info@orchidclub.net
http://www.orchidclub.net/









2007年2月例詩集「兆し」
兆し  
「itousiki明日」  
荒涼  
兆し。。  
一筋の光  
無力な船  
予兆  
うたのきざし  
a sign of the times.  
ともしび  
淡い季節  













兆し

http://hippy2007.blog61.fc2.com/
yoyo
 

父のときもそうだった
まるでネコのように
死ぬ前に片付けをはじめる
「死んでしむようで嫌だ」
といったけれど
伯母と母は部屋を片付けた
寒い冬の真夜中
誰も知らずに
息をひきとって

帰らぬ人を待ちわびるのか
生きているようで
目を覚まさないかと
何度も呼びかける
「お母さん、お母さん」
ネコは冷たくなった母が
わからないでいる
無頓着なあたしと
几帳面な弟と
冬にさらされて


















「itousiki明日」

http://home.h03.itscom.net/gure/eme/
九鬼ゑ女
 

アシタ、ええ、明日になれば
希望が私をくるむでしょう

はぐれたあなたの
青色吐息を
も一度 大きく吸い込んで
私はあなたを 孕みます

闇に覆われた 螺旋階段
くるりとふた周り半

あなたは青空を身に纏い
chibusaを掴んで 叫ぶでしょう
もがれたキノウに「さよなら!」…と

だからです
へその緒がちぎれるほどに
待ち遠しいのだけれど
totsuki-touka
兆しを心に貼り付けて
私は待つのです

微笑むあなたの
一生ごとひっくるめた明日が
産声をあげる
その瞬間を…です


















荒涼

http://www5.plala.or.jp/natuno/brunette/brunette_top.htm
ナツノ
 

氷の海を渡って吹く風は容赦なく

墨色の樹木たちは ただ目を閉じて寄り添う



のしかかる厚い雲の重さに耐えかね

薄目を開けてみれば

相変わらずに荒涼たる この果ての世界



次に目を開けた時にはきっと

春の兆しを宿した薄日が 雲と空の隙間から

きらり ひと時 氷の粒を照らす

そんな夢を見た気がする



さく さく と 霜柱 踏みつけ
 
誰か歩いてくる音が でも もう目を開けはしない

土中に置き去りにされた記憶が

風のすすりなく声を まだ覚えているだけなのだ



私はもう とうに朽ちてカタチなど ないのだから


















兆し。。

雪柳
 

 
なにげない 会話の中
 
ふと   心が 動いた
 
なぜだろう
 
自分に 問いかける
 
とたんに
 
一人を除いた
 
他の みんなの
 
輪郭が   ぼやける
 
 
 
  これって。。
 
 
 


















一筋の光

ふをひなせ
 

じりじり
むずむず
動き出す
浴びるのではなく
個々から放つ光を
自らつくる希望と呼ぶのなら
もう破らなくてはいけない


















無力な船

http://www.keroyon-44.fha.jp/
陶坂藍
 

熟練の船乗りが
雲や風の
僅かなサインから天候の変化を察知するように
このまま行けばどうなるか
行かなかったらどうなるか
結末の兆しが見えてしまう

彼らは
大きく舵を取り
回避するが
その術を持たない船は
音も立てず
ただ静かに大きな渦へと
飲み込まれていく


















予兆

宮前のん
 

ゆうべ、夢を見た

風がボロボロの布きれを
どこからか運んできて
すぐまたどこかへ運び去ってゆく
焼けこげた大地の上には
昔の姿を想像できない融けた塊が
あちこちに散らばっている
すべては一瞬だった
自ら動くものは何もない

かつてシェルターと呼ばれた箱が
ある地方に埋められているらしい
自家発電機と換気扇を備えた完全循環型で
広さは丁度大型のキャンピングカーほど
辿り着けたのはたった一組の家族
たぶんしばらくは生き延びたのだろう
サージと呼ばれる高圧の熱風が
換気扇から入ってくる直前までは

かつて自分の住む星を
オモチャにした者たちは去り
文明の繁栄と滅亡は繰り返され
それでもそんなちっぽけな事には
おかまいなしに時は回り続ける
雨が降り風が吹いて
日が当たり霜が降りて

