(c)蘭の会 22004年7月詩集「みどり」





みどりの人  ミドリンガル  「緑の風」  ワンピース  
青葉の人  木陰の恋人  グリーン・グリーン  
緑のために    








0023 ナツノ
http://www5.plala.or.jp/natuno/brunette/brunette_top.htm

みどりの人
 

みどりの人はそこにいた。樹と空を見上げる人の瞳の中に、木陰で汗をふく人の視線の先に。風の通り道に立つと、そこだけは不思議と時がゆっくり流れている。トラ猫が目を細め、ポストの下にしゃがみこんだ仲間の姿をじっとみつめていた。それが彼女だった。

午後2時、太陽が右に傾き、キンモクセイとライラックの木々の上に移動する。ポストの辺りは、葉が風に揺れ、木洩れ日がキラキラと輝いた。そよ、と吹く風に、下草のそれぞれや、小さな花も木洩れ日に揺れる。そしてあたり一面、ここは光と葉のダンス会場となった。

春、もうすでに一度、花を落としたのよ、それから…またこんなに小さな芽が出てくれたの。誰も頼みもしないのに…この草は働き者だね、それとも、何度も芽を出す事は、草花たちにとっても、喜びなのかしら。こおしている時、とても満たされた気持ち。土と、草と、風と、自分は同化できる気がする。季節の若芽を見つけるといとおしい。人間の暮しで感じる事のない、この世との一体感。

あなたも、そこのビンの中から、無限に「満足」が溢れ出るとは思わないでしょう。手にした「満足」だって思ったとおりの形ではない。わかっていても人は望むのよ…。欲がなくちゃ生きていけない。あっという間にしぼんでしまうスフレのように、後悔する事もわかっていても。しあわせの形は人それぞれだけど、欲のニオイのするしあわせは、どれも後悔がつきまとう。

人は水に解き放たれた魚のように、何にもとらわれずキレイに無心になりたいと思う。天の国の扉が、自分にとってきっと軽いものである事を望むでしょう。けれど身体の中の欲は決して消えないから悩みもだえる。私もそう。植物や作物に農薬をまかなくても、地球の行く末を憂いても、車の鍵は持っているしね。帰り道、アクセルを踏めば地球の空気を汚しているの。簡単にいうと、つまり人はそんな風だから…

自らの種を絶やさないために、モノを造りモノを壊す。潔さを失った時から、地球に友好的な生き物ではなくなった、まして地球と同化するなんて。
逆光の中、立ち上がった彼女の背中は光に溶けた。褐色の肩にかかる緩やかにカールした髪をそっとはらう。誰もが納得する道筋など無い。純粋に種を守るために戦う生き物であれば、神様も許してくれるだろうに。

道ばたの雑草でもいい。ただ芽生え、花を咲かせて、種をつけ枯れる。その姿は美しい。「ある人が、生まれて生きてそして死にました。」そんな物語でいい。
ボクはつぶやく。仙人のように生きろというのかい? 出来やしない。人間はもう、走り出してる。それが破滅への道だろうと。神さまは何もしてくれやしない。人間が自分で、自分達の始末をつけるのを、ただ見守っているだけだ。未来永劫、生きとし生けるもの、地球ファミリーなどありはしない。

突然、ザザ。と辺りをかき混ぜるように、ケヤキの大木が、広げた太い首を大きく揺らした。ブルネットの瞳は、喋りすぎた午後を少し悔やんでいるようだった。いつの間にか、辺りは湿った夕方の風にかわっている。何もかもが興ざめしたように、昼間の色を失い、早くも宵の紫のベールが、草むらのすみっこから広がり始めていた。

ぬるくなった水のボトルを飲み干し、足元を確かめ、歩き出す。さよなら。会いたくてここらを歩いていた。さあそろそろ出しっぱなしのウサギ達を家へ入れてやらなくちゃ。小松菜とトマトを買って帰るよ。ウン。そう、多分、無農薬のお店で。


 

 







0043 鈴川夕伽莉

ミドリンガル
 

(一)

窓の外には隣のアパートの
野ざらしの階段です。
寝静まる闇の囁くような轟音の
出所は隣の地下のライヴハウスです。
この街のちょっと有名な場所だと知ったのは
引っ越してきて数ヶ月の過ぎる頃でした。

半年に一度くらいは両親が訪れます。
休みの取れないわたしはほとんど相手をせず
両親は平安神宮やら北野天満宮やら
散策に出掛けては
さくらんぼ(左近の桜から落ちた)やら
梅の枝(道真公の梅園に落ちていた)やら
拾い集めては得意げに示します。
それらは国道四十一号線沿いの名もない里に運ばれ
うららかな風で呼吸するうちに
ひょっこり若い芽を吹いたりするのです。

おまえも、みどりがないのは寂しいに違いない。

そういって両親が持ち込んだのは
ポトスの鉢植えです。
両親が手塩にかけたものでなく
そこらのホームセンターの安売り品だったので
わたしは安心しました。

冗談じゃない、やっとみどりから逃れられたのに。



(二)

