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存在と永遠  fusion  「空を飛びたい理由」  
抜殻   「心象ファイル vol.2」  lust moon   
注目ーーーッ。  竹富島と八重ちゃん  あたしの中のあんた  
華氏109度    めざめる  すこしの距離  
指先から生まれ落ちて  再会  虫への恋文  
凪の素描  












0001 はやかわあやね
http://homepage2.nifty.com/sub_express/

存在と永遠

何ひとつ集うことのない空の下で
浮遊する想いだけが私たちの隙間を駆け巡り
何ひとつ見えない風景の中の
ほんの小さな彩りを
憂いの中に与えてくれる

糧と呼ばれるものの喜びと
その慟哭の中の
慈しみと許されるもの
許されないものを隔てながら
今日も私たちは日々暮している

すべてのものが
そこに存在するかぎり
これからも守られ続け
また守り続けていくものがある限り
すべてのものが
たゆたうことなく存在してゆくのだろうと
潤いの中の哀しみを
その腕にたずさえ
今日も私は
言葉を紡いでみたりする

哀しみの中の憂いとは
憂いの中の喜びであり
喜びの中の慟哭とは
その喜びと明日への礎を与えてくれるすべてのものだと
教えてくれたのは誰であろうか

何も喜ばれず
何も認められない存在の中で
私はその喜びを
見えない誰かに向かって吐き続け
例えそれが幻想の一旦を担うものだとしても
それが私にとっての実在である限り
他の何者をも逢い入れぬ
私自身のものであることには違いないのだ

愛などという言葉は
そこには存在してない
けれども見えないものはいつも
たゆたうことなく浮遊し続け
また今日も
何処かでその息吹きを感じながら
存在していることに違いないのだ



--























0002 yoyo
http://www.geocities.co.jp/Bookend-Ango/6455/

fusion

cigarette5.gif

伏流煙の逃亡先
そうそうれは捨てられた嬰児の時空の穴
二次元回収問屋の破産宣告
蔓延するウィルス性の慟哭

上記の画詩の解説です。

「アートの行方」
日本では詩が売れない。
詩より小説の方が価値が高いとされている。
また、それらよりも日本人はテレビのドラマや映画を好んで選ぶ。
日本人は短絡的な娯楽嗜好であり、かつビジュアル嗜好なのである。
それは、個人性の高く排他的な世界観を作る詩ではもはや役不足であり、暗雲の立ち込める現代社会において娯楽的志向がなければ価値さえ見出せないと言えよう。

それでは、詩はどうあるべきなのであろうか。
現代詩は先月の現代詩手帳にもあったように、終わりを告げられた。
世界的にみても、芸術いわゆるアートは総合芸術になりつつあるからである。
現代美術の彫刻や現代音楽の例をとれば、一見して理解しがたい部分を文字で説明を付け加える方向に切り替わっている。
現代社会の詩の方向性はもっと芸術(アート)に融合すべきであり、それを実現可能とされるのがコンピュータであり、その中でもCGやHTMLである。
日本において詩の世界観を広げるならば、娯楽性を加味できる上記の方法での詩を描いていくしかないであろう。

