2004年4月詩集 「制服」 (c)蘭の会













感傷的天気  ロッカールームレジデント  選ばれてるのは、どっち?  
背中  ヒメ。  びりびり制服  制服  セ イ フ ク  
脱皮  春一番  仲間はずれ  服は人なり。  
葉桜の頃  















0015 丘梨衣菜

感傷的天気
 

学生のころ好きだったアイドルの歌
散歩しながら口ずさむ
桜降る道を

あれから何年もこの道を通って
同級生たち
どこかへ消えていった

友達でもない
ただのクラスメイトだなんて
欲しかったボタンと言葉
一歩も踏み出さずに
強い風が花を散らす

そのフレーズにくると
何かが喉につかえて
歌えない
過ぎた道を振り返っても
無くしたものが何だったのか

走り出して
どこかへ続くドアを開けて
選ばなかった日常には
けして戻らない
同じ風が吹くたびに

強張った手を握り返す
あたたかい小さな手
白い歯見せて
つなぎとめる

わたしだけの
重い錨

 

 











0043 鈴川夕伽莉

ロッカールームレジデント
 


ダーリン 更衣室の窓辺で
キーボードを叩く
夜空から地上7階に吹き込む
風がブラインドを揺らす

ダーリン 白紙のままの
学会原稿と
帰宅する気力の
残らない身体

仕方なく詩を書いてみる訳だよ
鉄錆ロッカーに隠した
アルカリイオン水
低用量ピル
ホルモンのバランスに
気を遣うなんて発想のない社会を
前世代の人は男社会と
名付けたのかしら

ロッカールームの住人に
なってしまいたい
唯一のシェルターで縮こまり
チョコレートを齧る

ダーリン 40時間働けば
瞼以外も重いね
一週間は始まったばかりだし
病棟の子供達はくるくる表情変える

ダーリン 上司に言われたよ
医者は身体を削ってなんぼらしいよ
それって自己満足?
客が満足してなんぼなのでなく?

理想主義とか経験不足とか
鉄錆ロッカーに隠した
アルカリイオン水
SSRI
涙を止めるクスリって
開発されないの?
副作用とか全部自己責任で
治験協力するよ
ドクターコールは終日鳴り続け

ロッカールームの住人に
なってしまいたい
「今年は結婚して出産なんて止めてな
 本気で病棟が回らなくなるから」
部長にそんな相談した覚えありません

女医の白衣が四着揺れている
就業7年目、循環器内科医
5年目、消化器内科医
3年目、耳鼻科修練医
2年目、小児科研修医の私は
今日も更衣室で転寝
帰宅前の先輩はこんな風に言う
「鈴ちゃんブっ倒れる前に
 わめき散らしなさい」

ダーリン どうしたら先が見えるかな
取り敢えず体力が欲しいと思ってしまうけど
それは根本的な解決ではないよね

ふたりで私の実家に行こうって
折角決めたのに
時間作るのが難しくってごめんね
二人暮らしの計画も遅々として
あなたが同業者で良かった
たまたま会えた日に私が生理でも
眠るまでおなかさすってくれるような
人で良かった

今夜はあなたが当直で会えないので
もう少し転寝してから帰ります
今日みたいな日は
ユカリでもなく鈴川先生でもない
トランジットに住みつきたいのです

 

 











0067 ワタナベトオコ
http://cap.10gallon.jp/breakthrough/

選ばれてるのは、どっち?
 

