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月例詩集「なゆた 四集」
純恋歌  
       竦む             / すくむ   
蝋人形の街  
人になつかない一匹の青い魚  
風のまちで  
夕焼け  
水の輪  
風を 感じて  
さみしい  
ぽつり  
ベランダにて  
迷子  
ゴミのない国で リターンズ  
Nobember Tales.  
名残りうた  
母のない子は居ない  
法則  













純恋歌

http://hippy2007.blog61.fc2.com/
yoyo
 

愛してるだなんて
口にだして言えない
猫のように
丸まってしらりす
存在の価値など
あなたなしでは
今はもう癒えない
そうだまって
落ち葉の中を
踏みしめていくように
空が近いだろうけど
あたしの前に
沈んでく太陽は
西日がさしている
金色の銀杏が
実を落とすとき
誰かに抱きしめられ
本当の愉をかみしめる



















       竦む             / すくむ

http://home.h03.itscom.net/gure/eme/
九鬼ゑ女
 

少女は
じっと、気配が通り過ぎるのを遣り過ごしているようでした。
そして、
時間の重なりがないのを確かめると
僕の目の前で
カラダを竦めました。

どくっ、どくっ、と
鼓動が高鳴って
言葉という言葉を
時空に閉じ込めたまま
次の場面へと僕の心音を送り込むものですから

逢ってはいけない人。逢うべきではなかった瞬間。
そう思い込まされたのは…どっち?

時代のイケニエとされるには
あまりに無防備で
あまりに無邪気で

僕の咽喉元で押し殺した想いは
剥がされたむきだしの少女のこころだけを
玩ぶつもりもないのに
猫なで声でこっちだよと誘いにかかり

嗚咽を漏らしているのは、 たぶん
裏切られた少女のカラダたちでしょう。

抗うこともできずに
間引かれていく現実          / いま
それを見送ることは
とても、カナシイコト?