今回投稿する作品は反現代詩であり、アートと融合させかつメッセージ性の高い作品に仕上げたつもりである。








yoyoさんの作品はこちらでもお楽しみいただけます



















0007 愛萌

「空を飛びたい理由」




その日
世界には
小鳥が一羽もいなかった


それを憂いた神様が
小指の先を切り裂いて
落ちたしずくに
命を与えた


とたんに
しずくは
赤い一対の
羽を生やし
大空へと飛び立った




空はどこまでも自由だった
果てしなく続くその美しさに
しずくは一瞬で
心奪われた




   この空に
   愛されたい
   ずっと
   ずっと
   ただひとり




けれど
しずくの様子を見た神様は
また
羽の生えた
生き物を作ろうとした



それを知って


しずくは
細く
小さな嘴で
自分の羽をついばんで
飛ぶことを
やめてしまった





   この空が
   私のものに
   ならないのなら
   飛び続けることに
   意味はない




そのときから


永遠に
かなわない
願いを
かなえる
そのために



鳥は空を飛ぶ























0008 奈緒
http://www.hat.hi-ho.ne.jp/nao404/

抜殻





油蝉が鳴いていたから
油蝉が鳴いていたからきっと夏で
わたしはおじいさんの
の、入れ歯を探して洗面台をうろうろとしていたよ
萎えた歯ブラシが笑い飛ばすのも近い内
耳の中で飼いならして
わたしの
わたしはおじいさんではないで
洗面台をうろうろしていても見つからないで
鳴き声が
見つからなくて「もういいから出ておいで」と呼びかけて
声は篭ってしまって鏡にわたしが映る
おじいさんが呼ぶので離れる
いい加減鳴きやめよ、油蝉
わたしはおじいさんではなくて
わたしのおじいさんではなくて
わたしはわたしのものではないいればをさがして
うろうろとうろうろと探しあぐねて見かねた母が
ざるを構えて立っている
「とうさんを捕まえるの 今度こそ逃がさないわ」と笑いかけて
蛇口からボトボトと不細工に流れるよ
おじいさん
はわたしではないから洗面台の鏡のことを知らない
はおじいさんは入れ歯が見つからないから笑えない
はざるを握っているのは母であって歯ブラシではない
そうして身ごもってしまった油蝉がワンワン、ワンワンと鳴いて
鳴きやめよ
「鳴きやめよ
「鳴きやめよ 鳴きやめよ おじいさんが呼んでいる
入れ歯がないと蛇口を捻る
わたしはわたしのわたしのために耳の中の油蝉を掻き出す


ワンワン、ワンワンとないている
母がざるを見捨てて排水溝へと姿を消すよ
自分の名を呼ぶ声を流してしまえば
ほら おじいさん 夏は抜殻みたいで、からっぽだ























0013 朋田菜花
http://www.asahi-net.or.jp/~sz4y-ogm/

 「心象ファイル vol.2」


 朝焼けいろの絹のカーテンを開けて

 少年は花咲く園にやってくる

 この不可思議な庭園には蜂蜜の貯めてある池がある

 咲く花は白い薔薇、薄紅の山茶花、朱鷺色の椿

 そして小高い丘には時を忘れた木苺が宝石のように輝く


 
 少年は、白い薔薇にも山茶花にも椿にも目もくれず

 木苺だけを摘み帰る

 そして蜂蜜の池に一瓶の濃度の高い糖蜜を注ぎ入れ

 蜂蜜を一瓶汲んで立ち去っていく



 糖蜜が注ぎこまれることで

 蜂蜜が薄まってしまわないか

 などどいうことを案じる必要はおそらく少しもない

 この庭園の標準時はいつも正午なのだから



 ひっそり

 薔薇の花びらを噛んでみる

 林檎のようにせつなく

 追憶のように甘いかおりに包まれ

 蜜色の池のほとりに立つ



 空は思い出の絵の具のように流れている








朋田菜花さんの作品はこちらでもお楽しみいただけます



















0019 NARUKO
http://www.hbs.ne.jp/home/poppo/

lust moon

  
  
  
月夜には
ほのかに明るい闇を透かす
きみの声を聞いている


そう
腕を伸ばして
頬を撫でてくれるだけでいい
でも
頬を撫でてくれたなら
そっと引き寄せてくれてもいい


月夜には
まぶしい漆黒の空を泳ぐ
きみの鼓動を弄っている


そう
引き寄せて
髪を撫でてくれるだけでいい
でも
髪を撫でてくれたなら
そっと肩を寄せてくれてもいい


寝静まった屋根の上を
一段跳びしながらやってくる兎が
光の指輪をくれるから
私がいちばん好きな
きみの指に
ゆっくりとじらしながら
そっと通してみる


そう
肩をよせて
手を握ってくれるだけでいい
でも
手を握ってくれたなら
おもいきって唇に触れてくれてもいい
   
   
    
   
  























0028 阿麻
http://users.hoops.ne.jp/yumugen/

注目ーーーッ。

みなさい。
これから始まるあなたがた二名の
けがらわしい細胞分裂の寿ぎの真ん前で
残りの精子どもが泣きわめいている
この有様が
世の終わりまで続いていく
それが

嫉妬のルーツ

みなさい。さもないと-(未完)-























0043 鈴川ゆかり
http://plaza.rakuten.co.jp/niveau/

竹富島と八重ちゃん


西の集落を縫う
昔ながらの細い道
水牛車観光のおじさんの
のうのうと語り続け

それよりもゆるゆると
車を牽き続ける続ける大きな水牛
彼女の名前は八重ちゃん
仲間うちで一番の年寄り


陽炎に煽られて
何千何万と踏みしめる蹄
開かれた民家の裏口
昼寝する骨と皮だけの老婆
ブーゲンビリヤの枝
やがて海に重なりゆく
青い空

時の止まる錯覚は
赤瓦のシーサーの悪戯
彼らがにんまり微笑むのは
八重ちゃんにだけ見える

彼女は 
島の時間の流れ続けるのを知っている
だから人々が何ヶ月もかけて
石灰岩を掘り出したのち
やっと耕作を始めたサトウキビ畑とか
白い岩を捨てる代わりに積み上げた
美しい石垣なんてものを
愛していたりする


