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2007年10月詩集「さかな」
クロール  
さかなのひとみ  
泣くときはいつもひとり  
エラジカン  
夢魚  
うみほたる  
魚と小鳥  
わたしはさかな  
つまらない遊び  















クロール

http://home.h03.itscom.net.gure/eme/
九鬼ゑ女
 

水の中 で
あたしは さ・か・な
得意技は クロール

なのに
オトコの中 で
あたしは に・ん・ぎょ

見えない糸に操られ
ふたつの桃色の乳首と銀色の尾ひれ を
ひくひく させなが ら
…オトコの意のままに
…オトコにされるがままで

で、
オトコの得意技 は…?
うふふのふぅ .。o○ .。o○ .。o○ .。o○

そんなコト言える訳ないっしょ▼△▼△▼

それでも いつか きっと
あたしは オトコ喰い鮫 に なってやる
ガブリガツガツ ×××××. ×××××.
骨の、
そう…骨の髄まで オトコを 喰いつくして みせる

そうして
満腹になったあたしは
パンパンに膨らんだ真っ白なお腹  を
ぴくぴく させなが ら
水の中 に
どぼーーーーーーーーーーーーーーー ん
得意なクロール で 
時を、未来を 遊んじゃうんだぁ〜〜〜〜〜〜 い!


















さかなのひとみ

http://www5.plala.or.jp/natuno/brunette/brunette_top.htm
ナツノ
 

ゆめうつつの時

ぴしん ぱしゃん 

暗い玄関に ゆっくり明け往く外の気配

さかなが尾びれをゆるく振る



せまい水槽の中 暮らすうち

さかなはとうに

考えること 止めてしまったかな

さかなのひとみに映るのは

のぞき込んだものの世界だけ



屋根の上の広がる空を教えてあげたい

東のほうから さかなの群れがやってくる

ウロコ雲 ひとつ ひとつがあつまって

ふかい水色の 空の海を

あんなに 自由に

風にふかれて 右に 左に群れは揺れ

やがてアカネの色に染まって

夜のとばりににじんで終わる



さかなは眠ることをやめない

ずっと昔に針は止まったまま

なにを失くして なにを捨てたか



水槽の水は生あたたかく

目をあけたままで夢を見ている 見続けている


















泣くときはいつもひとり

http://www.cmo.jp/users/swampland/poetry/poetry.html
沼谷香澄
 

0.9%というのが人間の生理的食塩濃度で魚類も大差ないそうだが金魚の体力回復のための塩浴に最適なのが0.6%だというのはつまり空気中に住む人間の体液の塩分濃度が0.9%だからといって0.9%食塩水の中で生活するのが最も快適といえないのと同じで常に浸透圧を調整しながら淡水に住むのが通常の暮らしなのだからやはり0.6%塩浴のなかで常に暮らすのは異常事態だと理解できるがそうしないと魚の体が弱って行くのだからしかたがなくて家の安物の塩は一日200gくらいずつ減っていく日々がまた始まったのは秋の始まりを意味する

終わりゆく朝焼けの色をして水流に翻弄されながらゆるやかに回転する金魚の死体を冷徹な目で数分間見つめて内蔵の肥厚具合や鰭の付け根の浮腫や死んだ後着いたと思われるイカリムシ様の寄生虫か水カビの菌糸かわからないものを脳裏に焼き付けて死因の特定が結局できないまま日和見感染のエロモナス症ばかり目立つ生前戒名シナモン君から背を向けて

もう一度振り向いて彼の顔を見るととても死ぬ覚悟のできた安らかな顔とはほど遠くそれは一昼夜で全く元気な状態から急転直下本人も飼い主もベテランも初心者も誰もわからないままにあれよあれよという間に泳ぐ力を失い体のバランスを失い呼吸する力を失いたまにエアレーションの泡につつまれる一瞬だけぱくりと息をしてひらりと鰭を動かしてまた力なく漂いながら死にゆく不安死ぬほどの不安に茫然自失しているひとりの生き物の困惑と絶望がまざまざと現れた顔に他ならず

