(c)蘭の会












「潰れた心臓」  告げるもの(伝えるもの)  
夕空カクテル/鴎の声  fatalism  つ げ る<declaration>  
8才 学級会  三行半  ヒサブーの話  春咲ねこのて  
The spring heralding gale  



















0007 愛萌


「潰れた心臓」





森の奥
獣が一匹
潜んでいる

自分を狙う
ハンターが
忍び寄る気配に
怯えながら


青い瞳の
ハンターは
黒い銃口を
獣に定め
いつでも
機会を
待っている

ずっと
ずっと
探していた
獲物を
この手で
仕留めるために







ある日
獣が
水浴びをした
その瞬間を
ハンターが捉えた


冷たい穴の先を向けて
最後の言葉を
残せと告げると
獣は
濡れた身体を
持ち上げて
ゆっくり
ハンターに
近づいた




獣を追う
ハンターは
あまりに
優しい目をしていた

ハンターが追った
その獣は
どうしようもなく
美しかった




獣は怯えていた
いつか
自分が
この者を
牙にかけてしまうことに

それでも
最後の
瞬間に
愛を
告げようと
思っていた






森の奥
銃声と
悲鳴が
響く







そうして
森は
静寂を
手に入れた



0023 ナツノ
http://www5.plala.or.jp/natuno/brunette_top.htm

告げるもの(伝えるもの)

あなたに伝えるものは本来ならば
何もない ほんの戯言と初めに伝えておきます。
私は悪い人間だから 良いことなどはとても言えません

戒めの言葉も 理想の言葉も たくさん知っている。
しかしそれを実行する事は とてもとても大変です。
実行するに当たっては
失くすものがたくさんあり、
捨てるものもたくさんあります。
そしてそれらは皆、不要な俗物だという事も知っている。

でも

自分でも
なぜだか判らないが
それが惜しいのです。

俗にまみれていなければ 不安でならない。
ほんの少しも 人に分けてあげるのが惜しい程。
 

するりと衣を脱ぎ捨てて 何もまとわず海へ飛び込み
手足を広げて泳いでみたいと 私自身、思います。
お風呂のお湯では手を広げ 青い海に焦がれます。

でも

信じるものに向かって進みなさい、とは言えないし、
辛くても立ち向かえ、とは言えません。

少しでも得をしなさい、それがあなたの幸せになる。
金儲けを。 プラスの計算を。

マイナスは自分を不安にする。

人を踏み台にしなさい。 人に譲ると自分が損をする。

弱さと恐れは心の中にしまい、決して人に見せてはいけない。 
出かける時には 心を被うベールを忘れずに。

夜にはシャワーで 後悔とざんげの涙を洗うこと。
そして朝には庭を掘り 日々、生まれる「真実」と共に
夕げの残りをほうり込み 土をかけて埋めること。

あかね空を見上げ 優しい気持ちになるかもしれない。
芽吹きの風 ふるると心が揺れるだろう。
けれど その気持ちは一時のもの。
そう。 今を生きる。
広げた手のひらには血が流れ 脳からの指令で体が動くではないか。
夢の中に生きているわけではない。

今を生きる。
これが唯一、私があなたに告げるもの。



0043 鈴川ゆかり


夕空カクテル/鴎の声

雪を降らせる雲は
どこかへ行ってしまった
地上の空気は
さえぎるもののない宙まで
幾重にも 幾重にも
層をなして のぼってゆく
2月のおわり 暮れてゆく空を
口にふくんだら
少しだけ甘くて
ゆるいゆるい
炭酸の味が残った


 ***


甲高い声を 
暗い空いっぱいに響かせてゆく
初めてそれを聞いたのは
この街に住んで1年が過ぎる頃

それは鴎の声だよ と
誰かが言った
潮風の届かないこんな場所まで
一体何をするために来るというのか

それを耳にするのは
決まって1人の時なのだ
寒い空気を払い
かわりに暖かい空気を置いてゆく
鴎は 春を連れてくる
だけど 凍らせていた心まで
融かしてしてしまうので
私は途方に暮れるしかない 何時だって 
垂れ流しのままに

鴎の声はあからさまに遠くなり
ふいと消え失せる




       (2001年3月の作品を改編)



