蘭の会2004.9月詩集「夜風」 (c)蘭の会





















explamation -- 夜風 --  夜風と私  吹かれ吹かれて  
夜風は優し  ツバメ  ぬるい  無題  川風  
逃避行  夜風  花火    夜の風景  夜風に吠える  
僕という存在  帰ろう  秋色の夜風  

























0001 はやかわあやね
http://homepage2.nifty.com/sub_express/

explamation -- 夜風 --
 

夜風が私を誘うから
私は夜風に誘われて
ふと下を見ると抜け殻になった私
机につっぷしたままで眠っている

ねぇ夜風さん、夜風さん
明日の朝までには帰れるでしょ?

夜風はいつも黙ったまま
私も黙って下を向き
誘われるままに遊離する

青い地球と銀河系
遠くにみえる太陽や
白い月に阻まれて

ねぇ夜風さん、夜風さん
明日の朝には帰れるでしょ?

夜風さんは黙ったまま
私も黙って下を向き
たんぽぽの綿毛を思い出す

ふぅぅぅぅっと音のする
たんぽぽの綿毛に誘われて
夜風さんは息をつく

ねぇ、朝にはきっと帰ろうね

我に返った夜風さん
やっとお返事くれました


よかったね、私
 
 
   
  
 

 

 





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0023 ナツノ
http://www5.plala.or.jp/natuno/brunette/brunette_top.htm

夜風と私
 

Johnがこの世から消えてしまったとラジオで聞いた夜
好物の母の餃子も食べず2階の窓を開けて
月も星も見えない空に手をあわせた

灰色に限りなく近い闇夜は
彼の長い旅路の果てへと きっと続いている
夜風よ この祈りを運んでおくれ
闇に小さな灯りをともすような気持ちで
私はぶつぶつと繰り返した
地図にも載らない地球の片隅で 

4人の足跡を映し出したフィルムコンサート
満席の若者たちは映像に向かって歓声を上げた
私も戸惑いながらスクリーンに拍手した
本当はそんなこと必要なかった
なぜなら心の中に 
自分だけの4人の手触りがあったから

重い鉛色の波が繰り返し寄せていた時代
私は思った方向へ進みたくて
右へ泳いだり左へ泳いだりした

汚れたアスファルト 水たまり
季節の匂い 見上げた空 
私は朝が来るたびに 抜け殻を脱ぎ捨てた
それらはどれもみなペコペコのプラスチックのようで
握りしめた手の中で
砂のようにこぼれて散った

部屋の中で自分を鏡に映して
いつも自らの輪郭を探していた

そして 居場所を探していた
毎夜10時40分発 最終バスの時間まで

帰り着くのは 終点の小さな停留所
私ひとりがタラップを降りると
夜風が
「おかえり」と ほほをなぜてくれた

 

 





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0038 純理愛。

吹かれ吹かれて
 

今日もまた
夜風に乗ってふらりふらりと・・・
木の葉が舞えば寂しくて
吹く風に香る君の髪
夜は芯まで冷えるけど
暖かい家の灯りが見えるなら
もう寒さなんて忘れられるのに
歩いても
歩いても
私の家はない
だから今夜も
夜風に乗ってふらりふらりと・・・

幾夜
幾日
歩けども
みつかることなき我が家は
砂塵となりし
あの晩に
探すことさえ切なさに
負けてこの世は

あぁ無常

吹かれ吹かれて

あぁ、無常

君の声さえ聞こえぬ夜に
強すぎる夜風を少し恨み
やまぬ夜風を憎めども
秋はどこかであざ笑う

吹かれ吹かれて

あぁ、

あぁ、無常なり

 

 





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0071 阿岐 久
http://www1.ttcn.ne.jp/~akiakiaki/

夜風は優し
 

夜風は優し
汗ばむ肌に
涼やかな風
通り過ぐる

頭上は高く
星の無い空
今日もまた
会社員と夜

働くことの
苦から放つ
束の間でも
夜風は優し

 