水牛車のおじさんは
毎回同じ琉球民謡を歌うが
とうとうとした歌声と
弦の伸びた三味線の音色は
八重ちゃんの身体に染み付いている

大きな岩をまるごと抱き込んだ
がじゅまるの角を曲がれば
今日のお勤めはお終い
心ゆくまで水を浴びよう























0045 雪柳
http://ip.tosp.co.jp/i.asp?I=yukiwatari

あたしの中のあんた



初対面で 胸ときめかせ
憧れに似た想いから
あたしはずっと あんたを見つめてきたんだ


あんたがいつも口げんかしてる彼女
よほど気が会わないのかと思ったのに
あんた 惚れてたんだよね

昔の傷に 縛られて
逝ってしまった女性の 面影に囚われて
あんた 言い出せなかったんだろ

心配して出てくる言葉が  ・・・馬鹿っ!!
続く言葉も ああ ぶっきらぼうじゃ
ねぇ あんた  気づけってのが無理なんだよ


だから あいつに かっさらわれてさぁ
確かに あいつは 良い奴だったし
彼女が あいつに 惹かれていくのを
あんた 見てるしか出来なかった

瞳を輝かせて あいつの世話を焼く彼女
本当に幸せそうだったもんね
あたし 独りでやきもきしてたんだ
あんた 泣きそうに優しい目をして 二人を見てたよね

あいつが故郷へ帰るって
二人で旅立った時の あんたの笑顔
わだかまりの無い スッキリした笑顔
あぁ あんた ふっ切れたんだなぁって 思ったよ


あたしは あんたを ずっと見てきたんだからね
出会った時の少女は 大人になったんだ
憧れは 恋心に 変化してるんだ

あたしの頭を撫でたり 小突いたり
いつまでも 妹扱いはやめてちょうだい
あたしは 女なんだよ

あんたに恋してる 女なんだ























0051 Ray
http://www40.tok2.com/home/stgeorgeutahusa/

華氏109度

ハチドリの
黒き嘴
細長き
巣よりのぞかせ
抱卵の時

花蜜が
あかく輝く
フィーダーに
羽音を響かせ
浮きしハチドリ

汗ばんだ
私の乳房に
あなたの手
ハチドリを観る
夏、昼下がり























0053 鹿嶋里緒
http://wish.freespace.jp/rio_kashima/

雨上がりの夜夏の匂いがした
コンビ二の駐車場で
椿咲く庭で

雨上がりの夜夏が侵入した
カビ臭い部屋に
ベッドの片隅に

もうすぐつかまる
足音すら乾いた音立てずに
短くなる夜に隠れられない
焼かれる肌も無防備ではいられない

呼吸まで犯される























0059 汐見ハル

めざめる

たぶん 海だった

もがくほどに喰らう水が 喉の奥に苦く

渇きのようにいつまでも癒えないまま 残る


なみだ が



涙が滲むほどに わずかで

いつも 零れ落ちなかったので

溺れてもがいてやっとで気づいた


涙の海に爪の先まで捕らえられ そうなっては

イキテハイケナイ と

たぶんそうなのだと 



でも 泳ぐ魚よりももっと深刻な度合いで

陸のことなんか思いつきもせず

ただひたすらにもがきもがいて


それにひきかえ

目覚めて後にあれは夢だったことを知ってゆくことの 呆然

安堵を伴いつつも涙を噛みしめる以上に後味が 悪く

そのときだけ 甘えたがりの赤ん坊みたいに泣きじゃくる

体裁もなく ただあの海に再び浸されることを願う ゆるりとした激情の刹那








汐見ハルさんの作品はこちらでもお楽しみいただけます



















0061 ヨ
http://y0.kits.ne.jp/~sk52/y/poe/index.html

すこしの距離




人間の一生を季節に例えられるとしたら
いや
これは何万回と昔から繰り返された
ツマラナイ屁理屈やら感傷のようなモノの延長なので
聞き流してもらっても一切構わないんだけど
人間の一生が
キミの一生が
自らを被験する所のボクの一生が
この曖昧な国の四季に例えられるとしたら
どこからスタートして
ドコに着陸をして眠り込みたいだろう
モヤモヤと始まる毎日を
あいかわらずこんなコト考えて塗り潰している





