(c)蘭の会 2005年10月詩集「ノート」











オマージュ----巡り来る過去・現在・未来に
晩秋の朝(記憶ノート)
ライナーノーツ
無題
   綴る 
  ラスト・ノート
   白いノート  
独りぼっちで生きてきたなんて嘘
   私のノート  
真っ白なノート  


















  

 

  
0003 九鬼ゑ女
http://home.h03.itscom.net/gure/eme/

オマージュ----巡り来る過去・現在・未来に
 

埋もれゆく記憶の束が
ここに 存在(あ)る

頁をめくるたび
密やかなる好奇が蜜を溢れさせる

目を凝らせば、花芯に蠢くもの 一匹、二匹
残らず摘み取っていくのは…誰の手か?

ああ、記された全てよ
知っているのか
その痕跡が
喘ぎ踠(もが)く現在(きょう)という日であることを

己が胸のうちにある現在よ
素裸のままただぼうと 佇む


ああ、苦渋の灰だらけのノートよ
未来(あした)という時に怯むなかれ

埋もれたままの記憶の束に
心が触れる そして…
ぱらぱらと時の束が解かれていく
一瞬くらり 心眩(くら)みて
ふと声のして
空耳かと思えば
それは紛れもない未来からの讃美

深く、深く心を劈く

もはや心は諂(へつら)うことなく
解かれた時を静かに 閉じる

現在を戒めながらも
未来を手招く一冊のノートよ

あの埋もれたままの記憶の束は 
未だ そこに存在るのだろうか










  

 

  
0023 ナツノ
http://www5.plala.or.jp/natuno/brunette/brunette_top.htm

晩秋の朝(記憶ノート)
 

秒針は せっせと時を刻む
記憶という名前のノートに
「糸」のように細く長い時間を記すため 

熱い紅茶のカップを手で包む
小さなシアワセの瞬間すら
まばたきする間に 消えてゆく

水滴が 空に集まるように
カチカチ 
時のカケラは休むことなく空にのぼり
雲のひとひらに記される

私はワタシに会うために
重たい鉛色の雲を眺め 
ページをめくり 記憶の糸をたぐる
この灰色の空
それは今の空なんだけど でも
安らかな過去の時間につながっているようで

天によどむ 時のカケラ達
分厚い鉛色の帯を たどり続けてゆけば きっと
いつかのワタシがそこにいる

開いた窓から冷たい空気が流れ込む
湿った風の伝言では
遠い北の大地で もう冬の準備が整ったと










  

 

  
0059 汐見ハル
http://www3.to/moonshine-world

ライナーノーツ
 

物語、を愛していた少女だったあのころ
一冊のノートに
あふれるはずだった物語
書き始めて数ページで続かないでいつも
リセットできない人生のかわりに
真新しいノートを
幾度買い換えたろう
叶うはずだった恋を
幾度やりなおそうとしただろういつも

日常を生きるってことは
書き直しのできない頁を重ねていくこと
糸で綴じたようなのなら
破いて捨てることもした
だけど鍵付きの日記帳のように
破いたあとがいびつに残るような
そういうのが
わたし、ということ

変われない、そのことが
わたしを老いた少女にしていったとしても
破いて捨てた頁にのせた夢は
消えない

破り捨てたところで
下敷きを敷かずにいた下の
無防備にさらされた
まっさらに新しい頁に
墓碑銘のごとく、ある
うすくなぞられた乱雑な文字の名残
あるいは消してなお残る筆圧の残骸
予定運命、
繰り返す日々がきっと決めてしまう
消えていて消えない
わたしというものの、輪郭線










  

 

  
0093 ふをひなせ

無題
 

十五冊
棄てた

すべてを清算
(出来るもの)と
思って


四冊
綴った

あの頃とは
違う憶いで
同じ言葉を










  

 

  
0097 陶坂藍
http://www.keroyon-44.fha.jp/

綴る
 

ここに真新しいノートがあります

まだいくらも書かれていません
あなたが綴ってきた物語の横に
何度も下書きを繰り返し
丁寧に文字を入れてゆきます

もっとずっと後になったとき
あなたがページを破ることなく
なかったことにできるように
芯の柔らかいエンピツで
丁寧に文字を入れてゆきます

本当はそこに愛らしい色で
小さな花を書きたいのですが
油断したら滲んでしまいそうで
黒一色で味気ないけど
丁寧に文字を入れてゆきます

そのかわりといってはなんですが
いつか何の前触れもなく開いて
暖かい記憶だけが残るように
入れた文字のそこかしこ
種を埋め込んでおきましょう

真新しいノートに










  

 

  
000a 宮前のん

ラスト・ノート
 

その香水はシトラス系
逢ったばかりの時に香る
ファースト・ノートは爽やかだった
腕を組んで歩く最中に
ミドル・ノートは甘やかに漂い

そして今でも
あなたの腕の中で嗅いだ
包み込むようなラスト・ノートを
雑踏の中でふいに見つけ
振り返って背中を探すの


 