 





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0072 諦花
http://www.another.jp/rental/diary/top_frm.asp?ID=teika

ツバメ
 

金曜の夜
会社のビルから出て
一週間から開放された
私は紙の凧
初秋の冷たい風が
車の間を吹いてきて
伸ばされたままの前髪の
瞳にかかった毛先を揺らす

「このまま風に乗って
飛んでいけば
季節外れの花火となって
東京湾の空に青い光の
一筋でも
切りつけることができる?」

信号は
まだ赤
いくら脚が痩せていたって
風に押されて
飛び出すことはできない
月曜日を殺したくたって
今はまだ金曜日
どこからか
逃げ出した気になったって
ここはまだ秋葉原
だった

「明日は会社はないのだから
代官山へ遊びに行きましょう」
でも
明日はきっと


9月の風が頬を殴る
車の間から
投げ捨てられた煙草が瞳に焼けて
私は紙の凧
風に煽られたなら
飛んでいくと思う
季節外れのツバメみたいに

 

 





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0083 栗田小雪

ぬるい
 

あなたと過ごした時間は
何から何まで
全部ぬるかった気がするわ
部屋の明るさやにおい

激しい音楽やセックスさえ
全部が全部ぬるかったの。

まっぴるまでも暗かった、
わたしが大好きなあなたのお部屋
わたしが描いた絵を
あなたはいつまで飾ってくれてるのかしら

さよならさえもぬるい。

 

 





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0093 ふをひなせ

無題
 

願いしは
 いつの時でも
   満笑の子ら
 闇を流越し
    朝へと吹け

 

 





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0096 土屋 怜
http://choice.gaiax.com/home/trei5960

川風
 

四角い部屋は

息苦しくて

決まって目がさめ

ベランダにでる

石の囲みの中は

内とさして 変わらないくらい

熱気をおびている

ふっと吹き込む

川風

この風になん度

助けられただろう


飛びたい夜を超えて・・・・

 

 





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0097 陶坂藍
http://www.keoyon-44.fha.jp/

逃避行
 

夜風に吹かれて
どこへ行こうか
財布と携帯お供に連れて

寝静まった町を
宛てもなく車走らせ
このままどこかへ
消えてしまおうか

しがらみも
大切な人も
素敵な想い出も
名前さえも放り出して
まだ見た事のないどこかへ

この道の果てが八の字に
いつもの朝に続いていても

夜風に吹かれて

 

 





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0099 叶
http://www.geocities.jp/sirotanhouse/page049.html

夜風
 

夜に隠した傷のあと

泣いたあとの子守唄

涙のあとをなぞる風

闇を揺らした君は夜風

 

  叶 さんの詩はこちらのHTML版でもお楽しみいただけます。





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0104 はづき
http://www013.upp.so-net.ne.jp/dir_p/

花火
 

あなたの
青いポロシャツが
昼の色を忘れて
深い闇に消えていく

遠くに花火が見えている
街を見下ろす展望台の上
ゆっくり話をするには
少し人が多すぎるようだ
どーん
どーん
わたしが息を呑む一瞬
球形の花火は上がり
あなたのポロシャツは
昼間の青を取り戻す

わたしだけにそれがわかる

何かをしなければ
話さなければ
階段を降りる間に?
駅まで歩く間に?

