(c)蘭の会

















扉の向こう   「あの日を探して」  
ある朝に  扉は閉ざされていた  そこから先を  
7才 みずしょうばい  扉一枚の攻防  向こう側のあなた  
扉をあければ  いちごいちえ  
























0001 はやかわあやね
http://homepage2.nifty.com/sub_express/
扉の向こう



扉の向こう側にある風景は
いつも私をとらえてはなさない
それは花の咲き乱れる楽園で
憂いからも
嘆きからも解放された人々の
満ちあふれる世界である

私もいつかその楽園の住人になりたくて
今ここで彷徨い続けているのかもしれない
私もいつかきっとその楽園で
憂いからも嘆きからも解放されて
笑いと笑みの溢れるその世界で
満ち足りた日々を過ごすのだ

この世界の慟哭と嘆きと悲しみは
いつだってなくなりはしないだろう
この世の中を憂うすべての人の喜びは
いつだって楽園の中に存在している

この世界を司る絶対の存在に
我が身をゆだね悲しむことを手放せば
扉の向こうへ行き着く必要などどこにも存在することはなく
その楽園にたどり着くことが出来るのではあるまいか

今日も私は
扉の主と語らい続ける
この世の中で唯一なるものを模索して
この世界で我と我が身を楽園にゆだねるために
今日も私は
扉の主と語らい続ける











0007 愛萌
「あの日を探して」




  

あの日


見上げた空は澄んでいた
広がる景色が眩しくて
つないだ右手は熱かった



思い出すのはいつも
遠くを見つめる貴方の横顔
他の誰と過ごしていても
どんなことを話していても
思い出すのはいつも
閉じることのない扉の記憶


あの日を探して
目を閉じたまま
帰らぬ背中を抱きしめて
二度と目覚めなければいいのに


あの日を探して
まどろみながら
消えたぬくもりを抱きしめる
こんな私を、いっそ殺して



振り返っても
前を見ていても
貴方は決して戻らない
立ち尽くす私の
目の前には
開いたままの扉だけ


雨が降って
空が鳴って
風が吹いた
嵐の晩
何も言わず
何も見せず
冷たい部屋
投げた心

目をそらせず
嘘も吐けず
笑いもせず
泣きもできず


扉が開く
その瞬間を
黙って
ただ
黙って見ていた





見上げた空は澄んでいた
広がる景色が眩しくて
つないだ右手は熱かった


記憶の中の
永遠の日
二人だけの
永久の一日


そう
あんな日が
ちゃんと
あったはずなのに

嵐の晩
開いた扉は
多分二度と
閉じはしない




でも。




あの日
永遠のあの日



あの日を、探して
まどろんだなら
懐かしい貴方が蘇って
お願い
どうか私を救ってください


それが叶わないなら誰か
こんな私を、いっそ殺して…






0023 ナツノ
http://www5.plala.or.jp/natuno/brunette_top.htm
ある朝に



ある朝が来て、玄関の扉が開く。
履く前に そう 靴を履く前に
一度きちんとそろえてから。
ドアノブがもどった時に カチリと音もさせないように。
犬の耳がきっとぴくりと動くから。

絡んだ糸は 引きちぎるのが良いの?
祖母はメガネをずらし 上目使いに
私の手にした編み物を見やり 首を振った。
絡んだ糸は、かならずほぐれるの。
必ず元に戻るのと。

あきらめることはない
根気よく 一つずつ紐解きなさいと
午後の日差しの当たる部屋で 私は教わった。

人の群れが通り過ぎる 私の背中に直角に
向いのガラスにそれが映った。

布団に入って心臓の音を数えてみる。
ねんねん ねんねこと
鼓動を子守唄にして眠る。

目を閉じたら 心が1人で窓を開けたがる
だめだよ。 ちゃんと玄関から 扉を開けて
靴を履いていくんだ。

しゅんしゅんとお湯が沸くし、
コーヒーをいっぱい飲んでからにしよう。
もしかして そう もしかして
その時お湯が誰かにかかり軽いやけどを負ったとしたら?
私しか手当ての方法を知らないし。
私しか救急箱のありかを知らないし。






0045 雪柳
http://ip.tosp.co.jp/i.asp?I=yukiwatari
扉は閉ざされていた



私の生きてきた道を振り返って
いくつかのポイントに線を引く

7歳、周りとの隔たりを感じ始めた
以来、親にさえ相談をもちかけたことは無い

11歳、心の扉の鍵を閉めた出来事
男性に対する恐怖感と敵対心の芽生え

21歳、いまだに悔やむ
過去を葬るチャンスを不意にした

23歳、投げやり気分で捨てたもの
恋愛への夢と希望、そしてヴァージン

24歳、気持ちを新たに見合い結婚
鍵は外したつもりだが 扉は閉ざされたまま
 

流れのままに流されて…
自分だけを見つめて…
誰も愛さずに…

閉ざされた扉

誰か一人でも、一度でも
人に相談してれば
何かが変わったのだろうか…?



