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2006年12月例詩集「うつろう」
ホステス  
心照り  
水の底に沈む月  
あいたくてあいたくてしかたがない夜  
初冬 T U  
 とり残されて   
航空便  
うつろうのは  
ガーシュウィンと黒い犬とエラ・フィッツジェラルドと  
一途の美は去ったか  
愛の自由  













ホステス

http://hippy2007.blog61.fc2.com/
yoyo
 

口をきくの上手くなりました
どんなに意地悪な人にでも
あなたを追いかけて
繰り返す流浪の日々
作り笑いさえ上手くなりました
どんなに腹黒い人にでも
あなたを追いかけて
繰り返す人違い
涙もかれはてて

参考:中島みゆき「ルージュ」


















心照り

http://home.h03.itscom.net/gure/eme/
九鬼ゑ女
 

からだが火照る
心が微熱で溢れ出していく
だから…だめよだめだめ
あなたは 絶対あたしのもの
遠くに行っちゃだめ

このままで うつらうつら
そう、ずうっと うつらうつら
なのに時が 愛が 移ろう 移ろう

あたしは浮かれる
だって水底は冷たすぎるから
お願い・・・冷めないでいて
あんなオモイは二度とあたしの明日に
流れてこないでいて

このままで うつらうつら
そう、もうすこし うつらうつら
なのに時が 夢が 移ろう 移ろう

あたしは祈るわ
睫毛が震えるのは誰のせいでもない
たぶん…倖せは手の中に
いっそ火照ったまんまあたしは記憶を 
燃やしちゃおっかな

このままで うつらうつら
そう、もうすこし うつらうつら
たとえ時が 夢が 愛が移ろうと

そう、ずうっとずうっと…心照り
そう、ずうっとずうっと…あなたに


















水の底に沈む月

http://www.asahi-net.or.jp/~sz4y-ogm/
朋田菜花
 


 200年の古都の下には
 6000年の古墳があり
 その下に8000万年の化石層

 切り立った巌も石塊のゴロつくガレ原も姿を消し
 若草たなびく草原さえも永遠の眠りに封じ込めた人々は
 ビル群という新しい岩石砂漠をその上に構築した

 この都市の川にも遠い昔は魚が棲んでいた
 しかし、ゆるく流れる鉛色の水面に
 今も、魚たちは棲息しているのだろうか…
 なかば諦めつつも都市の夜の谷間に下り
 半時以上ただじっと漆黒の水面を見つめていた
 ふと、何の前触れもなく月の光に映し出されながら
 流線型の小さな銀色の躰が
 波を巻き上げはねあがった

 この街の構造は意外にもろく
 まもなく海の底に沈むのだと予言者たちが告げると
 学者たちのあるものは右往左往し狂気の様におびえ
 ある者はあたふたと言い訳しながら海外に移住し
 そして、ある者は見て見ぬふりをしながら
 無関係な昨日までの研究を全うし
 やがて都市と共に水没することを選んだ

 まだほとんどの民は水没することも予告時刻も知らない
 世の中には知らない方が幸せなこともあるのだ

 200年の古都の下には
 6000年の古墳があり
 その下に8000万年の化石層

 切り立った巌も石塊のゴロつくガレ原も姿を消し
 若草たなびく草原さえも永遠の眠りに封じ込めた人々は
 ビル群という新しい岩石砂漠をその上に構築した

 銀色の魚は林立する都市の砂漠の水底に棲息し
 月の光に太古の記憶をたどり天上をめざし飛び上がる
 流線型のしなやかな躰は
 水底に映る月と
 天上に輝く月を往還しようと
 短い生を燃やし尽くす

 この街がほんとうに海の底に沈んだら
 再び会いに来よう
 あのころ愛したこの川の遊歩道も
 湧水池へと続く坂道も
 無表情で見下ろすガラスのビル群も
 海底の楽園になっているかもしれない

