CopyRights2002(c)蘭の会 AllrightsReserved








何も言わずに抱きしめて  
「おしえてください」  
百葉箱  
奥さまに捧げる詩
  
ウィスパー(クラスルーム編/茶の間編)
  
トップシークレット  
聖なる丘を歩くおじさん
  
ないしょ家族  
ないしょだよ。  
わらべうた  
風邪ひき  
かくれんぼ  
アーカム・ハウスの詩の小部屋  
牧羊神の午後への前奏曲  














0001 はやかわあやね
http://homepage2.nifty.com/sub_express/

何も言わずに抱きしめて
 


日々を殺める夕暮れに
そっと耳打ち囁いて

あたしをぎゅっと抱きしめて
もう何処にも行かないと
何も言わずに伝えて欲しい

朝のひよどり唄う日々
あたしのものは何処にある
問わず語りの問いかけに

あなたの声が響くのは
何処にも行けない夕暮れで
あなたの声が届くのは
何処にも行かない朝焼けで

あたしをぎゅっと抱きしめて
何も言わずに抱きしめて

あなたの腕に抱かれて
とろけて消えてしまいたい

 

 











0007 愛萌

「おしえてください」
 





白んだ空へ
伸びた枝先
一番初めに
目覚めた小鳥の
囀りと共に
世界は始まる


光が
全てを包んでいく


そこでは
黒も白も
意味を持たず

何もかもが
ただ輝く


命が等しく在る瞬間





おしえてください
いつか出会う
あなたは


このときに


同じ時間を
ともに歩んでいく
夢の狭間の中に
微笑むあなた


あなたは



どこにいるの

 

 











0023 ナツノ
http://www5.plala.or.jp/natuno/brunette/brunette_top.htm

百葉箱
 

ないしょの話が聞きたければ この 百葉箱の中へおいで
今日一番の特ダネだ
ドキドキ 音がするのは 誰の心臓?
女王様は ぐるりとあたりを見回した。

教えてあげるよ そうしてミツバチたちは次々と
ないしょを抱えて午後の光へ飛び立っていく

おいで 誰にも言っちゃだめだよ
教室のすみっこの机で 知らぬフリ。でもちゃんと知ってるよ。
誰の事? 私にも教えて。
ないしょの味は密の味。パンに塗ったら さぞ美味しいだろう
おいで おいで 百葉箱のなかは大騒ぎ。

あの子が泣いてる
あの子の涙に みんなが集まる 
今日の餌食。 どうしたの? どうしたの?
蜜を抱えて飛んでくる みんなに囲まれ
悲しいはずが ちょっとウレシイ 涙の跡が何だかかゆい

レモン色のカーテン揺らして
6時間目の熱い風が 教室に渦巻く
子供達の目が こころが 古い百葉箱の中 くるくるまわる

 

 











0038 純理愛。
http://koukotu.tripod.co.jp

奥さまに捧げる詩
 

密会
不倫
純愛

指きり
紅い糸
爪を噛む

昨日
明日
明々後日

昨夜
今晩
満月の夜

きりきり
ひらひら
はらはら

ぴちゃん
ぽちゃん
ぐしゃぐしゃ

好き
嫌い
好き

嫌い
好き
嫌い

ここ
そこ
あそこ

どこ
そこ
あそこ

あなた
お前




密会

美人
不美人
三枚目

新宿
浅草
六本木

ホテル
旅館
公園

「好きよ」
「好きだよ」
「愛してる?」

「愛してる」
「本当に?」
「愛してる」

言わせて頂戴!

毎日聞いてるこの台詞
毎日聞いてるこの声
奥さん本当にごめんなさいね
一生一人だけを愛すなんて無理な話

奥さんそんなに旦那がお好き?
あたしも奥さんの旦那が好きよ
なんて言えれば気持ちいい
しかし、言ったら愛せない

「ないしょ?」
「ないしょさ」
「ないしょなのよね・・・」

ないしょがいいわ
ないしょが好きよ
そうよ、ないしょじゃなきゃいやよ

 

 











0043 鈴川ゆかり

ウィスパー(クラスルーム編/茶の間編)
 