今、ネットの皆さんとの語らいの中
私は自分を産みなおす
新しい自分を産み落とす

出会いの扉を開けるために
心の扉を開放するために
生まれ変わった自分がここにいる






0059 汐見ハル
http://www3.to/moonshine-world
そこから先を



爪がよわくて自分で開けられないプルタブを開けてくれと頼めない
バスを待つ行列で横入りされても何もいえない
満員のエレベーターで5階おねがいしますといえない

君というひとは
たとえば
青く点滅する歩行者信号を見遣り
そこから先 一瞬ためらったばかりに
渡りそこねて 向こう岸の
友人に足踏みされる
そういうひとだね

自分から電話がかけられないでいる
携帯のディスプレイ
登録されてる僕の番号を表示しても
そこから先 通話ボタンを押せぬままぐるぐるしてる
通話中だったら留守電だったら
仕事中だったらと
相手が僕に限らずそんな調子だから
いろいろな人が君を薄情と思っているよ

自分からおはようと言えないでいる
朝の廊下 数十メートル先に
君は相手よりも早く前方確認していても
そこから先 タイミング逃したまますれ違うことも多々
あと何だったらおはようの声うまく出なかったら
気づいてもらえなかったらと
相手が僕に限らずそんな調子だから
いろいろな人が君を無愛想だと思っているよ

自分からありがとうと言えないでいる
緊張のあまりこわばった表情筋 口に出そうとしても
そこから先 感謝の言葉は喉につかえたりんご
腐らせて恩知らずだと呆れられ 愛うすくされてゆく
君は そういうひとだ

そこから先を踏み込めない
君の逡巡と不器用とそれからある種のきまじめさを
知っているから 気づいてしまったがゆえに
僕は君にやさしくする
それは君だけが僕を真に傷つける切符を手にしているということだから
それは書いてないけど有効期限つきで それが切れるまではせめて

僕は先回りして 君をエスコートする
君のためいくつもの扉をを開けよう
そこから先の世界に 君がためらわずにすむように
見えない扉も君のために開けよう

僕の扉はすでに開かれているが
臆病な君はそれを信じられないかもしれないから
僕は君に部屋の鍵を託したんだ
ねえ 余計なことは何も考えなくていい
そこに僕がいようがいまいが
君は好きなときに鍵を使っていいのだし
僕は必ず帰ってくるから

鍵は少しだけ剣の形に似ているね
君もいつだって僕を殺すことができるんだ
そのタイミングだけはためらわないで
僕がいなきゃ駄目なんだ君は なんて
おろかなことを口ばしる前に
どうか完全に息の根を止めてかまわない






0064 紺
7才 みずしょうばい





しんせきのうちにいった

おかあさんやおばさんが世間話をしていた
「みずしょうばい」という単語が出てきた


「ねえねえ、みずしょうばいってなあに?」
と聞いたら
「そんなことしらなくていいのよ」
というから
「水を売るひとのこと?」
とまた聞いたら
みんなわらって 
とても年上のいとこも笑って
しばらく話のタネになった


でもほんとは漠然とだけど知っていた
そして無邪気なふりが大人を安心させるのだと
そのとき身をもって経験した



たぶん そのころ

扉は開いたんだな






0069 ひあみ珠子
http://members.jcom.home.ne.jp/pearls/
扉一枚の攻防



普段、ご自分のお宅でしたら、
まあ戸はお閉めになっても、鍵まではかけないでしょう?

でも、私のうちではちゃんと、鍵なさって下さいませね。

扉が閉まってて、その前にスリッパが並べてあれば、
普通は『使用中』の合図になりますけれど、
うちにはほれ、普通じゃないのがおりますでしょ?
 ほら、こっちへ来てご挨拶なさい、
申し訳ありません、甘やかしておりまして、お恥ずかしいですわ。
もう、中にいるのを承知の上で、迷いなく開けますからね。
みっともないったら。
親の私でも恥ずかしいので、近頃は鍵するようになったんですの。
始めの頃はね、扉の向こうで取っ手が壊れるんじゃないかってくらい
ガチャガチャしてから、
もう、安普請でしょ、はらはらするんですのよ、
それでダメだって分かると、盛大に泣き始めるんです。
気が気じゃないですわ。
お蔭様ですっかりタイミングを失うってこともしばしばでね。
それでも今では大分慣れたようで、扉を挟んで遊ぶようになりましてね、
下の方が通気用に幾分あいてますでしょ、
郵便でーす、なんてそこからチラシ紙を入れてきたり、
手に持たせていた魚肉ソーセージのカケラを差し出してきたり、
これ(賄賂)で何とか開けてくれってことなのかしらね。
可笑しいでしょ。
今日もやるかもしれませんから、驚かないで下さいましね。

