蘭の会2005年7月詩集「橙」 (c)蘭の会 AllrightsReserved





















ココロの色  送り火  鬼灯  オレンジ  夕焼け  
だいだい色の童話集  夏の午後  オレンジジュース  



























  
0003 九鬼ゑ女
http://home.h03.itscom.net/gure/eme/

ココロの色
 

ココロがあたしにつぶやいた
ごめんねと涙色でつぶやいた

もうしんない!

あたしがそうふくれっつらになったから
ココロは悲しみを吸い込んで
沈んでいくばかり
だから
ちょっぴり
かあいそう・・・

あたしは足元の
水溜りに映るお日様に
重たいココロを投げ込んだ

そしたらね
だいじょうぶ!

ほんのり頬染めて
色があたしを包んでくれた

橙色の温もりが
あたしのココロにふんわりと
浮かんでた






  
0023 ナツノ
http://www5.plala.or.jp/natuno/

送り火
 

あなたに私が似ていると 最近よく言われる

その内側には何があるの?
固い頬の皮に 手を触れると
あっちへおいき
ごわごわした胡麻塩の髭が 幼い私をつついた

氷のようにそびえる大山を 遠くから見つめていた日々
そうしているうち あなたのしぐさは
私に刷り込まれていったのだろうか
それとも 私はあなたの分身でしかなかったのか

夕闇せまり 送り火がちらちら揺れる

この世から旅立つ時 あなたは
なぜ哀しい目をしていたのだろう

麦藁帽子が欲しくて泣いた私に
自分の大きな麦藁帽子をかぶせてくれた
たった一度 おぶわれた記憶

認めたくなかった
何も教わりたくなかった なのに

野に咲くハコベに あなたの横顔を見ている
夕焼け空の彼方へ飛ぶ渡り鳥に
黄泉への文を託している

同じように麦藁帽子をかぶり 黙々と鍬振るえば
草むらから しめった風が吹きぬけてゆく

庭の片隅で
橙色のツボサンゴの小さな花が
あたりをぼんやり照らしています

もう 安らいでいい時なのに
送り火の向こうで 
あなたは いつも哀しい目をしている






  
0049 水瀬 流
http://www.geocities.jp/prism_ryu/

鬼灯
 

夏の河原で見つけた
鮮やかな橙の鬼灯

口に含んだら
懐かしい音と苦味がした

鬼の灯 と書いて
ホオズキ

鬼はこの鬼灯を頼りに
何処へ行くのだろう

一面に広がる灯りは
何処へ続いているのだろう

私の中の鬼を連れて
何処へ向かっているのだろう

水瀬 流 さんの詩はこちらのHTML版でもお楽しみいただけます。






  
0099 叶
http://www.geocities.jp/sirotanhouse/page049.html

オレンジ
 

そうしてそこで笑っていてね
きっと一面オレンジの中
貴方は輝いて見えるでしょう

爽やかな香りが立ちこめる中
柔らかな味と刺激的な味を
同時に味わうでしょう

そうして私はオレンジに
すべてを封印いたします

あの色を見る度に
思いだしてしまうけど

もう味わえない
夕日 オレンジ
あの日の香り






  
000a 宮前のん

夕焼け
 

ホテルにチェックインしたあと
二人でこっそりと昼食を取ります
そこは個室が4つだけしかない
ちょっと格式張った静かな料亭
障子にサラサラと光が映ります
先付けからお菓子に至るまで
常に創意工夫を、という料理長の
心意気溢れるお料理の数々
私は頭の中で、マル、と書きます

その後でタクシーを使って
小さな個人美術館の絵はがき展へ
竹久夢二や無名画家たちの絵柄
光を当てると透かしが入ったり
小さな宇宙の中の美しい広がり
私は頭の中で、マル、と書きます

その後ぶらぶらと15分ほど歩いて
昔の貴族の別荘を改築したという
喫茶店に入ります
天井は高くシャンデリアは低く
絨毯は赤く花々は青く
けれど、白々とした給仕の
心配りのカケラもない態度に
私は頭の中で、バツ、と書きます

ひそやかな期待をしながら
私はあなたに尋ねます
どうだった?
うん、マル、マル、バツだったね
私は喜びで溢れそうになりながら
落ちはじめた太陽を眺めます

丁度、五重塔が真っ直ぐに見える
とても狭い裏小路で立ち止まって
橙に染まる空の真ん中に
黒く浮かび上がる塔をじっと見つめます
あなたはたぶん、頭の中で
本日最後のマル、を
書きはじめていることでしょう


