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        蘭の会12月詩集「禁句」


















言わないで  老犬  染みが目立つ  病棟の禁句  
感情教育  「」  ゲーム  きらいなことば  
禁句  プレゼント  無題(秘密の宝石箱は…)  
アレン・ギンズバーグとクリスマス、そして僕のこと
















0005 しえすた

言わないで
 

真夜中
ぺたんと座る冷蔵庫の前
てあたりしだいに
食べ物を口に運ぶ
味わうこともせず
ただ詰め込む
とりあえずこの飢えを
満たさなければ眠れないから

突然
食べることの罪悪感に駆られ
震える足取りで
トイレへと向かう
喉の奥に
指を突っ込み嘔吐する
全てを吐き出してしまわなければ
あたしは醜く太ってしまうから

だけど
身体がからっぽになってしまうと
心まで虚ろになって
耐え難い飢えと渇望が
襲ってくるから
あたしはまた冷蔵庫に向かう

ねぇ わかるでしょう?
あたしはビョーキなの
だからこんなあたしに
頑張れだとか
綺麗になれとか

お願いだから言わないで

 

 











0023 ナツノ
http://www5.plala.or.jp/natuno/brunette/brunette_top.htm

老犬
 

武器を持たず
ぶざまな戦いをくり返し
敗北しては不機嫌そうにハシを動かす
夕げのごちそう時

私の禁句は 悲しい目をした老犬と
神さまだけしか知らない

いつか罰が当たって私は石にでもなるのだろう

私の後ろにポタポタ落ちる禁句
いつもいつも 飲み込んでいてくれる
飼い犬が 急にトシをとったのは そのせいだ

毎日ぬるま湯に浸かりながら
自分を囲うしか術がない
今日も キッチンで 
小さな世界を守るため 禁句を壁に塗りこめる

良心だけを 持って生まれていたら
人はいつも 暗く悲しい目をしていたかもしれないね
じっと誠実に座り続ける この老犬のように。

ワイドショーを見て 玄関先の掃除をし
のうのうと日常を生きている臆病者
そして 
日々の文句は
ゴミと一緒にダストボックスに溜まる

あの人の前で この禁句を吐き出せたら
どんなに良いかと夢見つつ

老犬は そんな私の毎日を
責めもせず 静かに見つめている

 

 











