レヴュー: 『藤崎竜作品集3 天球儀』

諸元

著者
藤崎竜
發行
集英社文庫 2008年
收得日
平成20年10月18日

文庫版の藤崎竜作品集の3册目。表題作ほか、短篇計8作を收録。表題作以外は、コミックスで既に刊行されてゐるものばかりではあるけれども。

取り敢へず、收録各作品について、簡單に紹介して評としておかうと思ふ。

天球儀

初出はWJ特別増刊『the REVOLUTION』。平成17年秋に出たもの、だと思ふ。コミックスなどにこれまで收録されてなかつた御蔭で、掲載誌をずつと保存してゐたのは祕密。これでやうやく處分できる。

そんなことは置いておいて、内容だが、……なんか滅茶苦茶説明しにくいよこれ。あの世に逝きかけな主人公が、臨死體驗しつつ宇宙觀を否定され、おまけに、肉體の方には、餘りに酷い應急措置が施されたりする、といふ、ぶつ飛んだ話。オチに、フジリューならではの毒といふか、スパイスが效いてゐる。

一般受けするのかどうかといふと、甚だ疑問だが、このテイストは、俺は好き。

異説 封神演義

初出不詳。短篇集2『DRAMATIC IRONY』に收録。

封神演義のパラレル、といふか、大枠だけ使つて再構築した完全な別物。

筋としては、元始天尊が殷周革命を起すために、「太公望」を送り込む、といふのは本篇と大きな差異はないが、この「太公望」にせよ、スープーにせよ、本篇の影も形もなく。紂王はとてつもないバカ、妲己は買物依存症で多分にドジ。望と妲己の見事なコンボで、紂王は只のバカから、とんでもない惡逆非道な王といふことになつて、楊戩に焚き附けられた武王に……、まあ、粗筋はこんなところにしておかう。これ以上のネタバレは自肅。

しかし、物事の傳達といふものも、氣を附けないと、事實とてんで違ふことが巷に流布してしまふ、といふのを、暴き出してゐるといふ點は、見事と思ふ。笑へる話なんやけど、ただ笑ふだけでは濟まされまい、と思つてみたりする。

猛毒を含んでゐるけれども、代表作のパラレルといふこともあり、表層的な讀み易さも持ち合はせてゐるといふことで、割と入りやすい一品に仕上がつてゐると思ひます。

milk junkie

初出はWJ増刊『eジャンプ』、らしい。立ち讀みした憶えはある。こちらも、短篇集2『DRAMATIC IRONY』に收録。

背にコンプレックスを持つ主人公が、とんでもない『牛乳』を掴まされ、氣附いたら惑星一つ滅ぼしてた、といふ話。そして、永久ループになる惡寒のするオチが待つてゐるのであつた。

とことんギャグな展開なので、まあ讀み易いかなあ、といふ一品。つふか、これ、シリアスにするには、どうしたらいいんやらうか。

ユガミズム

初出はWJ本誌、と記憶。こちらも、短篇集2『DRAMATIC IRONY』に收録。

「歪み」を發生させる天の邪鬼野郎と、その「歪み」を研究對象にした天才少女のラブコメ。

と書いても訣分かんないので、讀んだ方が早いと思ふ。紙の枚數の所爲もあるけど、ベタベタな感じは否めない。

DRAMATIC IRONY

初出不詳。短篇集2『DRAMATIC IRONY』に收録。

ここまでの作品と一轉してシリアスな内容。テーマ的には王道なあまり、結末は、讀者まかせなのかな、と思はずにはゐられない。

ただ、あれこれのギミックは、やはりフジリューらしい氣がする。

SOUL of KNIGHT

初出不詳。短篇集『WORLDS』收録。

惡い宮廷魔道師に、王女と騎士が挑む、といふとベタな感じだが、細かい所は色々とらしさが出てゐる、そんな感じ。いや、ここで云々するより、讀んで貰つた方がいいと思ふのよ。絶對。

繪柄は、PSYCHO+の頃の感じで、今とは印象は確かに違ふんやけども、造形の骨骼みたいなところは、變はらないなあ、と思ふ。

TIGHT ROPE

初出不詳。短篇集『WORLDS』收録。

人間が、機械に管理されてゐる、そんな未來の話。管理側の人工生命體が暴走して色々やらかすといふ筋立て。

SFの定番として、人間vs機械といふのはよくあるが、征壓されたでもなく、人間が機械の側に、その全てと言つていいものを委ねてしまつてゐる、といふのは、なかなか惡くない設定。ただ、色々考へさせられるものではある。

まあ、今でも、機械を使つてるんだか、機械に使はれてゐるんだか、つていふ状況は、時にある訣だが、それだけに、テーマとしてはえぐい部分を扱つてゐるのかも、といふ氣がする。

ハルメンの笛吹き

初出不詳。短篇集『WORLDS』收録。

敢へて言へば伝奇といふことになるのかな。なかなか説明が難しい。つふか、正直、説明した所で何になる、といふ氣がしてゐる。

取り敢へず、讀んでみるのがいい氣がする。ただ、なかなかに難解といふか、さすがにデビュー作だけあつて、讀み易さといふ點での難は否み難い。