大日本帝國憲法改正試案及び註釋 (平成23年版)
前置き
本案は明治22年の大日本帝國憲法の改正試案である。吾はこれまでも改正案を示してきたが、更に考慮を加へた案をここに示す。
吾は、「日本國憲法」無效論第二版で述べたやうに、「日本國憲法」の正統性も正當性も認めない。正統でもなく正當でもない昭和憲法は成る可く速やかに失效せしめた上で、帝國憲法を時宜に適ふやう改正することを主張する。
吾は、帝國憲法が根幹において劣つたものであるが故に改正すべきものとは考へてゐない。然し、基本的骨骼において優れてゐると言つていい帝國憲法と雖も、缺陷を内包し、亦、時節の變化や内外の状況へ對應する爲に、改正が必要と認識するものである。當然だが、本案はもとより完璧なものではなく、憲法改正の論議に一石を投じることが出來れば、十分意圖は達するものと考へる。
なほ、讀み易さを考慮し、改正の要がない條規についても平假名に直し適宜句讀點を補つたことを豫め斷つておく。また、削除すべきとした條文については、括弧內に、條規の要旨を示す。
亦、適宜註釋を添へる。吾の本意を表すのには、條文案だけで果して足るのかどうか、一抹の不安を覺えるからである。
昭和憲法からの借用も多いが、そこは別段氣にしてゐない。昭和憲法の問題は、細部の内容よりも、成立過程及び根幹部分にあるからである。個々の條文は使へるものも多いし、それは遠慮なく使はせて貰つた。新しい文言を素人が作文するよりは增しであらう。
ここで示すのは、改正後の帝國憲法の條規の案であり、憲法改正が如何なる文言で憲法の條規を改正するかには關知してゐない。亦、上諭、發布勅語、告文には、一切觸れてゐない。
補足
貴族院及びその構成員たる華族について補足を附す。
現行參議院が政黨化し其の弊害著しく、亦、帝國憲法の豫定する貴族院は當然民選たり得ざるにつき、本改正案に於いても貴族院に民選の要素は敢へて取り入れざるものなり。抑も上院が必ず民選でなければならない理由はない。
考へる上で念頭に置いたのは英國貴族院である。彼の國には一代貴族の制度があり現狀貴族院議員の殆どは一代貴族である。世襲貴族の議席は近年の制度改正により大幅に減らされたと聞くに及ぶ。
現状日本の榮典制度は非常にケチな制度で、勳功あつても歳を取つて壽命が見えてこなければ勳章の一つも遣らないものになつてゐる。若年でも勳功があれば呉れてやればよく、貰つた者が何かやらかせば遠慮なく褫奪すれば濟む話である。
生前の敍位も復活させればいい。位階といふものは元々役人の官等なのであるから、公務員に敍位して惡いことは何もない。能なし役人の位階は遠慮なく下げたり取り上げたりすればいいだけである。
大臣を何年も務めたやうな者や、議員表彰を受けるやうな者は、一代華族にしてしまつて位階も勳章も貴族院の議席も遣ればいい。世代交代は年寄りがくたばるのを待つこともなく進むであらう。
舊來の世襲華族は、宮中での御用向きが未だにあるやうに聞こえてくるので、貴族院の議席を遣るかどうかは兔も角、皇室の藩屏として殘しておいていいと思ふ。政治活動を遣るときに明かに有利にならないやうにさへしておけば、問題なからう。
完全な一院制は、我が國の規模から考へてもやはりどうかと思ふし、完全に平等な二院制は、議院内閣制にはちと合はない。英貴族院、カナダ元老院(勅任・事實上首相推薦による)、獨聯邦參議院(邦の代表で構成され基本法及び邦に關係する聯邦法のみ扱ふ)あたりを參考にしつつ、本案のやうな形にしてみた。
第一章 天皇
- 第一條
大日本帝國は萬世一系の天皇之を統治す。
- 第二條
皇位は、皇室典範の定むる所に依り、皇男子孫之を繼承す。
- 第三條
天皇は神聖にして侵すべからず。
- 第四條
天皇は國の元首にして、統治權を總攬し、此の憲法の條規に依り之を行ふ。
天皇は、法律の定むる所に依り、其の大權の全部又は一部を攝行せしむることを得。
- 【註】第二項は昭和憲法第四條第二項の「國事行爲の委任」を念頭に置いたもの。
- 第五條
天皇は、帝國議會と共に立法權を行ふ。
- 【註】帝國議會がともすれば從と解釋されかねない條規につき表現を改む。
- 第六條
天皇は、憲法改正及び法律を裁可し、其の公布及び執行を命ず。
- 【註】憲法改正に言及した外は從前のまま。
- 第七條
天皇は、帝國議會を召集し、其の開會及び衆議院の解散を命ず。
- 【註】閉會及び停會については議會の自律を鑑み削除。
- 第八條
天皇は、公共の安全を保持し、又は其の災厄を避くる爲、緊急の必要に由り、帝國議會閉會の場合に於いて法律に代るべき勅令を發す。
此の勅令は次の會期の帝國議會に提出すべし。若し議會に於いて承諾せざるときは、內閣は、將來に向けて其の効力を失ふことを公布すべし。
- 第九條
天皇は、此の憲法及び法律を執行する爲に必要な命令を發し、又は發せしむ。但し、命令を以て法律を變更することを得ず。
命令には、法律の委任のある場合を除く外、罰則を設くることを得ず。
- 【註】第二項は政令についての昭和憲法の制限を念頭に置いたもの。
- 第十條
天皇は、此の憲法及び法律の定むる所に依り、文武官を任免し、又は任免せしむ。
行政各部の官制及び文武官の俸給は、法律を以て之を定む。
- 【註】官制は法律で定むるものとす。
- 第十條の二
天皇は、衆議院の指名に依り、內閣總理大臣を任ず。
天皇は、內閣總理大臣の奏請に依り、國務大臣を任免す。
