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†蘭の会12月詩集†
 
「僕は狂ってしまいたい」  幕切れ
錯覚のようなもの 星とおはじき
 メリー クリスマス  聖なるものを口にしてはいけない
灯火 森のイブ
鈴の音響き渡れ Jack-in-the-box
昔の子供 聖夜・
ヤコブの梯子 やどりぎを探しに山へいこう

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
0007 愛萌
「僕は狂ってしまいたい」

 
 
 
 

街が赤く光っている
12月は哀しい季節
 
 

思い出したように
君が空を見上げた
白い息がかかる
空気に嫉妬した
 

明け方の街の中
僕は耳を澄ました
雨がやってくる
気配も優しかった
 
 

去年の今頃なら
僕の言葉は生きていた
去年の今頃なら
君を離さず愛せた
 

けれど今の僕は
何もかも亡くしてしまったから
 
 

水に溶かした心を
手のひらですくい取って
冷蔵庫に入れたら
もう一度作り直せるか

最初から冷たいままなら
痛んでもきっと大丈夫
空が白く光って
雪が降ってくる前に
 

自分を作り直そう
 
 

君に伝えた音楽
君が笑った夢
君を抱いた指先
君の救った僕

すべてが君に
続いていた
去年の今頃の
聖夜の僕たち
 
 

何もかも亡くしても
消えないあの日の思い出
 
 
 
 
 

街が赤く光っている
僕は狂ってしまいたい
 

君を忘れられないから
 

僕は狂ってしまいたい 


 


 
 
 
0023 ナツノ
http://www5.plala.or.jp/natuno/brunette_top.htm
幕切れ

 
 
あなた 私が来なくても がっかりしないで
雨のしづくが 頬におちたら
男は恥ずかしいものでしょう?
クリスマスのイルミネーションを
見上げるフリで払いのけて いつもみたいに格好よく

交差点で行き交う にじんだ赤と黄色の車のライトを
あなたはもう 何回見送ったのだろう?

あの地下鉄の階段を上がったところで 立ち止まり 
チョット手をあげて合図 身だしなみを整える
そうして 信号が青に変わるまで
人ごみの横断歩道のそっちとこっちで 見つめあったものだけど。

なぜだかグラスが心で砕けてしまったから
修復するまできっと会えない それはもう ずっと会えない事。

あなたは悪くない 私のせいだと 
自分を責めるフリで キレイに終わる
最後の幕を引く役は 私にやらせて。 
きっと 生きている限り 私は私をかばい続ける
そして私は 私にとっての美しい詩を書き続ける

雨のたそがれ時
車のライトが 眉間に寄せたしわにも まぶしいでしょう?
こんな寒い夕暮れは 自分で自分を暖めます。
あなたの優しさはじゃまになる。 ごめんなさい。

信号が青に変わり
色とりどりの キャンディのような傘の波が 忙しく交差する
けれど そこに 私は現われないから 
どうぞコートの襟を立て
いつものように格好よく 暗いカウンターでタバコを吸って。

離れた場所で 今日の日付の変わる頃
二人して 穏やかだった日々を思い出すの。
でも 「何故来なかった」なんて 電話しないでね。

幕はもう 私が引いた。
あなたは ステキに背中を向けて ゆっくり舞台のすそへと 歩いていって。 


 


 
 
 
0037 とかげ
錯覚のようなもの

 
 
どこかで雪がふっているのだと
テレビが言うが
窓の外には雪もふらない

もしかしたらうそかもしれない

そうかしらと
もうひとりの誰かが言ったような気がして
そういうものだと答える

少なくともこの15年ほどの間
わたしの街には雪などふっていないから

ネコはいつだって背中を丸めている
聞こえもしない遠吠えを恐れて
 

雪のふらない窓はそれでも
やわらかに曇るので
世界はほの白く
この部屋ごと
少し浮いたところにいるようで

部屋の中はやけにあたたかいが
外はとても寒いらしく
どこかで雪がふっているのだという

わたしは知りもしない雪を見ている
きっとそろそろ鈴の音が
しゃんしゃんと窓をたたくのだろう
 

背中をまるめたネコが
ほんの少しだけのびをする 


 


 
 
 
0043 鈴川ゆかり
星とおはじき

 
 