朽ちてゆくものたちに混じって
土に還れないプラスチック
意味もなく光るステンレス
朽ちられないものたちは
その孤独を誰かに誇るかのごとく

宇宙の海で独り漂う星は
まるで主を亡くした子犬のように
寂しげに瞬き続けていた

 


















うたのきざし

佐々宝砂
 

かたうたの対のかたうた
何処にありや

うたかたのかたうた逢はで
宵を過ごしつ

 うたかたのかたうたの
 通ひあふことも
 ありやなしや

春萌し君に見せむと
文書きやりつ

文書けど君に送らむ
手立てなくして

 うたかたのかたうたの
 繋ぎ留めむとて
 諸手伸べて

うた萌す君に逢ひ見て
のちの心に

かたうたよかたうたであれ
対を求めよ


















a sign of the times.

http://rikako.vivian.jp/hej+truelove/
芳賀 梨花子
 

剥がれていく
わたしの身体から剥がれ落ちていく
一枚二枚などという単位ではなく
急速に大量に
銀色の鱗が
みっしりと身体を覆って
鱗の内側も密度を保ち
漲る力で水の中を駆けていた
追いすがる色とりどりの魚たちに
踵を返して水面へ
光あふれる生活は
誰の手の中にもあると思っていた
だからわたしはわたしの肌に吸い付く
唇だけを愛していればよかった
無邪気に身体を投げ出していればよかった
それなのに二本の足が生えて
その付け根に何かあることに気づいて
なにもかもが言いなりになってしまった
やがて愛着という奇妙な指が
わたしを支配しようとする
怖いとは思わなかった
むしろその指を求め
わたしの住処はいつの間にか
四角いガラスのなかに
酸素を補給され
水温を適温に保たれている
だから わたしはわたしを眺めている
頬杖をついて
時々細くなった指から餌をやり
水面に浮かんでくるわたしをつついてやる
水槽の底に落としてしまった
白金の指輪は拾わないでいる


















ともしび

赤月ルイ
 

孤独になった者たち
ふたたび
帰ってくる
かえってくる

わずかに残っていた
灯火に
群がる 子ども
子ども、子ども、おとな

見つけられずに
戸惑う者たちの手を引きたいと
若者たちは

死んだ瞳を
輝かせ、はじめる

そのとき

色々なことがあり
色々な日があった
皆に、少しずつ

満ちては引き
生まれては死ぬ
その中で

やはり 生きよう、と
する
共に生きようと
決意する

ふたたび燃え上がる
炎を待って


















淡い季節

http://www001.upp.so-net.ne.jp/satisfaction/
e-came
 

「キミは今、どんな感じ?」


26歳の誕生日に古い8ミリが届きました。

音のない古い映像と
見覚えのある景色と
小さな子供と公園

歩くスピードで走っていた頃
タンポポもシロツメクサも
とても近い
さくらは空から降ってくる
季節外れの雪のよう

淡い 淡い 季節
優しい 優しい 記憶


よちよち歩きの後ろから
そっと差し伸べられた大きな手は
ある日ふといなくなりました。

あの頃
その意味を知るのはまだ早かったんだ

大好きな人と大事なものにサヨナラするとき
人は笑顔になれるということを
大きな手の人は教えてくれました

その意味がどんななのか
今はまだ分からないんだ

ただ
人が微笑むときは
そこに何を含んでいようと
幸せには違いがないんだと
大きくなってみて思うんだ


今、どんな感じ?

「3月から一人暮らしをするよ。
東京で働くんだ。
 そっちは、いいとこなのかな?」


さくらは木の枝で色付いて
淡い 淡い 季節となりました

たんぽぽもシロツメクサも
あの時と同じようにここに咲いている。
























2007.2.15 発行/蘭の会

ダウンロードは
サイトのないのほんだなよりできます

[ご注意]

著作権は作者に帰属する
無断転載お断り
詳細は蘭の会にお問い合わせください

(編集 遠野青嵐・佐々宝砂)
(ページデザイン/CG加工 芳賀梨花子)