天皇は、貴族院の議決を經て、大審院長及び其の他の大審院判事を任ず。
- 【註】特に內閣總理大臣、國務大臣、大審院長及び大審院判事について之を親任することを明記。
- 第十一條
天皇は軍を統帥す。
- 第十二條
削除 (軍の編成)
- 【註】軍編成についてはここでは觸れない。
- 第十三條
天皇は、帝國議會の議決を經て、戰を宣し、和を媾じ、及び諸般の條約を締結す。
天皇は、締結した條約の公布を命ず。
天皇は、全權委任狀竝びに大使及び公使の信任狀を發す。
天皇は、批准書及び其の他の外交文書を發し、又は發せしむ。
天皇は、國の賓客を接遇し、又は接遇せしむ。
天皇は、外國の大使及び公使を接受す。
- 【註】第一項は帝國議會の關與を明記した外は從前通り。第二項以下は其の他對外關係に關はる事項の列記。
- 第十四條
天皇は、非常事態を宣告す。
非常事態の宣告の要件及び効力は、此の憲法の定の外、法律を以て之を定む。
- 【註】戒嚴を非常事態に改む。
- 第十五條
天皇は、爵位、位階、勳章及び其の他の榮典を授與す。
榮典に關する事項は、此の憲法の定の外、法律を以て定む。
爵位は法律の定むる所に依り世襲することを得。但し、世襲すること能はざる條件に於いて爵位を授與することを妨げず。
有爵者の禮遇竝びに政治的及び經濟的な權利及び義務は、此の憲法の定の外、法律を以て定む。
- 【註】第一項は、榮典として位階を明記した外は從前通り。第二項は榮典を憲法・法律事項とする定め。第三項、第四項は有爵者(華族)について。豫め爵位を世襲させざること(=一代華族の創設)を可能とした。
- 第十六條
天皇は、大赦、特赦、減刑、刑の執行の免除及び復權を命ず。
- 第十七條
天皇が未だ成年に達せざるときは、皇室典範の定むる所に依り攝政を置く。
天皇が久きに亙る故障に依り大權を親ら行ふこと能はざるときは、皇室典範の定むる所に依り攝政を置く。
攝政は、天皇の名に於いて大權を行ふ。
- 【註】攝政の設置條件について憲法で觸れるのが妥當と判斷した。第三項は從前第二項通り。
第二章 臣民の權利及び義務
- 第十八條
日本臣民たる要件は、法律の定むる所に依る。
- 第十八條の二
凡て日本臣民は、此の憲法及び法律の範圍內に於いて、一切の基本的人權を享有す。
法律に依る臣民の自由及び權利の制限は、安寧秩序の維持又は臣民の生命、身體若しくは財產を保護する爲に必要且つ最小限度の範圍に留むることを要す。
臣民の生命、自由及び幸福追求の權利は、公益に反せざる限り、立法其の他國政に於いて、最大の尊重を要す。
- 【註】本條以降、本章の人權條項については多くを昭和憲法の條規から借りた。
- 第十八條の三
臣民の自由及び權利は、臣民の不斷の努力に依り、之を保持すべし。
臣民は、其の自由及び權利の濫用を防ぎ、行使に當たつては公益に合致せしむる責任を有す。
- 第十八條の四
何人も個人として尊重せられる。
- 第十八條の五
凡て日本臣民は、法の下に平等にして、人種、信條、性別、社會的身分又は門地に依り、政治的、經濟的又は社會的關係に於いて、差別を受くことなし。
爵位を除く外、榮典は、之を世襲することを得ず、亦、政治的な權利及び義務を伴ふことなし。
- 【註】第二項は概ね昭和憲法第十四條第二項の通りだが、受勳者等に對し年金或は一時金の賜與はあつて然りとの意圖より政治的な權利義務のみ伴はざるものとする。
- 第十九條
日本臣民は、法律の定むる所の資格に應じ均く文武官に任ぜられ、及び其の他の公務に就くことを得。
凡て文武官は、全體の奉仕者にして、一部の奉仕者に非ず。
- 【註】第一項は從前のまま。第二項は昭和憲法第十五條第二項を拜借。
- 第十九條の二
日本臣民は、此の憲法及び法律の定むる選擧及び投票を以て、國政及び地方公共團體の運營に參加する權利を有す。此の權利は、日本臣民固有の權利にして、日本臣民に非ざる者には之を認めず。
凡て選擧に於ける投票の祕密を侵すことを得ず。選擧人は、其の選擇に關し公的にも私的にも責を負ふことなし。
- 【註】第一項は參政權についての定。外國人參政權を認めない旨を明記した。第二項は祕密選擧の保障の定であり昭和憲法第十五條第三項を拜借。
- 第二十條
凡て日本臣民は、國防の權利を有し、義務を負ふ。
- 【註】今日徴兵を義務化するについては愼重たるべきと考へ國防の權利義務といふ表現とした。
- 第二十一條
何人も、法律の定むる所に依り、納稅の義務を負ふ。
- 【註】臣民のみならず外國人にも租稅は課されるものであるからこの表現とした。
- 第二十二條
何人も、公益に反せざる限り、居住、移轉及び職業選擇の自由を有す。
何人も、外國に移住し、又は國籍を離脱する自由を侵さるることなし。
- 第二十三條
何人も、現行犯として逮捕される場合を除く外、權限を有する裁判官が發し、且つ理由たる犯罪を明示せる令狀に依るに非ずして、逮捕さるることなし。
何人も、理由を直ちに告げられ、且つ、直ちに辯護人に依賴する權利を與へらるるに非ずして、抑留又は拘禁されることなし。亦、抑留又は拘禁の理由は、要求があれば、直ちに本人及び其の辯護人の出席する公開の法廷で示さるることを要す。
何人も、法律の定める手續に依るに非ずして、審問を受くることなし。
何人も、法律の定める手續に依るに非ずして、其の生命若しくは自由を奪はれ、又は其の他の刑罰を科せらるることなし。
