0007 愛萌

「わたしはさかな」





青い海の中には
苦痛がないのです


意識しなくても
体が泳いで
心地よい場所を
探し出し
永遠に醒めない
夢のように


私を包んでくれるのです



青い海の中では
争いはありません


求めれば
必ず与えられ
許され
癒される
時の魔法が
かかったように


誰もが愛し合えるのです




赤い大地には
憎しみだけが
漂っていました
黒い空からは
涙の雨ばかり
降りそそぎ

私は
濁った
土の上で
酸素ばかりを
貪っては

他人を蹴落とし
独りだけが
生き残ることを
望んでいました




青い海の中には
そんな私を
哀れむような
小さな瞳の
魚がいて




私は彼に
あこがれて
いたのかもしれません







青い海の中
泳いでみたいと
思っていました

あんなに優雅に
束縛されず
愛されれば
どんなに幸せか


だから


悲しそうな
小さな瞳に
手を伸ばしたのは
間違いだったのか

ただ

ただ


何よりも
焦がれていたのに








目を覚ませば
汚れた手のひらに
海の色より
美しい
彼のかけらが
残っているでしょう


私が
むしった
あの
尾っぽや
鱗や
鰓や
鰭たちが


哀れみを宿して


残っているでしょう









0013 朋田菜花
http://www.asahi-net.or.jp/~sz4y-ogm/

 「午前0時の森」

 気がついたら青い森の深奥にたたずんでいた
 時刻は午前0時
 熱くなりすぎた流水回路は
 放水弁への命令系統をショートさせたようだ

 昨日時を亡くした街で垣間見たジオラマ
 酒場に点ったランプ 
 鍵を失くした書生 翳りの中に溺れる女 
 猥雑な嬌声 消せない矜持 渦巻く予感 羨望と嫉妬
 だが、おおかたの期待を裏切るように
 二人は寡黙を貫いた



 隣室から響く甲高い笑い
 激しい喉の渇き
 めまいのような感覚 熱い波動
 気がついたら 僕は 
 書生になりかわりあの女を抱いていた
 乱れた髪、狂おしげな荒いい息、冷たい肌 
 見上げた女の瞳が陶然と輝きながら
 急に僕の腕の中で姉の顔に変容する 
 沸騰する思考
 姉 ・・・ 自分に姉などいなかったはずだ
 そこで夢だと気付き夜半の臥所にはたと身を起こす
 窓の外は閑まりかえった星月夜



 「早く早く・・・急がないともう旅立ってしまう」
 頭の中に鳴り響いているその言葉の
 正確な意味すらわからぬままに
 僕は家を抜け出し
 月明かりの森の中央まで憑かれたように歩いた
 
 ひときわ高い樅の梢の上に浮かんでいたのは
 月と同じ形の球体
 にぶい光をまといながら中空に輝く夢幻体



 突然球体は二つに割れ 
 中から濃度の濃いガラス質の森が現れた
 (いや、森のようなものというべきだろうか・・・)
 ウバメガシ シラカバ ダケカンバ アカマツ ・・・
 に、似ているようにも 
 虹色ガラスでできた未知の植物形生命体にも見えた

 やがてぽっかりとが二つに割れた半球系の空中浮遊島から
 一本の光の川が流れはじめた
 湧き出す流砂にも見えるその輝く粒子は
 森の中央広場にあふれ
 あたり一面を覆い尽くした
 空は漆黒なのにここだけ、黄金色(きんいろ)の真昼



 その 砂の流れを遡るように
 球体にむかって突き進んでいく者がいる

 あの書生だ 
 そして男に静かに手をひかれているのはあの女だ

 さっきまで狂おしく夢魔の中で抱いた氷の肌
 不意に左の胸にいいようもない痛みが走る
 次の瞬間 僕は 声にならない声で叫んでいた

 不意に振り返り僕を認め目を見開いた彼女は
 男の手をふりほどき こちらに走り寄ろうともがいたのだが
 時すでに遅く
 球体は今度は恐ろしい勢いで砂を吸い上げて行き
 二つの半球は小さな宙に浮かぶ森を呑みこみ
 内側に閉じ始めた



