きだとは限らない
下を睨むと
ここへ追いやった張本人が
嬉しそうに手を振っている
なんにも見てはいないのだ
最後の坂道
目をつむって
一気に滑り降りる



 


















ネジ台通り

http://lyriclilyth.at.webry.info/
佐々宝砂
 

サンバのリズムで彼女は案内する、
タ、タ、タ、ターンタ、
広がるフレアスカートは真っ赤、
熱気のみなぎる裏通りは、
これでも充分には裏でないらしい。
粘っこいグリースの臭い、
不意に鼻をくすぐる香ばしいコーヒー、
売り子の声、声、声、足音、足音、足音、
タ、タ、タ、ターンタ、
もしかしたらサルサのリズムかもしれないがよくわからない、
とにかく四拍子なのは確かで、
ネジ台通りにようこそ!
叫んでいるのは売り子だけではなくて、
叫んでいるのはネジ台通りのすべて、
緑、黄色、赤、青、
色彩のすべては原色で、
目眩を起こした三半規管をさらに震わせる声、
斜めにおいで!
まっすぐ歩いていたら、
ホントのネジ台通りにゃ行き着かないよ!
むっちりした彼女の二の腕に掴まってよたよた歩けば、
粘っこい生ゴムの臭い、
誰かが揚げてるコシーニャの匂い、
彼女の烈しい笑い声、
人間はまず喰うことさ!
すべては喰ってからの話さ!
脂ぎってねとねとする屋台に寄り道して、
指を汚して喰うパステウ、
辛すぎるアヒー、
ホントのネジ台通りに行きたけりゃ、
まっすぐ前を見ていちゃだめさ、
そうさ、そうさ、
タ、タ、タ、ターンタ、
斜めにおいで!


















3の詩景

伊藤透雪
 

ペールブルーの空へそそり立つ
金色に染まるビル、ビル。
斜めに切り取られたその中を
小鳥の影が飛んでいく

三次元が交差して
斜面は一層輝く夕暮れ
陰は少しずつ立ち上り
灯りがともっていく通りを
歩みの遅い人々が四次元へ流れていく

私だけが二次元のまま
温いカフェラテをすすっている

重なり合う3つの次元が
切り取られたペールブルーの下で
流れていくのに
私の感覚はどこか途切れている
街の音が耳に響かない代わりに
独り言だけがやけに響くのだから

まだ陰は薄く
灯りも輝かぬ夕暮れどき
エクストラショットの苦みが見せる世界は
四次元へ傾いた坂道だ
ペンを走らせる私だけが
世界の外から見ている























2008.3.15 発行/蘭の会

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(編集 遠野青嵐・佐々宝砂)
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