蘭の会2005年2月詩集 「Switch」(c)蘭の会
















スイッチ
スイッチ−私の中にある変換器
リセット
シーソーゲーム
純子
ヤマダ電機で1980円
スイッチ
素朴なメンタリズム
asleep at the switch.
スイッチ
呼び出し音
スイッチの役目

















0015 丘梨衣菜

スイッチ
 

あなたが急にスイッチを押した
スイッチはおへその横にあったの?
笑いが止まらなくなって笑い続けたら
あなたはゆっくりと動くのをやめてしまった
そのままずーっと笑っていたら涙がこぼれ落ちた
涙が止まらなくなって笑い続けるといつしか涙は部屋を満たし窓から溢れ出してわたしとあなたを押し流した

川にたどり着くころには繋いだ手は離れてしまって見失った痛みに笑いはおさまり涙だけがずっと流れ続けた
川の中を海に下りながら悲しみに暮れていると涙をすっかり出し終えたわたしは塩辛い海にそのままゆっくりと溶けた
綺麗な魚の群れを抱きしめて漂いながらもうあなたに会えないとしんみり思ってわたしはまた悲しくなって泣いた
燦々と輝く目も眩むような太陽に照らされていつしかわたしは水蒸気になり空へ昇り雲になって生まれた町と住んでいる場所を見下ろしながらゆらり
漂った

速すぎる流れにほどかれた指先が強く最後まであたたかだったことは覚えているのに
どうしてこんなことになったのか何でスイッチを押されたのかどうしても思い出せないからいつしか考えるのをやめてしまった
元に戻るスイッチはもうどこにもないんだって優しいあなたの指はもうすっかり冷えたんだって
ドアに近づいてくる聞き慣れた足音はもう帰りのバスに乗り最寄りの駅に着き電車に揺られてゆっくり眠りにつく頃
あなたがスイッチを押したので急に真っ暗になってしまった世界に取り残されてひざを抱えて隅っこで泣いているのにもう戻ってこない
もう戻ってこない本当に本当にほんとうに 伸ばされた指はポキンと折れた

ずっと会っていなかった友達が仲良く並んで歩いている上をどうにか形を保ちながら雲になったまま
「わたしはここだよ!」って喉が裂けるほど叫んでも気付いてもらえなくていじわるな風にゆっくり遠くへ運ばれる
わたしはまた悲しくなって二人の上に滝のような雨を降らせ道路や歩道に流れの早い川を作ってしまった
小さな叫び声をあげて転ばないように手をつなぎ急ぎ足で走り去る二人を泣きながら見送ると水分を出し尽くしてわたしはいつしか
ゆっくり
大気に溶けた

パチン

 

 



0023 ナツノ
http://www5.plala.or.jp/natuno/brunette/brunette_top.htm

スイッチ−私の中にある変換器
 

眠る時
脳の変換器がうまく作動すると
穏やかに夢の世界へ入っていく
懐かしい人が 私に言いたい事があるという
紫と黄色で織られた敷布が風にはためいていて
その音が うるさくて…
何て言ったの? 私は夢の中で あなたに届かない
見る事は出来ても 手を 動かせないでいる
笑ってないで も一度言って

夢の中で ナミダをこぼしている
その事が悔しくもなく 恥ずかしくもない
広く深い河のように とうとうと流れたいという
青い服を着たまま 水を泳ぎたいという
思いは 夢の中で叶えられる
感情を閉じ込め きりきりに縛っていた 紐が緩み
開放された 小魚たちが 自由に駆けめぐる

私は変換中
夜長の旅の途中 
私を覗き込まないで きっと
誰にも見られたくない 穏やかな顔をしている…

薄明かりが窓から射すと
夢の出口から
わしずかみにされ 外へ放り出された
家族休暇の最終日の朝 未練たっぷりで
海を振り返る子供のよう
…あっち側がホントの生活でも いいのに

時の河に いくつも浮かぶゆりかご
私が 昼間に散らかしたイメージを
ひとつずつ拾い集めてくれる 優しいお前
そして 終わらないパズルを埋め合わせ 
お話してくれる 脳よ
また 夜がやってくる
どうか上手に スイッチを 入れて
私に語りかけて

 

 



