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2008年2月詩集「袋」
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なんでもぶくろ  
紙とプラスチック  
悶々ジュニアハイ・メモリーズと同窓会の夜  
袋の中で。。。  
袋叩き  
FUKURO  
悪魔の背中  






























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九鬼ゑ女
 

そうですか
こんな私のために
ありがたいことです
ほんとうに

でも、それがですね
私のフクロは
「gara-kuta」でいっぱい

なのに…ですよ
中を覗くと
なぁんにも見えない
はい
空っぽなんです

一体これはどういうことなのか
さっぱり訳がわからなくて
正直、混乱しています

なので、多分…
あなたから、いま
「mitsugi-mono」を
頂いたとしても
フクロには入らないかと

ただ不思議なのはですね
空っぽというのは
「oki-raku」な白昼夢のようで
フクロも身軽なその荷を
大層気に入っていまして

どうかお願いです
もう少し
もう少しだけ
時間をくださいな

ええ
フクロが
辟易してくれるまで…

いえ、いえ
もしかしたら
だいぶ先の話かもしれませんね
む…………………………ふっふ


















なんでもぶくろ

ナツノ
 

黄緑の花模様 赤茶のチェック
みずいろみずたま 桃色プリント
パッチワークの 布 つないで
きんちゃく袋

なにいれよう なにもない
作ったって いれるものなんてない

テレビから 流れるお笑い
うるさくて いれてみた

目を閉じて 目を開けても
鏡の前 いつも同じ顔
はれぼったい瞳 ニヤニヤ笑いがイヤ
だから いれてみた

ごめんなさい 居留守ばっかりで
言葉が 弾丸みたいに飛んでくるから
応対できなくて
鳴り止まぬ電話 いれてみた

「こんな想い どうするのよ」

だって だって …
学校帰りに拾ってきた ねこ
玄関先で 叱られた あの日のよう

だから いれてみた
「セツナイ オモイ」 を

似合わないって わかってたのに
買ってしまった ガラス玉の
アクセサリを

放り込んだ


















紙とプラスチック

沼谷香澄
 


杉の木の雄花のついた小枝もてきみを殴りぬ耳から上を

殴ったら何が起きるか知っているだから殴っただから殴った

小枝たちまち奪われにけり掴まれた手首に赤き腕輪を残し

きみは目を真っ赤に染めて殴りたり涙流して殴り蹴りたり

透明の梱包用のテープもてきみは縛りぬわが足首を

薄黄色に汚れた頭近づいて我が手の合掌を固定せり

口鼻にテープを貼られ「ーー!」「ーー!」と耳から声を出しにけるかも

乱暴に貼り直された口テープ 真っ赤にかぶれかゆいかきたい

人の頭の(つまり私の頭一つ)入る紙袋が近づいてくる

目隠しの意味は知っている 杉の木の幹を引きずる音が聞こえる


















悶々ジュニアハイ・メモリーズと同窓会の夜

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鈴川夕伽莉
 

 今日はみなさんにひとつずつ
 リュックサックをプレゼントします
 このリュックサックは目には見えません
 そして空っぽです
 今日から始まる3年間で
 できるだけ沢山の思い出と学びを
 心のリュックサックに詰め込んでください
 ようこそ中学校へ、入学おめでとう

という、もっともらしいたとえ話をした校長先生は
ほどなく微妙なセクハラ行為で生徒に嫌われる
先生は書道の先生でもあったが
女生徒に指導する際、必ず後ろに回って手を握り
被さるようにして一緒に書くのである

保健の先生はあからさまな男子好きだったし
体育の先生は運動会の女生徒のダンスに
不埒な振り付けをした
一様にブルマーな私たちはグラウンドに仰向けに寝転び
スターウォーズのテーマに合わせて
くねくねナマ足を動かす

中学生ともなれば大人のエロさ見苦しさなど見抜いて当然で
当然の流れに従い音楽準備室でフェラチオをするのか
気付かないふりして健全な中学生を装い続けるのか などなど
対処法は各々で考えざるを得ない
リュックサックは悶々だけでいっぱいいっぱいで
「学べ」と言われてもねぇ。実践していいの?
あ、ナプキン落としちゃった
新任教師の目の前でわざとね

だからね
おとなになるためなら
リュックサックの中身を幾らか
捨てなきゃならないと
気付いては生き残る
ことを繰り返す
校長先生に渡されたリュックは
綻びたり破れたりぼろぼろになったり
大切なものだけ残して
随分とちぢんだ
破裂して戻らなくなる子は
残骸をどうした
少なくとも
卒業から15年後の今晩、集まったみんなは無事だった


















