皀 - 漢字私註

説文解字

皀
穀之馨香也。象嘉穀在裹中之形。、所以扱之。或說、皀、一粒也。凡皀之屬皆从皀。又讀若香。皮及切。
皀部

説文解字注

皀
穀之聲香也。《禾部》曰、穀、續也。續當作粟。粟者、嘉穀實也。『〔禮記〕曲禮』曰、黍曰薌合、梁曰薌其。薌卽香字。『左傳〔僖五年〕』引『周書』曰、黍稷非馨、明德惟馨。馨者、香之遠聞者也。香者、芳也。象嘉穀在裹中之形。謂白也。『大雅』謂秬虋芑爲嘉穀。《毛傳》謂苗爲嘉穀。許書謂禾爲嘉穀。釁芑苗禾一物也。連裹曰穀、曰粟。去裹曰米。米之聲香曰皀。裹者、《禾部》所謂稃也、𥢶也、糠也、穀皮是也。匕所㠯扱之。說下體从匕之意。《匕部》曰、匕、所以比取飯。一名柶。扱者、收也。或說皀、一粒也。顔氏家訓〔勉學〕』曰、在益州、與數人同坐、初晴、見地下小光。問左右是何物。一蜀豎就視云、是豆逼耳。皆不知所謂。取來乃小豆也。蜀土呼豆爲逼、時莫之解。吾云、三蒼、『說文』皆有皀字。訓粒。『通俗文』音方力反。衆皆歡悟。凡皀之屬皆从皀。又讀若香。又字上無所承。疑有奪文。按顔黃門云、『通俗文』音方力反。不云出『說文』。然則黃門所據未嘗有方力反矣。而許書中𡖥鄉字从皀聲。讀若香之證也。又《鳥部》鴔鵖字从皀聲。『爾雅音義』云鵖、彼及反。郭房汲反。『字林』方立反。是則皀有在七部一音。當云讀若某。在又讀若香之上。今奪。

康煕字典

部・劃數
白部・二劃

『唐韻』皮及切、音近弼。『說文』穀之馨香也。象嘉穀在裹中之形。匕所以扱之。或說、皀、一粒也。

又『集韻』北及切、音鵖。又『廣韻』居立切『集韻』訖立切、𠀤音急。又『廣韻』彼側切『集韻』筆力切、𠀤音逼。義𠀤同。

又『廣韻』許良切。『集韻』虛良切、𠀤音香。穀香也。『正字通』本作㿝。卽古香字。『字彙補』別作𤼿、非。

音訓

キャウ(漢) 〈『廣韻・下平聲・陽・香』許良切〉[xiāng]
キフ(漢) 〈『廣韻・入聲・緝・急』居立切〉[jí]
ヒョク(漢) 〈『廣韻・入聲・職・逼』彼側切〉[bī]{bik1}
ヒフ 〈『廣韻・入聲・緝・鵖』彼及切〉
かんばしい

『康煕字典』はヒフ、キフ、ヒョクの音を穀香、一粒の兩義に當て、キャウの音を穀香にのみ當てる。

藤堂はキャウ、キフの音をかんばしいの訓義に當て、ヒョクの音を穀粒、一粒の意に當てる。ヒフの音は採らず。

汉典はjíを稻穀の香氣に、xiāngを穀物の香氣に、bīを粒、一粒に當てる。對應關係は藤堂と同樣。

解字

甲骨文、金文は、のやうな器に物を盛る形。

白川

象形。白は穀實、匕は蕊の殘る形。、穆の字形中にも、その形が殘されてゐる。まだ脱穀しない穀物で、その馨香あることをいふ。

『説文解字』の釋の或説が良い。

の從ふ皀は𣪘(簋)の省形で、穀實の象形の皀とは異なる。

藤堂

象形。器に穀物を盛つた姿を描いた字。

落合

象形。甲骨文はたかつきに食物を盛つた形。穀物を表す小點を加へた異體もある。

甲骨文での用義は次のとほり。

  1. 豆に盛つた食物。供物や賜與物として用ゐられる。《殷墟花園莊東地甲骨》296乙巳、歳祖乙白彘、侑皀。
  2. 地名または人名。第一期(武丁代)。《合集》1096丁亥卜賓貞、皀以羌、…用于丁。

漢字多功能字庫

皀の甲骨文、金文は、食物を器皿に盛るさま、あるいは十分に煮た穀物(飯)を器皿に滿たしたさまに象る(參・李孝定)。後にを加へて𣪘に作り、手に杓子を持ち簋中の食べ物を取る形。𣪘字が行はれて皀字は段々と廢れた。

小篆は皀のほか、などの意符を加へて簋に作り、器皿の材料を表し、秦では竹製の簋を用ゐたことを反映してゐる(參・高鴻縉)。

皀はまた隸書で㿝に作り、皀、𣪘、簋はもと一字。甲骨文、金文を見るに、説文解字の説は正しくない。

簋の形狀と構造に關して、説文解字簋、黍稷方器也。、『周禮・舍人』凡祭祀、共簠簋、實之、陳之。鄭注方曰簠、圓曰簋,盛黍稷稻粱器。といふ。現在、出土した青銅器を見るに、簋は圓く、簠は方形で、鄭玄の言ふところに同じ。

皀は飯を盛る食器を表し、鄉、卿、などの字の要素となる。甲骨文では地名に用ゐる。金文では多く黍稷米飯を盛る禮器を表す。天亡簋每揚王休于尊㿝

屬性

U+7680
JIS: 1-66-5

関聯字

皀に從ふ字

漢字私註部別一覽・皀部に蒐める。

其の他

別字。また皁に作る。