0024 沼谷香澄
http://www.cmo.jp/users/swampland/

染みが目立つ



染みが目立つ人に向かって染みが目立つねと

言ってはいけないのは染みが目立つことが若

さと美の象徴にならないどころかむしろその

対立概念でありリッチでサクセスフルなステ

ータスシンボルになりえないことは言うまで

もなくお生まれのやんごとなさを示すおしる

しにもならないはずであり染みが目立つねと

指摘することは本人が気がついているならば

不幸不満の再確認を促すだけだし気がついて

いないならば新たな悩みの種を植え付けるだ

けだしあなたが目立つ染みを見つけた場面そ

して染みが目立つねと指摘しようとした場面

が公衆の面前だろうと隠れた場所でタイミン

グを見計らってだろうと染みが目立つことに

は何らプラスの意味合いを持たせえないもの

でありあなた自身が染み一つない美しい肌を

持っているならなおさらのこと自身の優位を

確認するためにそんなこというのだろうと相

手に身構えられるのが落ちでありしかし気が

ついていない染みが実はあの恐ろしい皮膚癌

の萌芽だったりした場合にはうーん指摘しな

いと命に関わる問題だけれどもでもああ染み

だと思ってみているそれがただの染みなのか

そうでないのかはお釈迦様でも皮膚科医様で

も本人に告知できるほどの確信を持ってわか

るはずがないのだ見ただけではましてやあな

たが染みの目立つ人の見ず知らずの他人だっ

たりしたひには何よ化粧品でも売りつけよう

ってわけと食って掛かられても仕方ないこと

でありつまり染みが目立つと指摘する行為に

は善意の入る余地はなく指摘する側にも何の

利益もなくだから染みが目立つねという言葉

こそが並み居る禁句のうち最も普遍性の高く

言ってしまったときのばつの悪さに揺るぎの

なく言われてしまったものにとってはせっか

く忘れていた深い長い哀しみを意識の上に呼

び戻されああわたしの染みは目立つのだと再

確認することで新たに輝かしい人生が目の前

に開けるはずはなくむしろその反対でだから

染みが目立つねとは間違っても言ってはなら

ない禁句を代表する禁句禁句の中の禁句一匹

禁句の原に立つ金字塔綺羅星のごとく輝く禁

句のスーパースターそしてわたしの二十年来

の悩みなのだああ今日も染みが目立つがたえ

てご指摘めさるるなゆめ。

 

 











0043 鈴川夕伽莉

病棟の禁句
 

かごめかごめ
病棟で手を繋いで回るよ
籠の中の" "は
いついつ出会う
夜明けの晩に
ちいちゃん滑って音立てた
慌ててみんなでちいちゃんの
お尻を隠して歌い続けたよ
気付かないように
気付かれないように

かごめかごめ
病の子の手を母が取り
父が取り祖父母が取り
きょうだいが取り

後ろの正面だあれ
誰もいないンだ!
" "が顔を上げて
傷つけるべき子を探しても
みんなで目を伏せて
知らないふりしたよ

 何故なら  のイメエジは
 言葉にのぼらなくとも
 確実に蝕むから

 引き金となる禁句は
 確実に排除する

かごめ かごめ
後ろの正面だあれ
誰もいないンだ!
子の耳は塞がれ
歌声は急に膨らみ

たっちゃん転んだら
たっちゃんのお尻を隠せ
気付かないように
気付かれないように

 

 











0059 汐見ハル
http://www3.to/moonshine-world

感情教育
 

潮風の町
煎餅の空き缶の
錆びた縁を揺らす
しわだらけの
よわいエナメルみたいなゆびが
探ってよこした
ねじれたいちえんだまに
ごくたまにまじる
あおくかびたひゃくえんだま
うつりそう
だからすぐに
駄菓子にかえてしまう
ありがとうさえいえない
こどもは

スポットライトは
たしかに
鮮やかに
華やかに
照らしたのに
遠のく拍手
急かす列車
せまる夕闇
ふたつの背中は
ほめてくれない
なにひとつ
訊くことができない
うつむくだけ
あのとき
かたいベッドに
おさまった老女は
のどから管を生やして
まだ息をして いたのに

 ばあ ちゃん

ひとり
ゆびをにぎりしめた
誰にもみえないように
つめをたてた
感情線
きつく
だけど
うすい手相のまま
痛みに涙をこぼして
可愛がられることすら
できなかった
ふかづめの
こども 

  ばあ ちゃん
 
  わたし

黒い金魚の群れ
ゆらゆら
ひくい呪文
しめった煙
無彩色の幻灯機が止まったあとも
待っている
しずかなしずかな貝となって
つめがのびるのを
待っている

 

 











0072 諦花

「」
 

ゆるさない。

百年かけた恋だとしても
全てを分かち合った仲だとしても
絶望の淵から救ってくれた
人だったとしても

どんなに懇願されても
どんな物を贈られても
一生奴隷でいいと言われても
命を捧げると言われて
たとえ目の前で死なれたとしたって

決して雪げない。
魂に刻み付けられて
ただ重くなるばかりの

「」

もし
あなたが
口にした

したならば


 

 











0093 ふをひなせ(guillaumet)

ゲーム
 

だから云ってはダメ

誘って
焦らして
はぐらかす
繰り返し

それが二人の約束
(してないけど)
だから絶対に云ってはダメ

しなだれて
視線を流して
突き放す
繰り返し

それが二人の時間

なのに

このゲーム 負けのあなたに私は負けて
あなたの唇があんまり温かくて柔らかくて
私の唇はどんなだろうって・・・
いや、訊かない

 

 











0096 怜

きらいなことば
 

きらいなことば 「がんばって!」

どう がんばれば いいの?
これ以上・・・

まだ、辛抱して、の
ほうがまし

にほん人が 日常的に使うことばは
どうして 向上心ばかりを
意味する 言葉が、
多いんだろう?