こんな恨めしそうな顔で死なせてしまった金魚は今までいなかった
小学生の頃から
看病する時間もろくに与えられず
励ますことが可能なのかどうかも気がついたときには既にわからない状態で
調べて調べて
安全で確実な治療を施し
日和見感染か第一の感染かわからないが病原体が一つ特定できたので抗生剤を与え
死ぬのを待った

確認

金魚の総柄のパジャマを
金魚の腹色の空から取り込んで
金魚色の夕焼けの中
金魚色の子供を保育園へお迎えに行く
金魚色の雲の色が少しずつ薄くなり
金魚色の薄やみがひろびろとした畑の向こうからやってくる
金魚色のマリーゴールドが幼稚園の花壇に新しく植えられている
金魚色の水銀灯がともり
金魚色のテールライトに追い越され
金魚色のフォグランプとすれちがい
金魚が餌をほしがるときのように元気な子供を連れて
金魚色の薄れた、いや
うちにはいない金魚の色をした空の下を歩く

いつものように訳の分からない替え歌を歌いながら家へ帰る
玄関を開けると「あ、死んでる」と子供が言う
きょうはおけいこだからおそうしきはまたあした

大きな音でパンクをかけながら宵闇の終わった屋外に出て健康な金魚の水槽の水換えをする
上等だぜ
ぷりぷり


















エラジカン

http://yaplog.jp/yukarisz/
鈴川夕伽莉
 

T ナポレオンフィッシュ


昔々、電化製品のコマーシャルにナポレオンフィッシュが起用されました。でかい図体にでかい顔、人間よりも大きな目玉とぽってり突き出た唇、ナポレオンとは名ばかりですが哲学的な表情をしています。時々笑いそうで、笑うという感情すら持ち合わせていそうな。
家族に「あんたみたいな魚だ」と言われたのは心外でした。以来この魚が他人と思えなくなりました。

水族館では、ナポレオンフィッシュはやはり大きな水槽に居ました。のっそりとこちらにやってきて、ぶあつい目蓋でこれまたのっそりまばたき、と、私とそいつの視線が合いました。

次の瞬間、私は水槽の内側に居ました。どうやら身体が入れ替わったのです。水槽の向こう側には人間どもがぽかんと口を開いて私を見てました。水に差し込む光はゆらゆら視界を歪め、ガラスのカーブのせいで人間どもの顔は縦長で、なんとも間抜けです。
実際彼らは私たちを前に、このような表情しか出来まい。

ゆるいカーブに沿って一周し、端っこで立ち尽くすひとりの少女と視線が合いました。かつて私だった瞳は苦しんでいました。肺呼吸に慣れないせいでしょう。
申し訳ないと思った瞬間、私の視線はふたたび水槽の外にありました。





U エラび取る朝に


蛍光灯をつけたまま一晩寝たらしい
身体は光に疲れているらしく
出勤前の30分間
せめて電気を消して身支度をすすめる

遮光カーテンの隙間に
わずかな自然光
部屋のうすくらやみを呼吸して
すこし楽になる

水魚の交わりというほど
人間が空気と仲良くなれないのは
不要な光ばかりが満ちているからだ
張りつめたり尖ったりする神経を
うすくらやみが愛撫していくので
私は魚になって泳ぎだす

部屋は澱んでいる
けれども
テレビと新聞がないから
それら自体が発する
もはや政治家よりも救い難い
無責任で軽薄な言葉によって
毒されてはいない

うすくらやみの水の中
私は一枚のチラシに流れつく


  なにがイッツウォーだ。ファックユーである。
  藤井貞和講演会 於…


そうだ
12月になったら藤井さんの声を
聴きに行かなくちゃ

私はのろのろと水からあがって
人間の生活に戻る
素肌程度の化粧を施して
ドアに鍵をかけ
光の中に出る


















夢魚

雪わたり
 

たゆたう時の たまゆらを
 
きままに 泳ぐ 夢魚
 
希望をえさに ゆらゆらと
 
いつの日か 錦の衣を まとう日が
 
来たら良いなと 夢に見ながら
 
 


















