蘭の会2005.4月詩集「開く」 (c)蘭の会













遭遇  Open up  はなびら  あえてきれいごと  
  close  窓のむこう  オープン  北窓開く  
When I was just a little girl.  コンビニエンス・ストア  

























0003 九鬼ゑ女
http://home.h03.itscom.net/gure/eme/

遭遇
 

まだよ、まだだからね
子宮口が頑なにアタシを拒む
けれども産道が慌てふためき、
子宮の殻ごとわさわさとアタシを揺するので
怺(こら)えきれなくなったアタシは無理矢理
頭の先っちょを子宮の戸口にねじ込む

うっ!
…呻いているのはだれ?

羊水はとっくに世間の流れに馴染み始めたみたい
一刻も早くアタシから手を引きたいのか
へその緒もぬめりと絡んだ赤い螺旋を解き出す

頭はとっくに戸口の扉をこじ開け
産道に滑り出している

そう、こっちこっちね!

暗闇を何周かした頃だった
閉じたり開いたりを繰り返すヴァギナの向こうで
誰かがアタシを呼ぶ声がする

…さっきまで呻いていたヒト?

時折アタシを射抜く閃光がまぶしくて
まなこは閉じたままだったけど
それでも
アタシはその声に縋るように
大きな産声を上げる

その瞬間だった
ウマレタアタシと
不気味な笑いを浮かべたウンメイが、出遭ったのは!

 





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0015 丘梨衣菜

Open up
 

おいしい食事とお酒
楽しい会話
いつものお店で閉店まで騒いで
またね と手を振って
笑顔でタクシーに乗り込む

ほてった頬は次第に冷めて
ふくらんだ空気もしぼむ
流れ去る車のライトと街の灯り
気持ちを引きはがしてゆく

ブーツの足がきつい

愛しているはずの人と平凡な仕事
欲しいものはたいてい手に入る
たぶん
恵まれている
変化の無い毎日

ドウシテ?

寝静まったアパート
薄暗い階段
セキュリティに守られて
なにかが入り込む余地も無い

ドウシテ?

いつも孤独の影がまとわりついて
たくさんの物に埋め尽くされたからっぽの部屋
膝を抱えて夜明けまで眠れない

どうして?

固く開かないビンの蓋
甘いジャムが閉じ込められてるの知ってる
叩き割れば届く

どうしても

ゆるいセロファンに包まれた生活
破り捨てて
お気に入りの赤いスニーカーはいて

いつか

 





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0023 ナツノ
http://www5.plala.or.jp/natuno/brunette/brunette_top.htm

はなびら
 

風の街を歩き耳を澄ますと
どこからか流れてくる幾千ものコトバが

足を止め砂ぼこりの中で何が聞こえるの
私の髪をなびかせるのは誰の手

さくらの花びらひとひらごとに魂がやどり
今日のこの風に吹雪となり舞う
あるものは川に散りあるものは横断歩道の上を狂い踊り
やがて
街路樹の元に咲くちいさなハコベの白い花の隣に留まる

聞きなれた声がする
見たか 見たか 満開のさくらの花
この春 旅立つお前への精一杯の贈り物だと

薄茶色の風にさわさわと花を揺らす枝
幾千もの声は花びら達のコトバであったか

とうさん ありがとう

 





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0093 ふをひなせ

あえてきれいごと
 

敢えてきれいごと
強いてポジティブ
自分を開いて行くって
きっとそういうこと

 





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0096 土屋 怜
http://blog.livedoor.jp/cat4rei/


 

重くて分厚い蓋
頭痛を吐き気をウナガシテイル

蓋は言う
社宅妻は敵をつくってはイケナイよ
蓋は言う
障害児の親は何倍もガンバッテあたりまえ
蓋は言う
不登校になったのもアンタのせい

さらに言う
ハハが太陽にならなければココは変わらないのよ
・・・・・
アナタガイナイホウガイイノカモネ

あなたがいないほうが
お前がいなければ・・・
おまえなんか消えてしまえ!

すべての元凶はあたしにあると
ぐいぐい ぐいぐい
押さえつける

蓋よ
あたしが自ら手をかけなけりゃ
なくならないのはわかってる


待ってなよ 
ブラックホール果てまでも開け殴ってやるからさ

 





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0097 陶坂藍
http://www.keoyon-44.fha.jp/

close
 

見知らぬ町のコーヒーショップ
「要再検査」の通知
新商品のメニュー

好奇心の入り口に通じる扉は
躊躇なく開け放つのに
どうして
固く閉じたままなの
私の扉は

ずいぶん前から向こう側
この扉が開くのを
待ってくれる人がいるのに

押してばかりで
引くことができない
だから
ずっと同じ札出してる
ずっと待たせてる

 





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0099 叶
http://www.geocities.jp/sirotanhouse/page049.html