制服のデザインで受験校を選んだ彼女

第二ボタンをあげた経験があると今でも自慢する彼

「制服なんてダサイわ」なんて言ってたくせに
バーゲンの時にだけ有名ブランドに店に行って買い込み
ディスプレイのままの状態でしか着こなせない私

何年経っても囚われの身の上の人達

 

 











0069 ひあみ珠子
http://members.jcom.home.ne.jp/pearls/

背中
 

とんでもないのに惚れちまったもんだ
と嘆きながら
口元はいつもほころんでしまう

その後
数ヶ月もの間
涙にくれた結末を迎えたというのに

思い出すのは
ずーーっと昔
席順が偶然前後ろになったときの
あなたの背中
詰襟の広々とした背中
何かと理由をつけては突っついてた背中
国語の時間に
「二葉亭四迷は『くたばってしまえ』なんだよ」
と振り返って教えてくれたのは
あの席に座っていたときのあなただった
私語を慎めるような席順じゃなかったね
(そんなこと覚えてそうにない人だけど)
デビューしたてのマドンナのこととか
バスケットボール・マガジンのこととか
自転車通学の悲しい定め・ヘルメットを
被ってなくて「捕まった」のが同じ日だったこととか

とんでもない奴で
いわゆる不良で
でも大勢でつるんだりしないとこが良かった

でも結局
私たちもオトナになっちゃって
人生の節目とか生々しいことを考えなくちゃ
いけなくなって
それで結局
ついていけないって
私が思ったのは
初めて会ってから何度目だっただろう
それでも
ついに結局
業を煮やしたのは
あなたの方だった

最後の電話で
泥酔していたのは何で?
「もうあの頃とは違う」って言ってたくせに
何で?

ううん
もう何ででもいいと思っている
アルコールとかセックスとかが似合わなかったんだよ
きっと
たくさんの時間が流れた
何事もなく流れた
こんなにも違う私たちを
つなぎとめていたのは
ただ
同じ学校の制服だけだったのかもね

 

 











0072 諦花
http://www.another.jp/rental/diary/top_frm.asp?ID=teika

ヒメ。
 

可愛い服が着られないなら
生きてる意味はないと思った
リクルートスーツに耐えられず
就職活動0回の
フリーター

お金のないお姫様は
それでも頭にティアラを載せる
たとえ昨日の夕食が
おにぎり一つ
だったとしても
ドレスを買うのはやめられない

「あたしは自分以外には
なんにもいらないと思ってた
誰かに愛されたいと
思うときもあったけど
自分を誰かにあげてしまうのは
もったいないって思ってしまって
たぶんあたしは誰かに微笑みかけるのでさえ
もったいないって思ってたんだ」

たぶん
いつまでも
お姫様ではいられない
鏡に映る自分の顔に
きっとティアラが似合わないと
思ってしまう時が来る
「だからこそあたしは
毎日
毎日
ドレスを着るの
微笑みを
大事に
大事に
宝石箱にしまうの」


コンビニのバイトは
笑顔は建前で
無表情な店員に
嫌味を言う客がいても
お姫様は汚れない
制服が汚れても
ピンクのドレスは汚れない
朝の5時
バイトが終われば細い体に
レースのショールを巻きつけて
8cmのヒールを履いて
きらきら光るティアラを載せる
たとえ四畳一間の部屋に
転がってるのは欠けた茶碗でも
お姫様は泣いたりしない
ミルクしか飲んだことのない
どこかのきれいなお人形のように
ばら色の頬を朝日に染めて
可愛い声で歌うのです

「あたしはあたしがいさえすれば
他にはなんにもいらないの
自分の小さな唇を
ずっと見つめてればそれでいい
誰かの言葉なんていらないわ
愛されたいなんて思わない
思ったりなんかしないから
淋しくなんかない。」

「悲しくなんてないの。」

 

 