 そのときだ 
 僕は球形体の中の森が歌う声を聴いた
 ウバメガシ シラカバ ダケカンバ アカマツ ・・・
 によく似た
 虹色ガラスの未知の植物形生命体たちは
 祈るように歌っていた
 空気をふるわす歌声と音を超えたイオン波とで
 燃え上がる生命の歌をうたいあげながら
 僕のいる森と大地を揺らした
 だが、僕の心にはそれ以上に
 ひたむきな黒い瞳の彼女の叫び声だけが
 森のうたも波動も超え脳内で鳴り響いてた

 やがて 激しい風と目もくらむ光の中
 小さな森を呑み込んだ球体は消え去り
 僕は大地にひざまづいて ただとめどなく涙を流し続けた



 朝が近づいている
 東の空からしのびやかに染まりはじめたオレンジ色は
 僕がなにか とても大切なものを失くしてしまったことを
 静かに告げていた
 そしてそれは
 終わることのない 新たな旅のはじまりでもあった








朋田菜花さんの作品はこちらでもお楽しみいただけます






0019 NARUKO
http://www.hbs.ne.jp/home/poppo/

動物園

 
 
動物園は、諦めた場所
 
 
人工山のサルは、縄張りを争うのをやめさせられた
ひとりっきりの雄ライオンは、群れになるのをやめさせられた
歩き回るトラは、木に登るのをやめさせられた
小柄なキリンは、高い木を見上げるのをやめさせられた
 
 
笑いながら語りながら
指をさしては楽しくみつめる
かたぐるまは優しさの象徴
そんな
アスファルトの上の矢印の方向に歩く人たちを
ただみてるだけの
 
 
動物園は、諦めた場所
 
 
フクロウは首しか動かない
タヌキはまるくなって動かない
サイは立ち尽くして動かない
マンドリルは座り込んで動かない
 
 
なにをしたいのかわからないのに
やみくもに声をかけられても
ボクはそこにいけやしないのに
ボクのことばはとどきはしないのに
 
 
動物園は、諦めた場所
 
 
トビウサギは赤く照らされた暗い部屋で一日中
ゾウガメは小さなプール付きの狭い部屋で一日中
カワウソは流れるプールを泳ぎ尽くす一日中
コウノトリは小さな池をつつきます一日中
 
 
 
いろんなこと
あきらめたこと
あきらめたことでさえ
わすれてしまうこと
 
 
 
動物園は、諦めた場所
 
 
きっと
悲しみの
いっぱい詰まった
おとぎ話の城
 
 
 









0023 ナツノ
http://www5.plala.or.jp/natuno/brunette_top.htm

じゃあどおしたら?

じゃあどおしたら?
どうするの?
解決するの? しないの? どうすれば 終わるの?
出口なしの迷路。

いっそ放り出すか
いっそ突き放すか
いっそ埋めてしまおうか。
いっそ箱をさかさまにし
すべてを振り落として空っぽにしてしまおうか?

…砂時計が
しづしづ落ちるように
それは降り積もった。そ知らぬ顔で。 長い年月を経て。

だから払えない。
だから拭えない。
誰にも説明がつかない。
こころの細かなひだに 刻み込まれたもの。

じゃあどおしたら?
自問自答を背負って また坂道を登りだす。
絡まった
いく色もの糸をながくながくひきずりながら。









0043 鈴川ゆかり
http://plaza.rakuten.co.jp/niveau/

あかずきんちゃん


おおきな耳は
遠くからでも美味しそうな子供の声が
きこえるように
おおきな口は
子供が泣いて助けを呼ぶ前に
ぺろりとたいらげるように


黒と茶色の毛むくじゃら
オオカミはこんな格好をしているから
だまされないように と
あかずきんちゃんはママに言われたんだけど


実際おばあさんのベッドにいたオオカミは
ひどい寂しがり屋で
1ヶ月前の発作ですでに亡くなっていたおばあさんとは
無二の親友で
彼は泣く泣く彼女の墓を掘ったあと
誰か親族が訪ねてくるのを
ひっそりと待っていたのだった