あら? もうお帰りになるんですの?
何かお急ぎでしたの?
まあまあ、お構いもしませんで、またいらして下さいね。






000a 宮前のん
http://plaza5.mbn.or.jp/~mae_nobuko/
向こう側のあなた





高く長い塀にそって歩いていくと
大きな大きな扉がありました
太い閂が掛かっていて
とても女一人の力では開きそうにありません
あなたの気配を塀の向こうに感じなければ
とっくに諦めていたでしょう

ここに居ることをなんとか知らせようと
道ばたの白百合を摘んで投げてみましたが
花が塀を越える事はありませんでした
小鳥の脚に手紙を結わえて飛ばしましたが
放した小鳥はピーと甲高く鳴いて
どこかへ飛び去ってしまいました

扉のそばには見張り台があって
そこには背の高い男の人が一人
彫金を施した鎧姿で立っています
扉を開けてくれるように頼みましたが
首を横に振って言いました

 塀を作ったのは姫君自身です
 扉を閉じたのも姫君です
 ここが姫君の楽園なのだから
 本気で頼んではおられますまい

不意に目眩を感じてふらつきました
小鳥が肩に還ってきました

あなたの気配が遠ざかります


私は
また塀にそって歩き始めました




 






000b 佐々宝砂
http://www2u.biglobe.ne.jp/~sasah/
扉をあければ



センパイ綺麗ですよねなんで結婚しないんですか
などとほざく後輩の頭をこつんとこづき
それじゃ明日ねとあっさり告げて
農協の裏手の墓地を抜け
コンクリ舗装のきつい坂を登り

唐突にある扉をあければ
いつもの店
今さら話し相手にもならないマスターに
ウォッカライムを一杯つくってもらう

ところでこの店のマスターは
ものすごく顔色が悪くて
犬歯が異様に尖っていて
唇だけ紅くて
酒は呑むけど何も食べない
もちろんそうなんだろうと思っているけど
鏡だの十字架だの突きつけるつもりはない
そんなことしたら失礼でしょ

隣の席では
カマキリの顔をした男がキィキィ泣いている
明日には文字通り食われる予定らしい
それでもいいじゃないのあんた幸せだよと
下半身蛇の女がなだめている
愛されて死ぬんだからいいじゃない
気持ちよく食われてやりなよ

連中には連中なりの苦労があるらしい
無論わたしにもわたしなりの苦労ってやつが
あったりするわけだけどさ
今はとにかくウォッカがうまい
わたしは女だけど黙って酒を呑む
酒呑んで人生の不満ぶちまけるのはかっこわるい

マスターが古ぼけたレコードをかける
魔性の不満ぶちまけてたカマキリ男が
蛇女と踊りはじめる
東欧風の旋律に戦慄をのせて

そろそろ人間の時間は終わりだよと
マスターが言うので
お愛想払って
店を出る

いまだ土葬の風習が残る
山あいの村の
人間はおろか魔物一匹通らない
さみしい道を
民家どころか街灯ひとつない
林道を
とぼとぼ歩いて
たどりついて

扉をあければ
わたしの現実

まだらにぼけた父と
預金の降ろし方さえ知らない母と
十年というもの部屋に籠もったままの弟と

それでもわたしは扉をあける
父でもない母でもない弟でもない
魔物ですらないものにとらわれ命じられて
わたしは扉をあける






000c 芳賀 梨花子
http://www.stupidrika.com/hej+truelove/
いちごいちえ



昨晩、苺を握り潰すやうに
血を吐いたのもわたくし
深い森の奧底で
白い尻をちらつかせ
獵銃を誘つた雌鹿もわたくし

わたくしの身體は
そんなに弱つてはをりませぬ
あなたが思ふよりわたくしは、強く
雪の日に咲く椿のやうに凛として
生を全うしてきたのですから

なにを恐れることがございませう
譬へ、今、わたくしが何を求めてゐるかなど
關係ないのです、と
あなたに申し上げても
あなたは、きつと、さう、きつと
言葉を濁して心も閉ざしてしまはれる
もう、その繰り返しはいやでございます

わたくしとあなたは
見境のない旅路で知り合つてしまつた
雌雄同體のやうなもの
あなたのために
踵に隱した劣情や熱情を
脱ぎ捨てる遊びに命を懸けても
わたくしは悔いることのなどありませぬ

年月を重ねた肌に
鋭い爪を立てられた楓のやうに
あなたを愛して差し上げる
ああ、だから、早く
この扉を開けて


作  芳賀梨花子
監修 山田せばすちゃん










 


2003/1/15発行

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(編集 遠野青嵐)
ページデザイン CG加工 芳賀梨花子)