拷問及び殘虐な刑罰は、絶對に之を禁ず。
- 【註】第一項乃至第三項の大意は從前のままながら昭和憲法の該當條規を拜借して表現を詳細にした。第四項は昭和憲法第三十六條を拜借。
- 第二十四條
何人も、法律に定めたる裁判官の裁判を受くる權利を奪はるることなし。
凡て刑事事件に於いては、被告人は、公平な裁判所の迅速な公開裁判を受くる權利を有す。
刑事被告人は、凡て證人に對して審問する機會を充分に與へられ、亦、公費で自己の爲に強制的手續に依り證人を求むる權利を有す。
刑事被告人は、いかなる場合にも、資格を有する辯護人を依賴することを得。被告人が自ら之を依賴すること能はざるときは、國で之を附す。
- 【註】第二項以下、刑事裁判に掛る權利の補足的條項を立てる。内容は昭和憲法からの拜借。
- 第二十四條の二
何人も、自己に不利益な供述を強要せらるることなし。
強制、拷問若しくは脅迫による自白又は不當に長く抑留若しくは拘禁された後の自白は、之を證據と爲すことを得ず。
何人も、自己に不利益な唯一の證據が本人の自白である場合には、有罪とせられ、又は刑罰を科せらるることなし。
- 【註】默祕權及び自白の證據能力についての規定。昭和憲法第三十八條參照。
- 第二十四條の三
何人も、實行の時に適法であつた行爲又は旣に無罪とせられた行爲については、刑事上の責任を問はるることなし。亦、同一の犯罪について、重ねて刑事上の責任を問はるることなし。
- 【註】遡及處罰禁止、一事不再理についての規定。昭和憲法第三十九條參照。
- 第二十四條の四
何人も、抑留又は拘禁された後、無罪の判決を受けたるときは、法律の定むる所に依り、國に其の補償を求むることを得。
- 【註】昭和憲法第四十條參照。
- 第二十五條
何人も、現行犯として逮捕さるる場合を除いては、正當な理由に基いて發せられ、且つ搜索する場所及び押收する物を明示する令狀に依るに非ずして、其の住居、書類及び所持品について、侵入、搜索及び押收を受くることなし。
搜索又は押收は、權限を有する裁判官が發する各別の令狀に依つて行ふことを要す。
- 【註】基本的立法意圖は從前のまま。條文は昭和憲法の該當條規を拜借し更に一部を手直しした。
- 第二十六條
何人も、正當な理由に基づいて、權限を有する裁判官の發した令狀に依るに非ずして、通信の祕密を侵さるることなし。
檢閲は、之を禁ず。
- 【註】基本的立法意圖は從前のまま。通信傍受については令狀に依り可能としたが、これは先般の通信傍受法の際の成り行きを受けてのものである。第二項の檢閲禁止は昭和憲法のまま。
- 第二十七條
何人も其の財產權を侵さるることなし。
公益の爲必要なる私有財產の處分は、正當な補償の下、法律の定むる所に依る。
- 【註】大意は從前のまま。
- 第二十八條
何人も、安寧秩序を妨げざる限りに於いて、信敎の自由を有す。
いかなる宗敎團體も、政治上の權力を行使することを得ず。
宮中祭祀及び其の他の宗敎的な性質を有する國事上の儀式又は行爲は、臣民の信敎の自由を侵害せざる限り、之を妨げず。
- 【註】第一項の大意は從前のまま。第二項以降は政教分離原則であるが、嚴格な分離は却つて歪であるから昭和憲法の條規よりも柔軟になるやうにした。
- 第二十九條
何人も言論、著作、出版、集會、結社及び其の他一切の表現の自由を有す。
- 【註】從前の條規より法律による制限を排す。
- 第三十條
何人も、損害の救濟、文武官の罷免、法律、命令又は規則の制定、廢止又は改正其の他の事項に關し、平穩に請願を爲す權利を有し、何人も、かかる請願を爲したためにいかなる差別待遇も受くることなし。
- 【註】大意は從前のまま。文言は昭和憲法第十六條を拜借。
- 第三十條の二
何人も、文武官の不法行爲に因り損害を受けたるときは、法律の定むる所に依り、國又は公共團體に、其の賠償を求むることを得。
- 【註】國家及び公共團體の賠償規定。昭和憲法第十七條參照。
- 第三十條の三
何人も、いかなる奴隸的拘束も受くることなし。
- 【註】昭和憲法第十八條前段參照。後段は徴兵制度禁止の根據になり得るといふ見解があるため、本案には採用せず。
- 第三十條の四
何人も思想及び良心の自由を侵さるることなし。
- 第三十條の五
學問の自由は、之を保障す。
- 第三十條の六
婚姻は、兩性の同意のみに基いて成立し、夫婦が同等の權利を有することを基本として、相互の協力に依り、維持さるるべし。
家族は、社會を構成する基本的な單位にして、何人も、其の屬する家族の維持に努める責任を有す。亦、國は家族を尊重し、其の維持に必要な保護に努めることを要す。
配偶者の選擇、財產權、相續、住居の選定、離婚竝びに婚姻及び家族に關する其の他の事項に關しては、法律は、個人の尊嚴と兩性の法的平等に立脚して、制定さるることを要す。
- 【註】第二項は家族保護にかかる條規。
- 第三十條の七
凡て日本臣民は、健康で文化的な最低限度の生活を營む權利を有す。
國は、凡て生活部面について、社會福祉、社會保障及び公衆衞生の向上及び增進に努むることを要す。
- 第三十條の八
凡て日本臣民は、法律の定める所に依り、其の能力に應じて、均く敎育を受くる權利を有す。
凡て日本臣民は、法律の定める所に依り、其の保護する子女に普通敎育を受けしむる義務を負ふ。
義務敎育は之を無償とす。
- 第三十條の九