大好きなおばあさんの死にショックを受けた
あかずきんちゃんを
元気付けたのもオオカミで


おおきな耳で
小鳥の歌を聴きつけたら
おおきな口で
それを真似して
あかずきんちゃんのために
歌を作ったのだった

日が落ちて危ないので
オオカミはあかずきんちゃんを
森の入り口まで送っていくことにした
小鳥の歌を歌いながら
あかずきんちゃんは たいそう
オオカミのことが好きになっていたんだけど


途中ばったりと
善良な猟師に出くわしたために
ふたりの運命は急変することになる


おおきな口が
子供をだまし
ぺろりとたいらげると信じていた猟師は
当然持っていたライフルの引き金を引いた


小鳥の歌が3コーラス終わった時に
オオカミの口が一番大きく開いたので
それを目掛けてズドンと一発
オオカミは即死


ガタガタ震えるあかずきんちゃんを
猟師はママのもとへと送り届ける
ママはあかずきんちゃんをしっかりと抱きしめる

真っ青なあかずきんちゃんには   
やさしいオオカミさんが目の前で血を吹いたのは
自分が一緒にいたせいだってことが
ちゃあんと分かっていたので
ママにそれを説明しようと思ったのだけど


あかずきんちゃんは
ショックとひどい自責で
言葉を失ってしまった
ママはそれを見て
余計に哀れがり
オオカミをののしり
もうオオカミはいないと繰り返し


あかずきんちゃん
ママの言葉と小鳥の歌が
同時に頭の中に響くので
さらに混乱し

ほどなく森の家で
おばあさんの蒸発が確認される
オオカミさんのことを説明する絶好のチャンス
でも しゃべれなくなっていたあかずきんちゃん
結局ママには伝わらず
あの大きな口がおばあさんまでたいらげたのだと
オオカミはさらに罪を被せられた


あかずきんちゃんがその後どうなったのかは
誰も知らない









0045 雪柳
http://ip.tosp.co.jp/i.asp?I

おせっかいなんだからぁ


ずっと片思いだったあの人に
想いを うちあける事が出来たのは
あなたのおかげよ

ずっと片思いだと思っていたあの人と
想いを 確かめ合えたのは
あなたのおかげ  ・・・なんだけどぉ


君が沈んでいると 俺まで元気が出ない なんて
君の笑顔が見たいんだ なんて
陳腐なセリフ並べ立てて
俺は世界一口の堅い男だよ なんて
私の悩みを聞き出しといて

君に ため息なんて似合わない
気晴らしにデートしよう だなんて
強引に 私の事 誘っておいて
現れたのはあの人  ・・・あなたの親友
あなたに聞いて 自分も決心がついたって


もう・・・ なんて事してくれるのよぉ!
覚えてらっしゃい!!
騙まし討ちのお返しは
きっちりさせてもらいます
お礼参りを覚悟しててね



ところで ねぇ あなたって
あたしを口説いてたんじゃなかったっけ?









0051 Ray
http://www40.tok2.com/home/stgeorgeutahusa/

月影が
微かに映える
寝室で
密やかな声
耳に飾りぬ


目覚めれば
あなたの重みが
肩にある
湿気を帯びた
静かな寝息と


犬のいびき
二人で聞いて
笑いつつ
ゆらりゆつゆつ
眠りに入る









0059 汐見ハル
http://www3.to/moonshine-world

香水

鼻の奥からしびれる おもわずめをとじる
何もかも遮断してしまいたくて 支配されかかって 
吐息すら 思惑のうちだったかも
めまい

なにも舐めてない けど甘い味がする
どうしよう なきたい
しびれたこころで ぐらぐらになりながら
息をつめる

かたち無かったから つかめなくて
とじこめることもできず ただうすれてゆくがまま
ふりむいても もうあのニュアンスを忘れてしまってる
希薄へと

触れたそばから 皮膚の音色を塗りかえていったのは
ひとしずくにも満たないまま 飽和を強要する湿度
やはり私はめをとじる かわいたままでも
たとえまぼろしだったとしても それでもまだどこかで信じてる
消えたわけじゃない