時代についていけない にんげんは
生きるな、、。
と、でもいいたいのだろうか・・・











0097 藍
http://www.keroyon-44.fha.jp/

禁句
 

あの人に
言ってはならない事がある
うっかり口が滑らないように
赤いゴム風船に吹き込んで
固く口を縛っておいた

だけどもしまた大声で
私を刺激したのなら
真っ赤な風船ぱちんと割れる
一番言ってはならない事を
世界中にばら撒きながら
ひゅうひゅる ひゅうひゅる
しぼんで落ちる

それでおしまい
世界の終り
風船は土にも帰れない

 

 











000a 宮前のん
http://plaza5.mbn.or.jp/~mae_nobuko/

プレゼント
 


ほら美奈ちゃん
可愛いドレスでしょうって
フランス人形のような装いが
大好きなのは母だ
全部レースのふりふり
襟元がアトピーで痒くて
首の周り掻き傷だらけ

ママは嬉しいわ
娘が出来たらねえ
色々してあげたい事
いっぱい考えてたのって
誕生日に子犬を貰ったら
あの時は喘息がひどくなったっけ

ねえ美奈ちゃん
ママって理想的でしょう
ママのこと大好きでしょうって
ねえママ
本当の事
言っちゃっていいのかな


 

 

 











000b 佐々宝砂
http://www2u.biglobe.ne.jp/~sasah/

無題(秘密の宝石箱は…)
 

秘密の宝石箱はもうすっかりぶちまけてしまった

どうせみんなまがいもので
いちばん高級なやつでも貝パールに過ぎなくて
いちばん安っぽいやつはきらきらするキャンディの包み紙で
そもそも宝石箱自体が風化しはじめたプラスティックで
パンドラの箱じゃあないものだから
奥に希望が隠れているということもない

要するにもうなんにもなしで
こっちの手の内はもうなにもかもお見せした
私はからっぽになった


 はず だが

  なの だけれど

   だが しかし でも けど 


逆接の接続詞がぶんぶん辺りをとびまわるのはなぜだ
触ると崩れるプラスティックの宝石箱に
まだなにか入っているような気がしてならないのはなぜだ
どうせなにが残っているとしたってまがいもので
思いこみの欺瞞の産物には違いない


 はず だが

  なの だけれど

   だが しかし でも けど 


ああまだしつこく逆接の接続詞がぶんぶん辺りをとびまわる
これ以上告げることはもうこれっぽっちだってありゃしない
だのに告げそこねたような気がしてたまらないのはなぜだ
どうせ告げそこねた気がする言葉なんてありきたりで
クソみたいにつまらないに決まっている


 はず だが

  なの だけれど

   だが しかし でも けど 


それでももしも
そんなことはほとんど可能性ゼロだと思うのだけれど
ゼロじゃないとしても
木星に生命が存在する確率と同じくらいの確率だと思うのだけれど
それでももしもその
クソみたいにつまらないありきたりの言葉を
投げ出してもよいとあなたが許してくれるなら
ほとんど死んでもいいような気がする

 

 











000c 芳賀 梨花子
http://rikako.vivian.jp/hej+truelove/

アレン・ギンズバーグとクリスマス、そして僕のこと
 

言ってはいけないことに
なりつつある言葉があって
もしくは
彼らには意味を理解できない言葉であると
言いなおしたほうがいいかもしれないが
その言葉について
僕は、毎日、考えている、と
序文として書き記しておこう