間に合わないということもない
いつでもできることだ
けれど
暗がりに見えたところが
花火の残像に照らされている
今ならば


祭りの後は
やけに静かだ
夜の色に染まった
緑の梢が揺れている
ふたり黙って
風に吹かれている

わたしだけがそれをきめる

夜の風が
わたしには冷たすぎる

「ねぇ」

駅のベンチで
もう少しだけ話をしよう

 

 





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0110 佳代子


 

月を食む猫がいた
銀色の毛の猫だ
私が抱きしめると
猫は風のようにするりと逃げた
その両腕は焼けただれ
甘い砂の匂いがした
長い黒髪のひとがいた
月を食む猫を抱いていた
私がその髪に触れると
身をすくめため息になって消えた
畏怖とほんの少しの絶望を残して
私の恋はかつて月の色をしていた
月の肌は掟破りの女神を
宿している
淋しさは美酒にして飲めという
悲しみは微笑みで化粧しろという
私の恋はかつて月の色をしていた
川面に横たわる女神に足を預けて
今宵は吹き渡る風に恋をしようか・・・
   

 

 





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000a 宮前のん

夜の風景
 



宙ぶらりんのロープを
がじがじと噛んでいると
揺れる度にガラガラと音を立てる
先端が檻の天井に結んであるから

この中で暮らしていると、
食べるもの、
寝るところ、
遊び、
には困らない

でも肝心なことは
だあれも
教えてくれないから
退屈で。

私が揺らしているのは
きっと
ロープじゃない

どこにも行けないから
がじがじと噛み続ける


 

 

 





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000b 佐々宝砂
http://www2u.biglobe.ne.jp/~sasah/

夜風に吠える
 

おれが人間味を失いはじめる
二日月の一日
おれは昼行性のホモ・サピエンスらしく
眠ろうと試みている

もうすぐ明け方になるらしい
九月初旬
エアコンのない部屋は
こんな時間にもまだまだ蒸し暑く
窓を開ければ生ぬるい夜風
薄明るい
それとも薄暗い
どちらともつかぬ空に二日月
星よりも頼りなげに
夜風にさえ揺れるようで

しかしそんなかぼそい月ですら
おれをあやつるのだ
月あるゆえに
おれのなかの3%の獣性が
吠えたがり
おれのなかの97%の人間性が
それを押しとどめ

のをわある とをわある と
吠える犬は人である と
月に吠えた詩人は言ったが
おれはなんと吠えたらいいのか

今夜おれは月に吠えたりはしない
少なくとも二日月に吠えはしない
それでもおれは
ほんのすこしだけ遠吠えをしようと思う

月になど吠えない
夜風に吠えたい
応えるものなどないだろうが
そうだよ おれは変にロマンティストだよ
夜風よ おれの切ない遠吠えを
どこかとおくに伝えてくれ
3%だけ狼に変身した
おれの情けない遠吠えを

 

 





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000c 芳賀 梨花子
http://rikako.vivian.jp/hej+truelove/

僕という存在
 

 昨日の晩もふらりとこの横断歩道を渡った。一昨日の晩も、一昨昨日の晩も、昼間だって、毎日のように、この横断歩道を渡っている。でも、やっぱり夜は特別さ。行き過ぎる車、置き去りにしていく音、外灯、置き去りにされそうにない明かりがぼんやりと並ぶ。僕はそんな景色が住処なのさ。

 そういえば昼間あのひとが横断歩道を渡って、そして右脇のガードレールのところに花をたむけていた。アネモネみたいな太い茎のコスモス、それから棘のない薔薇。彼女はとっても愛している人をここで亡くしたらしい。僕は見ていたよ。彼は鎌倉方面から走ってきた紺色のRV車に撥ねられたんだ。彼のからだが宙にういて、やがて重力に逆らうのをやめた。そして彼はこのガードレールに首を打ちつけた。彼の頭部はひしゃげて、たぶん、即死だったとおもう。運転手が急ブレーキをかけて、青ざめた顔で出てきたよ。僕は、僕は覚えているのはそこまで、あまりのショックに驚いて、僕はいそいでその場を去ったんだ。彼女はあきらかに泣いている。だから、それは気持ちのよい風が吹きはじめたからだと思うよと、教えてあげたかったけど、やめた。その日の昼間は行過ぎた台風のせいなのか、熱風が吹き込んでいた。日差しが強くて35度を超えるなら、せめてもの救い。でも、あの日は夜になっても救いようのない暑さだった。きっと夜風を求めてふらりと外出したのさ。