小学生の頃、クラスでめだかを飼っていました。
理科の授業の一環でしたので、水槽の掃除係は特に決まっておらず
そのうちものぐさなこども達によって放置されました。
ある日、ガラスに粘液にくるまれた卵がへばりついていました。
わたし達はそれらがめだかの卵であると信じてスケッチをしましたが
本当はめだかをさしおいて繁殖したタニシの卵でした。
それに気付いたわたし達は、水槽の掃除をしました。
そしてタニシをひとつひとつつまみあげ、
全部ベランダに叩き潰したのでした。

こまかい藍藻類の増殖も観察されました。
いわば水槽の雑草と言えますが、
それらは水中の酸素を奪うことで
水槽の動物の生存を脅かすのだそうです。

タニシを殺した空は雲ひとつありません。
地上は水の底であるべきなのかも知れません。
藍藻類の萌える。



(三)

こころは階段を踏み外し
ボタンを掛け違え。
段差に潜むくろぐろとした穴は
日に日に膨らみます。
ラピュタが来るのを待つため
空を見上げます。

北向きの窓の外には先ず水田
国道四十一号線のノイズ
以外の音をほとんど奪われて
隣の屋根とふたつ隣の民家
を越えたら山が連なって
まるで水槽の淵のように見えます。
切り取られ水面となって揺れる
青さに足許を掬われるのですが
実際のところ満足に
飛ぶことも出来ません。

ラピュタが来ないのなら
水槽の淵で死にたい。
蔦に絡まれ苔に侵され
土に埋もれたい。
最終的にきれいな空気になれれば
風も呼べましょう。



(四)
 
 窓の外の薄っぺらい鉄製階段を
 蟻ん子のように行ったり来たり
 せわしない足音が続きます。
 向かいのアパートの住人が
 引越しをするようです。
 
 遮光カーテンの外はどうやら
 うららかな日曜日。
 光合成に勤しみたいところですが
 この部屋の住人は
 私に水もくれずほっぽり出したまま
 朝も早よから仕事に出たきりです。
 
 ペパーミントの亡骸が
 やはり放置状態で
 私の隣にあります。
 彼女の父親が性懲りもなく
 また鉢植えを持ち込んだのですが
 私のような虐待に強い植物でなければ
 この部屋に棲息するのは難しいでしょう。
 
 彼女は自分の部屋を満足に掃除する
 余裕もありません。
 私のみどり色は
 彼女のささくれ立った神経を
 逆撫でするようです。
 
 
 ああ おまえはまだ いきているのだね。
 
 或いは
 
 ああ おまえはまだ いきていてくれるのか。
 
 
 彼女は帰宅してもこころの休め方を知らず
 張り詰めたまま暫く放心し
 突然折れるように眠りに就くのです。
 
 
 ああ きょうも みずをやらなかったね。
 ざんこくな わたしなど しんでしまえばよい。
 
 或いは
 
 ああ きょうも みずなどやるものか。
 そのまま いつまで いきていられるか。
 
 
 アパートの窓の外が空に通じないのは
 彼女にとっては幸いなことでした。
 たとえ住人が引越してしまっても
 ただの空き家でも
 そこがみどりでなければ良いのです。
 
 取り敢えず今日は生きてみようかと
 思えるらしいのです。
 
 
 
 

 

 







0089 椎名はづき
http://e-o-k.gonna.jp

「緑の風」
 

「あー、青い空がキレイですねえ!」
千葉生まれの後輩がつぶやいた。

鹿児島の南端の田舎町
三方は山、残り一方は川の
コンビニもカラオケもおしゃれな店もない
自然だけが売り物の小さな町

この町で生きることを決めた私たちには
それは「あって当然」の風景

一点の曇りもない青い空の眩しさ
空に向かって立つ草木の緑の鮮やかさ
木々の緑を含んだ風のさわやかさ
誰にでも手に入れられるものではない
この美しい自然のなかで暮らすことが
何物にも替えがたい贅沢だということに
きっと誰もが気づいていないのだろう

だけど今 目の前に広がる景色は
何十年か前なら 何処の街でも見られた風景

大地をかける緑の風に吹かれよう
今ここにある景色が
「あたりまえ」なのではなく
こんな綺麗な自然のなかにいることが
しあわせなのだと感じながら

 

 







0096 土屋 怜
http://choice.gaiax.com/home/trei5960

ワンピース
 


オリーブみたいな手足のアタシ  

まいにち プールで浅黒い

母が編んでくれたの深緑ワンピース

 ーありがとう おかぁちゃん

がっこに はずんで着ていった

 −あっ、キューリだぁ

その日から アタシのあだ名は ”キューリ”


こんどは クリーム色のワンピースよ

 −や〜い!キューリが変色したゾー

どっちにしても あだ名は”キューリ”


それから みどりの服は着なかった

  けっこう好きなんだけどな

  精々しい 緑

 

 