いいえ。

身を尽くしてこそ
いとしさは募るものです。
辱められてこそ
この眼は懇願するのです。
だから

今日も少女は
立ち竦んだまま
時の衒いを           / てらい
一身に受け止めて  


あのまなざしを僕に向けるのです。




















蝋人形の街

http://cpm.egoism.jp.
柚木はみか
 

歪んだ清潔感
不快な周波数
踊る踊るおどるこの狭苦しい街で

今日もざわめきの中に
甲高い叫び声と
助けを呼ぶような喘ぎ声が聞こえる

誰も何も言わない
蝋人形の街
動かない動かない
そこに立って生きてるつもり

そうやって今が過ぎる
ああこうやって人は死んでいく
そうやって蝋人形は
ああ火もなくとも死んでいける


捩れた正義感
埋もれた不発弾
踊る踊るおどるこの狭苦しい街で

たくさんの足音の中に
誰かが誰かを呼ぶ
血が血を呼ぶようなお祭囃子が ああ

誰も何も知らない
蝋人形の街
狂ったみたいに
そこに立って生きてくつもり

そうやって今が過ぎて
ああこうやって今が死んでいく
そうやって蝋人形は
ああ主を捜して死んでいく

そうやって今が過ぎる
ああこうやって人は死んでいく
そうやって蝋人形は
ああ火もなくとも死んでいける



















人になつかない一匹の青い魚

http://www.asahi-net.or.jp/~sz4y-ogm/
朋田菜花
 


私はおまえに毎日話しかけ

毎日餌を与え

時折、水槽をていねいに洗い

水を換え、水草を入れ替えてやる



おまえは私が水面に向かって話しかけると

時々は飛び跳ねて餌をねだり

時々は口を開けて私の真似をするが

寒い日は水底に身を横たえたままだね



広辞苑一冊分ぐらいの小さな水槽だけが

おまえの棲家だから

私のあとをついてまわりたくても

できないことぐらいわかっているさ



だからせめて

会えたときぐらい挨拶を交わさないかい

金魚やメダカにはそんな芸当できないことぐらい知ってるさ

おまいさんだから言うんだよ



3日もほとんど家を空けて出掛けていてごめんよ

毎日連れて歩けばよかったのかい

そばにずっと居ることだけが愛情なのかい

おまえがもしそう思っているならそれはお門(かど)違いさ



毎日お前がどんな風に生きていたか

短い交信のひとときの中で見つめている

そこから一日元気だったのか

それとも少し具合が悪いのか

今何が必要なのか

私にできることはなにか

するべきことを探している

お前と私自身のために 

お前を生み出したこの世界と世界自身のために



確かにエラは動きときどき尾鰭も動いているから

生きていることだけはわかるけれど

お前がここに確かに生きていると

ほかの誰でもない私にもう一度示してくれないかい



太陽の陽射しが少し少なくなってきている

だから私は少しだけ魂のボリュームをあげたいだけさ

太陽の国で生まれたお前のために

青空よりも海よりも 青く輝くお前自身のために



















風のまちで

丘梨衣菜
 

風が強い
僕は何かに負けそうだ
いつだってそうだ

風が冷たい
僕は何かに負けそうだ
理由なんてない
いつだってそうだ

風がさらっていく
僕は何かに負けそうだ
あなたが流した涙だって
きれいなピンク色
いつだってそうだ

風が吹き抜ける
僕は何かに負けそうだ
感情のまま正直に吐く
間違ったこと言ってない
彼の心は傷ついた
いつだってそうだ

悪者は僕だ

風になりたい
僕は何かに負けそうだ
悪口なんて笑いとばす
正義は我にあり
自信満々で鼻さえ伸びる
夢のような出来事
いつだってそうだ

結局は道化だ

僕は何かに負けそうだ
いつも
何かに負けそうなんだ

風が看板を吹き飛ばす
頭に当たって
死んだらどうしよう?

いつだって怯えながら
生まれないまちを歩く
見知らぬ顔ばかり
すれ違う

みんな僕に話しかけない



















夕焼け

NARUKO
 

空が真っ赤な夕焼けに染まっているから

さようなら

また明日

手を振るわたし

手を振るあなた





ほっぺたが真っ赤になる

つめの先も真っ赤になってく

だからほら

大きな瞳も真っ赤になってゆくけれど

大好きだから

泣かないよ





空が真っ赤な夕焼けに染まっているから

さようなら

また明日

手を振るわたし

手を振り返すあなた





振り返らないで

まっすぐ歩いていてね

影も真っ赤になって

くっついて歩いているよ





さようなら

また明日

手を振り続けるわたし

大好きなあなたに



















水の輪

http://www5.plala.or.jp/natuno/brunette/brunette_top.htm
ナツノ
 

 左の薬指が痛い。ひたひたと、心にさざ波寄せるたび、いろいろな理由を探しては自分を慰めてきたが、もう自分の言葉に耳を貸すのに疲れ果てた。

 午後三時。黄ばんだ木綿のソファに横たわる、世界中の誰からも忘れ去られた漂流者。いつの間にか板張りの床が水をたたえている。ソファにうつ伏せそっと手を浸せば月の輪郭のような水の輪が、幾重にも静かにどこまでもあとを追い広がる。

 片腕で水を軽くかけばソファはすい、と霧の中へ漕ぎ出す。柳の枝が揺れている。薄もやのかかる方向から吹いてくる微風は眠りをさそう甘い香り。ゆらりゆらり水面を揺れてさまようだけで、目的地はわからない。

 目が覚めるとやはり薬指は痛かった。夢ではない。老医は首をひねる。昔、バレーボールでくじいた事はありませんか。見当違いの問いかけだった。あの水の輪が広がり、今度は輪の淵はパチリとはじけて消えてしまった。言葉を捜しうつむく。老医はしびれをきらしたように、まぁ今は如何ともし難い、様子を見ましょうとメガネに手をやる。