 よく、僕とあいつは、この横断歩道を渡ったところにある公園にやってきた。公園の、ちょうどまんなかあたりに太陽の広場っていうのがあって、太陽の池では、コロナのかわりに水が噴出している。よく、太陽の池のふち(子供が書いた太陽の絵のようにギザギザしている)に座って、いろいろと僕等は話し合った。べつに難しいことを話し合ったわけじゃないけど。そうさ、僕等は色々話し合った。昼間、見たこと感じたこと、僕等はやがてひとつになって、どこか還るさきを探そうという結論になる。この公園の南の端は海岸へとつながっていて、海に下りる階段は、堤防のように東へ西へ広がっている。正面から眺めると、まるでコロッセオのようだけど、円形じゃなく、湾に沿って弓を描いている。さぁ、月並みだけど夜空を見上げてごらんと、僕が言う。今日は新月ではないはずだ。だって、こんなに明るい。でも、砂浜の感触が僕には感じられない。聞こえるのは寄せては返す海の音だけだ。夜風は音もなく、ひっそりと吹いている。だから、ばかやろーって叫んでやった。ばかやろー海のばかやろー。ついでに、かあさんのばかやろー。

 でも、相変わらず海の音ばかり。僕が聞きたいのはウィスパー。僕の耳元でささやく風の音を掻き消さないで、僕は優しい声が聞きたい。だって、いいかげんに眠りにつきたいんだ。僕はちょっと歩き疲れたよ。でも、すべて命あるものは海に還るなんて、そんな意地悪は言わないでくれ、ウィスパー。もともと僕には命がなかったのかもしれないと思ってしまうから。僕は少しだけ悲しくなって、今夜はもうこの辺で引き返すことにする。でも、まぁ、こんなふうになっちゃったけど、僕、散歩は好きほうだよ。ただ、ちょっと今夜は疲れているのさ。夜風にあたるのもきっと好きだ。だから僕は、裕次郎みたいに、夜霧よ、今夜もありがとうって歌いながら歩いていただけなんだ。それなのに、アネモネみたいに茎が太いコスモスと、棘がない薔薇がたむけられた。萎れない花束が色褪せていく。でも僕は知りたくない。季節が変わって行く。でも僕は知りたくない。騒がしい夜風はいいろと僕に教えてくれるけど、でも僕の友達はあくまでウィスパー。僕はおせっかいな夜風には聴く耳を持たない。あのひとは、何故、枯れていく運命を背負った花をたむけてくれないのか。そんなことを思いながら、僕は今でも毎晩のようにあの横断歩道を渡って、アネモネのような太い茎のコスモスと、棘のないレモンイエローの薔薇が色褪せていくのを眺めている。


 

 





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0112 なちゅ

帰ろう
 

イカダで夜風に乗ったら

独りでいるのを忘れた気分になった
星みえる町に
何処に寝床
雲も足音もランプも忙しい
ふと立ち止まり
今聞きたくはないデジタルの鳴りで
目が覚めても

寄るところは寝言が弾むところ

「降ります」

 

 





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0115 伊藤 透雪
http://tohsetsu.exblog.jp/

秋色の夜風
 

いつの間にか 秋色に変わった風が
耳の縁をつたって流れていく

ほおを額を 涼やかに通りすぎ
夏の火照りを さましていく

虫の音に気を取られているときも
通り過ぎる車を避けているときも

秋色の夜風は さらさらと流れゆく

風の音を聴こうと 耳を澄ますと
ふふと 笑うような音がする

木々の葉ずれの音になりながら
どこまでも 流れ飛んでいく

秋色の夜風 流れ飛んでいく

 

 





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2004/9/15発行

詩集の感想などGuestBook
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(編集/佐々宝砂・遠野青嵐)
写真・ページデザイン/芳賀梨花子 )