info@orchidclub.net
http://www.orchidclub.net/









2007年5月詩集「花」
  
惷虚  
花は、  
てっせん  
時は過ぎる  
メメント  
花わたり  
くるくる花  
枝垂桜  
白い花  
徒花  
Arisaema serratum  
Dutchman's pipe cactus.  
花橘  
  

















http://hippy2007.blog61.fc2.com/
yoyo
 

命短い女のようで
くるくると

つねってはれて
花弁は散った

(あなたは知らない)

雪解け

開花するのはなれの果て?

会話するの
くるくると

吸いも甘いも
かぎわけながら

(あなたは知っている)

満開

出会いと別れの交錯
くるくると

交差点の会話
路肩の喧嘩

(あなたは散った)

産卵

あたしは知っている
繰り返していくことを


















惷虚

http://home.h03.itscom.net/gure/eme/
九鬼ゑ女
 


曖昧さという生ぬるさを引き裂き
雷鳴が春を威嚇する
闇を劈く光の刃                      /tsunzaki
傲慢な轟きと共に                
稲妻は私の元に夥しいシカバネを連れて来た

…在るモノは私に許しを乞うように
…在るモノは歪な眼差しで私を眇めるように   /ibitsuna /sugameru  
           
そして、 …在るモノは
この世に居た証さえとうに無くしてしまったのか  /akashi  
俯いたままで洞を擁き                /utsumuita/utsuro
幾筋もの折れ曲がった光の矢が
容赦なくこの現世を射る              /utshiyo
私は次第にバッド・トリップした麻薬患者のように
異界をさ迷いだす

やがて、
血塗れの死人の群れは                       /sibito
丘陵の隅に密やかに佇む一本の古木の根元に蹲る     /uzukumaru
まるで緋毛氈を敷き詰めたように…               /himousen
それはイマゲンザイも衰えを知らない戦さが織った
赫い絨毯なのだ   
         
私は恐る恐る煩悩塗れの小指の先っちょで
動脈の浮き出た皮膜を捲ってみた
穴がひとつ開いていた
呆けたようにあんぐりと口を開けたまま私は穴の底を覗き込む
……おいでおいで
穴の入口で無数の手がそう招いている
忽ち咽喉元にこみあげてくるのは生臭い吐き気

意気地なしの私はすぐに現実と言う扉の影に逃げ込んだ

氷魚のように凍てついた心が                /hiwo
戦慄に嬲られた私をしつこく詰るのだが     /naburareta/najiru
いまの私には何の術もなく…                /sube

春を弔うレクイエムはいつのまにやら最終章に入ったらしい
遠のく雷鳴に引きずられるように
ひとり、ふたりと死者たちは
朽ちた櫻の節くれの隙間に吸い込まれていく

置いてきぼりを食らったのか
頭上では一筋、春雷がしつこく夜空にしがみついている
その轟音にせっつかれるように、はらりはらり
淡い粉雪のように遅咲きの櫻たちが散り始めた
けれど削がれるように零れ落ちているもの、それは…
蕾のまま朽ち果てようとしている私の見果てぬ夢の花たちなのだ
そう気付いた瞬間だ
呆然と惷虚を見上げる私の心に最後の稲妻が憑依した
するとどうだろう
汚物同然だったその夢の蕾が膨らみだしたではないか!

気紛れな春の妖術に
誑かされているのかもしれない        /taburakasarete
…それでもいい
熱く滾りだした私の指先は
爪がひび割れるのも構わずに
舞い散る花びらたちを、一色も見逃すまいと
ただただ無心で拾い集めるのだった


















花は、

http://www.hbs.ne.jp/home/poppo/
NARUKO
 

宇宙まで手が届きそうに
よく晴れ上がった日曜
走る車には、
運転席と助手席にふたりだけ
高い青に向かって
咲き乱れる桜を見に行く
ふたりだけの家族
  
  
  
花は、目的ではないんだよ

あなたは言う
花は、実がなるための手段なんだ

そんなあなたの肩の上
うす桃色の花びらは
風にゆれながら
かすかに笑う
  
  
  
それから、また毎日をかさねてる
満開だった花たちは、一枚も残っていない
青青と茂る葉っぱで覆われる桜並木
振り返る人も
仰ぎ見る人もなく
やっぱり、高い青に向かって
枝葉は、揺れながら腕を一杯に広げているのに
  