 …もっと新式の技術のある新しい整形外科を選べばよかった。後悔しつつ会計を待っていると、お手洗と書かれたドアの奥に、ちらりと階段がみえた。立ち入り禁止と書いたボール紙がぶら下がっている。ひと足ふた足近づくと、薄暗い階段は途中から螺旋形にカーブしているようだ。色つきの影が映っていた気がしてもう一度覗き込むと、夕方の弱い光が差し込み、すすけた埃が舞う壁の高いところに大きくて古いステンドグラスが見えた。

 こちら側が駐車場に面していたなら目に入っていたはずだが記憶にない。表側から見るステンドグラスは、あまり存在感がないのだろうか。幼い頃、読んだ異国の教会の話にもこんなのがあったと思う。確か白い魔女と黒い魔女が出てくる絵本。支払いしながらぼんやりとほの暗いその空間のことを考えていると、化粧のきれいな老いた看護婦が察したように「昔そちらは入院棟だったの」と優しく教えてくれた。

 駐車場には三色の矢車草があふれるように植えられていた。ステンドグラスのむこうにある異国の教会にも咲いていたろうか。花の色は、あいまいで懐かしい、記憶の底に流れているような青、透き通る薄紫、そしてベビーピンクたち。妖精の格好をして踊っているかもしれない。あのもやのかかった柳の水路のむこうで?いやいやそれは考えすぎだろう。しかしお昼過ぎにソファの上で柳を揺らしていた、あの甘い香りが鼻先によみがえり、車のキーを差し込むまでの間、胸には安らぎの感覚が溢れていた。そういえばしばらく左の薬指の痛みも忘れていた。

 そうだ、自分に言い聞かせる。指の痛みなど初めから気のせいだったのかもしれない。矢車草達は、左折して走り出す車のほうを黙って眺めながらあどけなく夕方の風に揺れている。



















風を 感じて

雪柳
 


  
吹き抜ける 一陣の風
 さわやかに 心くすぐり
 温かな 想い呼び起こす
心地良い 笑顔の時を 運んでくる
  
 
吹き抜ける 風は貴女
 私の心の琴線を爪弾いて
 至福の時の 案内人となった
私は 貴女の奏でる夢の虜
 
 
貴女は風だから
 留めておくのは無理なこと
 解ってはいるのだけれど
願わずには いられない
 
 
いつまでも
  貴女を感じていたい。。。と
 
 
 



















さみしい

汐見ハル
 

さみしい、とおもった
このきもちは
ほんとうの
ほんとうに
さみしい、という
きもちなのだろうか
わたしのきもちは
わたしだけのものなのに
さみしい、ということばで
わたしのこのこころは
ほかのなんぜんなんまん
もっとそれいじょうのひとたちの
さみしい、というきもちと
かさなったり
つながったり
してしまうのかな
ひとつとして
おなじ
さみしい、は
ないはずなのに

さみしい、ということばで
たりなければ
もっとたくさんのことばを
つくして
きもちにかたちを
あたえて
わたしはだれかに
つたえようとしてしまう
かたぬきみたいに
はみだしてしまうなにかを
しらないふりして
そうしないと
だれともきもちがつながれないのかな
ことばはきもちをつたえるためにあるって
おとなたちはいった
だけど
わたしのいまの
さみしい、は
まちがってないけど
ぜんぶだけど
ぜんぶじゃなくって
そのことをどうやってつたえたらいい?
つたえきれなくて、なお
つたえたがってあばれだしそうな
おくびょうな
さみしい、に
おさまりきらない
さみしさ