凡て日本臣民は、勤勞の權利を有す。
賃金、就業時間、休息其の他の勤勞條件に關する基準は、法律を以て之を定む。
兒童の酷使は之を禁ず。
- 【註】昭和憲法第二十七條參照。但し、勤勞の義務は敢へて外した。國が國民に敢へて義務として課すやうなものではないと判斷する。
- 第三十條の十
凡て勤勞者は、團結する權利及び團體交渉其の他の團體行動を爲す權利を有す。
- 第三十一條
削除 (戰時・國家事變時の權利制限)
- 【註】本條の表現は簡易に過ぎると判斷し、別途緊急時の權利制限について規定することを前提に削除するのが妥當と思慮する。
- 第三十二條
削除 (軍人の權利制限)
第三章 帝國議會
- 第三十三條
帝國議會は、貴族院及び衆議院の兩議院を以て成立す。
- 第三十四條
貴族院は、法律の定むる所に依り、皇族及び有爵者を以て組織す。
- 【註】從來の「勅任せられたる議員」には爵位を與へるべきと判斷し之を削つた。世襲させるに及ばなければ、英國の一代貴族の如く、世襲させなければいい。
- 第三十五條
衆議院は、法律の定むる所に依り直接選擧せられたる議員を以て組織す。
衆議院の議員の定數は、法律を以て之を定む。
衆議院の議員及び其の選擧人の資格は、法律を以て之を定む。但し、人種、信條、性別、社會的身分、門地、敎育、財產又は收入に由つて差別することを得ず。
皇族及び有爵者は、衆議院議員及び其の選擧人たることを得ず。
現役の武官は衆議院議員たることを得ず。
衆議院議員の任期は、四年とす。但し、衆議院解散の場合には、其の期間滿了前に終了す。亦、戰時又は非常事態が宣告せられたるときは、法律の定むる所に依り、衆議院議員の任期を延長することを得。
衆議院議員は、法律の定むる所に依り、勅命を以て選擧せしむ。
此の憲法の定の外、選擧區、投票の方法其の他衆議院議員の選擧に關する事項は、法律を以て之を定む。
- 【註】衆議院議員について直接普通選擧であることを規定。
- 第三十六條
何人も、同時に兩議院の議員たることを得ず。
- 第三十六條の二
兩議院の議員は、法律の定むる所に依り、國庫から相當額の歳費を受く。
- 【註】昭和憲法第四十九條參照。
- 第三十七條
凡て法律は帝國議會の議決を經るを要す。
凡て條約は帝國議會の議決を經るを要す。
- 【註】「協贊」を「議決」に替へ、條約についても議會が關與することを再度確認するやうに修正。
- 第三十八條
兩議院は、法律の定むる所に依り兩議院の議員又は內閣の提出する法律案を、審議し、議決す。
- 【註】議會の自主性に配慮し、政府提出法案が主であつた條文を改む。
- 第三十九條
帝國議會が法律案を議決するには、此の憲法に特別の定のある場合を除く外、兩議院で可決することを要す。
貴族院は、衆議院の可決したる法律案を受け取つた後、帝國議會休會中の期間を除いて六十日以內に、其の可否を議決すべし。貴族院が、受け取つた法律案の可否を議決せざるときは、衆議院の議決を帝國議會の議決とす。
法律案について、兩議院の議決が異なる場合に、法律の定むる所に依り、兩議院の協議會を開いても意見が一致せざるときは、衆議院の議決を帝國議會の議決とする。但し、貴族院が、其の出席議員の三分の二以上の多數で議決した場合には、此の限りに非ず。
- 【註】法律の議決についての條規。衆議院の優越を規定。
- 第三十九條の二
條約締結についての帝國議會の議決については、前條の規定を準用す。
- 第三十九條の三
前二條の外、帝國議會の議決には、此の憲法又は法律に特別の定のある場合を除く外、兩議院の議決を經るを要す。
- 【註】法律、條約以外の議會の議決は兩院對等とする。
- 第三十九條の四
樞密顧問竝びに大審院長及び其の他の大審院判事の任命には、貴族院の議決を經るを要す。
前項の外、國務大臣を除く文武官について、法律は、貴族院の議決を經ることを任命の要件とすることを得。
- 【註】議院内閣制であり衆議院が內閣を選ぶにつき、人事同意について貴族院に權限を持たせることとした。但し內閣に及ばない樣、國務大臣に對する同意權は否定した。樞密院、大審院について明記したのは、兩者を政局の埒外に置くためである。
- 第四十條
兩議院は、各々國政に關する調査を行ひ、之に關して、證人の出頭及び證言竝びに記錄の提出を求むることを得。
- 【註】從前の政府への建議權は議院内閣制では敢へて規定を要せずと判斷し、國政調査權の規定に替へた。
- 第四十一條
帝國議會の常會は、毎年一回之を召集す。
- 【註】昭和憲法第五十二條參照。
- 第四十二條
帝國議會の常會の會期は、法律を以て定む。
- 【註】從前會期は三箇月と規定されてゐたが、法律事項として憲法本體からは外して構はないと思慮。
- 第四十三條
臨時緊急の必要がある場合に於いて、常會の外、臨時會を召集すべし。
いづれかの議院の總議員の四分の一以上の要求がある場合には、法律の定むる期間內に、臨時會を召集すべし。
- 【註】臨時會についての條規。昭和憲法の條規では議員の要求時に召集の義務はあるが期限に言及がないので、明文化することとした。
- 第四十四條
帝國議會の開會、閉會及び會期の延長は、兩議院同時に之を行ふべし。
衆議院が解散を命ぜられたるときは、貴族院は、同時に閉會せらるべし。
- 【註】從前のまま。但し停會の規定を外す爲、第二項の貴族院停會は閉會に直す。
- 第四十五條
