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2007年6月詩集「傘」
  
濡つ-----sobotsu  
寂しい水玉  
きのこどんぶり  
よぎる想い  
  
pink  
あめきり  
時には  
雨模様  
片々しいやつ  
Nothing's gonna change my world.  
  
体温  

















http://hippy2007.blog61.fc2.com/
yoyo
 

雨の降りそうもない晴天、

会社に忘れた傘を持ち帰る

電車の中は誰一人として、

傘をもっている人はいない

私の羞恥心がどきどきと、

顔はピンクから赤茶化して

傘を置いて帰るかと思案、

駅員さんに迷惑だから中止

こんな日に荷物になるな、

小さい心しか浮んでこない

walking in the rain

タップして歌って帰りたい


















濡つ-----sobotsu

九鬼ゑ女
 

見上げれば
空は鈍色の墨衣を纏ひ
ぼくを穿つのは 雨糸の群れ

移ろひをもてあます きみ
すぼめたくちびるの滴りも
みるまに色を変へてゆく

溜まりには生まれては消えていく輪が
一輪二輪 儚き花を描き
濡れそぼつふたりは ただ佇んだままで
ぼくの揺らぎに眼を伏せるきみも
いまにも水無月に溶けてしまひさふで

だからだよ

慌ててぼくは閉じたまんまの
あぢさいもやふの傘を
虹のカタチに膨らますと
その傘の中で
きみを抱きしめたんだ

おずおずと
けれど ぎゅうっとね


















寂しい水玉

ナツノ
 

夕暮れ ぽつり また降ってきた 雨
色あせたうすピンクの傘 広げれば
アスファルトに 水玉
傘の中は 雨の森の中

寂しいコトバが 私を見つけて落ちてきて
傘の上で跳ねる
そうだね、そうだよね、 
落ちる雨音に いちいち相槌うって歩けば 

いつか ざんざん降りになり
心も 傘の中も 大洪水
電信柱のむこうまでは 我慢 がまん でも 
もう
森は水びたしで溢れそう

いっそ頭から濡れましょう
森を抜けたら

青むらさきのアジサイと目が合ったよ

傘を閉じると 雨は小降りになっていた
夕もやが街を包み 西のほうは明るい灰色

泣かないで コトバ
雨が降ったら
またこの傘に落ちておいで


















きのこどんぶり

http://www.cmo.jp/users/swampland/
沼谷香澄
 

島病院に軸が立ち
石づきのないきのこが開く開く
直径5kmの傘の下
胞子振り撒く傘の下
町は真っ暗
何も見えない
傘が太陽を隠してしまいました
いいお天気だったのに
何か人の力を超えた大きな力が
町を攪拌して
人ごと攪拌して
レンジで加熱12分
きのこどんぶり一丁上がり
主な食材
昼間人口40万人
活きがいいよ

傘の形したきのこの膜を破って
フォークが伸びてくる
スプーンが突き刺さる
ばりばりと空が明るくなり
巨人の親子が現れる

「レンガとコンクリートを
「人で和えてみました
「庭木の隠し味がポイントです

誰が食べるの
ストロンガーさん
ほらあすこは地面が大きいでしょ
住んでいる人も大きくて
こうやって
小さな国を料理して
食べないと
生きていけないんだって
そうか
しかたないね
みんな生きたいのは同じだよね
さよなら
さよなら
もっと生きたかったね
生まれ変わったらまた会おうね

「おかわり

「おーい
「きのこどんぶりもう一丁
「中盛り

「ねえパパこの中盛り玉子が少ないよ
「そうだなここのきのこもまずいな
「バーベキューにしたトーキョーとオーサカはうまかったな
「でもこげくさかったよパパ
「きのこどんぶりもっと食べたい
「ぜいたくいうな
「もうこの国に大きな器は残っていないんだから
「だったらよそへいこうよ
「だめだめ。よそは危ない。この国は食い放題

「知ってるか、この人汁から上がってくるこれは
「spiritっていうんだ
「ふうっ。あははは、ふにゃふにゃ、くっついたり離れたり。
「このspiritがまた何百年かすると人の肉になって
「小さなこの国を埋め尽くすんだ
「そしたらまた食べにこようね
「そうだな
「次に食う前に少し休ませる時間が必要だな
「それまで辞書の『核の傘』の意味を書き換えておこう


















よぎる想い

雪わたり
 

天気雨が通りすぎて
 
お日様が 傘をさした
まぁるい虹の 傘をさした
 
こんなときは 思い出す
見上げながら 思い出す
 
あなたと出会った あのときを
いまはかえらぬ あのときを
 
  
  
雨あがりに出会った あなた
デートはなぜか いつも雨
 
傘のしずくに肩濡らす あなた
見上げては 謝ってばかりの私
  
いつだって雨の匂いがした あなた
デートはいつも 屋内ばかり
 
 
 
