蘭の会2006年4月詩集「たんぽぽ」 (c)蘭の会 AllrightsReserved









蒲公英  
片恋  
ダンデリオン〜蒲公英の精霊〜  
たんぽぽ  
  
たんぽぽ  
空中遊泳  
震顫  
昔、横堀さんというおじいさんと  
はじめまして。  
かなしみの上に咲く花。  
微熱の頃  

























蒲公英

yoyo
 

黒船から何年たったのであろう
侵食は黄色の雑草まで進んでいるじゃないか
国境のない地球はすなわち生態系の崩壊
幼い頃もう既に在来種は数を減らし
ダンデライオンとやらが地方では咲いている



弟と友達と自転車で近所の池に行けば
竹ひごに蛸糸つけてあたりめで釣るザリガニ
なかなかひっかからないけれどあげられるのは
それもビックなまっかちん
あのひ弱そうな奴らは消えていってしまっていた



人間もみんな混ざって混ざって
そのうちブラックバスのように正当化されて
動物との交配が行われるのさ
牛の顔に人間の体のミノタウルス
神話がもとだからってどこぞの国が人体実験


イランの濃縮ウラン製造成功
イラクやクルドやイスラエルの自爆テロよりも
非人為的な動きが脈々と蠢いている
それも密かに蠢き続けているその瞬間に
落下傘になった花は爆撃をはじめた

   


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片恋

http://home.h03.itscom.net/gure/eme/
九鬼ゑ女
 

どこまでも広がる群青の空
お日様が 眩しいね
ようやっとわたくしの元に
たどり着いたというのに
黄金色に輝く花たちよ
どうしてそんなにざわめくの?

幾重にも想いを重ねた花びらを
意味もなくわたくしは もぐ

スキ キライ スキ キライ
 
いっとう終わり
心震わすわたくしに
優しい笑顔をくれたのは
そうよ、あなた
あなたがくれた ひとひらのスキ を
火照る頬に当ててみる

あれから毎日花占い
いつのまに
わたくしの心にも
幾重にも恋が重なって

なのに季節は意地悪く
時化た風だけを運んでくるの

とうとう花は朽ち逝きて
忘れ形見だけを置いていく
それはふわふわの真っ白な
生まれたての 綿毛たち

ふうっと飛ばしたら
心ごと小さな種を連れたまま
空の果て
わたくしの見えない所に 飛んでった

だけどそれでもまだ想う
あいたいよ あいたいよ あいたいよ

   


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ダンデリオン〜蒲公英の精霊〜

落合朱美
 


川縁の土手に根を生やした蒲公英たちは
うららかな春の陽射しを浴びて
いっせいに背を伸ばす


夏になったら向日葵になるの


ダンデリオンが通りかかると
みんなで声をそろえて問いかける


ねえ、
あたしたちはいつ向日葵になれるの


ダンデリオンはクスリと笑って
遠くの空を指さした


君たちは向日葵にはなれないよ
だって君たちはお日さまの落とし子
やがてはあそこへ還るんだ


蒲公英たちはいちだんと背伸びをして
ダンデリオンの指さす空を見上げるが
まだあどけない花たちには
お日さまの光は眩しすぎて
誰もその姿を捉えることはできなかった

川縁の土手に咲いた蒲公英たちは
やがて白い綿毛に生まれ変わる

ダンデリオンがパチンと指を鳴らすと
南から優しい風がやって来て
蒲公英たちはふわりと風に乗って
遠い空へと昇りはじめる


お日さまへ還るんだ
   お日さまへ還るんだわ


無数の声が煌めく川面に木霊する

   