0059 汐見ハル
http://www3.to/moonshine-world

fatalism

地下街の出口 階段にしゃがみこんだまま
注意ぶかく あなたの瞳を見据えた
ともすれば冷えていく爪先ばかり見てしまうから

クールダウンを求めるあなたを わたしは
ひたすらに 詰る 
もう終わりにしようだなんて言葉
提案でも勧誘でもなく 
そこに私の意志が介在する余地なんてなくて
続けることと終わることでは
いつも勝つ方がきまっているんじゃないかと
溜息のかわりにいまひとたびのチャンスを
あなたは結局くれることにしたけど
続けるためでも 新しく始めるための時間でもなく
ただ 少しずつ剥がしていったゆで卵の薄皮を
爪の隙間から取り除いてゆくような 日々


私も、すき、です
と、伝えたあとの数十秒のブランクの更に暫くの沈黙の後
あの日 あなたは私に
また二人どこかに行きましょう、と言った
あのときの部屋の明度をおぼえてる
ゆるく氷の崩れる音がして
ああ こうなることははじめからきまっていて
こころにも温度があるのだと いっぺんに知る
蛍光灯のかたちにラベリングされた空壜が横たわり
私たち残されたボーリングのピンみたいに向き合ってた

幾度もキスを交わす日々はそれからずっと後で
けれどあれほど親密な夜は二度となかった
熱はいつも 真芯の間際でかわされて
雨だれに揺らがないチューリップに見惚れた二月
文字通りつないだ手を振りはらったのはあなただったけれど

なにもかもあなたのせいにしてしまうのは たやすく
なにもかもじぶんのせいにしてしまうのは 楽だった

ほんとうはあなたがいつもきめたわけじゃなくて
もちろん誘ったわけでもなくて
ただ あなたは告げたのにすぎない
はじめから書かれてあることを読み上げるみたいにして
あともどりできないことやとりかえしのつかないことを
ただ わたしに伝えたのにすぎなかったのだ

その証拠に
いまでも時折あなたの名前をつぶやくけれど
呼ぶのではなく 口ずさむみたいなもの
意味はとうに剥げ落ちていて
わたしはそのいろあいをまだおぼえてるけど
そういえばあなたのために涙をこぼしたことが一度もないから
買ったばかりのトワレを部屋に振り撒けば
花束の香りで頭のなかみが飽和してゆくだろう
香気の結晶がほどけ薄れた後の私は きっともう
温もりと共に嗅いだあのひとの匂いを懐かしみはしても
クリアに思い出すことはできなくなっているだろう



0061 ヨ
http://y0.kits.ne.jp/~sk52/y/poe/

つ げ る<declaration>

宣誓。
こんなにも小さいので
何も出来はしないです
憤って動くでもなし
ただイライラとモニターを睨む夜でも
夕飯はまぁまぁ旨く
蛇口の水はマズイが飲めます
矛盾と共に朝が始まり
屈辱的に進化をします
だからこそ
せめて誰かを傷つけまいと
抱いたキミだけは守り抜くと
誓いを掲げペンを握ります

先制。
どんな理屈も理論も痛みも
正義も神も札束だろーと
言い訳にはならないのに
この場所に立ちすくみ
ただキミだけは守り抜きたいと
黄色い甲に口付けをします
それでも
キミの微笑みを前にすると
こんなにも小さいボクの体は
恥ずかしさにガタガタと震え
あふれ出てくる懺悔みたいな
アイシテルという言葉を
ただ呆然と眺めるだけです

先生。
闘うならば先ずは貴方が
家族や両親の手をひいて
赴いてみてはいかがでしょう
使命を背負って一族郎党
徒党を組んで仲間達と
彼等に伝わるヘローと武器で
砂漠にたたずみ拳を掲げ
なんなら
先ずは貴方が先陣を
切ってみてはいかがでしょう


拳を握るくらいなら
力づくで指を切り開き
不格好な爪をたて
感覚の麻痺した胸を掻きむしる
悔しいと泣きながら痛みに悶え
それでも欲しいものは何か
ボクは知っておかなければならない
隣で見届けてくれるキミだけは
ボクが守ると誓うのだから



0064 紺


8才 学級会


クラスの名前を決める学級会があった
クラスのまとまりをよくするために
名前をつけるのだ

他のクラスは「のびのび学級」とか「げんき学級」
うちの3年4組では最初に
「ひまわり学級」という意見が出た
理由は
「いつもおひさまにむかってのびていくからです」
というすこやかなものだった

さんせい さんせい
「いいとおもいます」という声のなか
おずおずと手をあげた私は
「たんぽぽ学級」といった

「その理由はなんですか」
と聞かれて
「ふまれてもふまれても また花が咲くからです」と言った

そんな地味な理由は支持されず
「ひまわり学級」に決定



「ふまれてもふまれても 咲きたい」
なんでそんなこと



0070 愛海舞(kamome)


