蘭の会2005.5月詩集「週末」 (c)蘭の会







「・・・週末に」  人待ち草  リアル・ウィークエンド  
週末という名の閏日に  週末苦  家族旅行  
金蘭の夜  葛藤  さくらツアー  Step into the blue.  


























0003 九鬼ゑ女
http://home.h03.itscom.net/gure/eme/

「・・・週末に」
 

今夜アイタイのです
アエルかしらん?

そう尋ねるのだけれど
いつも答えは決まっています

・・・週末に

すぐにイキタイのです
イケルかしらん?

何度尋ねても
答えはいっしょ

・・・週末に


もうシニタイのです
シネルかしらん?

今度尋ねてみようかと
やっぱり答えは
おなじでしょうか






Top

0023 ナツノ
http://www5.plala.or.jp/natuno/brunette/brunette_top.htm

人待ち草
 

目覚めると 空気が重たい
カーテンに朝日の気配はなく 静かに眠り続ける部屋
水 木 金 …
ベッドの中で曜日をつぶやき 確かめる
空が暗い それは何よりの贈り物
シアワセそうな土曜日と日曜日を消し去って
お天気の週末がキライ

カンカン… 私は 大きな耳になる
アパートの階段を上ってくる足音
それは失望の音でもある
私のドアの前で止まるはずもない
ポストに 郵便が落ちる音を待ってる
もう誰も 手紙なんて書かない

手当たり次第 メールを送る
気持ちが萎えてしまわぬうちに
後悔が襲わぬうちに
急いで送信ボタンを押す
電波たちは雲霞のように くもり空に飛び立つ

「ダレカ ヘンジヲ チョウダイ」

私は人待ち草
自己嫌悪を抱きしめて
ホタルのような着信の小さな明かりを待つ

テレビをつけると
薄ピンク色した女の子が
「天気予報ハ 午後カラ雨デ〜ス」

ベッドに横たわる 私は食虫植物
ひざに顔をうずめ 内側にまるまっていく
天井のシミが誰かの顔に見えた

雨降れ
誰も家から出られないほど 土砂降り雨
週末の予定は全て中止
激しい雨に打たれて
土曜日と日曜日も 消えてしまえ






Top

0059 汐見ハル

リアル・ウィークエンド
 

日曜の朝のイメージは白
だったのは子ども時代の名残
めざめるとそこかしこに
ラメみたいに散る朝陽

 にちようびだけは
 がっこうのいちじかんめのじかんに
 てれびであにめをやっていて
 だからほんのすこしおねぼうだけど
 ねすごしたりしないでいられた

ねむらない金曜の夜と
惰眠をむさぼる土曜の昼を経て
めざめるのがおっくうな日曜の朝
ほんとうの週末は窓の外にあり
レースのカーテンに透けている

 おでかけのやくそくをしている
 おかあさんは
 ゆうべからこたつにはいって
 ねむったままで
 ねえおきてよって
 なんどかゆすってみたけれど
 うーんってうなるばかりでおきてはくれない
 あにめがおわったら
 わたしどうすればいいのかな

予定のない週末の惰眠は
痺れた腕、まぶたをもちあげるすべを
おもいださなくてよくて
誰もいない週末のまどろみは
わたしがほんとうにひとりであることを
さみしくならない唯一の時間だ

 しょくぱんをなまのままでかじる
 みみだけはやいたほうがおいしい
 おかあさんのねいきがきこえる
 あんまりきもちよさそうで
 だけどみけんにしわがよっている
 だからぎゅうにゅうもあっためないで
 ぱっくにくちをつけてのんだ

鉢植えのひとつも置かないしろい部屋で
わたしだけがたしかに
呼吸をしていることの不思議と安堵
もうすこし、日が傾いたころに
人気ない住宅街を抜けて
灯台みたいに輝くカフェに
カプチーノでも飲みにいこうと
つめたくなった枕の感触を頬でたのしみながら
もう何度めかわからなくなった
ゆるい眠りにひきこまれてゆく