0043 鈴川夕伽莉
http://yaplog.jp/yukarisz

リセット
 

どのくらい前だったか
君と居る時間はリセットみたいだと
あなたは静かに目を閉じたのでした
自分の立ち位置を見つけるみたいだと
静かに私を抱きしめたのでした

ところで私のドッペルゲンガーは
最近18切符の旅に出たのです
愛する信州の絵本館界隈を巡り
現世の楽しみに別れを告げたのち
極寒の日本海を身体に刻みつけ
それから先は野垂れ死ぬなり何なり
定まらない旅です

私の本体はといえば
ぎりぎりぎりと張り詰めたロープを
旅行鞄に詰め
町はずれの崖からそっと落としたのち
ふらふらふらと性懲りもなく
京阪電車に揺られて
あなたの隣に戻ったのでした

あなたはがっくりと膝をつきました
怒るでもなく貶すでもなく
がっくりと私を抱きしめたのでした
静かに肩が震えておりました

失踪の原因はあなたじゃないんです
私が私であることが
苦しい割に無意味に見えたので

正直な言い訳をしました
ただ
もうこんなことは止めようと
誓ったのでした

リセット


私はもう
あなたの隣でじっとしています
私から千切れた無数のドッペルゲンガーは
路頭に迷って泣いているでしょう
今にも消えそうな彼女達

しかしここに居れば
やがて
ひとりふたりとふらふらと
戻ってくるでしょう

 

 



0059 汐見ハル
http://www3.to/moonshine-world

シーソーゲーム
 

ひとさしゆびと
なかゆびの
いったいどちらにちからをこめたら
わたしのほしい結末がくるのか

うんと小さいころ
昼間のひとり遊びは
フラッシュごっこ
硬質だけど
どこか温いプラスチックの響きを
楽しみながら
四角い、シーソーみたいな形のスイッチを
とりつかれたように
際限なくたたき続ける
壊れてしまうじゃないのと
お母さんはいつも怒る
わたしはほんとうは
お母さんに叱られるのを
望んでいたんじゃないのかな
昼間のお母さんは
洗濯物を取り込んだり
お風呂をみがいたり
いつも背中をむけていたから
夜のお母さんは
となりにねそべって
本を読んでくれた
わたしが泣かなくてすむように
あかりをひとつつけたまま
そうしてめざめたときには
あかりはいつのまにか消えていて
まぶたを照らすのは朝陽

あのころ
こわくてさみしかった
闇というものが
やさしく隠すものだということを
知ってしまったいま 
くらやみにむつびあうことの当然を
それでもくるしくおもうから
あかりを消して、と
どこか後ろめたい気持ちで
選びながらもずるく
わたしのゆびは
かたく熱い胸の上でとまる

叱られた後で
こどものわたしは
いったいどちらにスイッチを
傾けていたのだろう

 

 



0096 土屋 怜

純子
 

あたしはフラレタ
彼のつぎのお相手は
あたしのともだち
純子

フラレタ理由(わけ)は
分かっていた
でも・・
どうして
純子なの
どうして・・・

混乱したまま
ふとんをかぶって
泣いた
泣いた泣いた泣いた!

・・・・
あたしは
純子を呼び出していた
問い詰めるためじゃなかった
仕事の頼みごと

あたしはあなたのともだちよ
いまも
カラダじゅうで表現していた
いいひとをヨソオッテ

ひと昔
ふた昔が過ぎても
ヒキズッタままの気持ち
ムネを圧(お)してくる 痛み

純子なんかキライ
許せない
純子なんか・・・
純子なんか!

叫べなかった

スイッチを入れ忘れた あたし
いまも 治らないクセ

 

 



0097 陶坂藍
http://www.keoyon-44.fha.jp/

ヤマダ電機で1980円
 

母、妻、女
客、時々従業員

送信者、受信者、
読み手、書き手、
時々茶々を入れ
ポチッと一押し切り替えれるほど
私のスイッチには根性がない

なにしろ
ヤマダ電機で1980円(いちきゅっぱ)

仕方がないから
ひとつづつ
力まかせに切り替える

この身全部で切り替える

 

 



000a 宮前のん

スイッチ
 

カチッ
と電気がつけられて
台所中に影ができる
闇に隠れていた物たちが
白光の元に曝される

時計の針は2時を回り
静寂の帳が窓に落ちる
コップに注ぐ水の音さえ
辺りにはばかるほど響く

掃除機テレビ洗濯機
昼間なじんだ物たちが
今は結構よそよそしく
電気の下でくたびれて
スイッチを入れる明日の朝まで
しばしの休暇を貰ってる

世の中には他にも色々
無理矢理スイッチを入れないと
動かないものが多すぎる

コップを洗って戸締まりをして
カチッ
と闇が戻ってきた

 