衆議院が解散を命ぜられたるときは、勅命を以て解散の日から四十日以內に新たに議員を選擧せしめ、其の選擧の日から三十日以內に、帝國議會を召集すべし。
- 【註】期間の設定は昭和憲法第五十四條參照。
- 第四十五條の二
兩議院は、各々其の議員の資格に關する爭訟を裁判す。但し、議員の議席を失はせしむるには、出席議員の三分の二以上の多數での議決を要す。
- 【註】議員資格の各院での裁判について。從前規定がなかつたが、議會の自律性に鑑み昭和憲法の條項を拜借。
- 第四十六條
兩議院は、各々其の總議員の三分の一以上が出席するに非ざれば、議事を開き議決を爲すことを得ず。
- 第四十七條
兩議院の議事は、此の憲法に特別の定のある場合を除く外、出席議員の過半數で之を決す。可否同數のときは、議長の決する所に依る。
- 第四十八條
兩議院の會議は公開す。但し、出席議員の三分の二以上の多數での議決に依り、祕密會と爲すことを得。
兩議院は、各々其の會議の記錄を保存し、祕密會の記錄の中で特に祕密を要すると認めらるるもの以外は、之を公表し、且つ一般に頒布することを要す。
出席議員の五分の一以上の要求があれば、各議員の表決は、之を會議錄に記載することを要す。
- 【註】會議公開の原則及び祕密會につき、條文を詳細化。亦、祕密會の要件を嚴正化。
- 第四十九條
兩議院は、各〻天皇に上奏することを得。
- 第五十條
兩議院は、臣民より呈出する請願書を受くることを得。
- 第五十一條
兩議院は、各〻其の議長其の他の役員を選任す。
兩議院は、各〻其の會議其の他の手續及び內部の規律に關する規則を定め、亦、院內の秩序を亂した議員を懲罰することを得。但し、議員を除名するには、出席議員の三分の二以上の多數での議決に依ることを要す。
- 【註】議院の規則自主制定權を詳細化、及び役員の選任、議員の懲罰について明文化した。
- 第五十二條
兩議院の議員は、議院に於いて行つた演説、討論又は表決につき、院外に於いて責を負ふことなし。
- 【註】從前、院内の意見表明につき自ら院外で公布した場合の責任について言及があるも、不要と判斷し削除相當と思慮。
- 第五十三條
兩議院の議員は、法律の定むる場合を除く外、會期中、其の議院の許諾がなければ逮捕せらるることなし。亦、會期前に逮捕せられたる議員は、其の議院の要求があれば、會期中之を釋放することを要す。
- 第五十四條
內閣總理大臣其の他の國務大臣は、何時たりとも各議院に出席し、及び發言することを得。亦、答辯又は説明の爲出席を求められたるときは、出席することを要す。
- 【註】從前、議院出席權については定めたるも要求時の出席義務の言及あらざるにつき、これを追加。亦、閣僚以外の政府委員については削除相當と思慮。
- 第五十四條の二
衆議院は、法律の定むる所に依り、罷免の事由のある裁判官を訴追す。
貴族院は、前項に依り訴追せらるる裁判官の彈劾裁判を行ふ。
前二項の外、裁判官の彈劾に關する事項は、法律を以て定む。
- 【註】彈劾裁判は、衆議院が訴追、貴族院が裁判するやうにするのが妥當と思慮。昭和憲法下の兩院混然に不都合があるとまでは言へないが。
第四章 內閣及び樞密顧問
- 第五十五條
內閣は、天皇を補弼し、連帶して其の責に任ず。
凡て法律勅令其の他國務に關する詔勅には、主任の國務大臣の署名及び內閣總理大臣の連署を要す。
- 【註】國務大臣が各々責に任ずるに非ず內閣が連帶して責に任ずべく條規を變更。
- 第五十六條
樞密顧問は、此の憲法、皇室典範及び法律の定むる所に依り、天皇の諮詢に應へ、國及び皇室の重要事項を審議す。
- 【註】樞密院の掌理する事項として、皇室に關聯する事項を追加。亦、樞密院官制は憲法事項の外法律に依ることとし、諮詢する事項は憲法、皇室典範、法律で定むるものとする。
第五章 司法
- 第五十七條
凡て司法權は、天皇の名に於いて、大審院及び法律の定める所に依り設置する下級裁判所が行ふ。
軍事上の犯罪の裁判の爲、法律の定むる所に依り、下級裁判所たる軍事裁判所を設置す。
特別裁判所は之を設置することを得ず。
行政機關は、終審として裁判を行ふことを得ず。
凡て裁判官は、其の良心に從ひ獨立して其の職權を行ひ、此の憲法及び法律にのみ拘束せらる。
- 【註】軍事裁判所は大審院の下の下級裁判所と位置附ける。從前の司法裁判と行政裁判の分離はこれを認めず。軍事裁判所を除き、概ね昭和憲法の通り。
- 第五十八條
裁判官は、裁判に依り、心身の故障の爲職務を執ること能はずと決定せられたる場合を除く外、公の彈劾に依らざれば罷免さるることなし。行政機關は裁判官を懲戒又は處分することを得ず。
- 【註】從前は任免懲戒の規定條項であつたが、任官については後二條に讓り罷免懲戒の制限による裁判官の身分保障をまづ規定するとした。要旨は昭和憲法の通り。
- 第五十八條の二
大審院は、大審院長及び法律の定むる員數の其の他の大審院判事で之を構成す。
大審院長其の他の大審院判事は、法律の定むる年齡に達したときには任を退く。
大審院長其の他の大審院判事は、定期に相當額の報酬を受く。此の報酬は、在任中、之を減額することを得ず。
- 【註】大審院の構成及び大審院判事についての規定。昭和憲法の最高裁についての規定參照。
- 第五十八條の三
下級裁判所の裁判官は、大審院の指名せる名簿に依つて、內閣が之を任ず。其の裁判官は、任期を十年とし、再任せらるることを得。但し、法律の定むる年齡に達したときには任を退く。