 だが
 いちばん美しい物は
 いちばん最初に燃え上がり
 水よりも風よりも早く遠い世界に行ってしまう

 結局のところ
 私の旅は
 失われた物を
 追いかけ続ける旅なのかも知れない

 200年の古都の下には
 6000年の古墳があり
 その下に8000万年の化石層

 だが、そのどこにも属さないで
 遠い旅に出た友の背中を思い出しながら
 月に向かって跳躍する
 銀色のうろこを眺めていた

 水の底に沈む月は
 天上の月より少し歪んで美しく


















あいたくてあいたくてしかたがない夜

NARUKO
 

あいたくてあいたくてしかたがない夜が

それはわたし頭の中だけの

そう、夢かまぼろしだったなら

どんなにかこの胸は静かに安らぐのに



あいたくてあいたくてしかたがない涙が

どうしてもどうしてもとまらなくて

そう、体中の水という水すべてが涙になってしまえば

おだやかに夜の中で眠れるのに



そのぬくもりが

嘘であったら

わたしはきえてしまうのだけれど

その儚さの前にも

この胸騒ぎは

止まることを知らずに暴れまわる



あいたくてあいたくてしかたがない夜が

それは今夜眠ってしまえば忘れてしまうほどの

そう、ちいさな想いならば

明日は

霞んでしまうのかもしれない


















初冬 T U

http://www5.plala.or.jp/natuno/brunette/brunette_top.htm
ナツノ
 

T

ぽろぽろと
しろいばらが散る
静かな雨の明け方に

朝もやの中からやってくる
新聞配達の低いバイクの音

彼の背中に
ひらり
ひとひら舞い落ちた
はなびらは

思いをとげて
そうっと遠い旅に出る


U

手の中の貝を
ぽとんと水面に落とせば

ぷくぷくと 
小さな泡をつぶやきにかえて
しずんでゆく

水底に着いたら 連絡をください
そちらのようすも 聞かせてください

時々は
夢であいましょうね


















 とり残されて 

雪柳
 

 
私は いったい
  どれくらいのときを
     こうしていたのだろう
 
吹きぬける風の
  冷たさに 襟をすぼめて
     周りを みまわした
 
 ―景色は すっかり冬―
 
紅葉に彩られ
  美しかった 街路樹も
    はだかんぼうで 並んでいる
 
あれほど 高みにいた空は
  手が届きそうなほど
    低く 低く 下りてきている
 
 ―気づかなかった―
 
足元しか見てなくて
  内なる想いに 囚われて
    景色など 見ようとしなかった
 
自分の事しか 見ていなかった
  ときは 驚くような速さで
    私の上を 素通りしていった
  
 
―移ろうときに とり残されてしまった―
 
 
 


















航空便

宮前のん
 

夜中にね
パソコンに向かって
あなた宛のメール書いてる
すると決まって
左耳の奥で
耳鳴りが始まるんです
キぃいいいいいいいいいいいいいいいいんんんんん
って
最初は飛行機が
頭の上飛ぶみたいに大きくて
そのうち少しずつ
少しずつ小さくなって
最後の方になると
もう
かなり耳を凝らさないと
聞こえなくなって
あれ、
どうして耳凝らして
聞いちゃってるんだろうって
不思議
でも
あなたを乗せた飛行機が
段々と空の向こう側に消えていくのを
飛行場の展望台から
目で追いかけて
眺めているみたいに
ずっと
いつまでも
いつまでも


そうすると
いつの間にか
メールの送信ボタンが
押されてたりする



 


