 
母さんのたんすからくすねた
毛糸のルームソックスに
おはじきを詰めていく
ひとおつ
ふたあつ
 

冷たいお月様が
笑いながら隠す
星の数なんて
考えたこともなかった
 

詰めれば詰めるほど
重みでソックスの編み目が
広げられていく
かといって
おはじきのこぼれるくらい
大きくはなれない悲鳴
ぎゅううう
ぎゅううう
 

おなか一杯でもまだ
デザートは別腹だったり
毎年ブーツを買い換えても
気が済まなくなったり
2度と後戻り出来ない快楽を
知っていくこととか
 

おはじきは
漏れることも出来ずに
ぎゅううう
ぎゅううう
ほんとは涙になって
こぼれたいのに
ひとおつ
ふたあつ
詰めることしか知らないし
誰も教えてくれない
 

サンタクロースへの手紙
この際後継ぎサンタがいなくても良いので
無理せずご隠居くださいと告げる
星が見えますようにと
願うのも申し訳ない
 

ほんとはきれいな涙になりたくて
たった一粒でも良いから
こぼれてくるのを待つ
ソックスは伸びきり限界
もう履けないだろうな
私が母さんくらいの大人になっても 


 


 
 
 
0045 雪柳
http://ip.tosp.co.jp/i.asp?I=yukiwatari
 メリー クリスマス 

 
 
  
 
心が凍えた夜
生まれて初めて恋を拾った
  あなたと出会った記念の日
 
熱いくちづけに痺れ
あなたへの愛が燃えた夜
  あれは 5年前のクリスマス
 
  ふたりで祝った 最初のクリスマス
 
 
 
キャンドルの灯りともして
あなたとの愛を確かめあった
  毎年めぐり来る 愛の芽ばえた日
 
かけがえの無いあなただと
永遠に続くと信じてた 幸福の時
  ふたりだけで祝い 過ごした夜
 
  ふたりの ハッピー クリスマス
 
 
 
あなたの遠くなる瞳
たそがれの中歩いたふたりの時間
  あなたの愛を失った日
 
過ぎ去った ふたりの時間に乾杯し
これからの幸せを祈り 乾杯した
  さよならをくり返した夜
 
ふたりでグラス交わして 別れた夜
抱きしめてた愛を手放した夜
  何もかも 遠いクリスマス
 
  ふたりの ラスト クリスマス
 
 
 
面影を抱きしめて
失った愛に頬ずりする
  想いの灯りともす夜
 
あの日のことを思い出し
あなたのことを思い出し
  思い出だけがかけ巡る夜
 
出会いと別れの記念日を
面影にグラスかたむけ
  ひとりで祝う クリスマス
 
  ひとりの メリー クリスマス
 
 
  メリー メリー クリスマス
 
 
  

 


 
 
 
0051 Ray
聖なるものを口にしてはいけない

 
 
それは大晦日の月の25番目の日に、一人の男が生まれたことを祝うのである。

 これゆえに大きな争いが、ここそこでおこる。
 そのとき、多くのものがこの男の誕生を祝うことなど思いもしなかった。

それは大晦日の月の24番目の日に、一人の男が生まれたことを祝うのである。

 私の愛する男の腰を通して、この子は生まれた。
 この子の母は、私の愛する男を捨てて他の男と寝た。

それは大晦日の月の23番目の日に、一人の男が生まれたことを祝うのである。

 女ばかりが続いたあとで、ようやく生まれたこの子は輝く皇子と呼ばれた。
 二千年以上続く、この子の家系は途切れ無いことを安堵した。

     何の脈絡も無く、時代の繋がりも無い
      信ずる神も同じで無く、定まった祈祷の方法も無い
       知る者知らぬ者の数も等しく無く、愛するものの数も等しく無い

それらの大晦日の月の3つの日に生まれた男たちについて

 ことの大きさに慄くな。なにごとも大きくなんかは無いんだから。
 
*****

 私は今年もメモを片手にあちこちの店を覗いては、「愛」を押し付けるべく、プレゼントを買うのである。
 去年貰ったプレゼントでいまだに返品されていないものは、いったい何なんだろうか。
 Hanukkahを祝うユダヤ人にはクリスマスカードなど送れない、なんて思いながら「季節のごあいさつ」なるカードを買う。

憂鬱・・憂鬱・・憂鬱。

それは大晦日の月の26番目の日に、生まれた男たちのことを忘れて平安を祝うのである。

  


 


 
 
 
0057 鞠亞 怪音
http://www5e.biglobe.ne.jp/~kouka/
灯火

 
 
 
 

   キャンドルを灯せば赤く
   雪が霞んで見えた
   窓の外ではたくさんの人が
   たくさんの言葉を交わしているのに
   どこにもいけない。

   ひとつの炎だけが灯る中
   名前もない詩を紡いでいたよ
   少しでも暖かく
   私にはそれしかないから
   手をのばしていた。

   願いはたったひとつだけ
   あの真っ白な雪に足跡をつけたい
   もう戻らないのなら
   一度だけ
   降り続く雪を汚して
   自分の証としたい。

   何も生まれないから
   後から消えていくだけ
   私の足跡は残されないで
   先は見えない

   今日、人は生まれたのに。 


 