凡て下級裁判所の裁判官は、定期に相當額の報酬を受く。此の報酬は、在任中、之を減額することを得ず。
- 【註】下級裁判所の任官、退官、報酬についての規定。昭和憲法の規定參照。
- 第五十九條
裁判の對審及び判決は之を公開す。
裁判所が、裁判官の全員一致で、公の秩序又は善良の風俗を害する虞があると決した場合には、對審の公開を停止することを得。但し、政治犯罪、出版に關する犯罪又は此の憲法第二章で保障する臣民の權利に關はる事件の對審は、常に之を公開することを要す。
- 【註】對審公開の原則の規定、及び對審非公開の要件。從前とほぼ同樣だが、條文は昭和憲法のものを參考にした。
- 第六十條
大審院は、訴訟に關する手續、辯護士、裁判所の內部規律及び司法事務處理に關する事項につき、規則を定むる權限を有す。
檢察官は、大審院の定むる規則に從ふことを要す。
大審院は、下級裁判所に關する規則を定むる權限を、下級裁判所に委任することを得。
- 【註】從前は特別裁判所についての規定であつたが、禁止としたので當該項目は不要となつた。替りに大審院の規則制定權の條規とした。
- 第六十一條
大審院は、一切の法律、命令、規則又は處分が此の憲法に適合するかせざるかを決定する權限を有する終審裁判所である。
- 【註】從前は行政裁判についての規定であつたが、之を認めないので當該項目は不要となつた。替りに、行政裁判の範疇を含め一切の終審裁判所が大審院であることを規定する條規とした。
第六章 會計
- 第六十一條の二
國の財政を處理する權限は、帝國議會の議決に基いて行使すべし。
- 【註】昭和憲法第八十三條參照。
- 第六十二條
新たに租稅を課し、又は現行の租稅を變更するには、法律又は法律の定める條件に依ることを要す。
報償に屬する行政上の手數料、及び其の他の收納金は、前項の限りに在らず。
國債を起し、及び豫算に定めたるものを除く外國庫の負擔となるべき契約を爲すには、帝國議會の議決を經べし。
- 第六十三條
現行の租稅は、更に法律を以て之を改めざる限りは、舊に依り之を徵收す。
- 第六十四條
國の歲出歲入は、毎年豫算を以て帝國議會の議決を經べし。
內閣は、毎會計年度の豫算を作成し、帝國議會に提出して、其の審議を受け議決を經るを要す。
豫算の款項に超過し、又は豫算の外に生じた支出があるときは、帝國議會の承諾を求むるを要す。
- 【註】第二項の豫算作成提出の義務を追加。
- 第六十五條
豫算は、前に衆議院に提出すべし。
豫算について、貴族院で衆議院と異なつた議決をしたる場合に、法律の定むる所に依り、兩議院の協議會を開いても意見が一致せざるとき、又は貴族院が、衆議院の可決した豫算を受け取つた後、帝國議會休會中の期間を除いて三十日以內に議決せざるときは、衆議院の議決を帝國議會の議決とす。
- 【註】第一項は從前のまま。第二項は衆議院の優越についての規定。
- 第六十六條
皇室經費は、豫算に計上して帝國議會の議決を經べし。
- 【註】皇室經費にかかる條規といふ點は變更なし。但し從前增額を要する外議會の協贊を要せずとあつたのは、今時不適切と判斷し、豫算計上の上で議會に諮るやうに變更。
- 第六十七條
削除 (既定の歳出の廢止・削減の制限)
- 【註】財政の柔軟な運用の支障にこそなれ、必要の認められない條規であると判斷し削除相當と思慮。
- 第六十八條
特別の須要に因り、內閣は豫め年限を定め、繼續費として帝國議會の承認を求むることを得。
- 【註】ほぼ從前通り。協贊を承認に替へた。
- 第六十九條
避くべからざる豫算の不足を補ふ爲、又は豫算の外に生じたる必要の費用に充つる爲、豫備費を設くべし。
凡て豫備費の支出につき、內閣は、事後に帝國議會の承諾を經べし。
- 【註】第二項は支出した場合の議會の承認についての規定。昭和憲法參照。
- 第七十條
公共の安全を保持する爲、緊急の需要ある場合に於いて、內外の情形に因り、內閣は、帝國議會を召集すること能はざるときは、勅令に依り財政上必要の處分をすることを得。
前項の場合に於いては、次の會期に於いて帝國議會に提出し、其の承諾を求むるを要す。
- 第七十一條
削除 (豫算不成立時の扱ひ)
- 【註】從前豫算不成立時は前年度豫算を施行するとあつたが今日では不適當につき削除相當と思慮。
- 第七十二條
凡て國の歲出歲入の決算は、毎年會計檢査院が之を檢査確定し、內閣は、次の年度に、其の檢査報告と倶に、之を帝國議會に提出すべし。
會計檢査院の組織及び職權は、法律を以て之を定む。
- 【註】從前とほぼ同じく。
- 第七十二條の二
內閣は、帝國議會及び臣民に對し、定期に、少くとも毎年一囘、國の財政狀況を報告すべし。
- 【註】財政狀況の透明性確保の爲必要と判斷し、昭和憲法の該當條項參照。
- 第七十二條の三
公金其の他の公の財產は、宗敎上の組織若しくは團體の使用、便益又は維持の爲に之を支出し、又は其の使用に供することを得ず。
公金其の他の公の財產を、公の支配に屬せざる慈善、敎育若しくは博愛の事業の爲に支出し、又は其の使用に供するには、法律の定に依ることを要す。
- 【註】公の財產の使途は當然公の爲でなければならず、その規定が必要と判斷し、昭和憲法の該當條規を參照し追加。
第七章 補則
- 第七十三條