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たんぽぽ

http://www5.plala.or.jp/natuno/brunette/brunette_top.htm
ナツノ
 

存在した時間を正確に記憶する
地下監視カメラ
モノクロームの映像

帽子など 縁がない
なぜ あの店に入ったのだろう
彼女は笑顔で
熱心に たんぽぽ色の帽子をすすめた

決心がつかず
何度もかぶりなおした末
私が首を振り 帽子を手渡した時も
春のように にこやかで優しかった

本当は彼女は失望したのではないか
あの時 帽子を買っていれば

彼女を喜ばせたい
帽子を買いに来た理由はそれだけだ
もう一度 笑って欲しかった

私のために 

4月を迎えた地上では 太陽がまぶしく射し
心おどらせる初夏の風は
地下街にも流れ込む

帽子を選ぶ人で賑う店に
彼女はいなかった
並んだ商品の間をしばらく探したが
仕方なく
帽子を手に取り 鏡の前に立つ

たんぽぽ色の帽子を握りしめた私
時代遅れのスプリングコートに
化粧っけのないひっつめ髪

そうだ彼女は
もうとっくに忘れている
数日前の 行きずりの客の事など

よくよく考えれば当たり前
きっと今日は休日で
彼氏とテーブルを挟んで 微笑んで

帰ろう 
午後の地下鉄コンコース

思い直して立ち止まり
たんぽぽ色の帽子をかぶってみたが
人波は黙って流れ続けるだけ

モノクロームの帽子が
警備室のモニターに映る
警備員はあくび顔で携帯メール

   


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http://yaplog.jp/yukarisz/
鈴川夕伽莉
 


首が折れやすいのは
滴るミルクで
うまれて捨てられた仔猫の
喉を潤すため

糸を引くよな生臭い
たんぽぽの汁は
それでも仔猫たちに
いきているということを分からせる

ごめんなさいね
本物の
母乳は出ないのよ

束の間で命の空へと還る
仔猫の死骸にたんぽぽの
涙が光っている
誰も気が付かない
誰も助けない
誰も動かさない
沢山の
死骸が朽ちてしまえば

たんぽぽは丈夫な根から
かつて仔猫であった養分を吸い上げる
自らの罪深さにおそれおののいて
立ち去れない事実を苦しい口実に
今年も群生するのよ

   


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たんぽぽ

http://www.keroyon-44.fha.jp/
陶坂藍
 

この道を
ただまっすぐに歩きたい
ただそれだけなのにどうしてとうつむく私に
足元のたんぽぽは
からりと笑う

とても力強く

   


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空中遊泳

宮前のん
 

ある日タンポポが綿毛をかざして
ふうわりと浮かぶのに出くわしたので
どこに行くのか知りたくなって
私も空に浮かびはじめる

地面から1フィート浮いたところで
お母さんが家から走り出てきて
私のお気に入りのパジャマの袖を
両手でぎゅっと握り込む
それから2フィート浮いたところで
普段は無口なお父さんが出てきて
上着の裾をクンと掴む
さらに3フィート浮いたところで
東京のお兄ちゃんが帰ってきて
私のズボンの端っこをつまむ
4フィート目には幼なじみが
それから少しずつ浮き上がるたんびに
親戚のおばちゃんや
魚屋の兄さんや
中学の同級生や
どんどんどんどんぶら下がって
3000フィートに達した時には
一番下が誰かさえ知れず

ゆらゆらと地面から離れない私は
泣きたくなってベソをかき
長く連なる人々の群れを
一番上から見下ろしていたけど
とうとうパジャマごと脱ぎ捨てて
タンポポと一緒に飛んで行ってしまった


 

   


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震顫

http://www2u.biglobe.ne.jp/~sasah/ringblog/blog.cgi
佐々宝砂
 

明るい朝の日差しのなかで。
痙攣する手が手渡そうとする綿毛のたんぽぽ。
飛び立ってゆく綿毛、綿毛、
白いこどもたち。


白いのは綿毛ではなく世界ではなく私の視界でありより正しく言うならば
私の視界が白いのではなく私の視床下部が過熱しているため他の脳機能が
一時的に麻痺していてだから視界が真っ白になっているのだとその時点で
認識できるはずもなくただひたすらに白く。