 
 
 
0064 紺
森のイブ

 
 
 
その森には
ちいさなみずうみがあるという
底まで透きとおっている
うつくしい水鏡

みずうみに沈んでいる
いっぽんのモミの木には
幾千の泡と薄いグリーンの藻が
飾りのように

ここは清浄な王国

音も無いみずうみの底から見上げれば
モミの梢から歌声がかすかに響く

水面からすこし飛び出している梢に
止まっているのは鈍色の鳥
星じゃない
星じゃない

るるるるるる

星じゃないんだ
 

指を組んで何を祈ればいい
この水の冷たさと淋しさと
悲しいほど安らぐことのできる
この水底で

るるるるるるるる

歌うだけで鳥は満足
歌うだけで
 
 

そんな天国がどこにある? 


 


 
 
 
0066 藤咲すみれ
http://members.jcom.home.ne.jp/cow/
鈴の音響き渡れ

 
 
暗い夜空のSilent Nightは
何も起こらないLonely Night

恋人たちはいらない

Merry Christmasは訪れない

今日みたいなSilent Nightは
私にとってはLonely Night

都会の夜に星は輝かない

Holy Christmasは訪れない
 

ホテル着飾るChristmas
愛のある夜訪れる

そんな夜に
「聖しこの夜」も
「クリスマス・イブ」も
似合わない

It's Sexual Night.
 

夜空が綺麗だねって
窓から空を見上げても
星は見えない

夜景が綺麗だねって
窓から街を見下ろしても
自然じゃない

騒々しい夜に性なる夜を

今夜は二人だけのMerry Christmas
 

家族で過ごすMerry Nightは
Jingle Bellが鳴り響くHappy Night

恋人たちはいらない

今宵も
私の心の中は
鈴の音が鳴り響くだけ 


 


 
 
 
0069 珠子
http://members.jcom.home.ne.jp/pearls/
Jack-in-the-box

 
 
朝、目覚めて
枕元に『国語辞典』を発見したとき
そのあんまりな 実用性 にめまいがした
小学5年のクリスマス
うちのサンタの魔法は解けた
ママとデパート行って腕時計買ってもらったんだ
うすうす気付いてはいたの
前の年、こっそりサンタに手紙を書いて
枕元に置いておいたのに
それはそのまま朝までそこにあって
サンタが見落とすわけがない

ねえ、私はもう大人だから
わくわくプレゼント待ったりしてない
自分で欲しいもの買うからいいの

そんなことより
ただ、聖夜には思い出して欲しい
今日は聖夜だ、と

Jack-in-the-box
付き合い始めのクリスマス
お互いこっそりプレゼント用意してたね

Jack-in-the-box
あれはあれで楽しかったけど

Jack-in-the-box
今は思い出してくれるだけでいいのよ?

Jack-in-the-box
でもきっと貴方は忘れてて
「残業残業しょーがねーだろ」

Jack-in-the-box
私は拗ねる前に仕掛けるの

 Uncle Jack
 よく聴いた曲
 Uncle Jack
 思い出してあのグルーヴ
 Uncle Jack
 全然クリスマス・ソングじゃないけどさ 大好きだった!

Jack-in-the-box
強力なバネぎゅうぎゅう押し込む

Jack-in-the-box
差し出したら
どんなに嬉しい顔をする?

Jack-in-the-box
開けたら さあ どうなるかしら?

Jack-in-the-box
私はプレゼントの天才

Jack-in-the-box
国語辞典よりはパンチが効くと思うけど

Jack-in-the-box
さあ、聖夜が待ち遠しい 


 


 
 
 
0071 久
http://www.geocities.co.jp/Bookend-Akiko/8110/
昔の子供

 
 
誘われた 電子のクリスマスメドレー

スーパーのおもちゃ屋の クリスマスツリー

ふと足を止め 子供達の群れに紛れこむ
 

クリスマスソングは 繰り返す 

ジングルベルの次は 赤鼻のトナカイさん

そして きよしこの夜

子供達は 大きな瞳で ツリーを凝視し

また 始まりに戻る
 

クリスマスは いつも 特別な日だった
 

ストーブの上のやかんが しゅぽしゅぽ

こたつにのっている お母さんのご馳走

棚に大切にしまわれている グラスを取って

ぽん と シャンパンのふた 開けた

かんぱい!