あなたとの想い出は
 
出会いのときの 虹の傘
スーツを濡らした 相合傘
 
今は もう
相合傘をすることも無くなった
 
たまに見かける 虹の傘に
あなたの記憶が よぎるだけ
 
雨あがりの お日様のように
ほんの少し 射し込んでくる
 
ほんの 少しだけ
 そう    ほんの   す・こ・し
 
 
 
 




















水瀬 流
 

次はどんなのにするの

見かけがいいに越したことはないけど
防水はしっかりしているのがいい

キミは泣き虫だからさ

頑張って守ったつもりだよ
雨とか風とかいろんなものから

キミは泣き虫だからさ

見るからにくたびれてるだろ
実際くたびれてんだよね

キミは泣き虫だからさ

雨がやんだね
忘れたふりして置いていけばいい


ホントはさ
強いんでしょ


















pink

ひあみ珠子
 

これだったら捨ててくれていいから
ピンクのビニール傘
そう言ったら本当に返してくれなかったぁ
もちろん
傘が惜しいわけじゃないけど


開いた傘の曲面を
ぱたらん
ぷとぅるん
つるるるる・・・
しずくが踊って落ちてった たぶん
もしかして 傘の柄をくるんとまわした拍子に
螺旋を描いて落ちてった たぶん
澄んだ水に色水が一滴落ちて 色が広がってくように
しずくが地面に触れるたび 世界が変わっていった たぶん
駅に着いて 閉じられた傘は
切符を買ったあと 改札を通ったかどうか さて

雨上がりの空はピンク
水たまりもピンク
道端のナデシコはピンク
カラスの背中もピンク
私の憂鬱だってピンク


私の中の私に訊ねてみても
おうむ返し
何度でも
おうむ返し
答えなんて降りてこない

だったらもう せめて
まっさらな夜明けをちょうだい
胎児のポーズで眠るから
もう一度 世界に新しい魔法をかけておいて
濃紺の部屋で
自分の匂いの布団にくるまって眠るから
それでいいから せめて


苦すぎたダージリンティ
ガーネットのピアス
唐草模様の折り畳み傘


















あめきり

http://osaka.cool.ne.jp/asuka017/
田村飛鳥
 

ぽつぽつ、雨音
足で踏んで
踵に掛かる、水の粒
ひとつ
傘の先から滴る、しずく
淡々として、リズム
空梅雨
いつもテレビが嘆いてる
あたしは
青空の方が好きだけど
来るべき季節はちゃあんと来てね
じゃなきゃいのちの流れが途切れてしまうから
とか
格好付けた文句を並べて
雨を
乞う

水たまりの濁りを
視界に刻んで
蝉の声響く夏空の
浴衣の裾から覗く手首の白を
綺麗だといってくれたきみの笑顔を
アルバムの中に閉じこめたままで
夏を迎えるときは常に
捨てよう、捨てようと思うのだけれど
きみは今もなお美しい

ごろごろ、蛙の喉が鳴る
畦道の真ん中を裸足で走る
きみのアニエス汚れたとき
少し怒った顔が格好良かったよ
嵐山、桂川
抹茶のソフトクリームが溶けて
焦げそうなくらい熱い石の上に落ちて
ジュッてなったときの怖かったこと

夏の陽射しは肌を焼く
夏の陽射しは目をも焼く

蒸し風呂のような車の中で
あたしの面影は何処にもなくて
じゃあねと別れたらきみはすぐに一人に戻って
名残惜しむ顔さえしてくれなかったの
ドアを閉じてすぐ降り出した雨が
かみさまのようだった
あたしはいつも
雨を
乞う

足を濡らした水の粒
傘の先から滴る、しずく
淡々とした、リズム
紫陽花

紫色したアニエス
来るべき季節がちゃあんときたら
そのときそのとき、流れるいのちが途切れないように
きみの笑顔と怒った顔と
焦げた抹茶のソフトクリームを
アルバムに全部詰め込んで

ちゃあんと来るべき季節に
止まったままの夏を連れて行って
疎らに降り続く ぽつぽつとした 雨の音を
畦道の砂利 擦って掻き消して 雨の音を

重い灰色の雲と
澄み切った青空と
じりじり唸る太陽の熱を
アルバムに全部詰め込んで

詰め込んで
今度こそさよならを


















時には

ふをひなせ
 

防水加工
UV加工

打たれて強くなるけれど
浴びて免疫もつくけれど

そっと差し出せるように
なりたいと思うのです


















雨模様

宮前のん
 

私の傘は水色で
普段は大事に
折り畳んであります
この人なら一緒でも大丈夫
という人を見つけた時だけ
そっと広げて差しかけます

だから、一緒に歩いてた人が
急に居なくなったりすると
さみしくって
かなしくって
もう誰にでも傘を
差しそうになります
電信柱の陰の子犬とか
野原で水を吸っている草花とか

そういう時には深呼吸して
傘を折り畳んで手に持って
しばらく散歩するんです
頭っからずぶ濡れになって
鼻歌なんか歌います
泣きながら上を向いたり
(泣いたっていいんです)
そうすると雨が優しくて
段々暖かくすら感じてきます

