德 - 漢字私註

説文解字

彳部德字條

升也。从㥁聲。多則切。
彳部

説文解字注

𦫵也。𦫵當作登。《辵部》曰、遷、登也。此當同之。德訓登者。『公羊傳〔隱五年〕』「公曷爲遠而觀魚。登來之也。」何曰、登讀言得。得來之者、齊人語。齊人名求得爲得來。作登來者、其言大而急。由口授也。唐人詩、千水千山得得來。得卽德也。登德雙聲。一部與六部合韵又冣近。今俗謂用力徙前曰德。古語也。从彳𢛳聲。多則切。一部。

心部悳字條

外得於人、内得於己也。从直从
心部
古文。

康煕字典

部・劃數
彳部十二劃

『唐韻』『正韻』多則切『集韻』『韻會』的則切、𠀤登入聲。『廣韻』德行也。『集韻』德行之得也。『正韻』凡言德者、善美、正大、光明、純懿之稱也。『易・乾卦』君子進德修業。『詩・大雅』民之秉彝、好是懿德。『書・臯陶謨』九德、寬而栗、柔而立、愿而恭、亂而敬、擾而毅、直而溫、𥳑而廉、剛而塞、彊而義。又『洪範』三德、一曰正直、二曰剛克、三曰柔克。『周禮・地官』六德、知、仁、聖、義、中、和。

又『玉篇』德、惠也。『書・盤庚』施實德于民。『詩・小雅』旣飽以德。

又善敎也。『禮・月令』孟春之月、命相布德、和令、行慶、施惠。《註》德謂善敎。

又感恩曰德。『左傳・成三年』王曰、然則德我乎。《疏》德加於彼、彼荷其恩、故謂荷恩爲德。『後漢・樊曄傳』光武微時、曄餽餌一笥、帝德之不忘。

又『韻會』四時旺氣也。『禮・月令』某日立春、盛德在木。

又『諡法』綏柔士民、諫爭不威、執義揚善、曰德。

又『說文』升也。

又『玉篇』福也。

又星名。『前漢・郊祀志』望氣王朔言、後獨見塡星出如瓜。有司皆曰、陛下建漢家封禪、天其報德星云。《註》德星、旣填星也。

又『韻會』亦作。『前漢・賈誼傳』悳至渥也。

又州名。『廣韻』秦爲齊郡地、漢爲平原郡。武德初爲德州、因德安縣以名之。

又叶都木切、音篤。『謝惠連・雪賦』曹風以麻衣比色、楚謠以幽蘭儷曲。盈尺則呈瑞於豐年、袤丈則表沴於隂德。

又叶得各切、當入聲。『易林』酒爲歡伯、除憂來樂、福善入門、與君相索、使我有德。

部・劃數
心部・八劃

『唐韻』『正韻』多則切『集韻』『韻會』的則切、𠀤音得。『說文』外得於人、內得於己也。从直从心。『六書精蕰』直心爲悳。生理本直、人行道而有得於心爲悳。小篆加彳、取行有所復之義。『長箋』論語、以直報怨、以悳報悳、則知直卽是悳。通溷用德、非是。時尙茂密、故悳字幾廢。『隂復春曰』道悳之悳、『說文』从直从心。德字从彳从㥁、升也。今道悳字皆作、而悳㥁字但爲古文矣。別詳德字註。

部・劃數
心部八劃

廣韻

觻𢛳、縣名、在張掖。『漢書』作得。

異体字

悳系統の或體。

いはゆる新字体。

音訓

トク(漢、呉) 〈『廣韻・入聲・德・德』多則切〉
めぐむ。さいはひ。のぼる。

解字

初文はと直の會意、直亦聲、徝の形に作る(但し現用の徝字は別字)。原義は恐らく直進、直行。按ずるに、《合補》1864(下揭)の「王德土方」は、土方を巡察する意ではなく、土方に眞つ直ぐ向かふ意と解すべきか。落合『殷―中国史最古の王朝』(中公新書)のやうに方を殷王に服屬せざる勢力の稱と解するのであれば、德を巡察と解するよりも直行と解する方が妥當であると思ふ。