うつろうのは

佐々宝砂
 

うつろうのは
日々ではなくて
景色ではなくて
ええ
季節ですらなくて

しめやかな霧は
山を優しくくるみ
冬のはじめの風は
春のはじめの風に似て

うつろうのは
心ではなくて
人々ではなくて
ええ
時代ですらなくて

頭上のプレアデスは
望遠鏡で長時間露出しなきゃ
コバルトブルーに見えないけど
わたしという現象は
長時間露出不可

だって
うつろうのは時ではなく
うつろうのは
わたし


















ガーシュウィンと黒い犬とエラ・フィッツジェラルドと

http://rikako.vivian.jp/hej+truelove/
芳賀 梨花子
 


ラプソディー・イン・ブルー
あんまり好きじゃないわ
もっと淋しい歌がいい
でも今年はいまいち寒くならないね
と言いながら
ブランケットを膝にかけ
ストーブに手をかざし
傍らに黒い犬が眠る
海辺のバール
カプチーノ
それともシチリアのレモンで
紅茶をゆっくり飲みましょうか
パネトーネを切り分けてあげるわ
もうすぐクリスマスね
大晦日は終夜営業しようかしら
江ノ電は夜通し人を乗せているから
ママの話を聞きながら
やっぱりスパイシーなホットワインをいただこう
水平線と空の境界線がうつろっていく
午前から午後にかけて

とうとう落ちてきた空が
人波をかきたてる夕方に
裏駅のロータリーで
手をふる息子を車に乗せた
背丈が伸びて
少し大人びてきた息子の
お友達の話
お勉強の話
聞きながらお夕食のテーブルを想う
いつのまにか落葉し始めた黄色い銀杏
山門に覆いかぶさる紅葉
寿福寺のあたりで観光客の傘の群を
すり抜けていく私と私の時間は
やけに素早く抒情的とは言い難い

それなのにエラ・フィッツジェラルド
なんて美しい名前
私はフィッツジェラルドと毎晩唱える
羊の数を数えるように
千回ぐらい唱えたら
どうか眠れますように
双子座流星群が降り注いでいるとしても
雨雲に遮られているのだから
12月14日を私は確かに生き抜いたのだから
例え桟にたまった埃のように
ひっそりとしたものであっても
一握の砂であっても
それはそれでいいのではないか
私は眠ろう
静かな雨音が時計の針を進め
少しづつ抒情に流されていく私を
享受してくれるガーシュウィンと
黒い犬の寝息と
私は眠ろう


















一途の美は去ったか

http://tohsetsu-web.cocolog-nifty.com/shine_and_shadow/
伊藤透雪
 

日の移ろいの何と早きことよ
うずくまって泣いている間に
日は昇り落ちていく

人の心の何と移ろいやすいことよ
一途に思いつづける人の思いの強さから
逃げ去る人の多きこと まこと 嘆かわしきこと

今を追いかける事も必要なときはある
心を傷つける過去を封印するために

しかし何故・・・人は
慣れ親しむと
言葉のもつ力を忘れるのだろう
優しい力だけでなく
心を引き裂き
膿み続ける傷を与える言葉もあることを
忘れてしまうのだろう

一途に一人の人を思いつづけることの
美しきを
煩わしと思う人の増えたことに
私は全身で泣く
たれの胸に依りかかるでもなく
私はわたしの胸で泣く


















愛の自由

赤月るい
 

決意しなくとも 移ろいゆく季節は
また僕に
君の頬に流れる涙を 突きつけるのか 

さくらの下
晴れた明日が約束されていたころは
平坦だったけれど 幸せだったよ

僕らは 
地図のない道を歩きはじめた
これから
手もつなげずに 歩いてゆくんだね

風が寂しいよ
君の黒く澄んだ瞳は 嘘を許さないから

心のざわつきが 花びらを舞わせ 
道の隅へと追いやり
寄り集まろうとしている

凍えぬよう
群がっても温まらない 
木を離れた花びら

みな去ってゆき
同じものは 
移ろいとともに
二度と手に取ることはできない

知りながら
大木の強さを 見上げ 
平然と見過ごせる強さを―

声が 喉が切れそうだ

こらえきれず 
独りじゃない、と
胸をしめつける想い

冷たい風に 飛ばされぬよう
君が旅立つのだ
僕も 
自由にならなければ
僕の中の 君の旅立ちのために























2006.12.15 発行/蘭の会

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(編集 遠野青嵐・佐々宝砂)
(ページデザイン/CG加工 芳賀梨花子)