庶 - 漢字私註

説文解字

庶
屋下眾也。从广。炗、古文光字。
註に臣鉉等曰、光亦眾盛也。といふ。
广部

康煕字典

部・劃數
广部・八劃
古文
𤈲
𠦜
𠪌
𠩽
𠪛

『唐韻』『集韻』『韻會』商署切『正韻』商豫切、𠀤音恕。『易・乾卦』首出庶物、萬國咸寧。『書・堯典』庶績咸煕。

又『爾雅・釋言』侈也。《註》衆多爲奢侈。

又『爾雅・釋言』幸也。《註》庶幾僥倖。

又近辭。『論語』回也其庶乎。『集註』庶、近也。

又䏧也。『詩・小雅』爲豆孔庶。《傳》庶、䏧也。《疏》謂於先爲豆實之時、必取肉物肥䏧美者。

又支庶。『左傳・宣三年』其庶子爲公行。《註》庶子、妾子也。

又庶子、周官名。『禮・燕義』古者周天子之官有庶子官。《註》庶子、諸子也。又庶長、秦爵。『左傳・襄十一年』秦庶長鮑、庶長武、帥師伐晉、以救鄭。

又姓。『急就篇』庶霸遂。《註》庶、衞公族。禮記、子思母死於衞、庶氏女也。邾庶其來奔、後亦爲庶氏。

又『集韻』賞呂切、音暑。『周禮・秋官』庶氏。《註》庶、讀如藥煑之煑、驅除毒蠱之言。《疏》取以藥煑、去病去蠱毒。

又『韻補』之石切、音隻。『釋名』摭也。拾摭之也、謂拾摭微陋以待遇之也。

又『集韻』章恕切、音翥。義同。

『說文』本作𢉙。屋下衆也。从度从炗。炗、古文灮字。《徐鉉曰》灮亦衆盛也。

部・劃數
厂部十劃

『字彙補』古文字。註見广部八畫。

部・劃數
厂部九劃

『集韻』古作𠩽。註見广部八畫。

部・劃數
厂部十二劃

『集韻』古作𠪛。註見广部八畫。

部・劃數
火部七劃

『字彙補』古文字。『石鼓文』弓矢孔𤈲。

廣韻

『周禮』有庶氏掌除毒蟲。又音恕。

音訓

ショ(漢、呉) 〈『廣韻・去聲・御・恕』商署切〉[shù]{syu3}
もろもろ。おほい。ちかい。こひねがふ(庶幾)。

解字

白川

广廿の會意。

『説文解字』に屋下の衆なり。广炗に從ふ。炗は古文の光字なり。とし、徐鉉は光も亦た衆盛なりと補説してゐる。衆庶の意とするもの。

广は廚房、廿は鍋など烹炊の器の形。鍋の下に火を加へ、烹炊を原義とする字。煮はその形聲字。は堵中に呪符として埋めた書であるから、これは煮るべきものではない。また庶は煮る意の字であるが、それを諸の意に用ゐ、庶人、衆庶のやうにいふ。

『儀禮』に正饌に對して盛り合はせたものを庶羞といひ、庶はもと炊き合はせたものをいふ。それで庶多の意となり、衆庶の意となり、嫡庶の意となる。

庶幾は、それに近い狀態をねがふことをいふ。

藤堂

會意。字の下部は、動物の頭(廿印)の脂を燃やすさまで、字の古文。庶はそれに广(家)を添へたもので、家の中で火を集め燃やすこと。

更にまた、諸(これ)と同樣に、近稱の指示詞にあて、「これこそは」と強く指示して、「ぜひこれだけは」の意を表す副詞に轉用された。

また集める意を含み、摭(集める)、諸(もろもろ)とともに、多くの物が集まつた意に用ゐられる。

落合

庶に當たる甲骨文として二系統を擧げる。現用字は、字形は前者を、字義は後者を承ける。

會意字「庶」

甲骨文はの初文のから成る。恐らく石を熱する意の會意字。火を用ゐた祭祀儀禮の一種であらう。字音の類似から、煮の初文、石亦聲とする説もある。家屋の象形のを加へた形もある。

甲骨文での用義は次のとほり。

  1. 祭祀名。《合補》996戊寅卜亘貞、呼取、庶牛于…。
  2. 人名。第一期(武丁代)。《合集》22045戊戌卜、庶至今辛。

今の字形の上部([⿸广廿])は石から派生した形。

形聲字「[⿱庶㐺]」

庶の意味としては恐らく、三つのに聲符として先述の會意字を加へた形の字が初文。甲骨文では祭祀名に用ゐる。

後代にはその字形は殘らず、金文以降では會意字の系統の字形を借りて庶の意味に用ゐられた。

漢字多功能字庫

甲骨文、金文は、𤇈に作り、に從ひ、石亦聲。石を火で燒いて食物の加熱を助けると解き、煮の初文。古籍では假借して衆庶の庶となし、別に煮字を作つて烹煮を表し、庶の初義は段々と失はれた。

于省吾は、石を燒くのは、食物を炙るため、あるいは水を入れた器に投じて煮るためで、原始人が食べ物に火を通す方法であると指摘する。『周禮・秋官・庶氏』鄭玄注庶、讀如藥煑之煑は、庶と煑(煮)の古字の通用の例。

早期金文は石と火に從ふ。後に石を誤つて广廿に作り(明らかな例は中山王鼎)、𢉙となる。𢉙字は春秋早期に見え(魯大𤔲徒子仲伯匜)、小篆はこれを承ける。『説文解字』やその徐鉉の註は變形後の字形に據り臆測で説を立ててをり、信用できない。しかし、『説文解字』の説は長らく後進の學者に蹈襲された。

甲骨文では烹煮を表す。《合集》16271庶(煮)牛

金文での用義は次のとほり。

戰國竹簡での用義は次のとほり。

また炙の通假字となす。

屬性

U+5EB6
JIS: 1-29-78
當用漢字・常用漢字
𠪌
U+20A8C
𠩽
U+20A7D
𠪛
U+20A9B
𤈲
U+24232
𢉙
U+22259

關聯字

庶聲の字