 

 



000b 佐々宝砂
http://www2u.biglobe.ne.jp/~sasah/

素朴なメンタリズム
 

満月の夜はパーティーの夜だ。
きみは出かけなくてはならない。
借り物の舞踏服を着て、
きみの貧しさで、
きみの富んだ学友を引き立たせるために。
きみは貧民というほどに貧しくはない、
きみの父親は商人だ、
けれどきみは奨学生だ。
きみの父親はあまり商売が巧くない。

満月の夜はパーティーの夜だ。
きみの学友の母親は美しく、正しく、
背中が総毛立つほどのチャリティー精神に満ちている。
さあ、みなさん!
お楽しみのファンタスマゴーリヤよ!
きみより若いのではないかと思われる嬌声とともに、
館の灯りがすべて消される。
月光がカーテンを青白く染める、

 黒き翼ある髑髏ら飛び
 汝が足下に織られゆく魔の光
 心あらず叫びも上げ得ず
 汝は肉体の檻に閉ざされしファントム
 暗鬱なる幻影

もうたくさんだ、
きみは人に見えない暗がりで口を曲げる。
何処かで聞いたような虚仮威しの口上、
(古めかしいだけで韻すら踏んでいない!)
満月で青白いカーテンの表面をなぞってゆく、
幻燈機が作り出す光学的幽霊たち、
それらが演じる芝居がかった大仰な物語、
きみは女だが光学の基礎くらいは知っている、
そしてすべてにうんざりしている。

もうたくさんだ、
きみはテーブルの中央で王者然と佇む幻燈機に近寄る、
スイッチと思しきレバーが三本あって判りづらいが、
左隅のレバーに触れてみる。
くららと光学的幽霊が揺れる、
スイッチを間違えたかもしれないときみは思う、
中央のレバーに触ってみる。
世界そのものがくららと揺れる。
窓の外の満月すら明滅する。

つまりどういうことなのだろう、
きみは幻燈機に顔を寄せてマッチを擦る、
左隅のレバーには "Phantasmagoria"
中央のレバーには "World"
右隅のレバーには "You"
きみは少し考え込む。

つまりそういうことなのだろう、
きみは笑う、心の底から楽しく笑う、
そしてスイッチを切る。
どのスイッチを?
幻影、
世界、
きみ、
どれを消しても、同じことだ。

 

 



000c 芳賀 梨花子
http://rikako.vivian.jp/hej+truelove/

asleep at the switch.
 