この日にしか飲めない 大人の気分

大好きな鳥足の唐揚げに しゃぶりついて

ホタテと大根のマヨネーズ和えを とりわけてもらった

デザートは 真ん丸い クリスマスケーキ

そっちの方が大きい

チョコの家 ちょうだい
 
 

テレビに映し出される クリスマスの街には

喜びに顔を輝かせた 人々が歩いていた

街の明かりは ピカピカの木

見上げた世界は キラキラ キラキラ 輝いて

幸せが いっぱいに満ちて
 

子供達の夢は 夜空に浮かんだ
 
 

思えば 私は 幸せな子供であった
 

昔の子供は 今は大人になり

クリスマスの幸せは 遠くにある
 
 

気がつけば 先程の子供達はいなくなっていて

今度は 別の子供達が立っていた
 

クリスマスソングは 繰り返す 

子供達は 大きな瞳で ツリーを凝視し

また 始まりに戻る
 

幸せは 引き継がれ 繰り返していく
 

名前を呼ばれた子供が お母さんの元に走っていった
 

懐かしい幸せを 後ろに 感じながら

私は帰ろう 
 

手にはノンアルコールのシャンパン

一人分のケーキを持って 


 


 
 
 
000a 宮前のん
http://plaza5.mbn.or.jp/~mae_nobuko/
聖夜・

 
 
 
ある年のクリスマスプレゼントに
私は両親からヴィダをいただきました
お父様はまだ早すぎるかもとおっしゃいました
お母様はもう大人だからとおっしゃいました
お兄様は夜は早く帰れとおっしゃいました
私はヴィダを大事にしようと思いました

あの日お友達とのおしゃべりが過ぎて
すっかり遅くなってしまった帰り道で
私は大切なヴィダを奪われてしまいました
金色に光る闇が後ろから近付いてきて
あっという間に連れ去られてしまいました
ヴィダはその時悲鳴をあげたようでしたが
私にはどうすることも出来ませんでした

家に帰ってそのことを告げると
お父様は何も言わずに書斎へ隠っておしまいになりました
お母様は泣きながら寝室で寝込んでしまわれました
お兄様は怒りを吐きながら当り散らしておられました
私は大声で泣きじゃくりましたが
誰も抱きしめては下さいませんでした
小さなヴィダが奪われたために
暖かささえも失ってしまいました
 

次の年のクリスマスイブがやってきた時
我が家はすっかり冷えておりました
私は神様にお願いをしました
そもそもはあれが始まりでした
どうかヴィダを還して下さい
すると天使が現れて言いました
ヴィダのせいではないのだよ

突然 光が輝きました
時計が0時を回ります
小さなヴィダは戻りません
 

メリークリスマス
 
 
 
 

  


 


 
 
 
000b 佐々宝砂
ヤコブの梯子

 
 
東の空 雲間から矢のように落ちる光
あれはヤコブの梯子というのだと
少年に教えたクリスマスの朝
うすらいは俺の足に踏みにじられ
音も立てずに割れた

少年の茶色っぽいクセっ毛を
少年が育てた仮想のモンスターの名を
俺は覚えている
もちろん俺は少年の名を知っている
けれど俺はその名をここに記さない

俺たちは寒バヤを釣りにゆくはずだった
あんなつまらないザコだけど
南蛮漬けにすりゃ旨いんだと言うと
クリスマスに南蛮漬け?と
彼女は笑った

しかし彼女はもう笑わない
俺の名を呼ぶこともしない
けれど日常はまだ続いている
この 砂色の日常は
服み込み損ねた胃薬のように苦い

たとえば 昨日のことだけれど
彼女はポインセチアの鉢を割った
赤と緑は世界最悪の配色だと言って
でもそれは赤と緑ではなかった
あかるいレモンイエローと緑だった

色の問題じゃないことは俺にもわかっている
俺たちにはクリスマスを祝う習慣がない
ただポインセチアは俺の友人からの贈り物で
それも俺でなく彼女のための贈り物で
いや でも そんなことは忘れよう

俺はいきつけのスナックで水割りを一杯
店の入口にはクリスマス・ツリー
色とりどりに点滅する明かりを眺め
俺は思い返している
少年が生まれたときまだ時代は華やかだったと