こころごと
だれかの
きみのこころに
かさなって
とけてしまえたら
そしたら
わたしのさかいめは
どうなるのかな

さみしい

きみのまえで
つぶやけば
わたしはきっと
きみをさみしくさせてしまう


きみのてのひら
あたたかい


ごめんね



















ぽつり

ふをひなせ
 

ぽつり
石を穿つ滴
雲の粒
時の流砂
星屑
塵芥
ぽつり
私が
立っている



















ベランダにて

http://www.keroyon-44.fha.jp/
陶坂藍
 

さっきまで
海のほうへと流れていた紫煙が
風に押し戻され
今はもう背中へ

君をおもう時
私はいつも
小さな女の子になる
どんな些細なことでも
いちいち悲しい

その涙を
大人の私がハンカチで拭いてやる
泣きたいのはこっちだというのに



















迷子

宮前のん
 

病院のレントゲン室で、放射線よけの鉛エプロンを腰に付けて、人間ドックの胃透視検査を受けていると、急に私の鎖骨の下から、怜子さんが出てきたので、私は鉛エプロンを付けたまま、オカッパの少女になって、ピンク色のポシェットを持って、怜子さんと一緒にデパートへ出かけ、地下鉄の入り口を下りる時、いつの間にか怜子さんは、私が一緒に居るのを忘れてしまい、路線図を食い入るように見つめながら、どんどんどんどん大人の足で、先へ先へと歩いて行くので、人の谷間に今にも見えなくなろうとする、怜子さんの黄色いワンピースの背中を、怜子さんの白いサンダルの踵を、今見失えば二度と会えないのだ、そう思い、鉛エプロンを引き摺りながら、ポシェットを抱きしめながら、本当に本当に必死で追いかけ、ようやくデパートの入り口で、怜子さんの、中に入ろうとする怜子さんの袖口を、噛み付くようにガッと捕まえた時、涙がボロボロあふれ、振り返った怜子さんは、まるで私の存在に初めて気が付いたように、大きく大きく目を見開いて、


あの時の、あなたの表情が、
今でも忘れられません。



















ゴミのない国で リターンズ

http://www2u.biglobe.ne.jp/~sasah/
佐々宝砂
 

捨てたつもりはなかったのです
だってこの国にゴミはないのですから
ええ だから 捨てたつもりは全然なかったのです

あのひとの影を いえ あのひとへの愛を
私はあのひとが残していった家にきちんとしまっておきました
あのひとの家は私たちがかつて住んでいたあの暗い国でなら
きっと瓦礫とか廃墟とか呼ばれたものでできていましたが
私はあのひとの家が好きでした
背をあずけると脆くなったコンクリ壁が崩れて私の髪を白くしました
その埃っぽさがどうしてもあのひとに似ていました
私は何時間でもあのひとの家にすわっていました
ときどき風が吹くとどこからか破れた雑誌が飛ばされてきて
私の頬に貼りつきました
すわり疲れて立ち上がると
裸足のあしうらにたくさん棘が刺さりました
長いことすわったままだったおしりには
半ば溶けたカレンダーの花畑の写真が貼りついていました

私はそうしたことみんなが大好きなのです
ゴミのないこの国が好きなのです

だのに
突然

ああ どうか お願いです
そんな無体な命令を突きつけないで下さい
そんな恐ろしいことは二度と言わないで下さい
あの愛は終わったのです
とろけた白菜の外皮をてのひらにとって
優しくお互いの頬を愛撫した夜は終わったのです
それはわかっています
でも
終わってなおあの愛はやっぱりゴミではなくて
あのひとの家のなか大切にしまわれてあったのです
終わった愛ほどに甘美で苦く酸っぱいものがこの世にあるでしょうか
いいえ 本当に捨てたつもりはないのです

これほどお願いしてもだめなのですか
理不尽なリサイクル命令は撤回されないのですか
あのひとへの愛はもうここから消えてしまうのですか
リサイクルされるものは
すなわち不要なもの
もうあのひとへの愛は不要だというのですか

涙を流しながら私は
からからに乾涸らびて軽くなった自分に気づきます
愛おしい腐った野菜の日々はすでに遠く
乾いて清潔な私は早晩この国にいられなくなるでしょう
私も不要となるでしょう
煉獄の炎にリサイクルされる
あのひとのように
あのひとへの愛のように



















Nobember Tales.