本来の意味を知る前に
その単語が生理用品であることを刷り込む
P&Gの戦略
その名も「女の子ブック」なる月経基礎知識本と
自社製品をセットにした巾着が各小学校に売り込まれ
初潮を迎える少女達に無料配布される

「今日のホームルーム終了後、女子だけ教室に残ってください」

誰が何時何処で始まるのかなんて誰も知らないが
中学生ともなれば何時も何処かで誰かは持っている
"アレ"
女子の溜まりに波紋を投げる言葉

誰か持ってない? アレ
急になっちゃったの/なりそうなのに忘れたの アレ
1個で良いから 今度返すから誰かアレちょうだい
アレ 今私アレだから持ってるよ 1個ならあげる
足りなかったら保健室行けば


「ありがとう」だけなら
男子に聞こえても良い
けれども放課後の静かなさざめきは
彼等の身体にも確実に刻まれる


 ***


うちは女所帯です

普段家に居るのはお母さんとお姉ちゃんと私、弟
お父さんは単身赴任中で週末にしか帰ってきません

だから結構羽を伸ばせます
学校であったことは全部お母さんやお姉ちゃんに話します
好きな子が出来た時も話します
お姉ちゃんの話は特にドキドキです
耳年増と呼ばれても止められるものですか

賑やかな茶の間も週末には影が落ちます
だけど私達は平気です
むしろわざとらしいくらいにコソコソと囁きます
野球中継に夢中のフリをした父の傍らで
"アレ"

アレ どうなった? ああ 大丈夫だったよ アレ
良かったね うん でも今度はアレなんだけど ほら・・・
あの人アレでしょ? それは困ったわね
何時でもお母さんに相談しなさいね うん

ありがとうお母さん

お父さんはまるで軍人生活の申し子です
"アレ"と"オムツ"の違いも理解出来る筈がありません
昔、夜トイレに起きた時
聞いてしまった母の喘ぎ声
脳裏に焼き付いても他の記憶と齟齬を来たします
だって現在の母は
鬼の居ぬ間だけ明朗快活です
身体の中の父を一滴残らず絞り出さん勢いです

父のいないウィークデー
再び"アレ"の中身が解禁される時
直撃を受けるのは心の優しい弟
物心ついた時から囁きに埋もれ育った結果が
どうにもこうにも直らない女嫌い

 

 











0064 紺

トップシークレット
 



 なにがあってもヒミツ
 そうでしょう?
 氷のような雨がアスファルトを黒く濡らして
 髪の先まで凍えそうな夜にキスもせずサヨナラ

 さいごくらい振り向いて淋しそうに笑って


 きみにてがみはもう かかないから
 淋しいきみをもういちどだけかんじさせて


 うつくしい おもいでひとつだけで
 いきていけるのかな


 いろんなことをわすれて
 ちいさなおんなのこにもどって
 しわくちゃの手であやとりなんかして
 ちいさく歌をうたって 
 遠い日の熱情は痕跡さえ

 残っていなくても

 あの日の恋はいきてるから


 あたしとは別に確かにどこかで拍手を受けている



        さ
       ざ
       な
        み
         の 
          よ 
          う  
         に



                       
                  
 (ブラボー!)

 

 











0069 ひあみ珠子
http://members.jcom.home.ne.jp/pearls/

聖なる丘を歩くおじさん
 

私の胸の中心部
外から一番遠いところ
もしかするとそのまたずっと奥の
4次元ポケットに しまってある
この花のこと

おじさん、私はあなたの声を聴くたびに
おじさん、私は背筋が伸びるのです

おじさん、あなたの声は
あの聖なるたんぽぽの丘に響いてる
目に浮かびます
大股に風を受けて歩くおじさん

私も太もも上げて
自然体ではなく、もっと能動的に歩こうって
忘れがちな心がけだけど
おじさんの声で思い出します
ブーツの先で地面を蹴って
ブーツカットのジーンズがスッと伸びて
できるだけきれいに見えるように

そう、それで、この花のこと
あのハリウッド女優の瞳のようにキラキラ光るこの花の正体が
おじさんであるのか
おじさんを飛び越えていきたいと思う私の心であるのか
まだ私の目からも遠すぎて分からないのだけど
後者であれ! と自分に祈りながら
決意の石をキラリと空へ投げたい気分