此の憲法の改正には、帝國議會の兩議院が各〻其の總議員の過半數で議決した後、臣民投票に附し、其の過半數の贊成を得ることを要す。
前項の臣民投票は、法律の定むる所に依り之を行ふ。
憲法改正には、凡て內閣總理大臣其の他の國務大臣の署名を要す。
- 【註】憲法改正の要件及び手續についての規定。臣民の投票を行ふにつき、議會での議決に要する員數は總員の過半で十分と判斷する。
- 第七十四條
皇室典範は、帝國議會の議決及び樞密院の諮詢を經て、之を勅定す。
皇室典範を以て此の憲法及び法律の條規を變更することを得ず。
- 【註】從前、皇室典範は議會の埒外であつたが、今時妥當とは言ひ難く、議決を經るを相當と判斷。但し一般法律と同等とはせざるべきと思慮する。
- 第七十五條
此の憲法及び皇室典範は、攝政を置く間、之を變更することを得ず。
戰時又は非常事態が宣告せられた後解除せられるまでの間についても、前項に準ず。
- 【註】第一項は從前に同。第二項は他國にも例があり、昭和憲法「制定」の際の經緯を鑑みても必要であると判斷する。
- 第七十六條
法律、規則、命令、又は何等の名稱を用ゐたるに拘らず、此の憲法に矛盾せざる現行の法令は總て遵由の効力を有す。
- 第七十七條
憲法改正、皇室典範、法律及び條約竝びに其の他法律の定むる詔勅及び命令は、官報を以て之を公布すべし。
憲法改正、皇室典範、法律、條約、詔勅及び命令の公布の形式に關する事項は、此の憲法の定の他、法律の定むる所に依る。
- 【註】公式令が一勅令であつたことを鑑み、亦、昭和憲法下では何らの法的根據のないまま慣習的に運用されてゐることを考へれば、何らかの形で規定することが妥當であると判斷し、憲法事項にしてもをかしくないので追加。
- 第七十八條
領土を割讓し、又は新たに領土を得るには、帝國議會の議決を經べし。
前項の帝國議會の議決には、第三十九條及び第三十九條の二の規定に拘らず、兩議院の議決を經るを要す。
- 【註】外國の憲法を參考とするに、領土變更に言及するものはままあり、その重要性を認識せしめる意圖を持つて試案に組み込むものなり。
經過規定
改正時點で必要な經過事項については本案では示さない。
大日本帝國憲法增補 內閣
- 第一條
內閣は、法律の定むる所に依り、其の首長たる內閣總理大臣及び其の他の國務大臣を以て組織す。
內閣總理大臣其の他の國務大臣は、現役の武官たることを得ず。
內閣は、行政權の行使につき、帝國議會に對し連帶して責に任ず。
- 【註】本條以下、基本的に昭和憲法第五章による。以下では相違點のみ註記する。文民の語は、現役の武官たることを得ずと替へた。
- 第二條
內閣總理大臣は、衆議院議員の中から衆議院の議決で、之を指名す。此の指名は、他の凡ての案件に先んじて、之を行ふ。
- 【註】首班指名は衆議院の擅權とし、內閣總理大臣は衆議院議員から選ぶものとする。
- 第三條
國務大臣の過半數は衆議院議員たることを要す。
- 【註】閣僚についても基本的に衆議院議員がなるものとする。貴族院議員は國務大臣に任命され得ざる旨、或は衆議院議員を除き國務大臣に任命され得ざる旨を規定してもいいかも知れないが、本案ではそこまでは踏み込まなかつた。
- 第四條
內閣は、衆議院で不信任の決議案が可決せられ、又は信任の決議案が否決せられたるときは、十日以內に衆議院が解散を命ぜられざる限り、總辭職することを要す。
- 第五條
內閣總理大臣が缺けたるとき、又は衆議院議員の總選擧の後に初めて帝國議會が召集せられたるときは、內閣は、總辭職することを要す。
- 第六條
內閣が總辭職し、又は內閣總理大臣が缺けた場合には、內閣は、新たに內閣總理大臣が任ぜらるるまで引き續き其の職務を行ふ。此の間、衆議院に解散を命ずることを得ず。
- 【註】今まで職務執行内閣が衆議院を解散した例はないが、昭和憲法の條規では不可能とは言ひ切れない。それでは拙いので書き加へた。
- 第七條
內閣總理大臣は、內閣を代表して議案を帝國議會に提出し、一般國務及び外交關係について帝國議會に報告し、竝びに行政各部を指揮監督す。
- 第八條
-
內閣は、他の一般行政事務の他、左の事務を行ふ。
- 一
法律を誠實に執行し、國務を總理すること。
- 二
外交關係を處理すること。
- 三
法律の定むる基準に從ひ、文武官に關する事務を掌理すること。
- 四
豫算を作成して帝國議會に提出すること。
- 第九條
國務大臣は、其の在任中、內閣總理大臣の同意なくして訴追せらるることなし。但し、之が爲、訴追の權利は害されず。
大日本帝國憲法增補 樞密院
- 第一條
天皇の諮詢に應へ國及び皇室の重要事項を審議する爲、法律の定むる所に依り、樞密顧問を以て樞密院を組織す。
- 【註】私見では、皇室典範が一般法律であることは問題が多く、宮内廳の今の位置附けも再考に値する。皇室に重大事がある場合に、之を諮る爲の機關は當然あつて然るべきで、それは内閣總理大臣の私的諮問會議などであつてはならない。此の際、樞密院を再興してその重責を負はせるべきと考へる。國政上のことについては、大過ある場合の最後の牽制役くらゐで構はない。些事をちくちくやるやうになつては逆に有害である。
- 第二條
樞密顧問は、貴族院の議決を經て、之を勅任す。
- 第三條
樞密院には、法律の定むる所に依り、議長其の他の役員を置く。
- 第四條
樞密院の表決は、帝國憲法、皇室典範及び法律に特別の定のある場合を除く外、出席者の過半數で之を決す。