http://rikako.vivian.jp/hej+truelove/
芳賀 梨花子
 

「ロビン・グッドフェローを探せ」


悪を憎む男
ロビン・グッドフェローを探せ
晩秋の森の奥深くに隠れている
弓の使い手を探せ
見えない未来とさかさまな世の中
逆転の力学を背負って迷って
時々、煙草を吸う
ロビン・グットフェローは貴方ですか



「ダンティエンヌの悩みごと」


与えられたものでは満足できない
ダンティエンヌはお馬鹿さん
時計の針がカチコチと
絶望的な時間が近づいていく
口紅を塗ってはぬぐって
香水瓶をいくつもならべて
果物も食べなくなって
穀物を憎んで
動物は殺さないと誓う
ダンティエンヌの行為に意味を見出そうとしても
無駄なこと
魔法を使えないダンティエンヌ
鏡に映っているのは誰ですか



「射抜かれた林檎の相対性理論」


死ぬということも
生きるということも
旅をしているということだろう
貴方とともに



「死骸のように疲れ果てるまで
探求するということについて」


感じることのできる器官をすべて使い
まるで死骸のようになるまで
お互いのなにかを探り求める夜の
明けていくさまを愛というのなら
確かにここに愛が存在するのでしょう
落葉樹の森の腐葉土を貴方がめくり
露になる私という女の不幸を
ひとつひとつ打ち消していく夜が
ああと声を上げることの素晴らしさが
罪というのならば
私は罪人でかまわない



「白樺の林を猛スピードで駆け抜けていく想いと
突然、広がる荒野に戸惑う馬の」


愛している愛していると叫びながら
脇腹を蹴る拍車が
息遣いとなり
早馬が飛び
魂が駆け抜ける
丘を越え林をぬけて
貴方に魂を捧げ尽くして
私の身体は
ついに荒野に放たれた
悲しみの伝令が響き渡る荒野へと
その日から
私はリュタンの姿を借りたシュラート
悲しみがなにかさえ忘れ
もはや叫ぶものでしかなく
呼ぶものでしかなく



「魚達が深い海に愛を求めるように」


静かに眠ることができるのなら



「手紙というものは
常套句が虫のように這いずり回っているものだ」


さようなら
なんて悲しい言葉
とても伝えられない
でも、伝えないといけない

さようなら
どんな言葉で飾りましょうか
金の言葉
銀の言葉

それとも
この斧で私を殺しますか

いっそ、そうしてただけるのなら
と書き添えておきましょう



「夕刻、鳥達が西の空を目指して羽ばたくように」


もしかしたら私という鳥は群から外れて
どこかで羽を休めたいと思っているだけなのでしょうか



「あひるのように暮らせない私と貴方の為の星占術」


南半球を旅して
南十字星を見ない人は
近くのものを望遠鏡で見ているのと同じ
そんな人になにも言うことはないけれど
なにかを信じるということは
悪いことではないと思うよ
だからといって
簡単に騙されるほうも悪いの
ほら、赤い星がひとつ
もうすぐ明日に消えていく
貴方にはあって
私は失うかもしれない
明日
もしも明日が血潮となって
私の中をめぐるのならば
なにもかもを浄化して
貴方のために星になるだろう
そして貴方は泣くだろう
だから私は何も話せずに
阿古屋貝のように小さな粒を秘めて
育てていく
やがて貴方のてのひらで
ころんと丸くなって
しばらくしたら眠くなって
瞼を閉じることもしないで
息をしなくなってしまったら
やはり貴方は泣くだろう



「礼儀正しいルイのように」


いつでも礼儀正しいルイは
意外に残酷で
容赦なく短剣で心臓を一突きするんだって
それでは別れの言葉を聞くことができないよ
だから
いつでも礼儀正しいルイのように
お別れの挨拶はしないでおこう