それで、おじさん
そんな風に いつもこの花に語りかける私ですが、
おじさんが調子にのってあんまり先へ行かないように、
このことはおじさんに教えるわけにはいきません
そして、その丘のずっと向こうで
おじさんとばったり出会いたいのです

 

 











0071 久
http://www.geocities.co.jp/Bookend-Akiko/8110/

ないしょ家族
 

父さんが仕事を探しているのは
母さんには ないしょ

父さんが仕事を探していることを
母さんが知っているのは
父さんには ないしょ

父さんも母さんも
父さんが仕事を探しているのを
あたしに内緒にしていることを
あたしが知っているのは ないしょ

 

 











0072 諦花
http://www2c.biglobe.ne.jp/~joshjosh/poem/kurara.htm

ないしょだよ。
 

ないしょの話を教えてあげる。
耳を貸して。
そう。
秘密ってほど重くはなくて
噂になるほど軽くはなくて
ちょっぴりくすぐったくて
かさかさ音がしそうで
風が吹くと逃がしたくなっても
ねえ
ぜったい、ないしょだよ。

 

 











0079 鈴木倫子
http://www.geocities.co.jp/Bookend/1714

わらべうた
 

眠りを知らぬマスメディア
本屋の本の山積み競争
WEBという蜘蛛の巣を広げる深夜の住人

みんな知ってる
知らぬことなどないと
街を闊歩する人達

見られたいものたちが
厚い衣を身に纏い
御殿雀の戯言よろしく
ないしょの話をしたためる

わたしだけのないしょ話
みんなの知らないないしょ話
禁忌はそっと口伝えの
わらべうたになる
わらべうた
わたしの わたしの 子守唄

 

 











0083 栗田小雪
http://www2.diary.ne.jp/user/145343/

風邪ひき
 

寝たふり
熱い頬

触れる母の、
冷たい指先。

うれしかったなあ。
ないしょ、ないしょ。

 

 











000a 宮前のん
http://plaza5.mbn.or.jp/~mae_nobuko/

かくれんぼ
 



3人で
かくれんぼしようって
コンクリートの小山に
大きな土管が通してあって
鎖や石の滑り台や階段がついてて
ほら公園の真ん中にある
そのトンネルの中で
長男に見つかった
鼻をこすり合わせて
くすくすと笑い
ほんとうはねえ
ママが鬼になるんだけど
つかまえないでおくよ
小さなないしょ話
そう言って反対側から外へ
大丈夫
お前のないしょ話なら
このトンネルの中で
爽やかに散ってしまう
ママのないしょ話は
胸の奥のトンネルに
重く留まったまま

ほどなくして
次男の声が高らかに


もういいかぁい


まぁだだよ



 

 

 











000b 佐々宝砂
http://www2u.biglobe.ne.jp/~sasah/

アーカム・ハウスの詩の小部屋
 

待っているうちに、
背筋がちりちりしてきた。
正面の壁には食屍鬼の絵。
出されたコーヒーはいやに薄くて、
いつもは入れない角砂糖をひとつ落としたが、
ぜんぜん味がしない。
窓のむこう風がフルートのようにきこえる。
あれは風だ、風だ、ただの風だ。
風に決まっている。

ドアにノックの音、
それから、
顎の長い妙な顔したおちょぼぐちの男が、
するり音もなくはいってくる。
私は深く深くこれ以上ないくらい深く頭を下げて、
許しを乞い、
秘儀への参入を乞い、
イア! シュブ=ニグラス!
と叫んでみたがどうやらこれは違ったらしい。
狂えるバストの司祭ラヴェ・ケラフは、
馬面を憂鬱そうに横に振り、
おもむろに、

自分の腕と、
顔を、
外した。


――ないしょだ、ないしょ!


なんで倒れたのかよくわからない。
私はじゅうたんに伸びていて、
目の前に椅子があった。
椅子のうえには、
二本の腕、
皺くちゃになった白い顔の皮膚。
さすがに怖いが、これはゲームだ。
たぶんゲームだ。
「闇に囁くもの」そのままの情景じゃないか、
これはやっぱりただ私を試してるんだ。
頭を働かせなくちゃならない。
私はあたりを見回す。
椅子の横には銀色の円筒がある。
あれがポイントだろうか?
銀色の円筒に触れると、

くらり、
私は、
地球から消えた。


――ないしょだ、ないしょ!