そうしてまた、いつの間にか
傘を差し掛けてあげたい人を
見つけられたりするのです



さて、そろそろ傘を
広げましょうか


 


















片々しいやつ

http://lyriclilyth.at.webry.info/
佐々宝砂
 

おれ、カサかぶってんの嫌いなんだな。
馬鹿に見えるからな。
どーせ馬鹿だけどな。
ほんでもここで休むときはカサを外すよ。
外すとイッポンダタラと見分けがつかん、って?
ああ、おれの方が馬鹿だから見分けがつくら。
一つ目の一つ足ってのは同じだけん。

キュクロプスのやつはさあ、
ホメロスにさんざっぱらないことないこと書かれたけん、
あれでも神様だし、
天目一箇神サンときたらよお、
いまだにお伊勢サンの別宮で祀られてる神様じゃん。

それにくらべたらおれってなんだら。
付喪神だろって?
うんそういうセンセーもいるよ。
イッポンダタラの親類だの、
天目一箇神サンが落ちぶれた姿だの、
男根だの、
蛇神だの、
龍神だの、
いろんなセンセーがたがいろいろ言ってくれてら。

ふんでもおれにはわからへん。
おれは馬鹿だって話だ。
カサとっぱらうと、
ほんとにイッポンダタラと変わりゃーしん。
ま、カサかぶっても、カサとっぱらっても、
馬鹿な頭は治りゃへんわ。

おれの言葉が変だって?
おりゃどーせカラカサ小僧さ。
おれの言葉なんか出鱈目さ。
カサかぶっても、カサとっぱらっても、
おつむの足りないカラッカサさ。


















Nothing's gonna change my world.

http://rikako.vivian.jp/hej+truelove/
芳賀 梨花子
 

ガレージに詰め込んだ昨日を
最果てのリサイクルセンターへ搬入する
オーライオーライ停止線ぎりぎりまで
車をバックさせて
昨日は永遠に昨日じゃないことを知るんだ
ハッチバックあけて
途方もなく積み重なった誰かの昨日の山を見上げて
運んできた昨日も放り出す
黙々と分別する日に焼けた係員に敬意を表して
この歌を歌おう
明日になってしまう私を置き去りにして
なんども剥げて塗りなおされた水色のベンチの
少し疲れた感じの休憩所で
紙コップに冷たい水をそそぐ
ジョンは言葉なんて
紙コップに降りそそぐ長雨のようなもんだと
歌っていたけれど
今日は6月なのによい天気で
ガレージに骨の折れた傘を残してきたことを
私は知らなかった



*BeatlesのAcross The Universeの歌詞の一部を引用しています。






















紫桜
 


晴れた日に傘を差す
紫外線を避けるためではなく
幸せな笑顔を避けるために
見えない心の傘を差す

助けてください
誰か助けてください

晴れた日に見えない傘を差す
同情を避けるために
独りになるために
殻を造るための傘を差す

助けてください
誰か助けてください

雨の降る日に傘を差す
土砂降りを避けるためでなく
身体と心が叫ぶのを防ぐために
あなたの優しい言葉が
隙間に浸み入るのを防ぐために

私はここに生きている
だから
助けてください
誰か助けてください

どこまでも晴れ渡る澄み切った空
爽やかな風と陽射しと笑顔
たまに土砂降り

息苦しく抑えつける蒼い天井から
槍を携えた負の者々が降り注ぐ

助けてください
誰か助けてください

誰かわたしに傘を
わたしの道を歩めるように
わたし自身を守るために

くじけてしまわないように

だれかたすけてください


















体温

http://www001.upp.so-net.ne.jp/satisfaction/
e-came
 

雨雲の境界線を跨いだ日
ボクはそっと傘をたたんだ
背中ではまだ
雨は音もなく落ちている

波打ち際で弄ばれる小さな貝殻みたいに
あてもなく宙に浮いたコトバたち
風に舞う木の葉みたいに
いつかは落ちていくし
いつかは消えていく

それでも
何かを探すみたいに
何かに縋るみたいに
宙ぶらりんなまま揺れている

ただただ
この手のひらにある体温を
とても愛おしく思うんだ

空は雲の流れる速さで変わる
青は陽の傾くリズムで色付く
枝は季節の歩幅で膨らむ
この手のひらにあるものは
ボクの鼓動よりもずっと速いリズムで変わっていくし
いつかは触れることもできなくなる

きのう放ったボクのコトバが
ついさっき背中を弾いた

消え行くことに意味を求めないで
今あるから続くんだよ


また雨が肩を濡らす
ボクは傘をそっと取り出した

雨は心地よい音を奏でながら落ちていく


今さっき放たれたコトバが
いつかどこかで誰かに触れるまで
音もなく あてもなく


























2007.6.15 発行/蘭の会

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(編集 遠野青嵐・佐々宝砂)
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