誰かがまたがって私の首を絞める。苦しくて、苦しくて、もがいて、もがいて、でも、太い指は首をひしゃげようと力を込める。私は抵抗しなくてはいけないので、その誰かの腕に爪を立てる。これは男の腕だ。そこで、やっと、またかと思う。私はこの男に何度となく犯されて絞め殺されている。男はさらに力を込めて、だから私もさらに力を込めて、でも、今朝は死に至る前に爪が折れた。指先から血が流れているような気がする。真っ暗闇の中で口に含んだら、しょっぱかった。それに中指だけが温かい。午前4時。枕元のショールをはおり、暗闇には無駄な眼鏡はかけず、ベッドの下で犬が噛んだスリッパと靴下をひっぱりだして、身体を縮こめて身につける。それにしても寒い。寝室から廊下に出て、突き当りのドアまで重い頭をのせたまま歩く。身体と頭が別々だったらいいのに。ドアを開ける。明かりはつけない。東側に窓がきってあるけど、観葉植物のシルエットは街灯に映し出されている。夜明けはまだ遠い。ネルのパジャマと腰骨に引っかかっているローライズなビキニパンツを急いで下ろして、白く磨き上げた陶器にペタッと座る。こんな時間だから、ドアなんて閉めない。目をつぶって、身体の中に滞留している昨夜のナイトキャップにおさらばする。身体が震える。トイレットペーパーが残り少ない。女の子は前から後へ。小さい頃から教えられてきたけれど、私は大人になってから、そのたびビデも使う。指先をもう一度、舐めてみる。やっぱりしょっぱい。便座に座ったまま、いつも置いてあるところから銀色のライターを取って火をつける。舐めたときから気がついていたけれど、1センチほど伸びた爪が折れて、中指だけ初潮を迎えた女の子の指のようになっている。煙草に火をつける。マニキュアをした人差し指と、初潮を迎えた女の子のような中指が火のついた煙草をはさんでいる。人差し指と親指で煙草をつまむ男の仕草は好きだ。肺の奥まで煙を吸い込むと、くらくらする。でも、胃の中は空っぽ。煙草を吸うことにとによって血管が収縮し便意を催すというところまでには至らない。とりあえず、コーヒーでも飲んでおけばよかったかな。ならば、お風呂に入ろうかな、と思った。残り湯は思っていたより温かかったし。6時にタイマーをセットした乾燥機がガタガタと熱を放っている。乾燥機に残り時間を示すデジタル時計の明かりで私は裸になり、真っ暗なバスルームの冷たいタイルの上にたつ。窓ガラスの冷気が熱を奪い去っていくので、私は震え、Hにあわせたシャワーをひっぱりこんでバスタブにつかる。血はもう止まっているのに、温まってくると指先がジンジンしてくる。真っ暗闇のバスタブの中で「痛い」と小さな声で言ってみる。それから、もう少し大きな声で「痛い」と言ってみる。ごしごしと血を洗い流す。初潮を迎えると女郎屋に売られてしまう女の子が主人公の映画を見たことがある。確か、深夜にひとりで見た。その女の子にとって初潮は絶望だった。私は5年生のとき、もう身長が158センチもあったし、絶望的な経験もしてしまったけれど、まだ、初潮を迎えていなくて、お友達にナプキン持ってる?と聞かれて困ってしまった。その時から、ずっと、私は鞄の中にナプキンを一個持ち歩いていた。それなのに、ユーミンのDESTINYみたいに、本当に必要な日にそれを持っていなかった。中学二年の時。最悪なことに、それは夏休みのプールサイドで。水からあがったら、自分の水着がなんか妙な色になっていった。私は走って更衣室に戻った。でも、鞄の中にナプキンはなく、キティーちゃんのタオルとかお財布とかメモ帳とか、そういうのばっかり入っていた。だから、私はティッシュを何枚も重ねてパンツを履いた。お友達に、今日はもう帰るねといったら、タンポンなら平気だよ、とタンポンを渡してくれた。でも、そんなもの使えないよと泣いて、お友達にひどく笑われた。中指でそこをまさぐってみる。こんなもののために映画の中の女の子も泣いていた。中指は私を妙な気分にさせたけど、他の指がそれを許さない。私の指は、毎晩のように首を絞めに来る男の腕を傷つけるためにあるから、女のそれも傷つけてしまう。お風呂のお湯が40℃を越えた頃、私は眠くなって、すっかり中指のことなど忘れてしまう。そして、毎朝、お湯に飲み込まれそうになって、再び目を覚ます。バスタブから勇敢に立ち上がり、熱いシャワーを頭からかぶって、シャンプー。背中の真ん中辺りが痒い。ボディーブラシ。実は、ますます肌を傷つけてしまうので、使わないほうがいいみたい。それでも、ゴシゴシと嫌なことを洗い流すように、私は身体を洗う。それから、もう一度、熱いシャワーを浴びてバスルームを出る。寒さに慌てて趣味の悪いピンク色のバスローブをはおる。その辺にほっぽってあったタオルで髪の毛をぐしゃぐしゃと拭く。それから、おもむろにドライヤーをとりだして、ガーガーと髪の毛を乾かす。その頃、犬が起きてきて、朝ごはん頂戴と足元で私を見つめているから、ドライヤーで脅かすと後ずさりして恨めしそうにしている。私はお構いなしに髪の毛にドライヤーをかけ続け、半乾きになったら、くるくるっとお団子にまとめる。そうしておくとカーラーを巻かなくても柔らかくウエーブしたヘアースタイルのなるのだ。ホワイトニング効果のある化粧水を顔にペタペタと塗りこんで、それから日焼けと乾燥から肌を守るクリームを塗って、さっきまで履いていたのとは違うビキニパンツをはいて、パンツとおそろいのブラジャーを着けて、肘と膝と踵に油っぽいクリームを塗って、長袖のTシャツを着る。それから、鳥肌が立っている素足をローライズのジーンズにつっこむ。本当はタイツを履きたいところだけど、お風呂上がりタイツは勘弁ってかんじ。ましてやパンティーストッキングなんてサイアク。だから、靴下を二枚履く。それから、さっき、脱ぎ捨てたスリッパを履いて、タートルネックのセーターを着込んで、歯ブラシに研磨剤入りのトゥースペーストをたっぷりつけて歯を磨く。グルグルと何度もうがいをして、それからコンタクトレンズをいれて、お目目をパチパチして、ファンデーションの色はトゥルーベージュ。ペタペタと肌に叩き込む。チャコールグレーの眉毛を慎重に描いて、少しキラキラするフェイスパウダーをはたく。頬と顎に赤みをさして、眉尻と、目元に白いハイライトを入れて、筆タイプのアイライナーで今日の自分を作る。それから、睫にたっぷりとマスカラ。仕上げに口紅。人はどうして唇を晒して生きているのかな。爪が折れた中指で唇をなぞる。鏡の中の自分。あっかんべーをしてみる。いろんなものを味わってきた舌を見つめる。悪夢なんてテレビみたいにプチンとスイッチを切ってしまえればいいのに。私は、それから、キッチンに行って、明かりをつけて、暖房をつけて、テレビをつけて、カウンターによっかかりながら天気予報を見て、パチン、パチンとネイルニッパーで他の指の爪も短く切りそろえ、やすりをかけた。

