(c)蘭の会













Earthquake  少女  結論をいそぐなら  私は実はお姫様で  
君は揺れる景色だった  水辺  揺れる  飛躍への揺動  
嵐が来るよ  ブランコ  Strangers in this world  
新世界へ  















0001 はやかわあやね
http://homepage2.nifty.com/sub_express/

Earthquake
 

きゃぁぁぁああぁぁぁぁあぁぁ
きゃぁぁぁあっぁぁあぁぁぁぁぁぁ

おかあさま
地面が揺れていますわ
あたくし
どうしたらよござんす?

母は笑っていた
まるで淑女は大きな声をあげてはいけませんよと
あたくしのことをたしなめるように
後からめいどに聞くと
あの時の母は
怒っているようにも見えたという

母は決してあたくしに大きな声をあげはしない
怒ることもなければ
たしなめることもない
すべてはあたくしの意志の元で
あたくしの意見を尊重してくださる

それでもすべからく
地面は揺れている
柳の枝から生まれてきた沢山の気泡が
音を立てながら天井に昇っていくのを観るように
あたくしも母も
すべてはぐつぐつと音をたて
煮えたぎっては消えてゆくはずのものにしがみつく

再度大きな声をあげてみるが
夜の静寂が破れることはない
破れるどころか突き刺すようなその声は
ただ地面の揺れだけを大きくして
右往左往する人たちを横目に
電柱の影に突っ立っている

お端折が汚れて
みっともない真似だけは晒さないように
足元の白足袋が光っているのを横目で押さえる

おかあさま
あぁおかあさま

あたくし
それでよござんすね?

いつも通りに笑っている母は
段通の上で眠り続ける
相変わらず地面が揺れているというのに
その寝顔は微動だにすることもなく
後れ毛さえも
触(ふ)れることを拒み続ける

 

 











0023 ナツノ
http://www5.plala.or.jp/natuno/brunette/brunette_top.htm

少女
 

緑のフェンスには
ミツバチが群がる古いつるばらが咲き
ハコベの花をじっと見つめれば
誰かのピアノがもう聞こえる

通いなれた道路を横切り
ひとしきり草の中でぺんぺん草を探す
おおや石の塀をよじのぼり
太陽を見上げればもう一日の半分は
とっくに過ぎている。

赤いランドセルが揺れる
ひとりでも鼻歌を歌い
友達とはおしゃべりをしながら

ひたいに汗が光る季節
毎日はなだらかに過ぎ行き
やがて子供の季節は終わる

初夏の曇り空は憂鬱で
湧き出した木々の青葉にゆれる心

少女はふと背中を向け
いつもと違う表情で
物思いつつ 校舎の階段を上っていく

午後の鐘がなる

大きな柳の老木が
梅雨を待ち
橋のたもとで 静かに揺れている。


                   (2001年の詩に手を加えたもの)

 

 











0037 とかげ

結論をいそぐなら
 

結局のところ、
にせものということで
よろしいですか

丁寧にたずねてみる
だってにおいが違うでしょう
てざわりだってちがうでしょう
だからあなたではないあなたではないと
いいきかせてみる

誰に?わたしに

たずねてみる
結局のところ、

ああそうだわたしはにせものだったのだ
あなたではなく?

そこですこし丁寧すぎて
慇懃無礼ではなかっただろうかと
心配をしてみるが
すでにあとのまつり

 

 











0059 汐見ハル
http://www3.to/moonshine-world

私は実はお姫様で
 

私は実はお姫様で
勇猛な王様と聡明な王妃様のひとつぶ種で
私の揺りかごの宝石の輝きの見事なことといったら
数マイル離れた村の婆さんの目を開けたって噂
私が生まれたとき国中がうかれてお祭り騒ぎ
酒場の片隅でうずくまる襤褸犬にまで御馳走
とはいえ所詮仮定法過去My設定なんだけどね
内申書のカウントに頭抱えつつ
履歴書の資格欄埋めるために漢検受けようか悩み中
世が世なら末は女王様だったはずなんだけど
女王様だって勉強くらいしなきゃいけません
約束された王冠に相応しくあらねばね