三行半

さようなら 長いことお世話になりました
積年の想いを込めて最後に一言だけ言わせていただきます

フザケンナ! なんだ バッカヤロー〜〜〜
お前 私のことを何だと思ってやがるんだ 
黙っているからっていい気になりやがって 
てめえなんか馬にけられて死んじまえ 
え〜こんちくしょー 
ほっほっほっほほ・・・・・・・ほわぁ〜

あ〜 さっぱり 啖呵切って な〜 な〜 な〜
なんだか すっきり この カ・イ・カ・ン たぁ〜
たまらない! いーわぁ〜
あなたに恋なんかしちゃった  ア・タ・シ 痛い
いちじの キ の 迷い だった?
だっから 悔しいのよ キ〜
きれいさっぱり 四の五のイ・ワ・シ
しみついた ミ・レ・ン 捨て去って 目には目
めもりー バッサリ 切り捨てて
てくてく てくてく クテクテ クテクテ 自分の道を
おもいっきり テ・レ・ビ なんかに相談しないわ
わかった ッテカ カカカカカカ
かのじょと よろしくどうぞ おやんなさいって れれれのれ
れいじー レイジー クレイジー 意味泣く 笑かし
しつれいしました ごめんなすって 毎度 ありがとさま
ま〜ま みなさま 最後の一発 見事決まった ワンツーパンチ っす 
すりー カウント KO勝利 で サ・ヨ・ウ・ナ・ラ


パタン・・・・・・


愛海舞(kamome)さんの 三行半 はこちらでもお楽しみいただけます



000a 宮前のん(みやさきのん)


ヒサブーの話

その子は
ヒサブーと呼ばれていたから
ひさえ ひさこ ひさよ
そんな名前だったと思う

父親はいなかった
母親は水商売のアル中
いつも汚い服装をして
髪も手足も汚くて臭かったから
クラス中から嫌われていた

本当は
父親がいないのも
母親がアル中なのも
ヒサブーのせいじゃなくて
手足や服が汚いのも
かまってやる大人が
いなかったからで
なんで学校に来てるかっていうと
給食が唯一の栄養源だから
でもそんな社会的諸事情は
小学2年生には
全く関係なくて
女子達は体育の授業で
ペアを組むのを嫌がったし
僕らは休み時間に
ヒサブーの机に落書きするのに
余念が無かった

けれどヒサブーは
1人で組体操する時も
机の落書きを見た時も
平然と授業を受けていた
担任も見てみぬふりをしていた
その様子が小憎たらしかったので
僕らは益々調子にのって
ヒサブーをいじめにかかった
だけど掃除のゾウキンを頭にかぶっても
机の中にゲジゲジを入れられても
いつも 何かを諦めている
そして 何もかも知っている
そんな瞳で淡々としていて
ヒサブーを怒らせるなんてことは
全く出来なかったのだ


ある日
学校の帰りに僕らは
駄菓子屋の前でたむろしていた
道の向こうから
駆けてくるヒサブーが見えた
僕らはいつものように
転ばせてやるのが遊びだったから
近付いてくるのを待ち構えておいて
いきなり皆で足を引っ掛けた
予想通りヒサブーは
見事に駄菓子屋の前でひっくり返った
だけど
予想外だったのは
涙でグシャグシャになった目を見開いて
ヒサブーが僕らに食ってかかったのだ

「おかあちゃんが、うごかへんねん!
 ジャマせんとって!」

たかが小学2年生では
それが何を意味するのかなんて
考えてる余裕すらなかった
でも普段怒らないヒサブーの顔が
まるで粘土を潰したみたいに
歪んで涙だらけで必死だったので
そんなヒサブーを見たのは
本当に初めてだったので
気負されてしまったのだ
僕らはだまって
飛び散ったヒサブーの靴を拾って
少しドロをはたいて落とすと
ヒサブーの前に並べた
ヒサブーは靴を履くと
また必死になって
駆け出していった

次の日
おそるおそる登校してみると
はたして ヒサブーは休んでいて
教員室では担任と教頭先生が
何やら眉をひそめあって
話し込んでいた
そして臨時のホームルームがあって
担任がヒサブーの母親が亡くなったと
みんなに知らせた
僕らはその時初めて
ヒサブーの本名を知ったのだった