袋の中で。。。

雪わたり
 

まだ小さくて青い林檎の実に
日光から隠すように 袋をかける
虫や病気からも 防いでくれる
 
 
ポッと 灯るように咲いた ひとつの想い
いつの間にか 結実していた
誰にも言えないその想い
周りに悟られないように 袋をかけた
 
袋の中で ゆっくり ゆっくり 膨らんでいく
ただ一人のために 大きくなって
甘みを増しながら 熟していく
蕩けるほどの 蜜をいっぱい蓄えて
 
いつか 食べてもらえる日を 夢見て
 
 
 


















袋叩き

栗田小雪
 

メスでも切れない素材のゴム手袋みたいなでかい袋に私を閉じ込めて
サンドバッグみたいに吊るして
できればピンクがいいな
暴れても暴れても手足がにょきにょき飛び出るだけで
ちっとも破れずストッキングかぶったみたいな顔になってさ
今まであたしが傷つけたり
思い出すと恥ずかしいことしちゃった登場人物にボコボコ殴られて
一発殴るごとにあっちもあたしも記憶が一発ずつ抜けてさ
最後に憎さがゼロになった善のあたしが死んで
みんなあたしを殴ったこともあたしのこともぜんぶ忘れて
中身が砂になったサンドバッグはプラプラしてるの。

砂になったあたしは
熱帯雨林でみどりがしげる森に住んで花のにおいが湿っぽくて
黄色いくちばしの先が曲がった黒くて大きい鳥を見てる。
メスでも切れないピンクのサンドバッグの世界は
綺麗で綺麗であたしだけがひとりじめするすてきな場所


















FUKURO

宮前のん
 

お久しぶりねえ
お元気だった?
あ、私ミルクティーね
わあ、全く変わってないのね
あなた確かまだ独身だっけ
あ、婚約者がいるんだったわね
あなたの旦那様になる人は
きっとお幸せよねえ
だって、そんなに丈夫な袋を
あなた持ってるんだもの
昔からあなたの袋、大好きだったのよ
私? 相変わらずなの
ほら、私の袋は切れやすいでしょう
薄くてペラペラで
一昨年に子供が出来てからは
どんどん薄くなっちゃって
よく破れちゃうのよ
ウチの旦那のは結構
分厚い袋なもんだから
逆にそれが腹立たしかったりして
え、今日は旦那が留守番なの
まあねえ贅沢言ったらきりないもの
うちの両親はどっちも薄い袋だったから
私しょっちゅう居場所がなくて
子供の頃は困っちゃったわ
ね、ちょっと見せてよ
あらあら本当に丈夫な袋だこと
そういう方がきっと幸せになれるんだと思うわ
本当に羨ましいわねえ



 


















悪魔の背中

佐々宝砂
 

あの声は忘れられねえ。

地獄の底ってものがあるんなら、
そこから響いてくる声だ。
煉獄の釜ってものがあるんなら、
そこからわきあがる声だ。
怖かったかって?
怖かったよ。
あんたが想像するのとは違う意味でな。

真夜中の暗い森。
闇の中に光る眼。
夜目にも白い筋。
そして、あの声。

おれはガキだった。
世の中の何もかもが怖いのか、
世の中の何もかもが怖くないのか、
1インチぽっちもわかってねえガキだった。

あの夜は風がすごかったな。
ごおおという風に混じって、
唸り声が聞こえた。
声はニワトリ小屋の近くに寄ってきた。
親父は怖がってないふうだった。
お袋はおびえてた。
悪魔だ!
アボリジニの血をひかないじいさんが言った。
ばあさんは、
アボリジニの血をひくばあさんだったが、
はて、という顔をした。

銃を手にした親父は、
ためらいもせず引き金を引いた。

世の中の何もかもが怖くないのと、
世の中の何もかもが怖くないふりをするのと、
ガキであるおれにとっちゃ同じことだった。
だからおれは、
親父と一緒に、
死体を確かめに行ったのさ。

黒い悪魔は、
喉首の白い毛を朱に染めて、
タスマニアの大地に横たわっていた。
親父は悪魔の両脚をひっつかんで、
ぶらさげた、

そのとき、
ぼとり、
と落ちたものがあったのだ。

タスマニアデビルの、
背中の育児嚢、
子守のためのちいさな袋、
悪魔の背中の袋からこぼれ落ちた、
小さな生き物。

おれが忘れられないのは、
その声だ。

保護区に行きゃまだやつらは生きてるらしい。
だけどあいつらは、
あの夜の悪魔じゃない。
あの恐ろしい袋からこぼれ落ちた、
あの恐ろしい生き物じゃない。

あれは実にちっぽけな、
情けない、
本当にてんから素っ裸の生き物だったが、
小さな声をあげた。

おれが忘れられないのは、
あの声だ。

悪魔の背中の袋からこぼれた、
地獄の底から助けを呼ぶような、
あの声なのだ。























2008.2.15 発行/蘭の会

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