私は実はお姫様で
悪い魔女がある日私を攫ってしまったの
姿かたちまでオリエンタルに変えられたから
父様も母様も乳母のハンナさえ私に気づかない筈
哀れ身の毛もよだつほど庶民な生活におとされて
ホントの母国語のnobleなintonationを知らぬ姫君
とはいえ所詮仮定法過去My設定なんだけどね
コーラとホットドッグぱくついてから
PM5:00にオハヨウゴザイマスして
マックでスマイル\0.−なんて売ってる私が現実
あらでもガラス張りのバルコニーから手を振るのに
くらべたらよっぽど資本主義に貢献と信じたい
ブルーカラーのお姫様が世界に一人位いてもいいかな

私が実はお姫様で
盗まれたひとつぶの宝玉だったとしたら
私の祖国はとっくに潰えて
私の城は瓦礫となって
私の揺りかごは灰になっているでしょう
新しい国新しい城が築かれ
新しい王座には
仮定法過去設定で未来の夫君となる筈だった男が
何食わぬ顔してゆったりともたれているのでしょう
陶器の人形さんみたいなお妃とならんで
世継ぎの心配なんかしているのかもしれない

私が実はお姫様のままで
攫われることなく育っていたとしても
王子ではないけど私にだけcharmingなひと
目覚めのkissみたいにsoul-stirringな出会い
どっちみち私は傾国の姫君
私の祖国はとっくに潰えて
私の城は瓦礫となって
私の揺りかごくらいはでも持ち出せたかな
ママは昔お姫様だったのよって
その揺りかごに眠る愛しいbabyに
子守唄がわりにきかせてあげられたのかな

私が実はお姫様だったら
身分違いのアナタに出会えるはずはなかったので
私はいつまでも姫君のまま
老いた揺りかごは冷えていくだろう
嵌め込まれた宝石は音を立てて落ち
私はそれをなぞるように
揺らすだろう

私は実はお姫様ではないので
私のために用意された揺りかごなんてなかったの
私は実はお姫様ではないけど
アナタというひとにまだ出会っていないから
揺りかごの軋む音だけが
やがて現実になるのかもしれないけれど

 

 











0064 紺

君は揺れる景色だった
 


 ながいながい 恋でしたね
 
 空と海から手をのばして 
 やっと指だけからめるような
 そんな 恋でしたね

 つきものがおちたようにかえってゆくきみを

 たふん  とすわったまま 見送る

 また だれもいなくなっちゃう
 また だれもいなくなっちゃう
 また だれも


 きみのかなしみも きみのほしも きみのくちびるも
 きみはたしかにそこにいたのに きみはきみは  ねえ

 こころのずっとおくの森に

 さみしい 水たまりがあります



 けしきを映しては 揺れています




 そんな恋でした

 

 











0065 静宮
http://dogmac.org/rinko/

水辺
 

北の窓から
苔むした人が入ってきて
天井を見やったり
壁を指でこすったりする

苔むした人が過ぎていくとき
水の流れる音がする

気が付くと
あたしはふやけているのだ


南の窓から
からだじゅうに穴をあけた人が覗き込んで
ずいぶんと不安げに
誰かを捜している

よく見るとカラカラに乾いている

気が付くとあたしも乾いている

苔の人が笑っている

「もう少し早かったらなぁ」
といって笑っている


あたしは寂しくなって
美味しいお茶を勧めたが
視界が揺れていて
なにもかもが揺れて

聞こえなかったように彼らは
それぞれの窓から消えてしまった

冷たい水の方がよかったのかもしれない

それから
あたしは箪笥の整理をして
鉛筆を少し削って
唄をひとつだけうたって
布団を敷いて眠った

ゆらゆらゆらゆらゆらゆらゆらゆらゆらゆら
ゆらゆらゆらゆらゆらゆらゆらゆらゆらゆら
ゆらゆらゆらゆらゆらゆらゆらゆらゆらゆら
ゆらゆらゆらゆらゆらゆらゆらゆらゆらゆら

もう少し 早かったらな
もう少し 早かったらな

 

 











0070 kamome
http://www.medianetjapan.com/town/entertainment/kamome/index

揺れる
 

「揺れる」

揺れる......... 揺れる............

ゆらゆらと ゆらゆらと


ゆれる........... ゆれる...........