窓のむこう
 

透明な窓のむこうへ

知らない空を迎えに行く

机上の夢を立体にして

僕として羽ばたくために

 

叶 さんの詩はこちらのHTML版でもお楽しみいただけます。





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000a 宮前のん

オープン
 



おそるおそる扉を開くと
   は少しずつしみ込むように
後から段々と勢いを増して
一気に奥の方まで入り込んでくる

余りの勢いに怖じ気づいて
一度扉を閉じてしまって
入ってきた   の一部を
ちょっとずつ撫でたり触ったりする

それからまた少しオープンにして
残りの   を招き入れてやると
嬉しそうにのこのこ入りこんでくる

だけど長くは続かなくて
   は急に縮こまったようになり
風と一緒に飛んで行ってしまった




 





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000b 佐々宝砂
http://www2u.biglobe.ne.jp/~sasah/

北窓開く
 

強風の夜
窓の向こうで大きな音がした
恐怖に叫んだかもしれないが
身動きしたかもしれないが
記憶にはない



 まだ幼い少年が
 フルフェイスヘルメットの男に殴られている
 やわらかそうな唇は歪み
 瞳は恐怖におびえ
 腹立たしい私は
 フルフェイス男の腹にナイフの洗礼をくれてやる
 それからついでに少年の咽にも

 ふたり 殺した ということになる

 なにひとつ未練がないと言えば嘘になるが
 南向きに大きく開いた窓の向こう
 きらきらと青い春の海が誘っている
 そう 簡単なこと
 飛び込めばいい

 わたしはナイフを突き立てる
 自分の額に眉間に
 目にしみるのは
 よくわからないが
 血液なのだとおもう
 ぐりぐりとえぐる
 硬いのが頭蓋骨だろう
 渾身の力でえぐる

 我が第三の目よ開け
 松果体よ
 この最期のときに本来の機能を発揮せよ

 そう これが
 ただひとつわたしが未練におもっていたこと

 南側に大きくひらいた窓から
 わたしはこころあかるく身を投げる
 さよなら
 さよなら
 いたぶられているみじめな少年よ
 加虐することしか知らぬ男よ
 わたしは心からしあわせだ
 さよなら



目覚めて
わたしは北の窓を開け放つ
昨夜の強風がわたしの庭木を一本倒している
面倒くさいが片づけるほかない
北の窓からも春風
春風はやがて
新茶の香りを運んでくるだろう

 





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000c 芳賀 梨花子
http://rikako.vivian.jp/hej+truelove/

When I was just a little girl.
 

黒い爪の男が、狼みたいに大きな口を開けて追いかけてくる暗闇の森。でも、お菓子の家がどこかにあるかもしれないよと、嘘つきミチル。奥へ、奥へと続く道がこじ開けられて、私は小さく小さく閉じていく世界。小さな世界では声が響くのは自分の身体の中だけ。叫んでも、叫んでも、誰にも聞こえない。だから、私は大人になった。でも、愛した男には君はまるで少女だと、君の中の少女が愛しいと。少女ってなあに?と甘い声で聞き返す、真紅の舌。怯えているもの。凍えているもの。女は笑う。そして、横たわる。投げ出された脚。私が小さな女の子だった頃、誰にも教えてもらえないと思っていたこと。

 





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0118 紫桜
http://www.geocities.jp/beautyundermoon/

コンビニエンス・ストア
 

あなたは
24時間365日開いています
そういう顔をしていて
いつも流行最先端の話題で持ち切りで
いつも周囲は人々で賑わっていて
笑顔が絶えることなくて
誰からも好かれていて
そして
どの人とも等しく距離を置いていた

私も他の人々と同じように
笑顔に包まれて
他の人々と同じように
距離を置かれていた

ある日
気付いてしまった

あなたの奥に
もうひとつ部屋があることを
そして
あなたが奥の部屋には
誰も入れようとしないことを

奥の部屋には何が隠されているの
薄っぺらな下心
浅はかな計算
大人の分別
それとも
素朴な傷つきやすい臆病な心とか

私もきっと
24時間365日開いています
そういう顔をしているから
気付いたの
奥の部屋の存在に

でもお互いに開けるのはやめましょう
汚れたものを受け入れられるほど
私は大人じゃないし
純情さに感動するほど
あなたも子どもじゃないのだし

お互いに24時間365日開いています
そういう顔をしながら
等しく距離を置くことにしませんか
奥の部屋には気付かない振りをして
お互いに傷つくことのないように
大人の振りをしませんか

あなたはそんなふうに
きっと言いたかったのでしょうね
私が奥の部屋を開いたことに
気付かない振りをしていたのですから

 





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2005/4/15発行

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(編集・CGI 遠野青嵐 佐々宝砂)
(ページデザイン 芳賀梨花子)