最初に気づいたのは手の振戦で動いてるときは何ともなかったのが静かに
抱き合っていると両手が小刻みに震え特に左側が震えてなに震えてんのと
訊いたら俺は昔からよく震えるんだチワワみたいで可愛いだろと言うので
ううん可愛くない怖いよと言いながら顔を見つめるといやに無表情でそう
いえばこのひとはいつも無表情なのだ本人に言わせると無表情じゃなくて
クールなんだそうだけどそれって言い訳じゃないかなと思うのは無表情を
専門用語で言えば仮面様顔貌または全身の状態で言うなら無動ないし寡動
それはあの病気の症状の一つだと私が気づいてしまったからででもそれを
あのひとには言えずあのひとはまた平然と酒を呑み頭痛がすると言っては
鎮痛剤を服みこれを服むと震えが収まると言ってはトレドミンを服みその
あいだまるでものを食べないから怖くてみていられないけど目を離すのも
怖いから結局みている背中が前に傾いでふらついてさすがに心配になって
どうしたのと訊ねると目の前がちかちかして白いと答える口調がいささか
グロッキーで起立性低血圧という単語が頭に浮かびそういえばそういえば
このひとの言葉には抑揚が少ないこのひとの姿勢はいつも前に傾いている
そういえばそういえばとつぶやく私の脳裏でピースが嵌まりはじめて私は
彼の眉間を一度だけ軽く叩くというのも何度も叩いてみる勇気が私にない
からで眉間を何度か叩くと通常はそのうちまばたきせずにいられるように
なるが何度叩いても毎回まばたきしてしまう反射異常がマイヤーソン徴候
マイヤーソン徴候マイヤーソン徴候いまは忘れていようと思っても私には
きれいな夢さえ見られずひとつやねのしたにすめなくてもふゆのさくらと
新川和江が書いたように夢みたくても私に思い浮かべることのできる夢は
いちばんきれいな場合で痙攣する手が握る綿毛のたんぽぽで。

いま私を抱いている震える手の持ち主にそれを伝える意志を私は持ち得ず
私の視界は再びみたび白くなりはじめ私どうせ不妊症なんだからおねがい
できないんだからおねがい全部ちょうだい私の中におねがいと私は自分が
何を言っているのか判断できない状態で絶叫する。


白いこどもたち。
飛び立ってゆく綿毛、綿毛、
痙攣する手が手渡そうとする綿毛のたんぽぽ。
明るい朝の日差しのなかで。


   


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昔、横堀さんというおじいさんと

http://rikako.vivian.jp/hej+truelove/
芳賀 梨花子
 


 昔、横堀さんというおじいさんとお話しするのが好きだった。横堀さんは南極にいったことがあるみたいで、オーロラの話とか、地吹雪の話とか、それから私をお膝に乗っけて「娘さん よく聞けよ 山男にゃ 惚れるなよ」という唄を教えてくれた。小さかった私はえらくその唄を気に入って、それから、たとえ三歩でつぶれてしまうような砂山を登る時でも山男の唄を歌っている。それでも月日がたって「娘さん よく聞けよ 山男にゃ 惚れるなよ」という歌詞だけリフレインするようになっても、私は横堀さんのことを忘れていない。

 時々、思う。山に登る人は、脇目も振らずただがむしゃらに頂点を目指すのか、それとも岩間に咲いている花に心を許したりするのかなどと。ヒマラヤの麓には石楠花の森があるという。低木ではなく天にむかって幹を太らせ枝を張り大木となった石楠花の森。そこを通り抜ける時、山男は何を思うのだろうとか。生と死。それとも、好日山荘にコッヘルを買いに行った時に見つけた、街路樹の根元、わずかな地面に根付いた一株のたんぽぽみたいな日常。私ならそんなものになんの感慨も寄せない。いつのまにかそういう人間になっていた。

 でも、彼は違う。たとえば、荒涼としたなんにもない岩ばっかりの荒地で一株だけ咲くたんぽぽに巡り合ったなら、お前はどう思うか?とか尋ねるような人だった。いやおうもなく時間は経過する。小雨ぐらいなら傘はささない。犬の遠吠えに共感する。月明かりも時には頼りになる。時間というものは人を変える。いつも彼の問いに答える為に、太古の海底を晒す断層のように苦しむけれど、そのうち妙に納得してしまう。ライオンの歯の様だと言われているたんぽぽの葉っぱを摘みベーコンのサラダを作る。彼はそういう人だった。彼を思い出す時はいつも焚き火とベーコンのよい匂いがする。爆ぜる火を眺めては何時間も横堀さんの話をした。彼は笑っていた。多分、私も。でも、もう、好日山荘は銀座に、あの場所にない。大手量販店に吸収合併されたんだ。
 