はらはらと はらはらと


ユレル.......... ユレル............





ふたつの

軀 

からだ





蜉蝣のように 儚く 

陽炎のように 揺らめき

漂い  ただよい  漂い ただよい

浮かれ

沈み

浮上し

落ちる




熱を立ち昇らせ 情を契り

腰をザワメカセては

波に溶け揺れる



揺れる......... 揺れる............

ゆらゆらと ゆらゆらと


ゆれる........... ゆれる...........


はらはらと はらはらと


ユレル.......... ユレル............




ふたつの




 

  ⇒kamomeさんの「揺れる」はこちらでもお楽しみいただけます。











0071 久
http://www.geocities.co.jp/Bookend-Akiko/8110/

飛躍への揺動
 

つり下げた
二本の綱に渡された 板
両手で綱を握り いざ飛び乗ろう
立ち上がる体よ 漕げ

膝を曲げる 膝を伸ばす
腰を下げる 腰を上げる
前後に揺れる 小さな振幅
少しずつ 着実に勢いを増そう
伸縮はエネルギーに転じる

腕が伸びる 腕が曲がる
胸を縮める 胸を張る
連動する体 風を切る
振幅は大きくなった 勢いはさらに
体は軽い 意識は軽い 

血が逆流するのだ
前に進む体は 引きとめられる
血が沸き立つのだ
後ろに下がる体は 前を見定める

空を見た 高い空
近くに遠くへ 近くに遠くへ
巡り変わる景色 巡り行く景色
あの空は
体は加速する 意識は加速する
上へ 上へ 上へ
勢いは十分 重力は振り解ける
全ての力を集中する時 

手を離した 板を蹴った
体は放たれる 空

ジャーンプ

 

 











0079 鈴木倫子
http://www.geocities.co.jp/Bookend/1714

嵐が来るよ
 

軒下の花が揺れている
店の旗が揺れている
国旗が方向なく揺れている

嵐が来るよ
私の中の振り子が告げる
振り子の振り幅は一定で
ひたすら時を刻んでいる
雲は流れて
一瞬として留まることを知らず
夥しい兆しをしるして
私に告げる
嵐が来るよ

澄んだ川面が揺れて
曇った鏡になる
見えていたはずのものが
見えなくなり
狂おしい程泣き叫びたいものたちは
語ることを忘れ
ああ 静かだ
秩序のない摂理が
ひっそりと揺れもなく息をしている
水底のように静かだ
私は沈んだのだろうか
クニは沈んだのだろうか

嵐が来るよ
さあ 嵐が来るよ

 

 











000a 宮前のん
http://plaza5.mbn.or.jp/~mae_nobuko/

ブランコ
 



どっちが高くこぐか
競争って言って
雨上がりの
公園のブランコ
白い横板の上に
立ちんぼになって
サビ臭い鎖を
両手で握って
ゆっくりと前後に
揺さぶり
最初は30度
次第に45度
そのうち90度
思いっきりこいで
一番上から地面に向かって
滑るように落ちる
凹みに水が溜まって
青い空と雲を映して
そこを過ぎると
向かいの砂場から
あっという間に天空へ
すぐに重力に負けて
後ろに引き戻される
隣のブランコで長男が笑う
砂場で次男が応援してる
ああいつまでも
空の向こう側には
行けない



 

 

 











000b 佐々宝砂
http://www2u.biglobe.ne.jp/~sasah/

Strangers in this world
 

目覚めたらまず
母さんに教わった通りに
頭の中のチューナーを調節してから
目を開ける
でもいつもうまくゆくとは限らない

顔を洗おうと鏡を見れば
鏡の表面にピンク色の泡がいくつも膨らんで
鏡像は煮え立つ熱湯のように揺れて
あわててもういちど顔を洗うと
鏡はぐにゃりとひしゃげ覆い被さって
五体の五官が消え失せて

それからいきなり満員の電車のなか
肩に腰に確かに人間の実感
次の停車駅を知らせるアナウンス
がさがさと新聞を広げる音
でも視界は揺れ続けて
ガラスに目をやると
ガラスにうつる鏡像がぐにゃりとひしゃげて
満員電車の乗客たちをのみこんで

それから今度は突然の静謐
スクランブル交差点の雑踏のなか
急ぎ行き過ぎる人々は無口で
足音も車のエンジン音も聞こえなくて
視界はやはり揺れ続けていて
悪酔いしたみたいに頭の芯が重くて

それでもなんとか顔をあげると
ひとつの背中に一瞬ピントが合う
混沌に溶ける雑踏のただなか
ひとつだけ揺れていない背中
はじめて見かける背中
誰のものかわからない背中
でもそれだけが確固たるものに見える

あなたはだれ?
だれなの!