それから
担任とクラス委員が代表で
葬式に行ったあと
ヒサブーは学校に来なくなった
聞く所によると
孤児院に入れられたのだとか
金持ちの養子に行ったのだとか
まことしやかな噂が少しの間
クラスを賑わしていたが
みんな日常にまぎれて
すぐに忘れた
僕らは ひょっとして
ヒサブーが担任に何か
告げ口したかもしれないと
ビクビクしながら登校していたが
ヒサブーはそんなやつじゃなかったし
僕らが直接ヒサブーの母親の死に
関わっているわけでもなく
それでその件も
すぐに忘れた
ただ
ヒサブーの座っていた机だけが
隅っこにひっそりと残っていて
僕らは何か言い忘れたような
そんな気持ちをしばらくの間
味わっていた
それだけの話



それから何年か経って
僕は学校を卒業して
故郷の町を離れ
それなりの家庭を持ち
子供もできた
幸せな日常を送る中
子供が大きくなるにつれ
再びあの頃のことを
思い出す時が多くなった
だが
思い出すのは
あの時のヒサブーの
母親を助けようとした
必死の形相ではなく
いじめられていたヒサブーの
あの諦めたような
何もかも知っているような
淡々とした瞳の色

あの瞳の色だけが
今も僕の記憶に
しっかりと
焼き付いている


ただ
それだけの話

 



000b 佐々宝砂
http://www2u.biglobe.ne.jp/~sasah/

春咲ねこのて

春愁なんていまさら歌えない
だからカカカと明るく笑って
カイの住んでる森に行き
おっきな声で春を告げる

おおい、カイ!
起きてよ!
雪の女王はもう死んじゃったよ!
でかけるよ!

カイは眠い目こすりこすりおはよう
牛乳わかして
あんパン食べて
牛乳飲んで
ふたりででかける

森はすっかり木だらけで
どこからどこまで木ばっかり
その森抜けて南の海へ
砂丘はすっかり砂だらけ
どこからどこまで砂ばかり

その砂のうえ
浜いちめんに
にょきにょき突き出る

春咲ねこのて

毛色はいろいろ


ミケ
キジトラ
でもみんな
肉球はあわいピンクいろ
ふにふに触ってみたくなる

これこそ春を告げるモンだよな
カイはにこにこ最高にごきげん

カゴいっぱいに
春咲ねこのて

カイとわたしは茹でて食べます
春愁なんか吹き飛びます



000c 芳賀 梨花子
http://www.stupidrika.com/hej+truelove/

The spring heralding gale

去年の今頃
そう わたしの住まう島に
あなたがやってくるころ
わたしは恋人の憂いを知るために
その街を訪ねました
でも それだけのためじゃない
いつかこの子が選択を迫られたときのために
彼にもそれを見せておきたかったから

あのことは過去になりつつもあり
まざまざとした現実でもあり
けなげなほど人々は
Haapyを思い出そうとしていました
だから悪く言えば関係のない
小さな島に住まうわたしは
戸惑いをかんじつつ
イースターの卵探し休暇のちょっと前の
その街を息子の手を引いて
歩いていました
世界の秩序を奪い去った
あの場所を見るために
途中でコーシャーデリによって
胃の中にもいっぱいの矛盾を取り込んで
握り締めていた小さなあたたかさに
勇気づけられながら
パラシュートを買うこの街の住民の間をすり抜けて
あの場所を目指して歩き続けたのです
そして
ついに 
あなたがやってこない 
この街の頭上に
唐突なほど大きな空を見つけたのでした

でもね、Heralding Gale
去年の春
わたしは恋人の憂いをわかってあげられなかったの
息子は3lbsも成長したというのに

ねぇ、Heralding Gale
世界がHappyを忘れないように
忘れてしまった人々に訴えかけているよ

だけどね、Heralding Gale
どれだけの人がこれからさき
大切な人を失うのだろう
水平線の向こうにとどろく雷鳴を
止める力のない
こんなちっぽけな島にだけに
毎年帰ってきてくれるのだとしても
わたしは去年の春から3lbsも大きくなった
愛情を肥料とする生き物を
サクリファイスにはできないし
恋人もやさしく抱きしめてあげたいの

ねぇ、Heralding Gale
お願いだから
幌馬車が届けられない春で
世界中の屋根を葺きなおしてきて
わたしは、ここで息子と手をつないで
あなたを待ちつづけるから

Let's Join hands with our neighbors
imakoso-ai-no-ookiasa-ga-towareru-toki







2002/3/15発行

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(編集 遠野青嵐)
ページデザイン CG加工 芳賀梨花子)