  
  
花は、目的ではないんだよ

あなたの声がする
花は、実がなるための手段なんだ

そんなあなたの声を聞きながら
わたしは、下腹部に手をあてる
宿せることの出来なかった
蕾をそっと暖める
  
  
  
そのうち、空を目指しながらのばしていた枝葉も
少しずつ冷えてゆく地球の体温に耐えられず
力尽きて、地面へと還ってゆくのだけれど
星空は暖かく抱きしめてくれるから
木枯らしをゆりかごにしながら
そっと眠ってゆくんだ
  
  
  
花は、目的ではないんだ

わたしは相槌を打つ
花は、実がなるための手段なんだね
と、
わたしは、
あなたのてのひらをまさぐって
ぎゅっと、にぎりしめて
あなたの歩幅にあわせて
歩いてゆく
  
  
  
  
また暖かくなって
宇宙まで手が届きそうに晴れ上がったら

見にゆこう
  
  
  


















てっせん

ナツノ
 

夕闇の葉桜の下に咲いた
白いてっせん ふたつ みっつ
薄墨色の集まった暗がりを
そこだけ照らしている

足早に家路を急ぐサラリーマン
あまりの白さは なまめかしくもあり
それが余計に 寂しげでもあり
誰もが自分に必死だから
いつまでも
見とれて立ち止まっている訳もなく

ちいさなつむじ風起こり
白が揺れる
5月半ばの薄ら寒さ 二の腕撫でてゆく

薄ぺらでしとりとした花びら広げ
後ろ姿見送り ひらひら 
揺れている いつまでも


















時は過ぎる

http://www.cmo.jp/users/swampland/
沼谷香澄
 

立ち止まって名前を呼んだ

オオイヌノフグリ
ハルノノギク
ボロギク
カラスノエンドウ
カルカヤ
ヒメジオン
タンポポ
ポピー

見渡して目を細めた

アブラナ
ダイコン
ジャガイモ

泣きながら歩いた

クロッカス
クロッカス
チューリップ
チューリップ
パンジー
パンジー
パンジー
サクラソウ
ストック
ストック
ストック

うちへ帰りたくなかった

クレマチス
ボケ
コデマリ
ユキヤナギ
ヤマブキ
ミニバラ
ツルバラ

空が知らん顔していた

ロウバイ
コウバイ
ハクバイ
ヒカンザクラ
ミモザアカシア
カワヅザクラ
ソメイヨシノ
ヤマザクラ
ヤマモモ
モモ

遠く人の声が聞こえる

イチゴ
ナシ
ビワ

大型バイクが追い抜いていく
ヘルメットに

ハイビスカス


















メメント

http://yaplog.jp/yukarisz/
鈴川夕伽莉
 

ミスターチルドレンは特に好きでなく
部活の女友達を次々と毒牙にかけていった
悪い先輩が持っていたアルバムに
車の中で隠れてキスをしよう
なんて軟派なタイトルの曲が収録されていて
むしろ根性叩き直したいとか思っていた矢先
初めて本気でつきあい出した
同じクラスの男の子が
カラオケで歌ってあんまり可愛らしかったものだから
体育祭のあと他に誰もいない教室で
そういうことをやってしまったり
ミスターチルドレンを借りてしまったり

男の子の友達と女の子の友達と
みんな10年後もつきあっていたら一緒に結婚式を
挙げたら楽しいねだとかどうせ
無理だと思うけど夢を
見ているだけなら罪じゃないからね
国道41号線沿いお好み焼き
卒業式打ち上げ
大切に飾った集合写真
結局みんなバラバラになったから
どこかへ失くしてしまった
ミスターチルドレン
さよなら幸せのカテゴリー
あんまりにも的を射た歌詞が憎らしい
さよならもう聴けない
けれども

“負けないように枯れないように笑って咲く花になろう”
たったひとつだけ
10年経った今でも好きな曲

思い出はしばしばわたしたちの現在を裏切り
本当は美しくもないし未来にも届かない
高校生だったわたしが
何を犠牲にしてでも守りたかった世界は
今やわたしの中ですら存在が危うい
けれども