うみほたる

宮前のん
 

こっちから
ずっとあっちを眺めていると

父さんの持つひかりに
母さんの持つひかりが
そっと揺れながら寄り添っていく


おうい

苦しいのはほんの一瞬だった
泣かなくてもいいんだよ


流し灯篭がゆらゆらと
小さな船に乗って近付いてくる


おうい

ぼくはここにいるよ
 




 


















魚と小鳥

佐々宝砂
 

一匹の魚と一羽の小鳥が
甘い甘い恋をしました
牧歌的なシャンソンの時代なら
おたがいに心寄せ合って
空をみあげて
あるいは
水をみおろし
それでお話は終わりだったのだけれど

さて時は21世紀それもたぶんおしまいごろ

一匹の魚と一羽の小鳥が
甘い甘い恋をしました
牧歌的なシャンソンの時代は過ぎ去って
科学技術の粋が集まって
魚につばさを
鳥にうろこを
つけようとしたらついてしまったのだが
それでお話はまだおしまいにならず

一匹の魚と一羽の小鳥は
甘い甘い恋の果実として
牧歌的な神話にでも出てきそうな
グロテスクな怪物を産み落とす
それでも恋は恋で
それでも家族は家族で
一匹の魚と一羽の小鳥は
グロテスクに愛をはぐくむ


















わたしはさかな

伊藤透雪
 

まだ、こわいと思っているの?
大丈夫よ、さあ飛び込んでごらんなさい
息が苦しくなったら
口移しで吹きこんであげるわ
いのちの詩(うた)を

文字の海の中を自由に泳ぐ
わたしはさかな。

この海の中では
なにもかも融けてながれて
あなたの小さな石ころでさえ
ゆくえがわからなくなるくらいに
自由になれる

ときには
甘い歌声で耳元でささやく詩を
眠りたいあなたには
やさしい夜の詩をきかせてあげるわ

さあ、
いらっしゃい
あなたのこころの全てを開いて
耳をすまして

おぼれてしまったらそれもいいじゃない
この海はやさしくつよく抱きしめてくれるから
喜びも哀しみも苦悩も
何もかもからだから離れて
あなたも自由になれるのよ

おそれないで、さあ。
飛び込んでいらっしゃい。


















つまらない遊び

赤月るい
 

あなたと
湖沼へ釣りに出かけたことがあった

ルアーがどうだとか
説明しているあなたは楽しそうで
だけどよく分からなかったから
わたしは隣に座ってただ水面を見ていた

ふしぎな空気の中で
いつになく真剣な顔のあなたは
うまい具合に竿を操って
動く糸をたぐりよせ
一匹の魚を獲った

そして、まもなく逃がした

なんで?って聞いたら
「キャッチアンドリリースだよ」と
その意味を教えてくれた

それはいかにも
善人ぶっているようで
スポーツマンシップに則っているようで
なんだかすべてが矛盾に見えた

ねえ
その魚は一度釣られて
針通されて
口やえらに傷を負って
痛いまま一生を生きるのって
それならいっそ
一思いに殺してやればいいのにって

聞きたかった
けれど言わなかった
何が正しいのか分からなくて
あなたに
変だと思われたくなくて

それは言い訳で
本当は
あなたに「そんな、魚に痛いなんてないよ」って
返されるのが怖かった

かわいそう
痛いままの一生を送る魚
がんばれ
がんばれ

私はひざを抱えて小さくなり
また水面だけを見ていた


























2007.8.15 発行/蘭の会

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(編集 遠野青嵐・佐々宝砂)
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