君が詩を書いていた頃
何人もの神様が生まれたらしいと
この本で読んだけれど
申し訳ないが、僕は、この世を生きていくよ
もしも、この暖かくて素敵な言葉を
手のひらで丸めて飲み込まなくてはいけなくなるのなら
その前に、僕は君の詩集のための栞になるさ
そう決意して僕は席をたった
今日は定時に退社しようと心に決めていたから
僕のオフィスは27階
ちなみに階段は利用したことがない
25階から2階までエレベーターは止まらない
高層ビルって言うのはつくづく親切なのか不親切なのか
ロビー階についてエスカレーターで一階に下りる
一階正面玄関右側には小さな花屋と小さなギフトショップがあって
ギフトショップにはキティちゃんとかのレターセットも売っている
ギフトショップの女の子はいつもふたりいて
背の高い女の子の方は今日はお休みらしく姿が見えない
彼女は鈴木さんといって通りすがりの僕らに「お疲れさま」といってくれる
花屋のおばちゃんは「お疲れさま」と言ってはくれないけれど
彼女は毎日違う柄のエプロンをしていて
僕はそれが楽しみだったりする
今日は緑に雪の結晶のプリントのエプロン
赤でサンタクロースでラブリーじゃなくってよかったと
昼休みに彼女を見かけたときに思った
彼女にとってエプロンは大事なものだと僕は思う
僕は毎日、花屋とギフトショップのある右側を通って帰る
でも、今日はちょっとしたクリスマスプレゼントを買う必要もないので
新聞スタンドとトラベルビューローがある左側からビルの外にでた
ビルの右側から出てきた顔見知りの男は
僕に気付かない
彼は大きなキティちゃんのぬいぐるみと
小さな花束をかかえて足早に新橋駅の方へ
波止場のキティちゃんは子猫なんかじゃないのにな
男の後姿に吐き捨てそうになったけど
そんなことは誰でも知っていることだろうと思って
僕は恥ずかしくなった
本日、僕の思考回路がめちゃくちゃなのは
決してクリスマスを一緒に祝う人がいないからではなく
僕たちの世界が誰もが知っていることを
知らんぷりするからなんだ
だから僕がその言葉について考えるとき
歯医者と一緒にプラネタリウムに居るような
居心地の悪さを感んじてしまう
はーい口を開けてくださいって言われても
そう簡単にはいいなりにならない
僕はそういう人間なんだ
年内には親知らずを抜かなくてはいけない僕だけど
そういう人間なんだ

ビルの外はクリスマスのイルミネーションが
現実に起こっていることを
ひたかくにしにてしまう時間だった
僕は、そんな街をひとりで(君の詩集と一緒だけど)
歩かなくてはいけない
待ち合わせでもしているそぶりをしてしまうのは
僕が少市民だという証で
前言を撤回しているようなものだ
スタバもターリーズも烈しくクリスマスなので
ドトール以外ではコーヒーを飲めない雰囲気
ジングルベルを我慢さえすれば
ドトールのクリスマスツリーは許容範囲内
豆乳入りのコーヒーはいつもとおなじ
でもダイエットシュガーはナトリウムなんだそうだ
塩分の取りすぎにも注意しなければいけないな
今の世の中は、なにはともあれ、まず健康
健康第一だ
ラクトベジタリアンである僕は
朝食時にだけ乳製品を口にする
卵も時たま、ただし無精卵に限る
あの言葉を考えるときの違和感
そのもののブレークファスト
そんなものを毎朝食べているのかと
突然、愕然とする僕
僕はアホだアホタレなんだと
突然、気がついたアホ
ちくしょう、吠えてやる、僕は吠えてやる
誰かに無駄吠えといわれたって
あの素敵な言葉が禁じられないように
僕は吠えなくてはいけない
と思いつつ僕は
豆乳入りのコーヒーを飲んでいる
ジングルジングルしているドトールで
豆乳入りのコーヒーを飲んでいるひとりで

 

 








2003/12/15発行

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