尹 - 漢字私註

説文解字

尹
治也。从丿、握事者也。
又部
𢂟
𢂟あるいは𢃵に作る。
古文尹。

康煕字典

部・劃數
尸部(一劃)
古文
𢃵
𢃹
𢃁
𢃂

『廣韻』于準切『集韻』『韻會』庾準切、𠀤音允。『說文』治也。从又丿、握事者也。『廣韻』進也、又正也。『書・君𨻰』尹兹東郊。又『多方』𥳑畀殷命、尹爾多方。《註》言天畀付文武以殷命、正爾多方也。

又官名。『書・益稷』庶尹允諧。《傳》尹、正也。衆正官之長也。《應劭曰》天子之相稱師尹。《薛瓚曰》諸侯之卿、惟楚稱令尹、餘國稱相。他如周禮門尹除門、月令奄尹申宮令、周語關尹以告、皆是也。

又誠也、信也。『禮・聘義』孚尹旁達、信也。《註》玉之爲物、孚尹於中、旁達於外、所以爲信也。應氏曰、尹當作。允亦信也。

又『禮・曲禮』脯曰尹祭。《疏》脯必裁割方正、而後祭也。

又姓。周有尹吉甫。

○按『李氏詳校篇海』尹、古音允。今音引、非。

部・劃數
巾部九劃

『說文』古作𢃵。註詳尸部一畫。

部・劃數
巾部九劃

『字彙補』古文字。註詳尸部一畫。

部・劃數
巾部七劃

『集韻』古作𢃁。註詳尸部一畫。

部・劃數
巾部七劃

『集韻』與𢃁同。

異體字

或體。

音訓

ヰン(漢、呉) 〈『廣韻・上聲・準・尹』余準切〉[yǐn]{wan5}
つかさ。つかさどる。をさめる。ただす。

解字

白川

の會意。

『説文解字』に治むるなりとし、字形を事を握る者なりとするが、そのやうに抽象的なものではない。

丨は呪杖。呪杖を持つ人。杖には神靈がりつく。尹とは聖職者で、神意をただすもの。

藤堂

(上下を貫く)と(手)の會意。上下の間を疏通しうまく調和することを示す。

字は尹を含み、世を調和させて治める人のこと。

落合

象形。棒狀の物を持つた手の形に象る。後代には長官の意となつたが、殷代には王の臣下の汎稱であり、「道具を持つて奉仕する者」が字源であらう。

甲骨文での用義は次のとほり。

  1. 王の臣下。朿尹は武官、尹工は工業関聯の官であらう。小尹も王の臣下であり、恐らく小臣と同意。《殷墟小屯中村南甲骨》50甲午貞、其令多尹作王寢。
  2. 貞人名(出組)。《合補》7554辛酉卜尹貞、王賓柰、亡尤。
伊尹
神名。
黃尹
神名。伊尹の別稱。

を加へた字形は後にとして分化したが、甲骨文の段階では尹と用法に區別がない。

漢字多功能字庫

甲骨文はを持つに從ひ、手に杖を持つ形に象り、權力を握る者を表す。一説に、手に筆を執る形に象り、尹は史官に屬し、必ず簿書を掌り、故に引伸して治むるの訓を得る、とする(王國維、裘錫圭)。

早期金文と甲骨文の形は似てをり、手に持つ丨の形は明らかで、兩者は甚だしきに至つては分かれてゐる。晩期金文の丨の形は段々と間違つたり脱落したりして、兩手の相合ふ形に似る。

甲骨文では官職名に用ゐる。尹、多尹はいづれも殷の大臣。

甲骨文ではと尹は一字で、を增すのは文飾に過ぎない。例へば卜辭に「多君」とあるのは「多尹」に同じ。章太炎『春秋』「君氏」亦作「尹氏」。『荀子』「君疇」、『新序』作「尹疇」。と云ふ。また甲骨文では人名に用ゐ、卜辭には「伊尹」、「黃尹」などの名が見える。

君と尹は同源の語で、いづれも治める、長と訓ず。金文での用義は次のとほり。

戰國竹簡では人名に用ゐる。下記の「伊尹」、「釐尹」はともに人名。

傳世文獻では官名に用ゐる。

尹と父の字形は似たところもあるが、父字の從ふ丨は手の形よりも上の位置にあり、尹字の從ふ丨は手の形よりも下の位置にある。

屬性

U+5C39
JIS: 1-53-90
𢃵
U+220F5
𢃹
U+220F9
𢃁
U+220C1
𢃂
U+220C2
𢂟
U+2209F

關聯字

尹に從ふ字

尹聲の字