そんな恋でした









000a 宮前のん

脱皮



7年間土の中で眠ってて地上に出たら
森なんかもう全然なくて新しい団地だらけで
どこかで母さんの呼ぶ声がする

 いちろう いちろう ごはんよぅ
 あなたの 大好きな オムライスよぅ
 待ってるから 早く帰っていらっしゃあい

1週間の命だから放っておいてと言いに帰ったら
さっさと虫かごに閉じ込められてしまって
母さんの慈愛に満ちた視線を受け止めている

 いちろう いちろう もう大丈夫よぅ
 カゴの中は すてきでしょ 何でもあるわよぅ
 全部 あなたのために 用意したのよぅ


どうやら母さんは
僕をまた埋めるつもりらしい





 









000b 佐々宝砂

影さやかな月のもと

駱駝は人手に渡してしまった。
少しの水と、一日分の糧と引き替えに。
だから二人の娘は手をつないで歩いた、
月下の沙漠は、
はろばろと二人の前に広がっていた。

邪恋の娘ども、と囃し立てられ、
馴染みの館を出奔してまだわずかに五日。
困憊した二人の娘は、
もはや明日の身過ぎに思いを巡らさぬ。
明月の価は千金、無一物の娘たちを照らせばこそ。

二人の面差しは双子のように似通い、
魂は一つの鋳型から生まれたかのようであった。
かほどに同じい魂が、
何ゆえ器をたがえているのであろうか。
いかなイフリートの悪戯であったろうか。

幸いの星サダァル・スードは姿を見せぬ、
月光が星ぼしを霞ませてしまった。
影さやかな月のもと、
よるべなき娘たちは互いに身を寄せ合い、
相似た腕で相似た胸をかき抱いた。

月が魔法をかけたのであろうか、
否、月が魔法を解いたのであろうか。
今や二人の娘は二人ではなかった。
娘は一人きりで月下の沙漠に佇んでいた。
面をあげて、無慈悲な月を見つめた。










000c 芳賀 梨花子
http://www.stupidrika.com/hej+truelove/

ラプソディー

君がいた夏を
突然
否定しなくちゃいけなくなるなんて
いつも遊んでいたプールの
水がなくなっちゃったみたい
だから、わたしむきになっちゃって
干乾びたプールの底を
デッキブラシでこすりすぎちゃった
ねぇ、知ってた?
デッキブラシってさ
あんがい硬くって
わたしの心
ずたずたになっちゃった
夏なのに
何していいかわかんないしさ
家の中に閉じこもっちゃったりして
だってね
日差しが怖いんだよ
傷口が肌に焼き付いていくようで
ほんとうにね怖いんだよ
これ以上寂しさが
染み込んでいくのがさ
君は妹のようで姉のようで
四半世紀分の夏をさ
一緒に過ごしてきたのにね
今夜はね
江ノ島の花火だよ
浴衣着てさ
うちわもってさ
下駄の音からんころんさせてさ
待ち合わせする男の子はかわっていったけど
君とわたしは鼻緒でまめを作って
痛い痛いって毎年泣きべそかくのに
からんころんって
江ノ電の駅から海岸まで
覚えているのかな?
スマートボールで景品もらうのは
いつもわたしで
君がいいなっていうから
うらやましがるから
いつも君にあげちゃった
いるかのガラスの置物
君は覚えているのかな
わたしは覚えていられるのかな















2002/8/15発行

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(編集 遠野青嵐)
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