   ────────────────── 
     境 目 ?
   ──────────────────
     境 目 。
   ──────────────────
     何 と 何 の 境 目 ?
   ──────────────────
     安穏 と 退屈 の 境目 。
   ──────────────────
     冗談 と 本気 の 境目 。
   ──────────────────
     過去 と 未来 の 境目 。
   ──────────────────





7月は睡魔と暑さのミックスで
汗でよれるノートにかぶさり
ボクの動かすペン先に寄り掛かる
理解不能な数式の脇を飾る青い軌跡は
文字と呼ぶにはおこがましい

背後からピタリと声がする
正確に言えば声よりも先に体温が
それよりも先に柔らかな気配が
ボクの意識にすり寄ってくる

防御を決め込むボクの頭を
キミは容赦なく殴打する
ボク達のコミュニケーションの展開は
大体がこーして組み立てられているから
ボクも叩かれるのは了承済みだ
昔みたいに口の中を噛むコトもない

なかなか顔をあげないボクに呆れ
漏れたインクで青く染まったボクの指を
隠された不格好な文字を暴こうと
キミはピッタリと体を重ねる

ボクは知ってる
ボクが嫌がる方がキミは喜ぶ
キミに怒られるボクをキミは随分と気に入っている
変わらない日常というヤツだ
全てがゆるやかに流れていくのだ


いつまでも抵抗を続けるボクの手に
キミの指がきつく絡まる
こんなにも手のカタチは違ってきている
同じ人間なのに面白いなと思う
長いこと一緒に大きくなってきたのに
今さらながら面白いなと見愡れる
その時

突然遠くから誰かが呼んだ
正確にはボク達の中の誰の名が呼ばれたか
判断しかねた
ボクは逃げの為にもキミの名を告げ
キミの注意をボクから逸らし
ノートの死守に成功をする

勝負ついたり
振り返って口の端で笑えば
キミは背中から離れた後で
重さと温もりもすでに無かった
勝ったと思ったのはコンマ2秒だ
ドアをするりと抜けるキミの
白いシャツが光で透けた
ボクは背中をただ見送った
ヘタクソな文字を見られなくてよかった





ところで
季節だ
季節に例えられるとしたらってヤツ
ボクは春を選ぼうと決めている
ありきたりなチョイスだが懸命で正しい選択だろう
うららかな春の優しさに迎えられ
ボクは人生をスタートしたいと思うし
きっと後々振り返った時
このひらめきに感謝をするのではないだろうか
それ程に春は始まりという全てを
慈愛の掌で受け止めてくれる
フラフラと歩きだした足跡は
光と花びらに祝福される
多少曲がりくねってはいても
あぁボクは歩いているんだ
そう実感できるんジャないか

暖かい日射しと
まだひんやりと湿る宵の闇との隙間で
未熟で脆い魂は
少しづつ成長をはじめていく
気付けば一瞬で過ぎてしまう
最初の貴重な数年を
だからボクは春の中で過ごせたらと願う
キミとボクが出会ったのも
たぶん春の出来事だった

クシャミを1つする
空気に肌がピリピリする
ボクは春を選ぼうと決めている










 境 目 ?

 境 目 。

 何 と 何 の 境 目 ?

 始 め と 終 り の 。

 春 と 夏 の 。

 キ ミ と ボ ク の 。























0064 紺

指先から生まれ落ちて


  ボウの魂は滴のかたち
  溶鉱炉の空 赤と黒の雲が
  ゆっくりと渦を巻き地上を指し示す
  その指先から生まれ落ちて泣いた
  海が熱くて じゅう と泣いた
      
  気づけば
  波の切っ先が岩を削る
  歩いただけで
  足裏から血の滲む岩浜
 
  海にも戻れず 陸にも行けず
  小さな砂地を棲家とし  
  昼は波光を 夜は漁り火を
  切なく見つめるばかりだ
        
  たえずボウを悩ます
  亡霊たちも静かな日は
  波打ち際に 樫の扉が現れて
  無理矢理ボウを引き吊り込む

  扉の向こうは広がる荒野
  遠くに煙る赤土山脈
  ボウめがけて激しい砂嵐が迫る
  たちまち鼻も口も砂で塞がれ
  息もできない
  飛ばされないよう
  鋭利な岩にしがみついていると
  尖る砕石が頬といわず腕といわず
  鉤裂きの傷をつけてゆく

  ボウの腕を伝い
  指先から滴り落ちる血
  ひとつぶ ふたつぶ
  ひび割れた大地が呑み込むと
  ようやく扉はボウを吐き出す

  僅かばかりの暖かい砂地で
  傷だらけのまま倒れていると
  美しく光る波が見える


  涙は出ない
  ただ美しいと思う

  