流れてくる音楽が俺を憂鬱にする
しかし俺にはできない
低い声で「その曲はやめろ」とは言えない
たとえこの店が俺のものだったとしても
バカバカしくてできやしない

恋人がサンタクロース と
歌っているのは俺より十は若そうな女
俺の眉間にはきっと皺が寄っている
俺はぐいぐいと水割りを飲む
それからストレートを注文する

サンタクロースは交通事故を起こさない
川に車を突っ込んで
自分一人生き残ったりはしない
ぜいぜい騒ぐつぶれ損ないの肺に
煙草の煙を自ら吹き込んだりはしない

カラオケが終わる
マスターが拍手する
俺はおざなりに三回ほど手を叩く
女がウインクして微笑む
美人だがウエストが寸胴だ

そういえば俺がつきあってきた女たちは
なぜかいつもウエストが寸胴だ
彼女も そうだ今にはじまったことじゃない
昔からあんな体型だったじゃないか
あれはたぶん年齢のせいではなくて

どくん。

不意打ちの頭痛が襲ってくる
壊れかけた肺がうずく
微笑む女の顔がまっしろに塗りつくされる
俺はマスターの姿を探す
すると彼は石でできた天使像に変わっている

なんだ?

俺は目をこする
幾度も幾度もこする
華やかなクリスマス・ツリー
見慣れた店内
白塗りの顔をした女

突然あかるく眩しい白い光が目を射る
どこからやってきた光なのか俺にはわからない
そしてあたりに響きわたる聖歌
いつくしみふかき と歌う声は
うすらいのように澄んだボーイ・ソプラノ

光の中から少年がやってきて
カウンターの中の天使像に向かって言う
マスター ぼく パパを連れてくよ
いいじゃん もう 死にかけだもん
四年も眠ったままなんだもん

少年は俺の腕を握る
うすらいのように冷たい手で
石になったマスターは何も言わない
行ってしまってもいいのか俺は
もう許しを得たのかいつくしみふかきイェスよ

俺は目を閉じて澄んだ声に身をゆだねる
少年の声だけではない
たくさんの澄みとおった声が俺を取り囲む
調和した・不安のない・美しい
濁りのない・混じりけのない・歌声が

いや。
何か和にならないものが聞こえる。

不安げな・なつかしい・いとおしい声が
俺の名を呼んでいた
俺にはその声が見えるように思われた
揺れ動くやや赤みを帯びた光は
懐かしい声が呼ぶ俺自身の名は
一直線に俺の前におちてきた

俺は俺の名前にすがった
俺の名を呼ぶ温かい光にすがった
そうして俺は叫んで応えた

ようやく思い出した彼女の名を

すると
スナックも少年も歌声も
拭き消されたように消え
俺のかすんだ目にうつるのは
ぼんやりと白い天井

ゆっくりと首を動かすと
点滴の管があった
彼女の顔があった
やつれた顔には見覚えがあったが
その表情には見覚えがなかった

それから

不安げな・なつかしい・いとおしい声が
再び俺の名を呼んだ
俺ももういちど彼女の名を呼んだ
見開いた彼女の目に
たちまち涙があふれた 


 


 
 
 
000c 芳賀 梨花子
http://www.stupidrika.com/hej+truelove/
やどりぎを探しに山へいこう

 
 
クリスマスのイルミネーションが

もしも寂しいと感じているならば

エプロンとミキサーそれとオーブン

焼きあがったばかりのジンジャークッキーと

ブランデーのいい匂いがするフルーツケーキ

冷蔵庫のすみで固まってるチーズをパンにはさんで

何年か前の夏を詰め込んだピックルスの瓶詰めと

あのピクニックバスケットをひっぱりだして

それとあの暖かいブランケットも忘れずに

甘いお紅茶をいれた魔法瓶といっしょに

しあわせだった頃のものみんなみんな

車のリアに積みこんで

夫が帰ってきたら/どんなに深夜でも

ブルルルンとエンジンをかけて/おんぼろだけど

息子を迎えに行って/たとえいやがっても

そのまま山まで

森中で一番大きなやどりぎを探しにいこう

ねぇ、ルドルフ

最近、足りなかったものはこれなのよ

ラジオをがんがんかけて/たぶんクリスマスソングばかり

アクセル目いっぱい踏み込んで/追い越し車線じゃないけれど

山につく頃には暗い暗い夜はきっとおわる

朝靄につつまれた森へ

白く凍えた枯葉は歌うたいのようね

だから、わたし踊ってみよう

ふたりとも大人気ないって言うかな

大人気ないって笑うかな

それでもいいから手をつないで

三人で森の中を歩いていこう

三人でやどりぎを探して

一番大きなやつを見つけよう

今年のクリスマスには

赤いビロードのリボンで

森中で一番大きなやどりぎを玄関に飾ざるから

ねぇ、ルドルフ

今年こそ彼を連れてきて

わたしたちのおうちへ 


 


 
 


 

2002/12/15発行

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(編集 遠野青嵐)
ページデザイン CG加工 芳賀梨花子)