“負けないように枯れないように笑って咲く花になろう”
そうだね、生きている




「車の中で隠れてキスをしよう」 アルバム「Kind of Love」収録
「幸せのカテゴリー」 アルバム「BOLERO」収録
“負けないように枯れないように…”は「花 –Mement Mori」より引用
シングル曲/アルバム「深海」収録
いずれもMr. Children


















花わたり

雪わたり
 

クロッカスと 水仙が 花壇を飾り
もくれんが 香りを放つ 春日和

昨日は 梅を愛でました
今日は桜を観に行きましょう

気がつきゃ庭の雪柳
はちきれんばかりに 膨らんで
今にも ほころびだしそうね


樹木の若葉が萌えだしたなら
続々咲き出す 花さまざまに
つつじ 石楠花 チューリップ
山吹 エニシダ 夾竹桃

庭の築山 春らんまん
池に戻った鯉たちも
水を跳ね上げ 活き活きと
花菖蒲 あやめ 杜若
水辺の花に ごあいさつ

見上げた先には 花椿
こでまり リラに 藤の花
眺め尽きせぬ 春の庭


日々 様変わり 色変わり

あふれる春に 心ほどける


















くるくる花

栗田小雪
 

川沿いの道を、すこし歩くと
いろとりどりのくるくる花
風に吹かれてくるくるまわる

赤 紫 きいろ あお

くるくるくるくる

ちいさな手をひいて
くるくる花を見に散歩する

おじさんが、カラスよけに咲かせたくるくる花

ちいさな口が、くるくる花にぷうっと息をふきかける。
くるくる花のおじさんは、畑のいちごをくれた。

ちゅーりっぷ、あやめ、ポピー、わたげのたんぽぽ。
散歩道に咲く花たちのあいだを通って
晴れた日はくるくる花を見にいこうね。

くるくるまわれ
くるくる花


















枝垂桜

ふをひなせ
 

来年か再来年か あの桜を見に行こう
貴方が気に入った ひなびた町の枝垂桜
障子窓の向こうで ひっそりと
斜面に佇む樹の 開花を描いて
また来たい 幾度となく言った
あの桜を見に行こう なるべく早く
貴方が見たがった 花の咲いている頃に
ひとり佇んで 貴方を想うだろう
そうして私は 別の恋を
やがて咲かすだろう


















白い花

http://blog.livedoor.jp/cat4rei/
土屋 怜
 

なぜ 梅の花をくれたの?

ーそれはね。
 暗闇の中でいちばん
 目立ったのが
 白だったからだよー

なぁんだ
選んでよい香りの
花泥棒になったんじゃなかったんだ・・

私はちょっぴり
がっかりした

梅は 私の思いと一緒に
いつまでも香っていた

ー今度は私のことを思って
 花を選んでねー

闇の白い花に嫉妬して
梅に言ってみた


















徒花

宮前のん
 

昨日ねえ
アタシねえ
缶詰開けたんだよ、夜中に
花の缶詰
知らない? 前に流行ったよね
ほら、あなたの人生に一度だけ
ひと花咲かせますってやつ
ただし、開封時期については
十分ご検討下さいってさ
それで昨日、誕生日だったでしょ
そうアタシ大台になんのよ、なったのよ
相変わらず独りぼっちのバースデーでさ
このまんまずっと花咲かない人生じゃ
あんまり可哀想だと思ってさ
ほら私、根っからの不器用だから
それに運ないしね
で、0時過ぎかなあ缶切りで
そしたらさあ、なんか萎びてるの
おかしいと思って缶の裏見たらさ
消費期限過ぎてたの
なんと昨日までだったのよ
たった数分の違いでさぁ
全くタイミング悪いよねえ
せっかくの花を
何年も暖め過ぎちゃって
大事にし過ぎちゃって
とうとう萎びさせちゃった
やっぱり私って
どっかダメな女だよねえ



  


















Arisaema serratum

http://lyriclilyth.at.webry.info/
佐々宝砂
 

美しい毒の娘は嘆息する。
夢想のうちに語られた毒の娘は、
夢想なのであるから、
ありえぬほどに美しい。
毒の娘が生まれ育った園も美しい、
毒の花園に咲き誇るのは、
白い鈴を垂らすPieris japonica,
Convallaria majalis,