  それがボウの日常























000a のん

再会

   脳みそのシワとシワの間に
   何かが挟まって取れんかったんですわ お母はん
   モゴモゴと行ったり来たり気持ち悪ぅて
         
   しゃあないから歯間ブラシを使って
   ほら糸楊子っていうやつですわ お母はん
   あれでこすったらボロボロッと出てきて
   それがあの行方不明のお父はんだったんですわ
         
   お父はん 今までどこに行ってはったんですか
   お父はん あなたとの最後の想い出は小学4年の夏休み
   お父はん あれからお母はんは女手ひとつで育ててくれたんです
   お父はん 私が就職してからもずっと身の回りの世話をして
   お父はん ずいぶん心配したんやから
         
   いや迷ってしまったんや
   おお大きくなったもんや今いくつや
   ほんの少し探し物をするだけのつもりやったのに
   苦労かけたな今どうしてる結婚したかまだか
   母さんに心配かけてはあかんよ
         
   そう言いながらまた脳みそのシワとシワの間に
   頭を左右に軽くゆすりながら消えて行ったんですわ お母はん
   小学4年のあの海の家で撮った写真の笑顔そのままに
   相変わらず我がままやったけど元気そうやったよ
         
   それからも時々
   脳みそのシワの間に行ったり来たりの気配を感じるんやけど
   モゴモゴとなんや気持ち悪かったりするんやけど
   以前程うっとうしいとは思わなくなったんですわ
         
   それよりも今は
   私は誰のシワに入ろうかなんて
         
         
         
   なあ お父はん





 























000b 佐々宝砂

虫への恋文

壊れかけたラジオが
なぜだか中国語の放送だけを受信する
意味はまるでわからないが
聞き覚えのある声だ

演説口調に冒されて
空間は異次元的に歪んでゆき
西壁はすっかり半透明の灰色の寒天になり
監禁されていた虫が這い出してくる

この虫は馴染みだが
擬人化された存在ではない
毛むくじゃらの脚は六本あり
うち前肢二本は鋏のかたちをしている
尾には尖った毒針のようなものがあるが
これは擬態に過ぎず実際には無毒だ

虫はしゃりしゃりと前髪を食う
舌がちらちらと目の前をよぎる

すばらしく赤い舌だ

本当の君はきっと
魔法をかけられた吟遊詩人かもしれないと
一瞬夢想してはみるが
虫はあくまで虫らしく虫にしか見えず
ごく短い役立たない羽根をぎちぎち鳴らす

ラジオの演説が不意に終わる
女性アナウンサーが
やわらかな口調で喋りだす

空間は数学的に正常化し
西壁には当たり前の白い壁紙が戻り
虫はまたいましめられ

ラジオが音楽を流しはじめる

少年少女合唱団の
むやみに爽やかな歌声だ























000c 芳賀 梨花子
http://www.stupidrika.com/hej+truelove/

凪の素描

梅雨が明ける
青空の隙間から熱い風が吹く
素足を焼けた砂に投げ出せば
背中や肩や胸元に焼きついた記憶と
砂塵とともに行方を知らせない記憶たちが
行き来する
だから
こうやってここで
生きているだけで
焼きついていく
鮮烈になっていく
なにもかも
波の音だけでいい
砕け散って
飛沫になって
わたし
また塊になって
砕け散って
飛沫になって
わたし
くりかえして
また鮮烈になっていく
今、出会えば
忘れられない記憶になれるのかしら
素足にまとわり付いた黒い砂
寄せる波が洗う
どうせなら
なにもかもこの波がさらってくれればいい
そして明日から夏だといいのに
波が寄せる
砕け散って
飛沫になって
砂は悲しみも苦しみも喜びも
ただの泡とする
熱い風が吹いて
無残な白い肌を晒して
傷ついていく
そして砂塵は常に
行方を知らせない
肌が少し焼けたみたい
ひりひりする
波の音は過去の音
現実は確かな音がする
例えば
息子の呼び声
犬の鳴き声
遊んでいる
跳ねている
わたしを呼んでいる
その存在すら疑っていた愛は
不確かではない音となって
わたしを呼んでいる
立ち上がり砂を払った
潮が満ち始めている
それに風も止んだ
わたしは息子と子犬の名を呼ぶ
そして手を振って
おうちに帰るわよ、と言った
くりかえし言った












2002/7/15発行

Photograph (C) J.C.Marloud/PhotoAlto

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(編集 遠野青嵐)
ページデザイン CG加工 芳賀梨花子)