さて私は冷気の中に目覚め、
かぼそいフルートの響きに耳を澄ました。
もちろんあれは風なんかじゃない。
疑いなくフルートだ。
私はそれから書類に署名し、
ラヴェ・ケラフと力強い握手を交わし、
輝くトラペゾヘドロンを媒介に、
ナイアルラトホテップの姿を垣間見たが、
それ以上のことは、
あなたに教えるわけにいかない。
ないしょだ、ないしょ!

知りたかったら、
アーカム・ハウスの詩の小部屋においで。
銀色の円筒を持って待っている。

 

 











000c 芳賀 梨花子
http://rikako.vivian.jp/hej+truelove/

牧羊神の午後への前奏曲
 

「少し遅めの時間に目覚めて」



花びらを数えて 

恋のゆくえを案じていたころは 

なにも 胸の中にしまいこむことなんてなかった

無邪気という言葉が勇気と希望を与えてくれる

それは若葉のようだけど

もう二度と廻ってくることはない季節



「朝食はいつも食べません」



少女という抜け殻が

まだ身体のどこかに引っかかっていたころ

わたしは その頃 読んだ小説の影響で

羊飼いと真剣に恋をしたかったんです

そして 実際 羊飼いみたいな人と出会って 

わたしは夢を見ました

逆らいがたい情熱って

すばらしいことなのよ

でもね

羊飼いは犬も連れていなかったし

海辺の町に住んで

自転車になんか乗っていて

そのうえ東京まで電車で通勤していた

会社というところまで

ほぼ毎日

だから羊を追っていたわけではなく

実際は日々を追っていたのだけど

わたしにとって彼は優秀な羊飼いで

いつも群れの中で戸惑っていたわたしを

救い出してくれました

だから わたしは

もう無邪気という言葉では

なにも ごまかせない年頃だったけど 

まるはだかで生きていればよかったの

生傷は絶えなかったけど

それは代償でもあるし

かけがえのないものでした

でもね それは間違え

唐突な終わりが待ちかまえていたのです

恋というものは愛と違って

維持する必要なんてないですもの



「おじゅうじには お砂糖たっぷりの珈琲を飲みます」



石でできた家に住むと

デミタスカップをテーブルに置くだけで

非難されたような気になります

それだけならいいけれど

積み上げられたものが

あまりにも強固で

わたしは悲しくなります

だから、どんどんお話しすることが怖くなって

心の中に木のお家を建てて

そこに引き篭もることが多くなりました

ごめんなさい

維持することはたいへんです



「お昼のニュースを見るために テレビをつけました」



マスメディアって言葉をご存知ですか

わたしは あまり好きではありません

わたしに必要なのは 

わたしだけに伝えてくれる言葉

だからといって

聞く耳を持たないわけでもなく

維持しなくてはいけない愛情には

きっちりと計算問題のように正確な答えを用意している

でも ときどき悪戯するかのように

需要と供給のバランスがとれてしまうときがあって

わたしは その言葉たちを

だいじにだいじに胸の中にしまいこみ

運命論者として満足してしまう

でも 時々 葦笛が聞こえてきます

過去と現在

情熱と幸福

天秤にかけているだけだから

苦しくなって

どこにも廃棄することができない

計り知れない距離と時間も

おなじこと

ニュースキャスターが消えて

画面はお昼を知らせる時計

秒針がわたしのからだを刻みます

痛い

どんなに大事にしていても

罪は罪

無意味な悪あがきも含めて

午前中はすべて前奏曲

牧羊神の午後へと

今は短い影が

夕闇に消え果てても

続いていく

牧羊神が葦笛を吹く午後へ

続いていく

 

 







2003/6/15発行

推奨環境IE6.0文字サイズ最小

詩集の感想などGuestBook
かきこしてくださいね♪
ダウンロードは
サイトのないのほんだなよりできます

[ご注意]

著作権は作者に帰属する
無断転載お断り
詳細は蘭の会にお問い合わせください
⇒蘭の会へ連絡する


(編集 遠野青嵐)
(ページデザイン/logo 芳賀梨花子)

天使ちゃんの素材は
Web Stylish!