0083 栗田小雪

びりびり制服
 

りんごを食べたら前歯につまって
あなたのかさぶたの塩っからいざらざらした感触を思い出した
あなたは顔をしかめて小さく声をあげ
あたしはかさぶたをぺっと吐き出した
びりびりに破いた制服がひらひらゆれて
ああ私立の高い高い制服を
なんてママに怒られるんだろうなあとか思いながら
腕を切って指にたっぷりと付けた血で職員トイレの壁に死ね死ねってらくがきして
また現実との間に距離ができた
まっくろに体を焼いてまっしろな髪にしても
どうせみんなと一緒になんてなれないから
あたしは白雪姫みたいに肌が白くて髪もつやつや黒くて
顔も可愛いしちゃんとお風呂にも入って臭くないから
あたしのまわりにいるのは7人の小人なんかじゃなくて
金持ちの御曹司とか俳優の息子達だ
とゆうのは嘘で、ちょっとかっこよくて自信たっぷりの
女はみんな俺とやりたいと思っていると勘違いしている男の子ばっかりだ。
それでもやっとあなたに出会えて運命だわと思っていた矢先に
なぜかあんたはブスのくせにエロい英語の先生とキスしてるし
男なんか信じらんねえと思ってるあたしも他の男とやりまくりで
もう全部いやになったから制服を脱いだ。
理解してくれなくてもいいわ、
あたしはあたしにしか見れない世界を見るの。
なんて気持ち悪い言葉を自分に言い聞かせながら
ぜんぶから逃げた。

 

 











0089 椎名はづき
http://e-o-k.gonna.jp/

制服
 

あの頃の私と同じ制服を着た
後輩達が通り過ぎるのを
車の窓越しにぼんやりと見送った

創立以来変わらない
雑誌なんかには絶対載りそうもない
古めかしくて好きじゃなかったあの制服が
今はなんだか懐かしく素敵に映る

今だからわかる 
あの頃は何もしなくても
誰もがみんなきらきらと輝いていた
毎日が楽しすぎて
いつだって笑顔でいられた制服の頃
もう二度と帰らない 16歳から18歳の日々

制服を脱ぎ捨てた私たちは
化粧もおしゃれも恋も覚えたけれど
あの頃の素直さまっすぐさが放つ
まぶしい輝きは取り戻せない

 

 











0096 土屋 怜
http://choice.gaiax.com/home/trei5960

セ イ フ ク
 


コノクニノニンゲンハキチョーメンダ
ナンデモカタニハメタガル

カタドウリニスレバ
ソレデコトガオサマルトオモッテイル
トクニガッコウトナノツク
トコロハ・・・

制服なんかキライ
なんで あんな不衛生で
肩のこるものを着なきゃならないの

ダレが決めたの
いつからなの
なんの為なの

あたしたちを セイフクした
優越感を味わいたいだけでしょ

 

 











0097 陶坂藍
http://www.keroyon-44.fha.jp/

脱皮
 

ごわごわとした
紺色のさなぎに
欲望を封じ込め
時が来れば
なにもかも
開放できると思っていた

でもそれは幻想で

さなぎの色が変わった以外
何も起こらない

その手で破り取らなければ
何も始まらないと
知るほどには脱皮したけど

 

 











0099 叶
http://www.geocities.jp/sirotanhouse/page049.html

春一番
 

春風は恋の罠
見慣れぬ服を着たきみと
いたずらに吹いた春一番

萌える桜は恋の夢
ときめく香りを膨らませ
つぼみに秘めた夢を見る

春風がきみを連れて
僕の世界に恋を灯した

春眠のうららかな空
不意打ちのきみの香り

頑なだった枝先は
春風のキスでほころんだ

 

 











000a 宮前のん
http://www31.ocn.ne.jp/~mae_nobuko/

仲間はずれ
 


目が醒めて
パジャマのまま階段を降りると
父さんが制服を着て
新聞を読んでいた
母さんも制服のまま
朝食の支度をしていて
犬のラッキーも制服で
ドッグフードを食べていた
家族で私だけ制服じゃない
制服じゃないのであわてて
駆け上がって捜したけど見つからない
仕方なく普段着で外に出たら
隣のおばさんも制服で掃除
角の牛乳屋さんも制服で配達
鳥もネコも街路樹まで制服姿
街中で私だけ制服じゃないなんて
悲鳴をあげそうな口を押さえて
電信柱の陰で震えていたら
向こうから制服の新聞配達のお兄さんが
思わず飛び出して立ちはだかって
自転車ごと突き飛ばし