- 第五條
內閣總理大臣其の他の國務大臣は、樞密院の審議に出席し、發言し、及び表決に加はることを得。亦、答辯又は説明の爲出席を求められたるときは、出席することを要す。
皇族は、皇室典範及び法律の定むる所に依り、樞密院の審議に出席し、發言し、及び表決に加はることを得。但し、自らの利益に關係する案件については、此の限りに非ず。
- 【註】現状の皇室會議は廢止して、樞密院に纏める。故に皇族が出席され、意見を賜るのも當然と考へる。戰前の皇族會議との折衷、と思つて貰つてもいいし、親王が樞密院への出席權を持つてゐたことを思つて貰つてもいい。
- 第六條
樞密院は、帝國憲法の改正について、天皇の諮詢に應ふ。
- 第七條
樞密院は、皇室典範の制定及び改正について、天皇の諮詢に應ふ。
- 第八條
-
樞密院は、帝國憲法及び法律の定むる所に依り、左の事項について天皇の諮詢に應ふ。
- 一
帝國議會に關する法律、內閣に關する法律、樞密院に關する法律、裁判所に關する法律、及び其の他の帝國憲法に附屬する法律。
- 二
法律、條約及び命令が帝國憲法の條規に適合するかせざるかについての疑義。
- 三
爵位の授與及び褫奪。
- 四
榮典の授與及び褫奪についての疑義。
- 五
大赦、特赦、減刑、刑の執行の免除及び復權についての疑義。
- 【註】現在、榮典については内閣の一部局が扱つてゐるが、上級(勳等なら二等以上、位階なら三位以上)についてはもう少し分りやすくしてもいいのではなからうか。華族の扱ひと併せて、議事機關に掛けていいと思ふし、それならば樞密院が相應と考へる。
- 第九條
樞密院は、皇室典範の定むる所に依り、攝政の設置、交替及び廢止を議決す。
- 第十條
-
樞密院は、皇室典範の定むる所に依り、左の事項について天皇の諮詢に應ふ。
- 一
皇位繼承の順序の變更。
- 二
婚嫁其の他の皇族の身分に關はる事項。
- 三
皇室の財政に關はる事項。
- 【註】つまりは現在の皇室會議の役割を移すといふことである。
- 第十一條
樞密院は、前五條の外、法律又は皇室典範の定むる所に依り、樞密院の諮詢を經べき事項を審議す。
大日本帝國憲法增補 安全保障
- 第一條
獨立を堅守し、領土を保全し、竝びに國及び臣民の安全を保障する爲、法律の定むる所に依り、軍を編成す。
- 【註】昭和憲法第九條は廢棄し、きちんと軍隊を持つのが至當である。以降の條文は讀めば解る筈であるから註は附けない。
- 第二條
戰を宣すには、帝國議會の議決を經るを要す。
前項の外、武力行使を伴ふ軍の行動には、事前に、時宜によつては事後に、帝國議會の議決を經るを要す。
- 第三條
平時に軍を國外に派遣するには、事前に帝國議會の議決を經るを要す。
- 第四條
戰時に於ける立法、行政、司法及び其の他の國政上の特別の措置については、豫め法律を以て定むべし。
戰時に於ける臣民の自由及び權利の制限については、豫め法律を以て定むべし。但し、臣民の自由及び權利の制限は、臣民の生命、身體又は財產を保護する爲に必要且つ最小限度の範圍に留むることを要す。
大日本帝國憲法增補 非常事態
- 第一條
戰爭、天災其の他國の安全又は多數の臣民の生命、身體若しくは財產が侵害せられ、又は侵害せらるる虞のある事態に、緊急の對處を要する場合には、法律の定むる所に依り、國の全部又は一部の地域に、非常事態を宣告し、必要な措置を行ふべし。
- 【註】昭和憲法は非常の事態について何の言及もない。これではどうにもならないので、きちんと事前に法的、行政的な準備ができるやうに憲法をつくつておかなければいけない。以下は讀めば分るはずである。
- 第二條
非常事態を宣告せるときは、十五日以內に帝國議會の承認を得ることを要す。
帝國議會が非常事態の宣告を承認せざるとき、又は非常事態の宣告の理由がなくなつたときは、直ちに非常事態の宣告を解除すべし。
- 第三條
非常事態を宣告せるときの立法、行政、司法及び其の他の國政上の特別の措置については、豫め法律を以て定むべし。
非常事態を宣告せるときの臣民の自由及び權利の制限については、豫め法律を以て定むべし。但し、臣民の自由及び權利の制限は、臣民の生命、身體又は財產を保護するために必要且つ最小限度の範圍に留むることを要す。
大日本帝國憲法增補 地方自治
- 第一條
地方が其の實狀及び其の住民の意思に基いて決定し執行することが適當な事項については、之を地方自治に委ぬ。
地方自治を行ふ主體として、地方公共團體を設く。地方公共團體の組織及び運營に關する事項は、法律を以て定む。
- 【註】地方自治をどのやうにするかは大變大きな問題だが、最低限の基本原則のみ示すこととする。
- 第二條
地方公共團體には、法律の定むる所に依り、長及び議事機關を置く。
- 第三條
地方公共團體の長、其の議事機關の議員及び法律の定むる其の他の吏員は、其の地方公共團體の住民が、直接之を選擧す。
- 第四條
地方公共團體は、法律の定める所に依り、其の財產を管理し、事務を處理し、及び行政を執行す。
- 第五條
地方公共團體は、法律の範圍內で條例を制定す。
條例の制定には、其の地方公共團體の議事機關の議決を經るを要す。
- 第六條
特定の地方公共團體のみに適用される特別法は、法律の定むる所に依り、其の地方公共團體の住民の投票に於いて其の過半數の同意を得るに非ざれば、之を制定することを得ず。