叫んでも自分の声が聞こえなくて
交差点のまんなかにへたりこんで空を仰いで
うっかりカーブミラーを凝視してしまって
鏡像は嘲笑うようにひずんで
トランプをシャッフルするみたいに
世界はシャッフルされて

揺れ動く道を歩いて
揺れ動く家に帰り着けば
揺れ動く居間で
揺れ動く母さんが
あんたまたチャンネルあわせられなかったのねえとなげく

母さんそうだよ
私は今日もやりそこねたよ
でも今日はいつもと違ったよ
揺れていないひとをみつけたんだよ
だから決めたの
明日の朝からもうチャンネルを合わせない
でないともう二度とあのひとを見分けられない

揺れる母さんの顔がぐちゃぐちゃに歪む
風船から空気の抜けるような音が響く
母さんの顔だけ揺れがとまる
一瞬ののち
ただいまあと間の抜けた声がする
揺らぐ父さんが揺らぐのれんをくぐって入ってくる
風船から空気の抜けるような音が響く

母さんはまたさっきのように揺れはじめる

 

 











000c 芳賀 梨花子
http://rikako.vivian.jp/hej+truelove/

新世界へ
 

あのときも戦争だった。ルフトハンザの機内には数えるほどしか乗客が乗っておらず、わたしはハートウォーミングな映画を見ながら、どこまでも続く地図のようなシベリアの夜を裁断している。ちょうどエニセイ河上空にさしかかったところで、突然、機体が激しく揺れた。身体がシートに押し付けられ、重力を実感する。怖かった。とっても怖かった。眠らなくては、そう思っていた矢先だった。繰り返すアナウンス。ほっといてくれ。どこまでも続く夜は平穏そうに見えても、乱気流は確実に待ち構えている。そんなこと、そんなことは、わかりきったことだ。

父が病室で眠っていた
すでに正確に刻まない彼の心臓
黒ずんでいく肌

わたし
まだ歌をうたっていた
庭には薔薇が咲いていた
一重の薔薇
重ならない花びら
重ならないこころ
どうして君は一人で抱え込むんだ
泣いている男
知らない人

短い覚醒
暗転

光が揺らめく
いくつもの光がゆらゆらと

そうあれは祖母のお通や 家の前には提灯がならぶ 長い列 祖母の死を悼む人たち 知らない人 わたしの知らない人たち 祖母は犬が好きでした わたしは猫が大好きでした わたしはパパと手をつないで とっても嬉しかった わたしは提灯を眺めていました とってもきれいだったから おばあちゃまがしんぢゃったんだって 死ってなぁに 従兄と声をひそめてお話し 笑っては駄目 伯母様に叱られます 白い歯を見せてはいけない夜の白い花 おばあちゃまは菊のお花がお嫌いでした 白いお花は嫌い 嫌い 嫌い 嫌い わたしは白いお花が大嫌い 口をつぐむ むせかえる 菊のお花のお通や 

わたしの夢は
なにかが揺れるごとに終わり
そして、また始まる
わたしは今この眼下の大河にも
灯篭を流しているのかもしれない
過去に生きるということが
罪なのか罰なのか
絶えず灯篭を流すことで
生き長らえてきた
あるいは
いくつもの灯篭のつらなり
終わることのないつらなりごと
この大河に流したら
わたしには
なにが残るというのだろう

読書灯のスイッチを探す。暗い機内で眠らずにいるためには本を読むしかないのだ。いくら断ち切っても、終わることのないものを、探さずにすむように、わたしは本を読まなくてはいけない。

あと7時間でミュンヘン。わたしはザルツブルグへ。

 

 
















2003/5/15発行

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(編集 遠野青嵐)
ページデザイン/CG加工 芳賀梨花子)