気を失ったお兄さんの
無理矢理に制服を剥がして
サイズが違うのもお構いなしに
あっと言う間に
着替えてしまった




 

 

 











000b 佐々宝砂
http://www2u.biglobe.ne.jp/~sasah/

服は人なり。
 

どれだけ制服を着てきたかわからない。

中学の紺のセーラー服、
高校の襟元あいた黒のセーラー服、
大手スーパーの制服、

化粧品工場の作業服はファンデーションと口紅だらけ、
煙草工場の工人帽はヘビースモーカーにも耐え難い悪臭、
運送会社の作業服ときたら一日でまっくろけのけ、
ラーメン屋のエプロンは油染みだらけ、
魚屋のエプロンはビニール製で血でびしょびしょ、
寿司屋のエプロンと帽子は紙製で、
書店のエプロンには「栄養と料理」と書いてあって、
一日限りのサクラのバイトはなんと喪服が制服で、
あは、そういや、
白衣着て偉そうに顕微鏡覗いたりもしたし、
警備保障会社の制服着てふんぞりかえったこともあるし、
ミニスカ履いてウェイトレスやってたこともある。

人は服で人をみる、
制服なんてコスプレだ。

なんならミニスカポリスをやってもいい、
私には公務員免許がないけど、
なんならセーラー服を着てもいい、
私は三十六歳だけど。

それでも人は服で人をみる、
話は簡単、
制服があるなら話は簡単、
たいていのものならなんにでもなれる、
たいていのことならなんでもできる、
服は万能だ。
服は人間だ。

自分を変えたくなったら、
着替えりゃいいのだ、簡単だ。

私は毎日服を着替える、
ころころころと自分を着替える、

昨日は白衣を着てお注射しましょ、
今日は警官なので逮捕してあげます、
明日はきっとメイド服だから、
「あらんいやんご主人様!」

なんだって着てやります。
着ろというならなんでも着ます。

でも詩人には制服がない。
ないんだよ。

 

 











000c 芳賀 梨花子

葉桜の頃
 


なきむしいもむし

君はいつだって葉桜の頃に歩き出す

ひとつになるすこし前

君はつたい歩きをやめた

あゆむいもむしなきむしいもむしあゆめばころぶ

いつまでもはいはいしていろなきむしいもむし

しりもちついてもいたいいたいない

おむつの利点

息子よ恩恵に甘えるな

なきむしいもむしおまるでうんち

幼稚園におむつをしてくる子もいらっしゃいますよ

だいしょうぶぼくおむついらないもん

なまいきななきむしいもむし

でもときどきよいこ

いもむしよわむしなきむしいもむし

歯医者さんはこわいこわいよ

虫歯がふえるから今日から麦茶

あいすくりーむもなし

いやいやあいすくりーむちょうだいちょうだいよ

なきむしいもむしかんしゃくおこす

おまじないおまじないよくきくおまじない

なきむしいもむしかんのむしなんてはじけてとんでけ

よいこわるいこなきむしいもむし

でもままのみかた

ぼくはおおきくなったらどんぐりになる

そんなにちっちゃくってもいいんだ

なきむしいもむしよ

せめて夢だけでも大きく大きく持とうぜ

じゃあ、やっぱりぼくまつぼっくりになる

大きさの観念

言葉の理解度

成長していく

いちたすいちがわかる

じゅうたすじゅうもわかる

ひらがなカタカナ

はじめにもどるのはすごろく

なきむしいもむしはすすむ

また巡る葉桜の頃

もうすぐ君はななつになる

紺色の後姿

見送ろう

手は差し出すまい

なきむしいもむしはあゆめばころぶ

でもいつか君は空を飛ぶのだから

 

 















2004/4/15発行

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