「物語の終わりに待っているものの行方を知ろう」


湖に沈んでいく終止符
舞い散る木の葉のように
11月の恋人よ
また歌をうたって

ロビン・グッドフェローは緑の服
ダンティエンヌはお馬鹿さん
シュラートは理由を忘れ
悲しみの伝令は果てしなく続く

ロビン・グッドフェローは悪を憎む
ダンティエンヌは家に棲む
シュラートは理由を忘れ
悲しみの伝令は果てしなく続く



「幻想と愛情の花咲く野へ続く季節は今この時であること」


秋だから
春はまだ遠い

11月の恋人よ
冬を生き抜きたまえ

君は11月を生きるのだ









参考文献:妖精図鑑 海と草原の精 
     妖精図鑑 森と大地の精 

     ピエール・デュボア著 文渓堂



















名残りうた

http://tohsetsu-web.cocolog-nifty.com/shine_and_shadow/
伊藤透雪
 

あなたは確かにそこにいて
わたしはあなたを追いかけた
ただそれだけのこと―――


曲(うた)が好きになるか嫌いになるかなんて
自分勝手なエピソードにはめてしまうだけのこと
曲(うた)に罪はない
ただ うつくしい波をたてて流れていくだけ

あしたはあるかどうかなんて
誰も疑いやしないのに
朝(あした)の不安をかかえるわたしは
何かにすがりたかったのかもしれない

行かないで
行かないで
わたしの恋心
わたしをひとりぼっちにしないで
あなたの曲(うた)がこころを満たしたとき
確かに聞こえたのよ
僕には 君が必要だって・・・

なのにあなたは行ってしまった
わたしのこころを切り裂く無言のまま

波調がもたらす幻にこころ奪われ
己のこころを投影してしまった、
多くは思いこみなのだと気がつくまでに
私は何日も何日も 自問し
心の闇に涙を落とした
そうしてようやくあなたのこころを知るなんて
ばかだね

でも 役に立ちたい、という真心は
本物だったんだよ
それだけが私の恋の名残り
こころにそっとしまいこんで
鍵をかけた優しい思い出



















母のない子は居ない

赤月るい
 

捨てられた街は
おまえが捨てたのだ、と 地響きで伝える

私たちが忘れた 
大地の匂い 感触がよみがえる 
機械に慣らされてしまった 
肉体 鈍った感覚

生かされていることも 
人を 自分を信じることも 
私たちはいつの日か 
無機質な物体の間で 操られ、忘れてしまったのだ
 
大地と 自然と 切り離されたせいで 
生きている実感がなくなり
それを
人間の関係性の中に見いだそうとして 
ますます不安になり 疑心暗鬼 

孤独にならなければ 
自分、を守れないかのように 

私たちは
子供同士が責任を擦り付けあうかのように 
お互いに意味を欲求し  
もたれかかり行き場をなくす
期待に満たないと相手を責め 
恨み憎み 心の扉を閉めてしまう

そうではなくて 
私たちはみな 
大地に、生かされているのだ
この広い大地に

私たちはみな、子供なのだ 
安心してこの大地に 
生かされれば、いいのだ

天が光も雨も、与えてくれる
天という父 大地という母がいる

だから みな孤独ではない
母のない子は ひとりも居ない

どんな夜にも 天はある
どんなに沈んでも
大きく受け止めてくれる大地があるのだから



















法則

http://www001.upp.so-net.ne.jp/satisfaction/
e-came
 

日曜の朝とコーヒー

窓枠とキミ

車窓と腕時計

助手席とキミ

寒い朝の東の空と朝焼け

左後ろとキミ

別れ際の西の空と夕陽

空き地に隠された宝物

ふと見上げた夜空と三日月

天使と笑顔

約束と安堵

戻れない日々と戻したい時間

鈴の音と反射神経

ミスチルとレミオロメン

聞きたくない言葉とありがとう

さよならを言えないキミと
さよならしか言えないボク

また今年も ひとしく 冬の支度

























2006.11.15 発行/蘭の会

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(編集 遠野青嵐・佐々宝砂)
(ページデザイン/CG加工 芳賀梨花子)