0097 陶坂藍
http://www.keoyon-44.fha.jp/

青葉の人
 

いくつもの花咲かせ
青々と
みずみずしく
ぴん、とまっすぐに
葉脈を伸ばす

あなたみたいに
清々しくは
生きられないけれど

それでも
憧れずにはいられない

遠い異国の
砂漠の地
亡き同志の遺志を継ぎ
新しい
種子を送り届けた
緑のひと

なぜだか
あなたは
日差しにきらめく
緑の葉に似てる

なぜかそう思う

 

 







0099 叶

木陰の恋人
 

君が落とした小さな種が
僕の中で芽を覚ます
君の表情が変わる度
ときめきがキュンと膨らむ

抱き締めたいとつるを伸ばして
ハートをがっちり締め付ける
柔らかい切なさは
トゲのように甘く痛い

髪が風に揺られる度に
ざわざわ心も揺らされる

君の木陰になれるように
いっぱい開いた緑の傘で
空を塗り替えてみせるから
あと少しだけ側に来て

愛しさが君の背を越して
木陰ごしに抱き締めた

 

  叶 さんの詩はこちらのHTML版でもお楽しみいただけます。







000a 宮前のん
http://www31.ocn.ne.jp/~mae_nobuko/

グリーン・グリーン
 


すいませんそのミドリガメを下さい
小さくて可愛いの

いえいえ売れません

どうしてですかここペットショップでしょ

ええそうです玩具屋さんではありません

だったら売って下さい

その水槽の左下を見て下さいなんて書いてありますか

えっと成長したら25〜35センチ

そうですそれくらい大きくなります
カメは通常自分の体長の50倍の広さの水槽がいります
あなたにそのカメを買うだけのプールを作る財力がありますか
何があっても最後まで飼いますか
そのミドリガメを絶対に捨てませんか
夜中にこっそりと公園に行って
びくびくしながら噴水のある池なんかに放しませんか
その時私の顔思い出して思いとどまりますか
悲しそうな眼で見上げたカメをおいてきぼりにしませんか



うちはペットショップです
玩具屋さんではありません



ありがとうございました



 

 

 







000b 佐々宝砂
http://www2u.biglobe.ne.jp/~sasah/

緑のために
 

温室の入口にある日章旗の
赤い円を凝視する。
凝視する。
ツと目を逸らすと、
隠された神の緑があらわれる。

それで緑のためには赤が必要なのだと知った。

穴を掘るのは重労働だが
いつものことだ。もう慣れた。
穴にはいつものように贄を放りこむ。

失禁のため黄ばんだスカートは気に入らないが
くまなく赤く染まったブラウスはすばらしい、
神はそれをお気に召すだろう。

 

 







000c 芳賀 梨花子
http://rikako.vivian.jp/hej+truelove/


 

<tt> 柏餅を角のお菓子屋さんまで買いにいってちょうだい。あけびの弦でできた買い物籠と、臙脂色したがま口を渡された日から、この町には夏がやってくる。この季節になると人が多くていやねぇ。お菓子屋のおばちゃん。でも、まだ、海水浴場には海の家がないよ。だって、本当の夏が来る前に雨がいっぱい降るんだもの。西浜橋を渡って、小田急線の踏切を渡って、海岸までお散歩するのが楽しみ。麦藁帽子をかぶって、お手々を繋いで、少し大きなビーチサンダルばたばたさせて。明日天気になーれ。すごく日に焼けて、肌がまっかっかになった人たちとすれ違う。江ノ電にのっておうちに帰る人たち。今日はお暑うございましたね。でも、明日からしばらくお天気が悪いみたいですよ。ほらね、ビーチサンダルは裏返し。でも、いいの。どうせ、プールの授業は見学しなくちゃいけないの。白地に水色の小花プリントのワンピース、胸元のシャーリング、お気に入りのおリボン。このお洋服を着た日から私の夏が始まるはずなのに、5センチも背が伸びてしまいました。今年は無理ね。いやだ、いやだ、これがいいのと駄々をこねるには、すこしお姉さんになりました。だから、今年の竜口寺のお祭りには新しい浴衣を用意してね。金魚の柄の浴衣。ほら、商店街の呉服屋さんのショーウインドウに飾ってあったでしょ。帯は紺色だったけど、わたしピンクがいいわ。ねんねんころりねんころり、お昼寝に、もう子守唄はいらないわ。どうして、おうちには縁側がないの。風鈴ちりんちりんならないの。風がないでいるから、今日は湿気ていていやねぇ。畳だったら気持ちがいいのよ。あら、ごめんあそばせ、あいにくおうちには畳はございませんのよ。さぁ、もう、寝なさい。起きたら西瓜を切ってあげるわ。たらいで冷やしておくわ。さっきお酒屋さんが氷を届けてくださったから。あと三日で夏休み。ラジオ体操には行かないわ。だって早起きしたくないんだもの。はい、はい、わかったからもう寝なさい。起きたら西瓜を切ってあげるわ。よく冷えた西瓜を。</tt>

 

 



















2004/7/15発行

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(編集/佐々宝砂・遠野青嵐)
写真・ページデザイン/芳賀梨花子 )