華やかな黄色はCytisus scoparius,
白にピンクに咲き揃うNerium indicum,
毒の天使のトランペットはDatura metel,
そしてすばらしい赤紫のDigitalis purpurea,

けれど毒の娘がとりわけ愛するのは、
ごくごく地味な花だ。
その茎は蛇の鱗に似たまだらの紋様、
その葉は濃緑、
毒々しい黒紫の縦縞の花は、
鎌首をもたげる蛇のかたちに開いて、
その地獄に虫が堕ちるのを待っている、
おのれの栄養にするためにではなく、
ただおのれの受粉のために、
この花は虫を殺す、
そして毒の娘はこの花を愛して口づけする、
Arisaema serratum と呼ばれるこの花に。

毒の娘は再び嘆息する、
この世にもあの世にも毒など存在しないのだと、
ただ物質が存在するだけなのだと、
それら物質が、
人間にさまざまな作用をもたらすだけなのだと、
毒の娘は知っている、
夢想のうちに語られた毒の娘は知っている、
毒の娘である自分は、
本当のところ、
毒の娘ではない、
娘ですらない、

子をなすことはもちろん、
恋しい人に口づけすることもかなわず、
存在することすらなく、

毒の娘は嘆息する。
存在すらしない、
夢想のうちに語られた毒の娘は、
おのれが生まれ育ったと語られる毒の花園で、
子をなすために虫を殺すArisaema serratum に口づけて、
静かに消えてひととき休む、
またどこかの孤独な男が、
毒の花園に住まう毒の娘を夢想するそのときまで。


















Dutchman's pipe cactus.

http://rikako.vivian.jp/hej+truelove/
芳賀 梨花子
 

鋼管通りで見上げた空は
なんとなく青くて
煙突を何本も飲み込んでいた
あんた女みたいだね
それに引き換え
あたしは日に焼けた肌と
にじんだ人生と
メンソールじゃない煙草
拾っていきやがれ
やがてくる夜に
泡立つ息に耳をそばだてたなら
あたしは女王様になったげる
握りつぶしたアルミ缶や
歪んだ卵のように
廃工場に木霊する女王の号令を
聞きたいのならば
野郎ども汗して奉仕したまえ
太陽のもとに咲けない花を育みたまえ


















花橘

http://tohsetsu-web.cocolog-nifty.com/shine_and_shadow/
伊藤透雪
 

森を渡る風にゆられて
鳴く葉の音と
耳を横切る風の歌だけがある、


新緑の中に立つ
君のうしろ姿の
白い腕とうなじ
美しすぎるその姿が
緑の中に凜と薫るがごとく

君の花 君の光は
この山間でひらき
静かに僕の胸を洗う輝きとなる
僕の脈拍は徐々に上がって
ぼうっと視界がゆらいでる

笑顔でふり向いた君が
何か言っているのに
よく聞こえないんだ

花は緑の中に咲き
光の中にこそ輝く

いざなわれるままに山深くふみ入り
清水に手をつけると
冷たい感慨が腕をつたい 脳天がしびれるよ
僕の熱は一瞬冷やされて
甘い花の香りに気を向けた
鼓動は
まだ鎮まらないみたいだ




















赤月るい
 

花が咲くのは一瞬なんですよね
その一瞬のために
どんなに頑張っていようと
花が咲くまでは誰も見てくれない

まだ見えない自分の花を
信じて努力する
それは、みな辛く孤独なものです

目に見えない努力の成果
まだ見たことのない自分の花
咲くか咲かないかも分からずに
それでも
光にあるほうへ
自分だけを信じ進んでゆく


別れの哀しみにくれながら
ひとり街を歩いていると
木のつぼみがまっすぐ立っていて
その、一心に太陽を信じる様は
恐いほど美しかったです

みな
一斉に伸びゆく様は
こちらを脅かすほど力に溢れていました

何も恐れず
ただ自分の花を咲かせることだけに
懸命になっている姿
春なのに
どうしようもなく冷めゆく私の心を
震え上がらせました





























2007.5.15 発行/蘭の会

ダウンロードは
サイトのないのほんだなよりできます

[ご注意]

著作権は作者に帰属する
無断転載お断り
詳細は蘭の会にお問い合わせください

(編集 遠野青嵐・佐々宝砂)
(ページデザイン/CG加工 芳賀梨花子)