 






  
000b 佐々宝砂
http://www2u.biglobe.ne.jp/~sasah/

だいだい色の童話集
 

雨がしとど降る夕方にさえ
その図書館は
虹のなないろよりも多くの色彩にあふれているのでした

花はバラ色
空は空色
木々は緑

図書館に住む少女たちは
童話の勇気ある少女のように
うたいながら
やらなきゃならないことを片づけてゆくのでした

山は草色
海は水色
夕焼けは金

わたしはわたしで
ねずみ色した椅子にすわって
まだ語られない生糸を
せっせとあつめて染めあげて
織物につむいでゆくのでした

わたしはまだおぼえていたのでした
わたしがやらなきゃならないことを

だいだい色の童話集に
書いてあるはずのこと
でもその本は
この世の図書館にないのでした






  
000c 芳賀 梨花子

夏の午後
 



今、私が人生のどのあたりを生きているのかといえば、たぶん、それはノウゼンカズラが咲く午後あたり。逃げ水を追い、陽炎に消える日々。でも、それは幹線道路のお話。住宅街に棲む孤独は、夏の日差しに晒されて影濃く佇んでいる。汗でも拭いて、しばらく、ここでおやすみなさいなと優しい顔して、その実あなたを困らせる、夏の日の午後。
上着を脱いで歩き出そうなんて、勇気とは言わないわ。賢い人は、日時計の針が短くとも、時は必ず夕方へ傾くことを知っているものよ。それでも私を捨てて歩き出すというのなら、嘘八百並べ立て、夕立を呼ぶわ。暗くて悲しくて重い空が、逃げ水をかき消して、白いYシャツの背中を追う。逃げないで、私という嵐から逃げないで、夏の日の午後。
それでも、私は捨てられて、水溜りだけが残される。水溜りって嘘をつかないのよ。知らなかったでしょ。私はね、子供の頃から知っていたわ。近所の神社の境内からお囃子が響く。私はというと、嵐が行きすぎた静けさが怖くて、せがまれたわけでもないのに、息子の手を引いて宵山見物。鼻緒が痛い。石段は何段あるの。金魚すくいは苦手です。すぐ破れてしまうの。たぶん、私が欲張りだから。浴衣の帯は片流し、蝶々のように可憐ではなく、一文字のように健気じゃない、片流しはね、裏表があるの。裏表がないと綺麗じゃないの。まるで女みたいでしょ。今夜の帯、茄子紺の裏でひそかに橙がほくそえむ。愛している人は賢い人。あの人もきっと私と一緒に夏の日の午後を生きている、夕方に傾いてはいるけれど、彼もまた別の場所で。







  
0113 チアーヌ

オレンジジュース
 

「これあげるよ」
図書館の庭で偶然出会った少年
名前は最後までわからなかった
夏休みはほぼ毎日図書館に通った
自転車で5分
他に行く所なんかなかった
市立図書館は涼しく
毎日毎日延々とビバルディが流れていた
ビバルディは
「同じ曲ばかりを何百曲も作った」と
同時代の作曲家にバカにされたそうだ
ぐるぐる館内を回りながら
読みたい本を溜め込んで
少し読んで
あとは借りて帰る
図書館の庭は
何の変哲もなくて
背の低い潅木と
将来は大きくなるであろうトウヒの類を
庭師がバランスよく植え込んだような
どこにでもある公共施設の庭
そんな庭の
ちょっとした日陰の石垣に
少年は座っていた
スケッチブックを抱えて
わたしは思わず近づいて
後ろから絵を覗き込んだ
単なる好奇心
わたしは中学生だったけど
少年は小学生に見えた
涼しく冴えた目の色
すらりと伸びた手足
わたしはなぜかドキドキした
少年は
不意に立ち上がって
近くの販売機でジュースを買ってきた
「上手だね」
そう言うと
少年はジュースを一本くれた
なんで買ってくれたんだろう
そう思いながらわたしはジュースを飲んだ
オレンジジュース
冷たくて
おいしかった
少年とわたしは
そのあと
庭の木の陰に隠れて
キスをした
次の日も
その次の日も
夏休みが終わるまで
毎日
キスをした







2005/7/15発行

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(編集 遠野青嵐・佐々宝砂)
(ページデザイン/CG 芳賀梨花子)