Top

0079 鈴木倫子
http://www.geocities.co.jp/Bookend/1714

週末という名の閏日に
 

週末という名の閏日に

週末
ふと海を見たくなった
人波にもまれながら
西へ西へ
気がつくと鎌倉の海が見えた
静かに 遠く そして深く
私を見つめている

私は息継ぎをするように
海を見る
波の音 磯の香り
そのどれもが生きている
私の鼓動と結びつく
少しずつ狂い
少しずつ壊れ
私はリ・サイクルされてゆく

大の月 小の月
太陰暦 太陽暦
何かが少しずつ
音を立てて狂ってゆく
満ちた潮が引くように
閏月 閏年が訪れる

週末という名の閏日に
クルイの舞を舞い給え
クルイの舞を舞い給え






Top

0093 ふをひなせ

週末苦
 

吹き出しに
押されてベッドが
沈んでくー

週末は
休むんじゃなく
動きたいー

風邪頭痛
発熱過ぎて
月曜じゃん






Top

0096 土屋 怜
http://blog.livedoor.jp/cat4rei/

家族旅行
 

かわいい盛りの子供たち

一姫二太郎
30代のある夫婦

完全週休2日制
やっと田舎も
導入かぁ・・・

しあわせを
確認させるかのよに

テーマパークだ!
レインボーブリッジ!
社内割引
リゾートマンション!

休んでるのアンタだけだよ

アタシはどこでも
子供のジュニュウと
オムツ替え
泣く子をあやして
夜中起き

気配りなんて
会社だけのことなのさ
ビールと読書でリラックス

振り回されて 忘れられ

愛なんか
ちっとも育たない
育たなかった
週末






Top

0097 陶坂藍
http://www.keoyon-44.fha.jp/

金蘭の夜
 

羊の時間はもう終わり
浮かれ歩く星達を尻目に
モニターの前に座ったら

もこもこ白い毛お腹のファスナー
去年の夏の特注品
辺りを見回しそっと下げたら
ちょっとお見せできない「それ」が
ぬるりんぐちゃり

元に戻すにゃ二日はかかる

怒号と泣き言恨み言
逃してやるため少しだけ
人目につかない夜のうち
しばしキーを叩きつつ
さらさら夜風にあててやる

それを繰り返しもう一晩

すっかり乾いた「それ」を
そっと一撫でしてやって
再びぐぐっと押し込んで
厳重にファスナー上げたなら
月曜午前0時までに
もとの羊に戻ります

もとの羊に戻ります






Top

000a 宮前のん

葛藤
 

 
このところ週末になるといつも
覚悟を決めて荷造りをする
鞄に2日分の着替えを入れて
1時間ばかり電車に揺られて
生まれた家に帰ってゆく

駅からの道は長い坂だ
登るとふくらはぎに力が入って
行かなきゃ、行かなきゃ、と硬くなり
私を家まで押し上げる
のろのろと玄関のドアをあけると
妹が待っていましたとばかり
ノートを見ながら申し送り
やれやれ、と溜め息をつき
足早に坂道を下ってゆく

エプロンをつけて部屋に入ると
そこには母が座っている
4年前に認知症となり
父が翌年亡くなってから
姉弟が交代で世話をしている

夜昼となく外で歩き回り
所かまわず大便を漏らして
それを手づかみで体になすり
風呂に入れると大声で暴れる
やっと食卓に座らせると
食欲だけは目を見張るほど
けれど食事を覚えておらず
ご飯はまだかと怒鳴り散らす

老人ホームはベッド待ちで
誰かが死ぬまで満床らしい
私たちの成長と引き替えに
幼児に戻っていった母
時に娘すら忘れる人に
してやれる事など何もない
期間の決まった育児と違って
痴呆の介護は無期限なのだ
子供の時に取り合った母を
今では互いに押し付けあう
罪のない寝顔を見るにつけ
苦い思いでいっぱいになる

やっと月曜日の朝がきて
弟が交代にやってくる
玄関先で申し送りして
駅に向かって足早に歩く
下るとふくらはぎに力が入って
帰ろう、帰ろう、と硬くなり
私を家から遠ざける
それからやっと溜め息をつく
ゆっくりと離れる電車の中で
週末が終わるのを感じながら



 