*香水の着け始めの香りをファースト・ノート、その後の香りをミドル・ノート、最後の残り香をラスト・ノートと言う。










  

 

  
000b 佐々宝砂

白いノート
 

秋の色は白いんだそうで
だから北原のおっちゃんは白秋なんだが
それからどうでもいいんだけど夏は朱色
言うまでもないけど春は青ね
そいでもって冬は黒なわけ
この人生いまきっとまっかっかの朱色に違いないけど
そんなこともまあどうでもよくて
とにかく今日の主題は白い秋
でもいいけどいろんな事情があって
白いノート なんである

畳は青いのがいいし
芝生も青いのがいいらしい
男も女も青いのがいいのかどうか
そこんとこは知らないが
今日はつかれたから
真っ白なやつがいいとおもう
白いノートに描くのはわたしだ
でたらめにやたらに汚してやるか
きちょうめんに端正に描きこむか
そんなもんはきまぐれ
出来上がったもののことなんか知らんよ



  秋深む白きノートを買ひに行く










  

 

  
000c 芳賀 梨花子

独りぼっちで生きてきたなんて嘘
 

 騙されちゃだめだよって、女の子は男の子に言う。でも、それが手口なんだから、女の子だと思っていても、心底ね、女っていうものは女なの。男の子はね、ビールを飲むのをやめて、ウイスキースリーフィンガー、ノーチェイスで飲んだって男になれるわけじゃない。もちろん、マティーニをスマートに注文できるってことは重要だけど。でもね、女の子は生まれたときから女なの。
 例えば、バスタブに血を滴らせていても、生き抜いてしまう。だってその行為に及ぶ前に電話をかけることを忘れないから。女の子は電話が好き。だから、悲嘆にくれていても、私はこうやって日々を暮らしている。私の場合はお酒をいっぱい飲んで、飲んじゃいけない薬を飲んじゃったわけだけど。でも、やっぱり、その行為に及ぶ前にしっかりと電話をかけている。私、生まれたときから女だから電話をかけてしまう。だって、女の子は長電話が好き。夜、さびしいと電話をかけてしまうから、女の子。
 
ねぇ、生きていても何の意味もないと思わない?

 ごめんなさい。嘘ばっかりついて、私の電話は嘘吐くマシーン。独りぼっちでもないし、死んでしまいたいわけじゃない。この白い表紙のノートの、破ったページは、私のついた嘘の数、もしくは、ものを言わない貴方への執着。ごめんなさい、嘘ばっかりついて、私は今日も生きています。秋だから、でも、本を読むのに飽きてしまったし、ほんの少し、ほんの少し、夢が見たいの。ノートを破ってしまうのは、夢を見るための儀式かもしれないわ。それは言い訳。さようならって書くのは、夢のためじゃなくって、貴方を困らせるため。ごめんなさい、嘘ばっかりついて、私は独りぼっちで生きてきたわけなんかじゃない。だから、騙されないで、私の白い表紙のノートは嘘を書きとめるために破られるのだから。











  

 

  
0118 紫桜
http://www.geocities.jp/beautyundermoon/

私のノート
 

机の上に散らばる日本語の群れ
優先順位の番号と
処理済のチェック
自己分析と自己検証
詩的な世界とはずいぶん遠い
夥しい日常のメモ

充実の定義に満足という趣旨が含まれるならば
充実とはかけ離れた今日という一日
二度と来ない24時間に
精一杯エネルギーを注げたか
反省する気持ちが先に立つ
結局毎日反省する

私のノートが
アイデアブックに変わる日を
希望に埋め尽くされた
解放された未来へ
一歩でも早く
後悔をかき消すように
微々たる前向きな気持ちを抱えて
己を信じて眠りにつく
明日こそは明日こそは

懲りることなく
こむずかしい事を考えながら
たわいない決意を綴る
日本語の群れ
それが私のノート










  

 

  
0125 赤月るい
http://blogs.yahoo.co.jp/instinct1106

真っ白なノート
 

真っ白なノートは
私のキャンバス

ぶっ潰したい

だから
なんだってはみだしたい
私は 向かう 
真っ白なキャンバス

苛立つ 
立ち向かう
笑えるような衝動に突かれる

恐い
恐さの前に 欲が走り出す
そして
滅茶苦茶に汚したくなる

喜びで 
悲しみで
精一杯の湧き上がる苦しみで

だから
負けそうになる
負けそうになりながら
滅茶苦茶に塗り潰す

言葉で 
絞り出す想いで

どうにかして
現実を壊したくなる
母親の顔が見える
学校という縛りが映る
社会の知らん顔が霞める

そんな中で
私は
すべてを引き裂き
自分の力で構築するように

真っ白なキャンバス
真っ白なキャンバスを
力一杯塗り潰していく

壊していくんだ











2005/10/15発行

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(編集 遠野青嵐・佐々宝砂)
ページデザイン芳賀梨花子/CG加工 Ryoko'Vivian'Saito)