 

 



0113 チアーヌ
http://plaza.rakuten.co.jp/chiamia/

スイッチ
 

大事だったはずのいろんなものが
どうでもよくなる
スイッチ

普段は見えない
あることさえも
感じない

でもそれが見える瞬間があって
それは
大抵
一回につき
何時間か続く

タイミング
が合えば

たぶん押しちゃうだろう

一度押したことがあれば
それを
「押すことができる」
ことがわかる

だから、
ゾクゾクする

楽しくなんかない
楽しいけど
楽しくなるけど

スイッチが見えることは
不幸なことだ

見えないほうがいいんだと思う

たぶん

 

 



0115 伊藤 透雪
http://tohsetsu.exblog.jp/

呼び出し音
 

押したら最後
二度と元に戻れない
見えないスイッチが
取り囲んでいる


  鳴り続ける呼び出し音
  耳を塞いでも 響いてくるのは
  自分の中から鳴っているから


一歩外へ出たら
そこは地雷原で
何処を踏んだら破滅するのか分からない
部屋の中で1人佇む

傷の痛みにうめき
心の底から涙を流し
涙が頬を伝う感触が
まだ 生きていることを伝えてくる



生きている。

生きて悲しむなら
生きて喜びたい
スイッチの囲いを
するりと抜け出して
ありのままで
笑ってみる ───

その笑みが
傷を癒してくれるだろうか
少しだけ歩調を遅くして
周りばかり気にせずに
目を閉じて
心の内側を見ると
ぼんやりと浮かんでくる光


鳴り続ける電話は
光りながら呼んでいた
受話器を取ると聞こえるのは

「おかえり。」

 

 



0118 紫桜
http://www.geocities.jp/beautyundermoon/

スイッチの役目
 


明かりのスイッチ
エアコンのスイッチ
電気ストーヴのスイッチ
テレビのスイッチ
電気ポットのスイッチ
炊飯器のスイッチ
シチューを温めるガスのスイッチ

私が帰ると
部屋は明るく暖かく
テレビの音が聴こえて
「おかえり」の笑顔とともに
美味しいシチューの夕飯と
食後の温かいコーヒー
スイッチを押すのは
あなたの役目

そして今日も

明かりのスイッチ
エアコンのスイッチ
電気ストーヴのスイッチ
テレビのスイッチ
電気ポットのスイッチ
炊飯器のスイッチ
シチューを温めるガスのスイッチ

私が帰ると
部屋は暗く冷たく
テレビの音は聴こえず
静寂の箱に響く「ただいま」
スイッチを押すのは
私の役目

大した変化はないさ
スイッチを押す役目が変わっただけさ

大した変化はないさ
部屋の明かりも暖かさもテレビの音も
美味しいシチューも
温かいコーヒーも
少し時間差があるだけさ

 

 










2005/2/15発行

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(編集 遠野青嵐・佐々宝砂)
ページデザイン・CG 芳賀梨花子)