 キャンプの夜に必ずコッヘルを満たしたたんぽぽコーヒー。ひさしぶりに飲んでみた。身体にいいんだよと言うけれど、やっぱりコッヘルの底まで飲み干せない。もう、何年も山に登っていない。犬の散歩をする早朝。新聞屋さんの次に早起き。たんぽぽコーヒーは目覚ましにならない。でも、今年、一番、最初に咲くたんぽぽを探す。かといって、そいつが一番に綿毛になって飛んでいくわけじゃない。黒い犬が見上げる空が明るくなる。いつのまにか朝日を追いかけるような生活が去って、朝日が背中を追ってくる。昔、横堀さんというおじいさんとお話しするのが好きだった私の。



   


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はじめまして。

http://www.geocities.jp/beautyundermoon/
紫桜
 

こんにちは。
僕、たんぽぽって言います。

昨日やっと咲きました。
今年は寒くってなかなか咲けなくて
やっと昨日咲いてみました。

でも今日も雨で気温も低いです。
なんだか僕らしくない日和です。
こういうのも異常気象って言うんでしょうか。

僕ってけっこう短命なんです。
だから正直に言うと
異常気象とか温暖化とかで
地球のいのちが短くなるとか言ってますが
あまり実感ないんです。

毎年僕の友達や親戚が
咲いてますけど
(最近はだいぶ減ってますけど)
僕は今年かぎりなんですよね。
来年っていう感覚は僕にはないんです。

だから一日を大事にしないと。
あと何日咲けるかな。
できれば暖かい日が続くといいのですけど。

それから人間の誰かが
僕を見つけて
空き瓶なんかに飾ってくれたら
とても嬉しいですね。

そんなことがあったら
うん、とっても嬉しいです。
それって出逢いって言うんでしょうか。

もしそんなことがあったら
たんぽぽ冥利につきます。
ちょっとおおげさかな。

そんな訳でよろしくお願いします。

明日が晴れることを祈りつつ。
たんぽぽより。

   


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かなしみの上に咲く花。

赤月るい
 

せいいっぱい

咲きました

わたしだって

陽気に なりたくって



黄色い衣服 身にまとって



はなびらを

葉を こんなにも広げて





それなのに



道端の

雑草、でしょ

雑草に まじって。



そんな

満たされない想いのまま



やがて

綿帽子を かぶり


だれかに茎を折られ

ふーっ

なんて




わたし、

わたしだって

誉められたい

咲き 咲き誇りたい



どうしても

一度でも、

いいから 春の。



主役、になって

笑ったり 

散ったり してみたい。




―そして

今年もまた

誰にも見てもらえなかった、と



嘆いている間にも

静かに

変化してしまう



それを見た子どもが

やすやす、と

わたしを引っこ抜き



一息で 空に飛ばした

笑いながら…



そよ風に飛ばされると

気持ちがよくて



軽くなって

軽くなって

だんだん夏に向かって



ふしぎなことに

また来年も 

私らしくいよう、と思うの



   


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微熱の頃

http://www001.upp.so-net.ne.jp/satisfaction/
e-came
 

ぼくはただ 
待っているしかないんだね

サクラが咲き乱れ
人々は浮かれ狂い
ぼくは憂い哀しむ

きみのふわりとした髪や
きゅっと上がる口元や
カップに添えられた指先を
ただ思い出している

陽気な歌声を聴きながら
桜の木陰で昼寝をしていたら
ぼくの横に小さなタンポポが
佇んでいた

きみは桜の花弁のように
ぼくを惑わせ見下ろす

この桜が散る頃には
もう
どこかへ行ってしまう

微熱の季節が過ぎる頃
道端の黄色いタンポポを愛でるんだ
ぼくはただ
待っているよ

   


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2006/4/15発行

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(ページデザイン 芳賀梨花子)

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