2004(c)蘭の会2月詩集「Sweets」
























数え唄  サイクル  詐欺師  沈丁花  忘却  
甘い妄想  いちばん好きなひとには・・・  
甘いものはキライ   Bitter Sweet  
秘密  早春歌   















0005 しえすた

数え唄
 

貴方と出会ってから
流した切ない涙や
ふと漏らしたため息や
零れた笑顔が
私の掌の中で
まるで小さな子供の宝物
たくさんのドロップのように
甘かったり赤かったり
酸っぱかったり黄色かったり

私は時々掌の中の
小さなドロップの粒を
ひとつひとつ数えて
幸せってこんな風に
積み重ねていくものなんだと
想い出ってこんな風に
輝くものなんだと
泣きたいような笑いたいような
くすぐったい気持ちになる

 

 











0015 丘梨衣菜

サイクル
 

歩道橋のてっぺんで夕日に背を向けて
暗くなるまで車が流れるのを見ていても
大丈夫

病んでない
べつに
まだ飛び込んだりしない
冷蔵庫にはプリン

派手にころんだ
乾ききらないアスファルト
保護色のコートはどろどろ
でも心配いらない
冷蔵庫には

留守電のライト
点滅と一緒に脈打つ心臓
一件録音
「今日も私は一人ぼっち?」
ピーッ
冷蔵庫にはプリンが

スプーンをさがす手が震える
歩き疲れた足は根もはえている
樹齢35年もうすぐ枯れる
ダムは決壊し
洪水でマスカラは流される

買い込んでしまう
賞味期限の切れたプリン
目を凝らしにぎり締めて
襲い来る冷気の前で想像する
苦いカラメルの味

夜に浮かぶ白い影と息
青信号から赤信号から青信号から赤信号
横断歩道の端っこ
じっと立って車のスピード何度確かめても

大丈夫

 

 



























































































000c 芳賀 梨花子
http://rikako.vivian.jp/hej+truelove/

早春歌
 


高校二年生の冬、谷川岳で幼馴染が遭難した。きっと、眠っちゃいけないと眠っちゃいけないと思っていただろう。その日の朝刊で捜索が打ち切られたことを知った。

初恋の人は学校を辞めて谷川岳に彼を探しに行った。私は止められなかった。止めようと思わなかった。一緒に行きたかったけど、一緒に行けなかった。だから現国の授業のとき泣いた。世界史のときも数Uのときも、化学式を覚えるときも泣いていた。もう、ノートをとってあげなくってもいいんだ。

お昼休みに購買で菓子パンとイチゴミルクを買っているときも、彼は彼を探しているんだ。

彼は雪の中で眠っているんだ。彼は雪の中で眠っている彼を探しているんだ。

通学路を歩く、歩く、歩く。

彼は雪の上を歩く、歩く、歩く。

春になって、早く春になればいい。そう思っていたけれど、だんだん、私の普段から彼らが遠のいていくようで、もしかしたら、いつか忘れてしまうのではないかと怖くなって、期末テストの前の日に上野駅から電車に飛び乗った。

湘南電車と同じ色の電車。ほんとうに彼のところへ行けるのかな。駅弁を買うお金もなく、ましてやテニスシューズを履いた私が彼等のところへ行けるのかな。関東平野って広いんだなぁ。車窓からうすらぼけた地平線。だんだん稜線になっていく。窓が曇る。高崎駅で乗り込んできた大学生風のグループ。スキーに行くのかな。だけど、私の隣の席は座る人がいるの。だから座らないでください。外気温が下がったのか、白く曇る窓に消えかけてゆく稜線。私はそれを守らなくてはと必死になる。でもそのうち抵抗むなしく稜線は消えた。湘南電車と同じ色の電車と、私は谷川岳に飲み込まれたんだ。

トンネルを越えるとそこは雪国なのだろうか。彼は雪国ではなくどこかに掘った雪洞の中にいる。雪洞の中で眠っているんだ。

龍ちゃん、龍ちゃん、自転車に乗れるようになったよ。補助輪取れたよ。夕方がわたしたちの楽園だった。石蹴りやろうよ。やだよ。ゴム段しようよ。ゴム段は女の遊び。だったら、なにして遊ぶ?だからもう女とは遊ばないの。意地悪、意地悪、龍ちゃんの意地悪。泣くなよぅ。ほら、自転車乗ろうぜ。五時まで、五時まで、五時まで遊ぼう。かごめかごめかごの中の冒険はいつも自転車で始まる。路地裏、がたがた道、大きなわんこのいるおうちは怖いね。いつも一緒、いつまでも一緒、ずっとずっと一緒だよって指切りした。

そのうち、一緒は二人じゃなくて三人になった。
三人はずっと一緒。
いつも一緒。

サイクリング車を買ってもらって、三人で西に向かって走ったね。海岸のサイクリングロードは夕日が沈む道。このまま走っていくと、箱根のお山や丹沢の連なる峰に吸い込まれるような気がして、怖かったから私、二人の男の子の背中を、いつも必死に追っかけていた。ねぇ、ねぇ、待ってよぅって甘えた声を出して、たまに待っていてくれたり、たまに豆粒みたいになっていく二人の後姿に泣きべそかいたりしながら、私はいつも追っかけていた。

だから、今日も追っかけるよ。
二人の背中を追っかける。
待って、待って、私も今行くから。

ねぇ、龍ちゃん、眠らないで、眠らないでよ。

帰りの電車賃で真っ赤な包みのチョコレートを駅の売店でいっぱい買った。

中学二年生のときに、はじめて龍ちゃんにチョコレートをあげなかった。一人だけにあげた、たった一人だけにあげたんだ。三人は二人になってしまうことが多くなって、でも、龍ちゃんと彼は相変わらず仲良しだった。

指切りしたのにね、いつも一緒だって、あいかわらず、私たちの楽園は夕方だけど、かごめかごめの中の冒険は体育館裏にかわってしまった。そして、おさげだった私は髪の毛をショートカットにした。運動部でもなかったけれど、髪の毛を切ったんだ。

二人は同じ高校へ、龍ちゃんは男子校へ。そして雪の中で眠っている。

龍ちゃん、あなたが今目覚めたら、あのころの姿のままなのでしょうか?今も彼は谷川岳にいるのでしょうか?私はママになりました。

息子が一人います。今度、幼稚園で仲良しの雛乃ちゃんとスキーキャンプに行くのですって、あなたが眠る谷川岳の向こう側へ。新幹線に乗るのが楽しみなのか、はじめてのスキーが楽しみなのかわからないけれど、そんな息子を見て、怪我をしないかしらとか、ママがいなくて大丈夫かしらとか、お夕飯の献立のこととか、夫の帰宅時間とか、そんなことばかり気になって、私、楽園だった夕方をばたばたと行き過ぎてしまうの。だから、かごめかごめの中の冒険は外側の敵役なのよ。

龍ちゃん、声を聞きたい。けれど、あなたはずっと雪の中。私、いつかあなたに渡さなくてはいけないの。あの時、私が買った赤い包みのチョコレート。あなたが眠る谷川岳のふもとの駅で買った赤い包みのチョコレート。こらからも大事にしていくつもり。だって、指切りしたから、ずっと、ずっと忘れないって約束したから。





今回の「早春歌」は2002/12 OVER THE SIN(現poenique)投稿掲示板へ投稿したものを、リライトしたものです。

 

 


2004/2/15発行

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