德は初文にを加へた形。

悳は彳を省いた形。あるいは直と心の會意と解されたのであらう。

白川

直との會意。

德と同字と見て良い。

齊器の《陳侯因𬁼敦》にの悳に合揚(答揚)すとあり、また《嗣子壺》に屯悳(純德)を承受すのやうに用ゐる。

と省との會意。金文の德はもと心に從はず、後に心を加へる。

『説文解字』にのぼるなりとあり、陟升の意とする。『易・剝』(釋文・董遇本)に君子、車にのぼ(中國哲學書電子化計劃の版では得につくる)、『禮記・曲禮上』に德車結旌(車に德り、はたを結ぶ)の例によるものであらうが、字の本義ではない。『廣雅・釋詁三』に得なりとするのも同音の訓。

字は省の初文と近く、省は目に呪飾を加へて省道巡察を行ふ。彳は諸地を巡行する意。その威力を心的なものとして心を加へ、德といふ。のち德性の意となる。

篆文の字形は悳に從ひ、悳聲。

藤堂

原字は悳で、と音符直の會意兼形聲。もと、本性のままの素直な心の意。

德はのち、それに印を加へ、素直な本性(良心)に基づく行ひを示したもの。

落合

甲骨文は直の初文に意符としてを加へた會意字で、徝につくり、直亦聲。甲骨文では直は眞つ直ぐ見ることからの派生義で視察の意に使はれてをり、それに進行を象徵する彳を加へた徝は巡察を意味する。

甲骨文での用義は次のとほり。

  1. 巡察する。《合補》1864庚申卜㱿貞、今者、王德土方、受有祐。十二月。
  2. 祭祀名。《合補》522貞、德侑于黃尹。

周代には立派な行ひを指す字として使はれるやうになつたため、金文で直にが加へられた。

現用の德字は、悳を聲符とする形聲字と看做されてゐる。

漢字多功能字庫

甲骨文はと直亦聲に從ひ、金文は惪亦聲に改む。彳は道路を象り、正道、得道の意を強調してゐる。全字で人が路上にあつて行き、視線が眞つ直ぐ前を向き、人の行爲が正直である意。本義は道德。甲骨文は或は彳に從はずに從ひ、或はに從ひ、いづれも同じく道路を表す意。金文の從ふところの惪のは一點を加へることがあり、直と悤(補註: 悤の甲骨文、金文は、心に一點を加へた形。)に從ふ。悤は人心に通曉し聰明なるを象り、以て有德者が多く聰明敏慧な人であることを表し、德字の心性の意義や處境(狀況、境遇)の意義をますます顯かとする。

甲骨文では通じて陟となし、前進を表す。《合集》559正王陟土方は王が土方に向かふことを表す。

金文では多く道德、德行を表す。

戰國竹簡でも本義に用ゐ、道德を表す。《清華簡二・繫年》簡41-42晉文公思齊及宋之德、乃及秦師圍曹及五鹿、伐衛以脫齊之戍及宋之圍。は、晉文公が齊國、宋國の德行を考慮して、二國を助けることをいふ。

『公羊傳』公曷爲遠而觀魚,登來之也。何曰、「登讀言得。得來之者、齊人語。」齊人名求得爲得來。作登來者、其言大而急、由口授也。唐人詩「千水千山得得來」、得卽德也。登德雙聲。

金文は心と直亦聲に從ふ。内心正直の意。德の初文で、本義は德行。

金文での用義は次のとほり。

戰國竹簡では道德を表す。

惪字は今日でも使ふ人がある。例へば、古琴の名家、蔡德允は署名する時、惪字を常用した。

屬性

U+5FB7
JIS: 1-84-37
人名用漢字
U+60B3
JIS: 1-55-60
U+3941
𢛳
U+226F3
U+60EA
U+5FB3
JIS: 1-38-33
當用漢字・常用漢字

関聯字

悳に從ふ字