Top

000b 佐々宝砂
http://www2u.biglobe.ne.jp/~sasah/

さくらツアー
 

その家にゴールデンウィークはなかった。

両親とも観光会社勤めで、
家業は茶業。
ひとさまを旅行に送り出す父母、
ひとさまに新茶を送り出す祖父母、
子どもはひっそりと、
家で本を読んで週末を過ごした。


あるとき、
それはゴールデンウィークの終わりごろだったが、
突然旅行に行くことになった。
子どもは驚き喜んだ。

どこに行くの?
甲府だよ。
ツアー?
うん、さくらツアーだ。

父親が添乗員なものだから気楽な旅行だ。
盛り過ぎた桃やあんずの花を眺め、
なぜさくらツアーなのかと子ども心にいぶかしみ、
それでも楽しくカボチャのほうとうを食べ、
信玄神社に行き、
善光寺に行き、
行く先々で妙に可愛がられ、
父親の知り合いらしい土産屋の主人に、
水晶のキーホルダーをもらった。


年月経ち、
ニュースは悲惨な脱線事故を報道し、
脱線事故最中に旅行に出ていた社員を非難している。
子どもはもう子どもでなくなり、
さくらツアーの意味を知っている。

あの旅行は、
脱線事故にも関わらずやめられなかったあの旅行は、
あの週末の甲府旅行と同じなのだと、
さくらツアーなのだと、
そのようなツアーが観光会社にはあるものなのだと、
さくらだったのは子ども自身なのだと。

桃の花は今年も庭に散り敷き、
さくらツアーの思い出は、
いまや複雑に疼く。






Top

000c 芳賀 梨花子
http://rikako.vivian.jp/hej+truelove/

Step into the blue.
 

ワインボトルと恋人を天秤にかけるような週末を過ごしていたのは、少し前の話で、今は、句読点でぶつ切りになった言葉を、相手に投げつけることさえできない。金曜日のドア、悲しい音をきしませて私を迎え入れる。そうだよ、あの人はもうこのドアを開けない。地下の駐車場は先週解約して、上の階の人が黒いアルファロメオを停めている。目を覚ましたら土曜日で、それでも私は金曜日のまま。なぜって服を脱ぐ必要がなくなったからで、でも、きっと、私はそれが淋しくて、コンタクトレンズも入れたまま、化粧も落とさずに眠ったのだ。熱いシャワーで目を覚まそうと思ったけど、しゃきっとするのも怖くて、だから、冷蔵庫を開ける。セロリの味がする赤い野菜ジュースを半分ぐらいグラスに注ぎ、緑色したビールの缶のプルトップを開ける。赤いジュースが炭酸で泡立つ。ぐらぐらと煮える地獄の釜みたい。地獄の釜を見たことはないけどさ。それでも、まだ、夕べの赤ワインが残っている頭には、なんか物足りなくて、ガツンと一発食らわせてよ、テキーラ!ってかんじでワンショット。レイラ、ぴんぴん爪弾くギターにあわせて身体をゆする。パンツのゴムをぱちんとさせて、カーテンを開ける。メラトニンは朝日を浴びないと体内で生成されないというけれど、太陽はもうずっと空高く、ひとりぼっちの人間というよりは女を見下ろしている。でも、私ね、今夜は眠れなくてもいいんだよ。どうせ、一晩中泣くからね。引き出しの中、アルバムから引き剥がした写真。一枚、一枚、また、一枚と灰皿で火葬。五枚目ぐらいからスプリンクラーが作動すると困ると思って、肩身の狭い喫煙者の夫のように換気扇の下で、誰かの夫であるあの人を焼く。換気扇に吸い込まれていく、あの人。さわやかに青空に吸い込まれて行け。さよなら。さよなら。私は目を瞑る。私はブルーだ。ただひたすらブルー。でも、私は自らその色を作り上げる。青い階段をビルドする。日曜日の青空を見上げるために。






Top











2005/5/15発行

推奨環境IE6.0文字サイズ最小

詩集の感想などGuestBook
かきこしてくださいね♪
ダウンロードは
サイトのないのほんだなよりできます

[ご注意]

著作権は作者に帰属する
無断転載お断り
詳細は蘭の会にお問い合わせください
⇒蘭の会へ連絡する

(編集・CGI 遠野青嵐 佐々宝砂)
(ページデザイン・写真 芳賀梨花子)